第36話 約束編1
もしあなた達がこの世界に来てくれなければ
私はあの方との約束を守れなかっただろう
刹那たちはゲートの中を移動していた。もちろん罠を外しに向かうためだ。
そういえば、刹那が異次元図書館にたどり着くまでの世界、一つ一つに罠が仕掛けられていたということを、刹那はいまさらながら実感していた。最初の世界、つまりダンに会った世界ではあらゆる生物の遺伝子を組み合わせて生まれた化け物、ラチスが立ちふさがり、次の機械の世界では、国の主軸となっていたAIに入り込んだ厄介なウイルス。その次のレオの世界では、神を殺した人間の部下、『シャドウ』による罠で、レナの世界でも、神を殺した人間の部下、『サラ』が関わっていた。そして異次元図書館の一つ前の世界では、死にたくとも死ねない男、レメンが立ちふさがった。
彼がなぜそんな体になったのか、刹那たちにはよくわかっていなかったが、自然にああなったとは考えづらかった。
レメンの体を瞬時に回復させる能力は、もともと人間が備えている能力を遥かに上回っている。となれば、その能力は魔力によるものでしかありえなかった。しかし、レナがレメンの体からは魔力が感じられない、と言っていたので、この考えは通らない。
ならば、レメンの体にいったい何をしたのだろうか?いくら悩んでも、今の段階では刹那たちにはわからない。
「そろそろだぞ」
レオの声が耳に届いた。前を向いてみると、光が見えた。もうすぐ到着する。神を殺した人間たちによって罠を仕掛けられた世界に。
光が刹那たちを包み込み、眩しさが視界を奪う。しばらく目を瞑り、光が消え去ったのを確認して初めて目を開ける。
そこは廊下だった。ぱっと見る限りではレオの国と同じような作りの城の廊下だった。壁の上のほうにはたいまつがあるが、今現在火は点いてはいない。昼だから点ける必要性がないのだろう。
ゆっくりと辺りを見回し、状況を判断したレオは言った。
「とりあえず、隠れたほうがいいな。見つかったら、たぶん捕まる」
もっともな意見だった。城の中ならば、不審人物がいないかどうかの見張りの兵がいてもおかしくはない。幸い、今のところそんな兵士は見当たらないから、今のうちに身を隠せばゆっくりとこれからのことを考えられる。
「わかった。じゃあとりあえず・・・・・・・・・」
「だ、誰だ!!!」
声のしたほうをばっ、と振り向いた。そこには鎧と兜で身を固めた兵士が驚いたようにこちらを見つめているのが見えた。もちろん一人ではない。二人いる。
兵士は互いにアイコンタクトを取ると、刹那たちのほう目掛けて走ってきた。鎧のせいでスピードが落ちているとはいえ、それを感じさせないくらい速かった。
刹那たちはとりあえず逃げ出した。ここで捕まってしまえば、かなり面倒なことになるからだ。捕まっていきなり死刑、なんて話になってしまってはたまらない。
角を曲がりきり、近くにあった階段を上った。決して緩くはないその階段は、後ろにつけてきた兵士たちとの間を空けるには適していた。
階段を上りきったとき、レオはあることに気がついた。
「しまった!これじゃ追い込まれちまう!」
上に逃げてきてしまった刹那たちは、逃げ道を確保できていなかった。このまま一気に下から大人数で来られては、いくらなんでも捕まってしまう。かと言って、いまさら戻るわけにもいかない。
どうすればいいか、それを考えようとした瞬間だった。
キィ、と音がし、近くにある大きな扉が開いた。その中から、桃色の髪の毛をした可愛らしい女の子が顔を出した。きょろきょろと廊下を見渡し、困っている刹那たちを見つけると、嬉しそうに手招きをした。
「兄さん、どうするの?」
リリアが不安そうにレオに聞いた。
「・・・・・・・このまま行っても捕まるだけだ。まぁ行ってみるか。」
レオの案に3人は頷き、その女の子の部屋に入っていった。
全員入ったのを確認すると、女の子は急いで扉を閉める。ふぅ、と安堵のため息をつき、改めて刹那たちを見つめ、話しかける。
「ねぇねぇ、あなたたち。あたしをさらいに来てくれたの?」
「・・・・・・・・・・・・は?」
女の子の質問に、疑問で返してしまったのが悪かったのか、女の子は少し口を尖らせてもう一度言った。
「だ〜か〜ら〜。あたしをさらいに来てくれたんじゃなかったの?」
「いや、違うけど・・・・・・・」
「え!?違うの?」
女の子は驚いたように返し、そしてしょぼくれてしまった。せっかく期待していたのに、とでも言いたげな顔だった。
「せっかく外に出られると思ったのに・・・・あ〜!!もう!!」
「そんな輩が現れたら、即刻切り捨てますがね」
奥のほうから若い男性の声がした。よく見てみると、胸当てとマントだけを着込んでいる兵士、いや、騎士が出てきた。兵士でなく騎士と感じたのは、その周りから出ている独特の圧迫感のせいだろう。
「あなたを連れ去ろうとするやつなど、俺が許しません」
「何真面目になってるのよ。もう・・・・・・」
腕組みをしながらむぅ〜、とうなる女の子を差し置いて、その騎士は刹那たちに言った。
「さて、あなた方は何の用があってここに足を踏み入れたのですか?」
「話せば長くなるが、とりあえずここには来たくて来たわけじゃない」
「・・・・・・・・・・どういうことか、説明をしてもらいたいのですが・・・・・・・」
仕方がない、といった表情でレオが口を開き、今異世界には罠が仕掛けられており、それらを解除するために来たことを告げた。
「・・・・・・・・・・つまり、あなた方はこの世界の、その・・・・・・罠を外しに来た、ということですか?」
「そういうことになるな」
レオは腕を組み、驚いているその騎士にたずねた。
「それで、この辺りで急におかしくなった場所、もしくは国はないか?」
その騎士は女の子のほうを見た。言ってもいいのかを確認しているものだすぐにわかった。女の子はにっこりと笑って、
「いいんじゃない?答えてあげて」
騎士は小さくため息をつき、刹那たちに説明をした。
「・・・・・・最近、隣国との友好関係が急激に悪化し、戦争になっているのです。こちらは何の非もないのに、あちらから一方的に戦争を仕掛けてきて・・・・・・・」
「それだな・・・・・・・。それで現在の状況は?」
「こちら側が追い込まれております。もうすぐ、この城までたどり着かれるかと」
「そんなにまずい状況なのか?」
「・・・・・・・・・・」
その騎士は、無言でうなずいた。その姿からは、どこからか悔しさが感じ取れたような気がした。
もしその戦争を仕掛けた国が、罠になっているのであれば、戦闘状況が押されていてもおかしくはない。いや、押されていなければおかしいのだ。ちょっとやそっとで外れてしまう罠など、仕掛けるやつはいない。ましてや弱い罠など仕掛けるやつもいない。
「状況はわかった。俺たちも手伝う」
「あなた達が我々に加勢するというのですか?」
「ああ、その通りだ」
「・・・・・・・・我々はあなた方に手伝ってもらうわけにはいかない。これはあくまで我々の問題ですから」
「・・・・・・・いずれにせよ、俺たちはその国に行って罠を外してこないといけない。協力するかしないかはそっちに任せる。それでいいな?」
レオの言葉に、刹那たちは頷いた。
騎士は腕を組み、悩んだ。
今起こっている戦争はこちら側が押されている。今は一人でも戦力が欲しいくらいにだ。だが、そんなことを理由に戦いに巻き込んでもいいものか?しかも、手伝うと言ったのは自分よりも遥かに若い者ばかりだ。将来のある若者だ。できれば戦いなどに巻き込みたくはない。
だが、この者たちはどちらにしても戦いを挑みに行くと言っている。こちらの意見に関わらずだ。
どうしたものか、とうなっている騎士をつんつん、と女の子が突っつき、騎士はにっこりと笑っている女の子のほうに顔を向けた。
「いいじゃん。協力してもらお」
「・・・・・・・・正気ですか?」
「だって、この人たちだけで行かせちゃ危ないもの。それに一緒に戦ってくれるんだったら心強いじゃない」
「ですが・・・・・・・」
「いいの!決めた!私が今決めた!!」
強引に刹那たちと協力することを決め付けると、やはりにっこりと笑って手を差し出した。
「それじゃ自己紹介しよ。あたしはこの国の王女様。名前はイリー」
「俺はこの国の兵士長兼この方の護衛兵のレギスと言います」
王女だったのか、という驚きが顔に出てしまったのか、刹那はイリーに少し睨まれてしまった。
「俺はレオ。この小さいのがリリアで、そっちの剣を持ってるのがレナ。それでその黒髪のやつが刹那だ」
レオがそう言うと、レナとリリアはイリーと握手をし、レオと刹那はレギスと握手をした。
自己紹介が終わると、レギスはレナの持っている太刀に目を奪われていた。長く、細く、すらっとした真っすぐなその太刀は、剣を知っているものならば誰もが釘付けになるくらい見事なものだったのだ。
「レナさん。剣のほうの腕前は?」
「え?まぁまぁ強いと思うけど、どうしてですか?」
「よろしければ手合わせを願いたいのだが・・・・・・」
「あ、そういうことか。もちろんいいですよ」
「では早速お願いしましょうか。こちらへ」
言うなり、レギスはドアを開けて廊下へと出た。
レナはなぜかふふふ、と笑い、刹那のほうを向いた。
「刹那も来る?色々勉強になると思うよ」
「それじゃ行こうかな」
刹那が廊下に出たレナを追いかけ、部屋の中はレオとリリアとイリーの3人になってしまった。
「それじゃ、君たちはあたしの話し相手になってもらおうかしら」
にっこりと笑ったイリーに、リリアも笑って返した。
++++++
「もうすぐです」
廊下を早足で歩くレギスが言った。その声からは、楽しみで楽しみで仕方ないという色が出ていた。
一度上った階段を降り、さらにもう一度下りる。これより下へ行く階段がないということは、イリーのいる部屋は3階で、ここは1階ということになる。
1階の廊下を歩いているそのとき、前方から鎧を着込んでいる兵士が2人向こうからやってきた。それも、先ほど見つかった兵士だ。兵士は頭こそ兜によって見えなかったが、顔の部分だけは防具がつけられていないので、顔だけはしっかりと覚えていた。
「レ、レギス隊長!後ろに侵入者が!!」
「この方たちはイリー様の客人だ。危険はないから安心しろ」
「そ、そうですか。大変失礼しました」
そう言い残すと、兵士たちはそそくさと立ち去ってしまった。
はぁ、と浅くため息をついたレギスのあとを、再び刹那とレナはついていった。しばらく歩くと、広い中庭が見えてきた。そこでは兵士たちが、いつでも敵に攻めて来られてもいいよう訓練をしていた。
「あ、隊長。お疲れ様です」
1人の兵士がレギスに気付き、挨拶をする。その兵士のあとに続き、他の兵士たちも挨拶をした。
「みんな、すまないがここをしばらく空けてもらえないか」
レギスがそう言うと兵士達は返事をして動き始め、数秒経たないうちに中庭が空いた。ちなみに兵士たちは廊下のほうで見学している。
「では始めましょうか」
「わかった。あ、刹那。ちょっと・・・・・・・」
レナが刹那に手招きをする。疑問符を浮かべている刹那がレナの近くに寄ると、レナは刹那の耳元で囁いた。
「あの人結構強いから、少し『面白いもの』見せてあげる」
「『面白いもの』?」
「うん。さ、行って」
レナの言う『面白いもの』とは一体なんなのか、刹那はわからなかった。レナとレギスの手合わせで何か勉強になるということはわかっているが、果たして面白いものとは・・・・・?
レギスはレナに練習用の剣を渡したあと、自らの腰にある剣を抜き、構える。レナも渡された剣を抜き、構える。両者の準備は整った。あとは打ち合うだけ。
「最初に言っておきますが、手加減はしませんよ。本気でやるのでそのつもりで」
「わかった。じゃあこっちも遠慮なくいきますよ」
言った直後、飛び出していったのはレナだった。剣を握り締め、防御体制をとっているレギス目掛けて突っ込んでいった。
「ははは!見ろよ、あの女!レギス隊長に突っ込んでいったぞ?綺麗にさばかれて終わりだな!」
見ていた兵士の一人が言った。
こうまで自信ありげに言い放てるのは、レギスの相手が女だったということもあるが、何よりもレギスの実力にあった。
レギスの戦法は自ら突っ込んでいく、ということはせず、相手が攻め込んでくるまで待つ、というものだった。動かず相手をじっと待ち、痺れを切らして振るってきた剣をさばき、空いている懐に剣を振り込む。守備型の戦闘方法だ。
その方法を長年取り続けているため、レギスは受け流しが非常にうまい。つまり、今迷うことなく突っ込んで行っているレナの剣をやすやすとさばいて一本とることなど簡単だ、と周りの兵士は思っている。
レギスが射程に入ったのを察したレナは、剣を横に振る。刀身がレギスの肩めがけて振られたのと同時に、レギスは剣を斜めに構えた。
レナの剣はそのまま斜めに構えたレギスの剣に向かっていき、完全に肩を捉えたはずの刃は進行方向を変えられ、受け流された。
{やっぱりだ。綺麗に受け流してる}
受け流すことを完全に読んでいたレナは、空を切った剣の勢いをそのまま利用して後ろに跳ぶ。横に剣を振るったのは様子を見るためだということを、再び開いたレギスとの間が証明していた。
{様子見・・・・・・・・・・・・慎重にやってきてるな}
別に様子を見たからといって戦法を変える気はない。このやり方で何人も葬ってきたし、一度も敗れたことはない。レギスはこの戦法と自分の腕に自信を持っていた。
レナのほうを見てみると、深く息を吸い、そして深く吐くということを繰り返していた。おそらくは精神集中だろう。となれば、終わったあとに何らかの行動に出るはずだ。それまでは防御体制でいたほうがいい。
深く吸い、深く吐く。今度は目を瞑り、もう一度深く吸い、深く吐く。しばらく時間が流れ、かっ!と、レナの目は開かれた。
「刹那!!よく見てて!!」
そうレナが叫ぶと、再びレギス目掛けて走っていった。突っ込んでくるのは前と同じなのだが、速さと剣の握り方が違う。少し短めに持っているのだ。
土を蹴り、前へ前へとただ進む。文字通り、特攻。ぐんぐんと距離が詰まっていき、それぞれお互いの射程に入ったところで、レナは初めて剣を振った。
抜刀技壱ノ型・時雨
まるで激しい雨の如くの剣さばき。突きを激しく浴びせ、巧みに剣を使い相手に身動きを絶対に取らせない。仮に動けたとしても、その激しく振るわれている剣によって八つ裂きにされるだろう。それほど激しく、速い攻撃だった。
{す、げぇ・・・・・・・・・}
刹那はそれ以外に言葉が浮かんでこなかった。自分には到底真似できないと本能が言っているのもあるが、なによりもレナの技に魅せられていたからだ。
やわらかく、それでいて激しい。相手は逃げられず、嵐を恐れる動物のようにただ耐えるしかない。芸術だった。初めて剣の技が美しいと思った瞬間だった。
レギスは最初のうちは受け流せていたものの、絶えず襲ってくる剣に動揺し翻弄され、徐々に受けきれなくなっていた。それがわかっていたので逃げようとするが、右に逃げようとすれば右から、左に逃げようとすれば左から剣が振られ、後ろに飛び退こうとしても、相手も一緒になって跳ばれるので絶対に逃げれない。
ギィイン!!!!
ほんの少しだけの遅れだった。剣の速さについていけず、ほんの少し剣が遅れただけだった。あわてて剣を受けようとするが、もう遅かった。剣ははじき飛ばされ、レナの剣は首元に突きつけられていた。完全な敗北だった。
「た、隊長・・・・・・・・」
周りの兵士たちも信じられないようだった。毎日目標にしてきた人が、鉄壁とも言われるまでになった人の剣が、突然現れた『女』に敗れたのだ。ショックが大きかった。
「あなたの戦法・・・・・・・・悪いわけじゃないんですが、幅が狭すぎるんです。」
「幅が、狭い?」
刃を鞘に収めながら、レナは言う。
「そうです。確かにあなたは受け流すことに関してはとても優れた能力をもっています。でも、本当の戦いは一つの戦い方じゃ生き残れない。様々な剣技を、相手に応じて使うことができれば相手が相当な実力者じゃない限り負けることはありません。現に、私はその戦法にあなたに勝ちました」
「・・・・・・・・・・・・・・」
実力に大きな差があるということを、レギスはレナの話から感じていた。
レナの言うとおり、相手によって戦い方を変えれば負けることはほとんどない。一言に剣技といっても、火と水のようにお互いの相性が良い悪いものがあるのだ。
だが、戦い方を変えると言っても、しっかりとその剣技を会得しなければならない。生半可な剣技では、いくら相性がよくても斬り殺されるのが目に見えているからだ。
レナは防御し、相手の攻撃を受け流すという戦法を持つレギスを相手に、速さと手数で勝負をし、そして勝った。レナがもともと速さと手数を使い短時間のうちに決着をつけるという剣技を普段から使っているのならばレギスが敗北するのもなんとなくわかる。
だが、レナは別にそういうわけではない。向かってくる敵にはレギスのように受け流しを使い、いつまでも攻めてこない敵には先ほどのように突っ込んでいく。相手によって戦い方が変わり、なおかつその戦い方を完全に会得しているのだ。
一つの剣技を会得するのに一年以上はかかると言われている。そのため、レナのように多種の剣技を会得することはかなり時間がかかってしまう。それを15前後で会得しているとなれば、よほど子供の頃から剣を振ってきたのか、あるいは剣に関しては天才的な能力を持っていることになる。
どちらにせよ、自分よりも強いというのは明確だった。
「勘違いしないでほしいのは、あなたの戦い方を馬鹿にしてるわけじゃないということです。あくまでこれは私の考え方ですから」
レギスは、微笑みながら口を動かすレナがなんだか神々しく感じられた。
レナは自分のほうを見てぼーっとしている刹那の近くまで歩み寄り、笑って聞いた。
「どうだった?私の『抜刀技』?」
「もうすごいってしか言えない。本当にすごかった」
「ふふ、ありがと。でも肉体強化すればもっと速くなるんだけね」
「ところでさ、『抜刀技』って何なんだ?」
ああそうか、と口にした後、レナは説明をし始めた。
「『抜刀技』はね、この神抜刀と一緒に先祖代々から伝わってきた剣技なの。抜刀技には
『型』があって、全部で3つあるの。さっき見せたのは『抜刀技壱ノ型・時雨』」
「へぇ〜。それでもう2つは?」
レナは口に人差し指をやり、やっぱり微笑んで答えた。
「それ言っちゃったら面白くないでしょ。いつか教えてあげる」
「それじゃ、楽しみに待ってますかね」
レナの抜刀技を見ることになるのはいつだろうか。そんなことを思っていると、向こうからレギスが歩いてきた。少しも悔しそうな顔をしていないのは、芸術とも呼べる剣技に魅せられたからだろう。
刹那とレナのすぐ近くまでくると、レギスは頭をかき、少し照れながら言った。
「参りましたね。一応城一番の兵士と呼ばれているんですが、こうもあっさり負けるとは」
「いや、レギスさんだってレナの剣を綺麗にさばいてたじゃないですか」
刹那が言うが、レギスは首を横に振り、
「子供の頃からずっと同じ剣技を練習してれば当然ですよ。変えようと思わずここまでやってこれたのも、俺自身がこの剣技を気に入ってたのかもしれないですがね」
子供の頃から練習をしてきた剣技があっさりと破られたのだが、これからもこの戦法でいく。そう刹那には聞こえてならなかった。
「そうだ!レギスさん、刹那に受け流し方教えてくれませんか?」
「いいですけど、俺でいいんですか?レナさんが教えてあげたほうが良いのでは?」
「私よりも受け流し方がうまいじゃないですか。ぜひお願いします!」
「わかりました。じゃあ刹那さん、こちらに」
「わ、わかった」
今レナとレギスが話していたのは自分のことだと気がついて、刹那は慌てて返事をした。
レナに剣を渡され、先ほど凄まじい手合わせをしていた中庭の中央に向かう。レギスはもうすでに剣を抜いていたので、刹那もゆっくりと剣を抜いた。
{あれ?軽いな・・・・・・・・・・}
大剣を使っていた刹那が違和感を覚えるのも無理はなかった。今刹那が手にしている剣は、一撃で相手を葬るという重さを重視する大剣ではなく、手数で相手を翻弄するという軽い剣なのだ。
長さも重さも違う剣に少し戸惑ったが、別にいい、という考えで剣を構えた。
「とりあえず、最初は打ち合ってみましょう。それから流し方は教えます」
「わかった。頼む」
しばらくの沈黙。相手が自分から行動を動かすことはない、ということは、先ほどのレナとの手合わせを見ていたからわかる。だったら自分から向かっていくしかない。
刹那は剣を両手で持ち、そのまま担ぐようにして走っていった。ぐんぐんと距離は縮み、射程に入ったのを察した刹那はそのまま剣を振り下ろした。が、
「あ・・・・・・・・・・・・」
そのままあっさりと受け流され、勢いづいた剣は深々と地面に突き刺さってしまった。慌てて抜こうとしても、その間に首に剣を向けられて終了。本当にあっけなかった。
「・・・・・・・・刹那さん。あなた大剣使いですね?」
刹那の首から剣を離すと、確認するように刹那にたずねる。
「あんなの片手剣の持ち方じゃないし、肩に担いで向かっていくというのは大剣しかないですからね。慣れていないのなら言ってくれればいいのに」
「時間を無駄にしたくなかったんだよ」
「・・・・・・・・・おーい!!誰か大剣持ってきてくれ!!」
レギスが周りの兵士たちに向かって叫ぶ。言われた兵士たちはざわざわと少し騒ぎ始め、しばらくしてから兵士の一人が少し埃のかかった大剣を担いできた。
「お待たせいたしました、隊長」
「悪いな。もう行っていいぞ」
「はっ。では失礼します」
一礼し、その兵士は再び自分の観戦していた場所に戻っていった。
レギスは大剣を刹那に手渡し、たずねた。
「サイズはそれくらいでいいですか?」
「ああ。俺の使ってるのもこれくらいだ。ありがとう」
「いえいえ。・・・・・・・では、始めましょう」
再び距離をとって、お互い剣を構える。慣れている大剣の握り心地に、刹那は安心していた。先ほどの剣とは比べ物にならないくらいしっかりとくる。
強く握り締め、肩にその巨大な刃を担ぎ、レギスに向かっていった。