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第41話 絶望編2

しばらく走ったあと、刹那たち4人はたどり着いた少年の家の中にいた。家の中は定期的に掃除されているためか、ゴミなど一つも落ちてはいなかった。


床に座っている刹那たちと向かい合うように、少年もまた座っていた。先ほどの怯えてきっていた表情はすっかり消えていて、今度は少し戸惑いが顔に浮かんでいた。

少年が口を開かないので、先にレオが口を開いた。


「まずは俺たちのことを話しておく。さっき見たとおり、俺たちは空間の穴からやってきた。その穴はここの世界じゃない別の世界に繋がってる。言いたいことがわかるな?」


こくり、と少年は頷いた。

ここの世界じゃない別の世界に繋がっているということは、つまりこの4人は違う世界、異世界からやってきたということだ。


「俺たちが異世界からこの世界にやってきた目的は、様々な世界に仕掛けられた『罠』を外すことだ」


「・・・・・・・罠?」


「そうだ。いきなり俺たちみたいに空間の穴からやってきて、平和に暮らしていた人たちに害を与える存在だ」


その一言でピンときた。今自分たちの村を支配している存在こそが、まさしく『罠』なのだと。

少年は刹那たち4人に、この村のことを話し始めた。

3年前、いきなり空間の穴から黒マントを羽織った男が、今この村に存在している兵士を置いていったこと。自分の両親を含めた村人が、自分の前で虐殺されたこと。いつ死んでもおかしくないほどの肉体労働を強いられていたこと。

少年が話を終えたあと、真っ先に口を開いたのはリリアだった。


「ひどいよ・・・・・・こんな子供にまで・・・・・・」


気持ちは痛いほどわかった。両親を目の前で殺され、今日まで体に合わない肉体労働を続けてきたのだ。かなり、かなりつらかっただろう。

レオは少年の頭に手を置き、優しく撫でたあと、笑って言った。


「もう大丈夫だ。今まで、よくがんばったな」


久しぶりにかけられた温かい言葉に、少年は目に少し涙を浮かべ、頷いた。


「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はレオ、あの小さいのがリリアで、そっちの剣を持ってるのがレナ。それでその黒髪のやつが刹那だ」


「・・・・・僕はドレン。よろしくね」


そこで初めて少年、ドレンは笑みを浮かべた。こうして笑っていれば年相応の可愛らしい笑顔をしているのに、今までこの世界の罠のせいで死んだような顔をしてきたかと思うと、怒りが胸にこみ上げてくる。一刻も早く、罠を外さなければならない。4人は、そう強く思った。


「それで、この村にいる兵士達の中心となっているやつの居所はわかるか?」


少年はこくり、と頷いて立ち上がり、窓のほうに歩み寄った。刹那たちも同じように窓のほうに近寄る。


「あっちの方に、大きな砦が見えるでしょ?あそこの中にいるよ。ただ、砦の中は複雑になってるから、たどり着くのにかなり時間がかかっちゃう」


「そいつの正確な場所はわかるか?」


「うん。僕達が作ったから、ちゃんと覚えてるよ」


そう言うと、少年は奥の部屋から紙と羽ペンを持ってきてテーブルに置き、砦の見取り図を書き始めた。


「門を抜けると、砦の入り口があるんだ。入ると中央に階段、右と左と奥に通路があるからそこを左に進む」


ドレンは入り口から通路に向かって線を引き始めた。こうすれば、迷う心配はない。


「そのあとは奥に進んで、階段があるけどそこは無視して奥に進んで。奥に進むと右と左に通路が分かれるから、そこを右。進むと階段があるから上って2階に上がる。2階に上がったらそのまま奥に進んで」


すらすら、と軽快にペンが紙走る。線は綺麗に書かれ、わかりやすいように進むべき道を作っていく。


「奥に進むと右、左、奥ってまた道が分かれるからそこを右に進んでそのまま奥。あとはひたすら分かれる通路を左に進んでいけばたどり着けるよ」


ペンが最後にたどり着いた場所は、見取り図の中で一番大きい部屋だった。なるほど、確かにこれは複雑だ。たどり着くのにかなり時間がかかってしまう。


「これで大丈夫なはずだよ」


「ありがとな。これでお前達を助けてやれる」


微笑を浮かべ、レオはもう一度ドレンの頭を撫でた。

ドレンはへへ、と笑うと「そうだ!」と立ち上がった。


「お兄ちゃん達今日は泊まっていってよ。もう日が暮れるしさ」


窓を見ると、もう日が沈みかけていた。間もなく夜になる、そう太陽の沈み加減が知らせていた。


「それなら、遠慮なく泊まっていくことにするか」


「でもレオ―――」


刹那は、自分の言葉を途中で切った。レオの意図に気が付いたからだ。少年の顔は、今一番輝いて見える。自分達を『仲間』だと判断したからだ。長年一人で生きてきた少年の寂しさが、自分達がいることで和らいでいることは明白だった。その少年の笑顔を今ぶち壊すような真似を、レオはしたくないのだ。


だが、罠の居場所は割れている。場所がわかっていて、なおかつその行き方までわかっている―――罠を外してこの世界を去るのも時間の問題だ。だったら、その短い間だけでも一緒に居てやりたい、今まで一人で生きてきた少年に人がすぐそばにいることの温かさを知ってもらいたい。その一心で、今晩泊めてもらうことを決意したのだ。


「うん、そうだね。今晩はここに泊めてもらおっか」


「それじゃ、今晩の夕食は私が作るよ。腕を振るっちゃうからね」


リリアも、レナも、レオの意図に気が付いたようだった。少年の表情を少しでも明るくしようと、そういう雰囲気を作っている。


「うん!お姉ちゃん、ありがとう!」


満面の笑みを浮かべるドレン。そのときの表情は、おそらく今までで一番輝いていた。

だがその笑みがすぐに壊れてしまうとても脆いものだということを、4人は知らなかった。




++++++




夕食が終わり少し話しをした後、ドレンの用意した部屋で寝ていたレナは外の異変に気が付いた。


「?」


物音が聞こえた。それも、眠りを妨げられるような大きな足音だ。ざ、ざ、という足音が耳に入った。それも一人のものではない。多数が一斉に歩き出す音だ。

その異変に、横で気持ちよさそうに寝息を立てていたリリアも気付いたようだった。


「レナさん、どうする?」


不安げなリリアの声。それを逆転させる答えは見えていた。


「刹那たちが寝てる部屋に行こう」


「・・・・・うん」


その部屋にレオがいるからなのか、リリアの声は先ほどの不安に満ちた声とは違い、落ち着いた雰囲気が感じられた。

2人は布団から起き上がると部屋を出、刹那、レオ、ドレンの寝ている部屋へと向かった。自分らの部屋のすぐ隣にあるのだから、行き着くまでに10秒ともかからなかった。ドレンに失礼だが、狭い家はこういう部分に利点あるから良い。

きぃ、と音を立てて戸を開けると、刹那はまだ寝息をたてて寝ているドレンを守るように抱き、レオは銃を抜き、いつでも撃てるようにしているのが見えた。


「来たか」


入ってきたのがレナとリリアだったからなのか、少しだけレオの表情が和らいだ。

ドレンを起こさないようにゆっくりと歩を進め、レナとリリアは刹那とレオのほうへ近寄った。


「夜襲・・・・だよね?」


「十中八九な。とりあえず、ここを出る」


囲まれている中、じっとしているのはあまり得策とは言えない。このまま様子を見ていたとして、一撃必殺の攻撃(爆殺など)を仕掛けられてしまえば何も出来ないままあの世へ行くことになってしまうからだ。ここは視界の悪い夜の性質を利用して脱出するのが一番の策だった。


「正面から出るような馬鹿な真似はできないな・・・・・。となれば、上か」


すっとレオが顔を天井に向ける。外には敵のバリケードがある。正面から出る、壁を突き破る、は敵と戦うことになってしまうから駄目だ。だが、屋根に上がって肉体強化を施した足で敵を跳び越えてしまえば大丈夫だ。闇に紛れ、音をできるだけ立てないように跳べば、敵に気付かれることもないかもしれない。


だが、屋根にどう上がるかが問題だった。屋根に上がるには一旦外に出なければいけない。2階があればなんとかなるかもしれないが、この家は1階までしかない。


天井を弾丸で撃ちぬくのは?―――発砲音で気付かれてしまう。駄目だ。


レナと刹那の剣で斬って穴を開けるのは?―――これも駄目だ。斬った残骸が落ちてきて気付かれてしまう。


さて、どうしたものか・・・・・。そのときだった。






ガシャァン!!!






窓ガラスが割れる音が闇に響き渡った。外から敵が侵入してきたのだ。

先手を打たれてしまったため、もう脱出することができなくなってしまった。


{予想よりも早く入ってきたな・・・・・}


脱出することが不可能になってしまったのに、レオは落ち着いていた。これからどうすればいいか、それがわかっているからだ。

ズガン!と発砲音が響いたあと、ドサッ、と敵が倒れこんだ。この暗闇の中、レオは正確に敵に弾丸を放っていた。恐ろしいくらいの集中力と技術力だった。


「先手を打たれたならしょうがないな」


そう言うと、レオは手にしている神爆銃の銃口を天井に向ける。ズガガガン、と3発の弾丸が飛び出すと、弾丸の当たった部分の天井が落ちてきた。これで屋根まで一気に行ける。


「さぁ、行くぞ。このまま砦に向かう」


そう言うと、レオはリリアを抱きかかえそのまま高く跳んだ。続いてレナと、あれほどの騒音が響いたのにも関わらず爆睡しているドレンを抱きかかえた刹那が屋根に跳ぶ。跳んでいるときに気が付いたのだが、弾丸の3発で屋根が壊れるものなのかという疑問が刹那に沸いてきた。が、それはあとでたずねることにした。今は聞いてる暇はない。


屋根に着地し空を見上げてみるが、月や星は一つも出ていなかった。雲が空を覆っていて、それらを遮っているのだ。夜襲するにはもってこいの天候だった。


「明るいうちに確認しておいてよかったな。砦はあっちのほうだ。一気に跳んでこの包囲網を脱出する」


闇から声が聞こえた。やっと目が慣れてきて、その声の主であるレオの顔がわかった。

レオの言葉に従い、この家を囲んでいる敵を跳び越えようと足を曲げたそのときだった。爆発音が鳴り響き、自分達の足場である屋根が吹き飛んだのだ。


「な!?」


爆風に吹き飛ばされる刹那たち。それほど火薬の量が多くなかったのが幸いし、爆風に包まれて死ぬということはなかったが、それでも刹那たちはそれぞれバラバラの方向に吹き飛ばされてしまった。戦闘が不慣れな刹那、戦闘手段がないリリアにとっては最悪な出来事となった。


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