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第43話 絶望編4

「はぁはぁはぁ・・・・・・」


「せ、刹那兄ちゃん・・・・」


肉体強化、刹那の体力はそれによって約2倍に増幅されている。体内の魔力が活性化し、皮膚、筋肉、そして内臓器官を強化しているためだ。


だが、刹那の体力は今尽きようとしている。当然だ。体力が2倍になるといっても、所詮『もともと』の2倍程度にしかならない。異世界にやってきてから大分体力がついたとはいえ、刹那の体力が低いことには変わりない。


そのため、ドレンを脇に抱え闇雲に逃げ回っていただけの刹那の体力は尽きかけていた。足も遅くなってきている。―――追いつかれるのは時間の問題だった。

刹那は何を思ったのか、急に立ち止まって抱えているドレンを下ろし、魔力で大剣を形成し、構えた。


「刹那兄ちゃん!?」


「ど、ドレン・・・・はぁ、砦の場所は・・・・はぁ、わかるよな・・・・・。俺はここで足止め、はぁ、してるから・・・・・先に行っててくれ・・・・・」


「で、でも・・・・・」


不安そうに声を発するドレン。兵士達はもうそこまで迫ってきていた。


「大丈夫、だ・・・・・はぁ、何とか切り抜けるから・・・・はぁ、先に行け・・・・・」


「・・・・・うん、わかった」


刹那の思いに答えたかったのか、ドレンは刹那のほうを一度だけ振り向き、そして駆け出した。

刹那は足音でドレンが砦のほうに向かったことを察すると、駆け足で向かってきた兵士達に向かってかかっていった。


「うおおおおおおおお!!!!!」





+++++





レナは全身に炎を纏いながらゆっくりと辺りを見回した。


「・・・・・・・・・」


人々の住んでいる民家のほうから離れて戦ってよかった、そう思わずにはいられなかったくらいの有様だった。辺りは一面炎の海。そして辺りには重なるようにして倒れている兵士の残骸。―――その残骸ときたらひどいものだった。


鎧のところどころが炎の熱で溶けており、それが冷え固まって変形しているもの、四肢をバラバラにされて、動けなくなったところを心臓一突きとはっきりわかるようなやられかたをしているもの、様々だった。


全滅したのをしっかりと見極めてから、レナは神抜刀に魔力を送ることによって出した炎を消した。先ほど纏っていた炎はこの炎だったのだ。とたん、兵士の残骸達が黒い光に包まれ、そして消え失せた。―――これで村は大丈夫だ。


レナは神抜刀を鞘に納め、そして砦のほうを向いた。ここからはよく見えないが、走っていけばいずれ見えるだろう。そしておそらく、


{みんなもそこにいるはず}


選択肢は1つしかなかった。レナは砦のほうに向かって走り出した。





+++++





目立たないようにと思って林の中に入ったのは失敗だったと、リリアは後悔した。歩いても歩いても、一向に砦が見えない。それどころか、時々顔に植物の葉がぶつかったり、木の根に足を引っ掛けて転んでしまったりで、リリアはすっかり参ってしまった。


「・・・・・・ひっく・・・・・・ひぐ・・・・・・」


暗闇の恐怖と、時折起こるハプニングによる仰天のせいで涙が出てくる。鼻をすすり、嗚咽を堪えながら何とか歩くが、砦はやはり見えない。


{兄さん・・・・・}


心の中でレオを呼ぶが、もちろんのこと来てくれるはずもない。自分が寂しがり屋なのを実感できた。

暗闇の中を歩くのはもう嫌だ。そんな考えが頭に浮かんできた。前は見えないで転ぶわ、顔に当たる葉も気持ち悪いわ、嫌なこと尽くしだった。


だが、歩くのをやめるわけにはいかなかった。ひょっとしたら砦はもうすぐそこで、そこにレオがいるかもしれないと思うと、足は止まらなかった。


{・・・・・・行こ}


そう心の中でつぶやき、リリアの足は自然と前へと進んでいた。





+++++





砦の入り口から少し離れた林の中にレオは隠れていた。いや、隠れているというよりは、出ていくタイミングを見計らっていると言ったほうがいいのかもしれない。


入り口には兵士が2体。いずれも武器を構え、ただ黙って立っている。レオほどの実力があれば、頭を狙って撃ちぬくのはそう難しいことではない。ならば、なぜレオは銃を撃たずに隠れているのだろうか?―――刹那たちを待っているのである。


今ここで出てしまえば、砦の中に行かざるを得なくなる。銃声を聞きつけた他の兵士が駆けつけてくる確立が高いからだ。刹那たちと合流する前にそういうことになるのは、あまり好ましくない。


神爆銃の装填部分を確認しているレオの耳に剣を抜いた音が聞こえてきた。金属と金属が擦りあうような、シャッという音。

銃を構え、見張りの兵士達のほうを見る。―――そこにはドレンがいた。兵士が剣を抜いてかかって来ているのに動きもせず、ただその場に立ち尽くしている。レオは一発で理解した。動かないのではなく、『動けない』のだと。襲ってくる死の恐怖に体が押さえつけられているのだと。


右手に持っている神爆銃の銃口を兵士に向け、引き金を引く。続けてもう一発。弾丸は勢い良く飛び出して兵士達の額に当たり、そのまま頭を貫通した。


撃たれた兵士達は何も言わずその場に倒れこみ、黒い光が体を包み込んだあと消えてなくなっていた。

レオは林から出て、一瞬の出来事にきょとんとなっているドレンに歩み寄った。


「ドレン、大丈夫か?」


「あ!レオ兄ちゃん!うん、何ともないよ」


ドレンは無事だったらしい。体を見てみても、外傷らしい外傷は見当たらない。


「それで、刹那はどうした?一緒じゃないのか?」


「・・・・それが・・・・」


ドレンは先ほどのことをレオに話した。兵士の数が多すぎて追いつかれてしまったこと、自分の身を案じて一人で足止めをしたこと、ここに向かえと言われたこと。


「・・・・・なるほどな」


「レオ兄ちゃん・・・・」


「心配しなくても、あいつなら大丈夫だ。危なくなったら逃げるだろうしな。それより、今は罠を外さなければいけない。お前はここに残って身を隠していろ。いいな?」


「え!?む、無茶だよ!一人で行っても死ぬだけだよ!」


今までドレンたちは、罠の圧倒的な力によって押さえつけられてきた。反抗するにしても、武器、戦略、人力はあるのに決定的な戦闘力が足りないため、いつも失敗に終わった。

この世界の罠の力。ドレンは嫌というほど味わっていた。だが、レオはその圧倒的な力を持つ罠の主に、たった一人で挑むといっている。無茶だった。


「僕達みんなでかかっても駄目だったのに一人で勝てるわけないよ!」


死なせたくない、初めて会ったのに助けてくれたこの人を死なせたくない、久しぶりに人の温かさに触れさせてくれたこの人を死なせたくない。

必死に説得を試みるドレンの頭にポンッと手を置き、言った。


「・・・・・・大丈夫さ」


先ほどの行ったらすぐに死ぬ、というドレンの考えは消えてしまった。なぜかはわからない。だが、その一言でドレンの不安は消え、代わりに妙な安心感を覚えた。この人なら、大丈夫・・・・・そんな感覚。


「じゃあ行くからな。さっきの銃声でそのうち兵士が集まってくるから早く林に隠れ―――」


「ぼ、僕も連れて行って!!」


「?何言ってんだ。駄目に決まってるだろ」


「だって、罠の場所わからないでしょ?」


そうなのだ。ドレンに書いてもらったこの砦の地図、兵士達の夜襲のせいで家に置いてきてしまったのだ。


「だから、連れて行って!」


「・・・・・わかった。絶対俺から離れるなよ」


「うん!!」


ドレンの返事を聞いたあと、二人は砦の中へ向かっていった。


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