第38話 約束編3
翌日、まだ日が昇りきらないという時間に、刹那たちとレギスとレギスの引き連れていく部隊は罠が仕掛けられているだろう、隣国の城めがけて馬を走らせていた。朝日が昇っていないうちに馬を走らせたのは、敵の兵は夜に強くなり日が出ているときには若干弱くなる、というレギスの情報からだった。
確かに日が出ているときよりは夜のほうが戦いにくいが、別に能力そのものが弱体化するわけではない。そのため、相手が特別に強く感じただけなのかもしれない。だが、レギスははっきりと夜には『強くなる』と断言している。敵国の兵が夜の戦いに慣れているだけなのではないか?とレオが聞いてみたところレギスは、剣を受けたときのあの力は絶対人間のものではない、と言っていた。実際に戦っての情報なのだから嘘のはずがない。
人間の部類は、夜に力が高まるなどということはない。と、なれば『罠』が敵国の兵士に何かをした可能性が高い。急いで罠を解除しなければ、取り返しのつかないことになるかもしれない。
朝日が次第に昇ってきた。山から輝く太陽が顔を出し、刹那たちの顔を照らした。一瞬くらみ、次第に目が慣れてくると、敵国の兵士の前衛が見えた。一列にずらっと兵士が並び、その後ろも同じように一列にずらっと兵士が並んでいる。二重の防衛線だ。おそらく前の一列が破れたときには後ろのもう一列がカバーするようになっているのだろう。
「まずは俺達で崩します!!刹那さん方は後ろで待機していてください!!」
そうレギスが叫ぶと、レギスたちの部隊は前衛の一列めがけて突っ込んでいった。自軍の兵士は敵兵に近づくと馬を飛び降り、剣を抜いて切りかかる。敵兵も同じように剣を抜き、応戦する。
刹那たちは言われたとおり馬を止め、レギス達と敵兵の戦いを見ていた。ひどいものだった。途切れず響き渡る剣の打ち合う音、ときおり聞こえる敵か味方かもわからない断末魔、高く吹き上がる真紅の血しぶき。本当に戦争だった。
「レオ?どうした?」
不意にホルスターから神爆銃を取り出し、右手に持っているレオを不審に思った刹那はたずねた。と、そのときレオの手がパッ、と一瞬光り、カチャカチャという音がして弾が装填された。
「ちょっとな」
にやりとレオが笑って馬から降り、敵軍に走っていったかと思うとぐっと足を曲げ、空高く飛び上がった。
「レギス軍!!!目を瞑れ!!!」
レオの叫びと同時に、レオの右手の神爆銃から弾丸が飛び出した。弾丸は垂直に下へと落下していき、地面に突き刺さった瞬間、辺りはまばゆい閃光に包まれた。
「う・・・・・・・・・」
先ほどの太陽のまぶしさとは比べ物にならなかった。光りが目に突き刺さっているようだった。光りにくらみ、しばらく目を閉じていると不意に肩を叩かれた。
「だから目を閉じろって言ったろ」
呆れたようなレオの声が聞こえてきた。目を開けると、敵兵はみんな地面に倒れていた。目がくらんでいたときには自分の視界のほうに気が取られていて、戦闘の音が止んだことに気がつかなかった。
「レオ、さっき何をしたんだ?」
「光属性の弾、つまり『アルテマ』の威力を絞った弾を撃ったんだ。『アルテマ』はもともと光が結集してる代物だからな、威力を落とせばただの閃光弾になる」
「でも、何でそのただ閃光弾であいつらは倒れてるんだ?」
「レギスが言ってたろ?やつらは夜に強くなるって。もしかしたらやつらは光りに弱いのかって思ってやってみれば、こうなったわけだ。まぁここまで効果があるとは思わなかったがな」
相変わらずレオの頭の回転には驚かされる。レオはたった一発の弾、それも閃光弾で戦いを鎮めたのだから。
「とりあえず助かりました。では行きましょう。できれば今日中に決着をつけたい」
敵兵が倒れている間に行けば、とりあえずは安全ということでレギスの部隊はすでに馬に乗っていた。
仲間が少人数であれ死んだのに、悲しみに暮れる兵士派一人もいなかった。戦いが長く続きすぎて誰かが死ぬということに慣れてしまったのだろうか。
レギスを先頭に、再び兵士たちと刹那たちを乗せた馬は大地を蹴り、一同をを敵の本拠地、隣国の城に向かって再び前進し始めた。
城自体はもう見えている。となればその城までの距離はそう遠くないはずだ。
思っていた通り、しばらく馬を走らせるとすぐに城の前までたどり着いた。だがセオリー通り、城へと続く立派で巨大な城門は固く閉じられていた。この強固な城門を破るのに時間がかかるのは目に見えている。どうしたものか・・・・・
「俺が破る」
刹那はそう言うと馬を降り、魔力を結集させ大剣を精製した。美しく黒光りする大剣をぎゅっと握り締め、刹那は城門に向かっていく。足を曲げ、高く跳ぶと同時に大剣で城門を切り裂き、すぐ近くにあった壁を蹴り横に跳ぶ。その際にも城門に切れ目を入れ、地面に落下する際にも大剣で切る。
刹那の入れた切れ目は四角形型になり、そのまま強く蹴飛ばすとゆっくりと切られた部分の城門が倒れていった。どぉん!!と轟音が響き渡り、内部までの道が開けた。
「いくぞ!!!続け!!!」
レギスが火蓋を切り、兵士達は城下町に突入した。
いつもは賑わい、活気で包まれているはずの城下町には、人一人いなかった。家の中に閉じこもっているのかもしれないが、少なくとも外に出ている者はいなかった。だが、これももうすぐ終わる。いや、終わらせる。馬に激しく揺られているレギスは、改めて決意した。
その人気の全くない城下町を通過し、城目掛けて馬を早める。徐々に近づいてくる城に不安と恐怖を覚えた。
ほんの少し馬を走らせると、再びレギスたちの前に城門が立ちふさがった。
城門と呼ばれるものは、外敵からの進入を防ぐためにあるものだ。最初に刹那が破った城門は城下町の侵入を防ぐため、そして目の前にある城門は国の脳といっても過言ではない城の最終防御のためにある。そのためなのか、最初のものよりも立派で強固なものになっている。
誰が破るか、それを考えたのは無駄だった。なぜならば、その城門は破るまでもなく、勝手に開いたからだ。何かの罠かと一瞬警戒したが、開門と同時に敵兵が一気になだれ込んできたので疑問は吹っ飛んだ。罠でもなんでもない、迎撃のために城門を開けたのだ。
「刹那さん方は俺と一緒に来てください!お前ら!!頼んだぞ!!!」
そう言うと、レギスは馬を走らせ向かってきた敵兵を踏み潰すように進んでいく。レギスの進行を阻止する者もいたが、妨害する前にレギスの剣の餌食になってしまった。
刹那たちは言われた通り、レギスの後を追った。敵兵が襲ってくる前に倒れたのは、一番前にいるレオが近づかれる前に射撃しているからだろう。その証拠に、前の方から発砲音が鳴り響いている。
城門を突破した刹那たちは馬の足を止めることなく進んでいく。だが、レギスの後を馬で追い続けているうちに刹那は妙なことに気がついた。
城内に兵士がいないのだ。出てきたのは最初のほうだけで、場内には兵士、いや人一人いないもぬけの殻状態だった。
「レオ・・・・・・これって・・・・・・」
「典型的な罠だったな。だが、ここまで来て引き返すわけにはいかないだろ」
やはりレオも気がついていた。敵兵が一人もいないというおかしなことに。
だが、刹那とレオの考えとは反対にレギスはどんどん先へ進んでいく。戦いを早く終わらせたい、という気持ちのせいで判断力が鈍っているのか、レギスはこの状況のおかしさに気がつけないでいた。
と、そのときだった。先頭のレギスが柱を通り過ぎたと同時に、その柱から不意に人影が出てき、刹那たち4人の乗っている馬の足を斬りおとした。
「な!?」
当然痛みと支える足を失った馬はそのまま地面に倒れこみ、その上に乗っていた刹那たちも地面に叩きつけられる形になってしまった。
「いって・・・・・・・・」
ゆっくり起き上がる刹那。それにつられるようにして3人も起き上がる。
「リリア、怪我は?」
「ううん、大丈夫」
レオは、リリアに怪我がないことを確認した後、すぐさま自分の後ろに移動させ、ホルスターの神爆銃を右手に取る。それと同時に、レナも腰の神抜刀を抜き、構える。
4人の目の前には、両手に剣を持った3人の鎧兵士が立っていた。中世の騎士がかぶっているような顔全体を覆い隠す兜、動きに支障が出る代わりに防御を重視したのがわかるくらい大きな鎧。冷たい金属の塊を纏っている兵士達独特の雰囲気もそうだが、表情が読み取れないのと微動だにしない分、余計に威圧感を感じてしまう。
「どうする?このままだと、レギスが危ないかもしれないよ」
確かにそうだ。この国が乱れている元凶が罠のせいなのならば、国の兵を動かしているのも罠となっている人物である可能性が高い。その人物とは、おそらく『神の使い』を名乗る者だろう。
前の世界で神の使いを名乗っていたシャドウとサラは、並の能力者とは比べ物にならないほどの戦闘能力を持っている。となれば、この国にいるかもしれない『神の使い』も、高い戦闘能力を持っていることになる。そんな場所にレギスを一人だけで行かせるのは、あまりにも危険だ。
しばらく悩んだレオは、決断した。
「刹那、レナ、レギスの後を追ってくれ。あとで俺達も追いつく」
「でも、それじゃレオが・・・・・・」
ここで敵兵3人の足止めをすると言った本人のレオは、刹那と最初に会ったときに見せた、あの不敵な笑みを浮かべて言った。
「何言ってんだ、俺を誰だと思ってる。すぐ追いつくさ」
「・・・・・・・・・わかった。レナ、行こう」
「うん」
「二人とも、気をつけてね」
刹那とレナはレオの言うことを信じ、敵兵の横を通り過ぎようとした。が、わざわざ敵が自分の真横を通っているのに攻撃しないわけがない。一番右側の兵士が、刹那達のほうを見向きもしないで手に持っている剣を振り上げ、そのまま異常な速度で振り下ろす。
だが、狙われているはずの刹那とレナは、逃げようとも、よけようとも、剣で受け止めようともしなかった。なぜならば、
ズガン!!!!
こうなることがわかっていたから。
レオの放った弾丸は見事振り下ろされた剣に命中し、後ろの方へと弾き飛ばしていた。刹那とレナはその一瞬の隙を逃さなかった。自分達に再び火の粉が降りかからないうちにレギスの進んでいった道を走っていく。
敵兵の3人は刹那とレナのほうを一瞬向いたが、レオの手の中に納まっている銃がチャ、という音が聞こえると、すぐさま戦闘態勢に入っているレオをターゲットに切り替えた。
「いいか、絶対俺の後ろから離れるなよ」
「・・・・・・うん」
レオが手に持っている神爆銃の引き金を引き、銃声が辺り一面に響き渡った瞬間、このフロアの戦いは始まった。
++++++
長い長い廊下。そこに響くのは馬の走る音だけだった。もうすぐこの国の王のいる間、いや『罠』が仕掛けられているポイントと言ったほうが正しいか、にたどり着く。
レギスの握っている手綱に汗が染み込んでいく。いよいよこの戦いを終わらせることができる、そう思うと、自然に馬を急がせてしまうのはなぜだろうか。
早くあの人の元に帰りたい、帰って笑って戦いが終わったことを告げたい。進むたびに浮かんでくるその想いがレギスを急がせ、また焦らしていく。もう刹那達が足止めを食らっていることなど、目に入っていなかった。
{・・・・・・・・やっと、やっと終わらせることができる・・・・・・・・・}
馬を走らすこと数分、目に入ってきたのは大きな扉だった。この先に、罠がいる。戦いの元凶が。
レギスは馬から降り、ゆっくりと扉に手をかけ、力を込めて押した。扉はレギスを阻むことなく鈍い音を立て開くが、レギスは怪しむことなくその中へ入っていった。
この国の王の間は、信じられないくらい広かった。横幅、縦幅、そして天井、それら全てが自国のものを上回っていた。だが、別に驚きはしなかった。今玉座から立ち上がっている人物に気を取られていたからだ。
ゆっくりと歩を進める。こいつが元凶、戦争の源。距離を詰めていくにつれ、その人物が男であること、髪の毛が真っ赤であるということ、背に何か長いものを背負っていること、上半身だけ青色の鎧を装備していることがわかってきた。
やがて、もう普通に話しても聞こえるような距離になったところで、その男はやっと口を開いた。
「驚きました。まさか一人でここまで来るとは、私も予想外でした」
丁寧な口調、棘々しさのない雰囲気。それが男から感じ取れたことだった。
「貴様が『罠』というやつか?」
「そうです。私がこの世界の罠ということになっています。それで、あなたは?罠の存在を知っているということは、もしかして・・・・・・・・」
「残念だが、俺は貴様の目的の人物ではない。貴様が攻めている国の騎士だ」
「だと思いました。あなたからは魔力が全く感じられませんからね。そんな無関係な貴方が私のことを知っているとなれば、近くに神の魂の器がいることになりますね」
そう言うと男は背中に手を伸ばし、背負っている長いものを手にした。男の手にしたもの、それは灰色の持ち手の先が3つに分かれている槍だった。
レギスはその槍が発している雰囲気が、レナの神抜刀と同じことに気がついた。美しく、それでいて力強い独特な感じ。神器というやつだろうか。
「関係がないとはいえ、罠の存在を知られてしまったからには死んでもらわなければなりません。この『神突槍・魔』の錆になってください」
「悪いがそういうわけにもいかない。こっちも全力で相手をさせてもらう」
そこでレギスは初めて剣を抜き、構えた。じっと相手のほうを見据え、自分は動かず相手がかかってくるのを待つ。
それを見た男はすっ、と槍を構え、そのまま突進していった。レギスにとっては好都合。レギスは剣を構え直し、男の槍の攻撃に備えた。
こうして、『罠』とレギスの戦闘は始まった。強い想いを持つレギスと、刹那を殺すために張られた『罠』の勝敗は、この段階ではまだ誰にもわからない。
++++++
「・・・・・・・・・こういうタイプか」
「兄さん、どうしよう・・・・・・・・」
刹那とレナが見えなくなった頃、レオは敵兵3人、いや、3体に苦戦を強いられていた。
まず、この3体は人間ではない。いくら弾丸を撃っても倒れこまないのは別に驚きはしなかったものの、下半身を吹っ飛ばしてわかったことには正直レオはかなり動揺した。
中に人が入っていなかったのである。剣を操り、巧みに自分を攻撃してくるのは鎧を着た人間ではなく、鎧そのものだった。
下半身が吹っ飛んだ敵兵は、ほふく前進で自分の下半身の場所まで移動し、手で器用にくっつけ、何事もなかったかのように再び襲い掛かってくる。さっきからこの繰り返しだ。いくら撃っても撃っても、襲い掛かってくる。敵兵の鎧に無数の弾痕が残っているのが何よりの証拠だ。
レオは、鎧そのものを『アルテマ』で消滅させればいいのでは、と考えたものの、敵3体それぞれがばらばらな方向から襲ってくるため、一気に消滅させることができない。だからといってこんな場所で貴重な『アルテマ』を3発も使用するわけにはいかない。一発精製するために3日間という長い時間を要するからだ。
{・・・・・・・・仕方ないか}
レオは腰のホルスターからもう一丁の『神爆銃・光』を取り出し、中に入っている5発の『アルティマ』を全て取り出して自分のポケットに入れた。これで銃のマガジンは空になった。
レオは取り出した『神爆銃・光』を左手に構え、グリップをぐっ、と握る。すると『神爆銃・光』は一瞬光りに包まれ、カチャカチャと弾が装填された。
これでレオの両手には二つの神器が納まった。右手には美しい黒光りを見せる『神爆銃・闇』が、左手には清い光を放っている『神爆銃・光』が握られている。いつも片方しか使っていないレオの本来の戦い方は両手に銃を持ち、圧倒的速さの連射で相手を押さえつけるというものだったのだ。
レオは左手の神爆銃をチャ、と構え、敵兵3体の間めがけて撃った。ズガン、という発砲音のあとに、白い銃身から黒い弾丸が飛び出し床に突き刺さる。すると、弾丸が突き刺さった場所を中心に黒いドーム型の空間が出来上がり、敵兵3体はその中にずるずると引きずり込まれていった。
「兄さん、あれって・・・・・・」
「闇の属性の弾丸だ。強力な重力を放つから、ああいう風になる」
黒いドーム型の空間の中の敵兵達は、まるで子供が乱暴に放り投げた人形のようにごちゃごちゃになっていた。もともと間接など存在しない鉄の鎧を纏っている敵兵の腕や足は変な方向に曲がっており、その敵兵達が持っていた剣も、レオの放った弾丸の重力に逆らえず敵兵の鎧に突き刺さっている。この光景が、重力の強さを物語っていた。
レオはそのまま両手の銃を絡んでいる3体に向けた。敵兵3体は動きたくとも動けない。
「いくら自分の体をくっつけれても、粉々になればくっつけれないだろう?」
そう言うと、レオの両手の銃が光り始めた。弾丸を装填するときに出る光りだ。だが、今レオの持っている銃には弾丸が全て装填されており、これ以上は装填できない。なのに、なぜレオはこのようなことをしているのだろうか。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガ・・・・・・・・・・・・・・─────────
銃のような単発の発砲音ではなく、音と音が繋がっているような発砲音が辺り一面に鳴り響いた。引き金を引いているレオの指は目で捉えられないほどの速度まで達していた。本当に見えなかった。
そんな中、いくら撃ってもレオの銃弾が切れるということはなかった。なぜならば、先ほどから銃を包んでいる光が、弾丸を発射するたびに弾を補充してくれているからである。
レオの本来の結晶能力は全属性結晶化、つまり火、水、風、土、雷、闇、光の属性を持つ弾丸を精製するという能力なのだが、何も属性を持たない弾、すなわち通常弾を精製することと、マガジンに弾丸を装填するということも可能となっている。属性の付加された弾を精製でき、なおかつ勝手に弾丸を装填してくれるこの能力は、銃使いにとって大変ありがたく、使い勝手の良い能力なのである。
だが、一見バランス力に長けているこの能力にも弱点がある。それは、自己の魔力を他の属性の魔力に変換するため、属性の付加した弾丸を精製するときに時間がかかってしまうということだ。
たとえば、一発がダイナマイトにも匹敵する威力を誇る火の属性の弾でも、魔力を込める時間を減らしてしまえば、ただのライターの火力にも劣る役に立たない弾ができてしまうし、全てを消し去るほどの威力を持ち合わせている光の属性の弾、『アルティマ』も、半端な時間で精製すればただの閃光弾になってしまう。
だが、今レオが連射している弾丸は何の属性も付加されていないため、時間をかけずとも高い威力を持つ弾丸が精製できるのだ。
ほんの1分か2分という短時間のうちに、レオの放った闇の弾丸の効果はなくなってしまった。時間さえかけてゆっくり精製すればもう少し長い時間引き付けておくことが出来るのだが、敵兵3体を鉄くずにするには十分な時間だった。短時間であれ、あれだけの速度でレオに弾丸を撃ち込まれた敵兵はもはや鎧の原型すら留めておらず、辺り一面には恐ろしいほどの弾痕が生々しく残っていた。
強力な重力から解放された敵兵はガラガラと音を立てて崩れ落ちた。敵兵の3体は、もう体を組みなおして向かってくるということはなかった。当然だ、体をくっつけるための腕がもうバラバラの鉄片と化しているのだから。
終わったことを悟ったレオは、もう弾丸を装填する光りを放っていない『神爆銃・光』を腰のホルスターに入れ、もう一つの神爆銃を握り締めた。
「リリア、早く刹那たちに追いつくぞ」
「うん!」
二人は走り出した。
もう姿が見えなくなっている刹那とレナの後を追うため。
レギスの、そして『罠』のいる所までたどり着くため。