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第34話 異次元図書館編3

「あとはない?聞きたいことは。」


「俺はないよ」


「俺ももうない。聞きたいことは全部聞いた」


「私もない」


「私も」


そう、と言ってオリアスはいすから立ち上がり、コツコツ、と床が鳴る音を辺りに響かせ、ゆっくりと刹那の前まで歩いた。そして刹那の正面まで来たところで、オリアスは口を開いた。


「じゃあ、次はこっちから質問。刹那君はこの事実を聞いてどう思いましたか?」


「すごく、驚いた。まさか世界がそんなことになってるなんて思ってなかった」


「では次の質問。事実を知った刹那君はこれからどうしますか?」


「・・・・・・・・・・その人間は世界を滅ぼそうとしてるんだよな」


「ええ、そう」


「その人間に勝てるのは・・・・・・・、アダムの魂よりも強い神様の魂の入った俺だけ、なんだよな」


「ええ、魔力を完全に使いこなせることができれば・・・・・・・だけどね」


「俺にしかできないことなんだよな」


「少なくとも、私たちにはできない。だから、あなたを呼んだの」


刹那は目を瞑り、頭の中を整理した。

今、自分の知らない世界で大変なことが起こっている。自分を殺すため、それだけのために人々の命を脅かす『罠』が仕掛けられている。自分のせいで、他の世界が滅茶苦茶になっている。原因は自分だ。自分がいるからだ。だったらその罠は、自分が取り除かなくてはならない。


さらに神と名乗っている人間は、全ての世界を滅ぼそうとしている。自分の世界はもちろん、レオ、リリア、レナの世界までも。そんなこと、させない。理由はどうであれ、世界を滅ぼしていいわけがない。

刹那はゆっくりと立ち上がった。オリアスは、刹那のまっすぐな目を見て言う。


「最後の質問です。『答え』を教えてください」


張り詰めた空気、真剣に見詰め合う二人。時間はゆっくりと流れていく。そして刹那はゆっくりと口を開き、自らの『答え』を示した。




「俺はやる。みんなの世界を壊すような真似は許さない。戦う、やってやる」




「刹那、お前・・・・・・」


「戦わないと、みんなのいる世界が壊される。俺そんなの嫌だからさ」


刹那は驚いているレオに笑いかけた。その表情は、まっすぐだった。嘘を言っていなかった。本心からの、笑いだった。


「だが!お前は家に帰りたかったんじゃなかったのか?戦いなんてない、平和な生活に戻りたかったんじゃないのか?」


「戻りたいさ。ただ、家に帰る前にやることができた。それだけだよ」


刹那の決意を聞いたレオは立ち上がり、オリアスにたずねた。


「どうしても、刹那じゃないとだめなのか?」


「勝つためには、ね」


「代わっては、やれないのか?」


「代わることなんてできない。でも、助けてあげることはできる。支えてあげることはできる」


「・・・・・・・・・・・・だったら俺が刹那を支えてやる」


「レオ?でも親父さん探さないといけないんだろ?」


レオは笑って刹那の肩をがしっ、と掴み、言った。


「いいんだ。そんなの世界を救ったあとにやればいい。お前一人でやらせるには不安なことだしな」


「私も刹那を支えることにする。もともと、そのためにいるようなものだしね」


レナも立ち上がり、微笑んで言った。それに便乗されたのか、リリアも立ち上がって、


「私も刹那さんを手伝うよ。怪我とかはしっかり治すから安心してね」


自分の意思表示をした。

3人は決して刹那の過酷な状況に同情して協力をすると言ったわけではない。ましてや世界を救い、英雄と崇められたいと思ったわけでもない。心から刹那を助けてやりたい、他人のことを思いやりすぎて自分が傷つくことを苦に思っていない刹那を守ってやりたい、と思ったからだ。

刹那は自分をここまで想ってくれている3人に心から感謝し、それを口に出した。


「・・・・・・・・ありがとう、みんな」


たった一言。考えればもっといい言葉も思いついたかもしれない、もっと気の利いた言葉が口に出せたかもしれない。でも、3人にはきっちり届いていた。刹那の気持ちが、たった一言でも確かに届いていた。


「よかったわね、支えてくれる人がいて」


オリアスはにっこりと微笑みを浮かべた。

はっきり言って、神を殺した人間を倒すということは刹那一人だけでは無理だ。なぜならば、今刹那の体に入っている魂の元の持ち主、神様でさえ敗れたのだ。世界を創造したという神様でさえも、だ。魂が転生したからといって、勝てるとは限らない。さらに、神を殺した人間には部下がいる。シャドウ、サラ、リバーの他にも数人いるに違いない。シャドウにしてみれば、殺されるところを見逃してもらっている。相当の実力の持ち主だ。一人では勝てない。一緒に戦ってくれる仲間が必要不可欠なのだ。

ここに来るまでに、こういう仲間が見つかって本当によかった。もしこの3人がいなかったら、刹那は再び一人で罠の張られた異世界を旅することになってしまう。


「それじゃ、付いてきて。『いいもの』あげるから」


微笑を崩さないまま、オリアスは本棚に近づき、さきほどゼールが移動する際に利用した本とは違う本を手に取った。赤い表紙の本をゆっくり開くと空間に穴が開き、ゲートが出来上がった。ためらうことなくオリアスはその中に入っていく。もちろん刹那たちもあとから続く。


「『いいもの』ってなんだろね、兄さん」


ゲートの途中でリリアがレオに話しかける。あごに手をやり、少し考えたあと結論を出す。


「・・・・・・・たぶん、これから役に立つものだろう。細かいところまではわからないな」


なるほど、と頷くリリア。


「いいものかぁ。なんだろうな、楽しみだ」


わくわくと胸を驚かせる刹那。そんな嬉しそうな刹那の顔を見て、ため息をつきながらレナは言った。


「呆れた。これから大変なことになるっていうのに、よくそんな楽しそうな顔できるね」


「だからこそだろ?楽しめるところで楽しんでおかないと。これから先何が起きるかわからないんだからさ」


「・・・・・・・・それもそうか」


レナはしばらく考え、そして納得したようだった。

光が見えてきた。そしてその光はだんだん強くなってきて、刹那たちの体を包み込んだ。


「ついたわよ。これが『いいもの』」


光が弱まってきて、目を開ける。そこには、


「・・・・・・・家だ」


「それに庭もある〜、すご〜い!」


大きく、立派な家が一軒建っていた。周りには庭もあり、所々に黄色い花が咲いて、気持ちよさそうに日光を浴びていた。庭の奥のほうには木々が並べられており、花の咲いている庭とは反対に涼しげな雰囲気を漂わせている。


「ここをあなたたちのベースキャンプとして活用してちょうだい。ここは異次元図書館からしかは入れないから敵がくることもない。異世界だといつ敵が襲ってくるかわからないからちょうどいいでしょ。結構創るの大変だったのよ、この世界」


「あんたたちが創ったのか?この、世界を?」


レオが不思議そうにたずねた。


「世界なんて立派なものじゃないわ。異次元図書館の空いている空間を利用しただけだからかなり狭いし、創るのにもかなりの時間がかかったしねぇ」


「・・・・・・・・でも立派なものだ」


「そう言ってもらえるとうれしいわ」


レオの言葉を嬉しそうに聞くオリアス。その二人の雰囲気をよく思わなかったリリアは、レオの腕をとって庭に走っていく。


「兄さんあっちに何かあるよ!見てこよ!」


「リリア、お前何あせってんだ?」


「いいから!」


「? ああ」


さすがのレオも、リリアの心境は読めなかったらしい。リリアに引きずられていくレオは不思議な顔をしていた。

その一連の流れを見ていたレナは、家に目をとられている刹那にたずねた。


「ねぇ刹那。リリアってレオのこと好きなの?」


「そりゃ兄妹だしな。嫌いだったらついて来ないだろ?」


「そうじゃなくて・・・・・・・・やっぱりいいや」


レナは本当に呆れたようにため息をついた。刹那はレナが何を言いたかったのか気になったが、深く追求しないようにした。

庭を走るようにレオを連れまわしているリリアを見ていたオリアスは、じっと家ばかり見つめている刹那とレナに話しかけた。


「あの二人は庭に行ったから、あなた達は中を見てきたらどう?気になるでしょ?」


「いいのか?」


「いいのかって、あなた達の家でしょ。いいも悪いもないわ」


「それもそうか。行こうレナ」


「うん」


その大きな家に向かい、扉を開ける。ガチャ、と音がし、刹那たちは足を踏み入れた。

家の中は外から見たよりもずっと広かった。中央に大きなテーブルが置いてあり、その奥はキッチンになっているようだった。その部屋の壁に8つのドアがついている。テーブルの置いてあるリビングを中心に、他の部屋が存在しているようだった。上を見上げてみると、ライトがついてあった。これで夜も明るくすることができる。


「刹那、このスイッチなんだろ?」


レナが壁にあるスイッチを興味深そうに見つめる。それが上にあるライトのスイッチだと思っていないみたいだ。

刹那がそのスイッチをパチン、といれる。するとやはり上にあるライトが明るくなり、日が指しこんできていない部屋を明るく照らした。


「あ、あれって光るんだ・・・・・・」


純粋に驚いているレナ。レナの世界にはこういう電気を使う技術がなかったのだろう。その姿があまりにも面白くて、


「ふ、ふふ、あははははは」


「な、なんで笑うの!」


「だって、レナがあまりにも面白いからつい、はははははは」


「も、もう・・・・・・・・」


レナは笑う刹那を置いて家の外に出た。すねていたのだろう、頬をすこしふくらませていた。

刹那はライトのスイッチを切り、レナのあとを追いかけた。ガチャ、とドアを開けると、オリアスの近くにみんな集まっていた。あわてて刹那も駆け寄る。


「どうだった?この家、気に入ってくれた?」


オリアスが刹那に笑ってたずねる。刹那も笑顔でかえす。


「とても良い家だった。ありがたく使わせてもらうことにするよ」


うんうん、と満足気にうなずき、オリアスはローブに手をいれ、本を取り出した。ゆっくり開くと、オリアスの背後にゲートが出現する。


「今日はここで疲れを癒したほうがいいわ。明日からまた大変になるからね」


「ああ、わかった」


「あと、図書館に戻ってくるときはこの本を使ってね。わざわざ魔力を発動させるのも馬鹿らしいでしょ?」


言い残すと、オリアスはゆっくりとゲートに入っていき、オリアスを迎え入れたそのゲートは何事もなかったように閉じた。

残された刹那たちは、これからどうするかを考えた。


「さて、これからどうする?」


「とりあえず腹減った」


刹那が勢い良く言う。そういえば、とレオも腹をさする。


「とりあえずは飯か。いったん家に入ろう」


一同は家の中に向かい、食事をとることにした。オリアスがくれた家まで足を運び、最初に見た大きなテーブルのある部屋に到着する。


「さて、問題は誰が作るか、だな。誰がやる?」


「私やってみた〜い」


真っ先に手を上げたのがリリア。


「それじゃ私もやる。たまに自炊してたから、結構上手にできると思うよ」


次に手を上げたのがレナ。こうして料理係はあっけなく決まった。


「それじゃ頼むぞ」


「りょうか〜い」


「まかせて」


二人はキッチンに向かっていった。残された刹那とレオは出来上がる料理を楽しみにしながらいすに座り、ひたすら待つ。


「楽しみだなぁ〜。いったいどんな料理ができあがるんだろうな」


「そうだな・・・・・」


期待で胸を膨らませている刹那とは違い、レオはなにやら浮かない顔をしている。


「どうしたんだ?そんな顔してさ」


レオが言いにくそうに口を開く。


「俺とリリアは一応王子と王妃だっていうことは覚えてるよな?」


「うん。ちゃんと覚えてるよ」


「飯は当然担当の料理人がやるんだ。わざわざ俺たちに作らせるような真似はさせない」


刹那はレオの言っていることがよくわからないかった。否、わかろうとしなかった。






「あいつ、料理なんてできるはずがないんだよ。それどころか生まれて一回も料理道具なんて触ったこともないはずだ」






嫌な汗が毛穴から噴き出してくるのがわかった。まさか、とは思うが・・・・・・


「だ、大丈夫だろ?レナもついてるし、何とかなるよ」


「・・・・・・・・だといいんだがな」


まるで戦争に行く前の兵士を思わせる2人の絶望感はとてつもないものだった。刹那は全身から汗が吹き出ており、レオはかなり青ざめている。

そのときだった。異変が起きたのは。


「ちょ、ちょっとリリア、それ違う!!」


「え?」




ボン!!!




「おかしいなぁ。なんで爆発しちゃうんだろ。もう一回、えい!」




ボン!!!!!




「リリア!それじゃないよ!!」


「え?『これ』と『これ』混ぜるんじゃないの?」


「こ、こんなの混ぜてどうするの!こんなの混ぜたら危ないよ!」


「ふぇ?そうなんだ」


キッチンに置いてあるもので爆発させることができるリリアは、ある意味で天才かもしれない。それにしても大変なのはレナだ。料理に関してはまったくもって無知なリリアの面倒を見なくてはならない。無知どころか迷惑までかけているリリアを、だ。このままでは食事どころか、料理を口に運ぶ刹那とレオの身も危ない。


「・・・・・・・・・・・・・レオ」


「・・・・・・・・・・・・・なんだ?」


「・・・・・・・・・・・・・行こう」


「・・・・・・・・・・・・・わかった」


その後、リリアは刹那とレオによってキッチンを追い出されることになる。もちろんリリアがレオに、初めての料理を邪魔されたことに対しての八つ当たりをしたのは言うまでもない。

ちなみに、リリアが二回も爆発させたあの料理は、その後レナが必死で作り直し無事刹那たちの口に運ばれたらしい。



+++++



数時間前の食事が終わった頃、刹那はレナに剣を教えてくれるよう頼んでいた。これから強大な敵と戦うことになるのだから自分にも戦う術がほしい。だから頼む、と。レナも、自分の訓練にもなるから、と嫌がることなく引き受けた。

だがいきなり自分の武器で鍛錬するということは大変危険だとレナが判断したため、庭にあった木を切り、それを大剣、太刀に似せたものでやる、ということになった。これならば万が一頭や体にぶつかっても斬れることはない。絶対的な安全とまではいかないが、斬れる武器を使うよりははるかに安全だ。


「・・・・・・・・よし、できた!」


「こっちも出来上がり。じゃあやろっか」


「ああ、頼む」


出来上がった木製大剣を振りかぶり、刹那はレナにかかっていった。走るときの勢いをそのまま大剣に利用し、レナめがけて振り下ろす。しかしレナは慌てることなく木製太刀を使って受け流し、目標から外れた大剣はそのまま地面に埋まってしまう。引き抜こうと刹那が力を込めるが、重みと勢いが災いしたのかぬけない。

すっ、と木製太刀が刹那の首に向けられたところで、レナはため息を漏らした。


「あわてすぎだよ。そんな戦い方じゃ本当に死んじゃうよ?」


「う・・・・・・・・・・」


何も言えない刹那はゆっくりと木製大剣をぬき、レナの話に耳を傾けた。


「重さを利用して突っ込んでくるのはいいんだけど、状況を考えないとだめ。相手の体勢がしっかりしてたらあっさりと受け流されちゃうだけだもの。それと、自分から突っ込んでいくのは相手に隙があるときじゃないとだめ。わかった?」


「ああ。じゃあもう一回」


「うん」


そう言って二人は距離をとり、程よくなったところで互いに武器を構える。

刹那はレナの言いつけを守り、今度は自分からは突っ込まないようにした。剣の達人クラスの人間に隙があることは滅多にないからだ。

しばらくの沈黙。それを破ったのはレナだった。

たたた、と刹那めがけて走ってくる。刹那は迎えうつため手に握ってある木製大剣を横にし、防御体勢をとる。縦に切りかかられたらこのまま防御すればいいし、横に切りかかられたら縦に構えなおせばいい。簡単なことだ。

レナはそのまま縦に木製太刀を振るった。ガツッ、っという木独特の音が響き、しばらくそのままお互い硬直していた。


{よし、このまま押し返して・・・・・・}


刹那の頭の中に案が思い浮かんだ。レメンと戦ったときも、一度押し返して体勢の崩れたところを切りかかったらうまくいった、ということも同時に思い出した。

刹那は一度防御したまま身を後ろに引いた。こうすれば、レナの重心が刹那のほうにくるのでバランスが自動的に崩れる。そしてバランスの崩れた状態のレナを一気に押し返し、追撃の一撃となる縦一閃の木製大剣を・・・・・・・・・・


「うん、よくできたけど・・・・・・まだ甘いかな?」


あっさりと受け止められ、不意を突かれた刹那の頭にポコン、と太刀がぶつかる。


「いて!」


頭をおさえている刹那は涙を浮かべながら文句を言った。


「ちぇ・・・・・結構よかったかな、って思ってたのにあっさり止めやがって・・・・・・・」


「あそこは斬るよりも突いたほうがよかったかな?突きは受け止められにくいから追撃には適してるの」


そこまで言うと、レナの顔が少し悪戯な表情をして刹那に言った。


「まぁ、あそこで突きがきても受け止めたろうけどね」


「なにを〜。もう一回だ!!次こそは!!」


「いいよ」


二人の鍛錬を、家の壁に寄りかかってのんびりと見ている二人。レオとリリアだ。


「一生懸命だね〜、刹那さん」


「ああ。そりゃ自分で言い出したことだしな」


「それもそっか」


目をレオから刹那たちに移す。今ちょうど、打ち合っているところだ。一回、二回、三回目でレナが足で刹那の足をすくい、支えを崩された刹那は仰向けに倒れてしまった。レナが刹那を見て笑っているが、それでも懲りずに刹那は向かっていく。一生懸命やっている刹那には申し訳ないのだが、見ていておもしろい。

そういえば、とレオに話しかける。


「兄さん、おなか見せて」


「?何だ急に。俺の腹見てもいいことないぞ?」


「痛みがひどくなってきてるんでしょ。肉体強化で痛みを抑えてることなんて見てればわかるよ。あのときは少しごたごたしてたから止血で終わったけど、今なら大丈夫でしょ?」


「・・・・・・・・・頼む。実はだいぶつらい」


レメンから受けた傷は、痛みを増していた。なんとか肉体強化で痛みをごまかしていたが、さすがに限界がきたようだった。


「それじゃ中で治療するから入ろ」


「ああ」


リリアのあとに続き、レオも家の中に入る。テーブルのあるリビングにリリアが座って手招きをしたので、レオも近くに座った。


レオがゆっくりと服を脱ぐ。やはり、穴が開いていた。かなり大きいわけでもなかったが、小さいというわけでもない。大怪我には変わりなかった。


「・・・・・・・なんでもっと早く言わなかったの。」


「図書館のほうで色々説明とかあったしな。言わなかったんじゃなくて言えなかった。」


「ご飯の前でもよかったのに・・・・・・・」


呆れた、と言わんばかりの顔でリリアはレオの横のほうに移動し、腹のほうの穴と背中のほうの穴に手をやる。


「・・・・・・ッ!!」


「ごめんね、でもちょっと我慢して」


痛さに顔を歪めるレオに少し言葉をかける。

リリアの両手が淡い青い光で包まれ、ゆっくりと手を回すように動かす。レオも痛みがゆっくりと引いてきたのがわかった。

しばらく手をかざし、3分ほど経ったところで手を離す。腹に開いていた穴はすっかり塞がっていた。リリアは穴の跡をしばらくじぃ、と見つめ、立ち上がって言った


「ケアが必要だね。あと5回くらい・・・・・・・かな?」


「とりあえず塞がったからいい」


「だめだよ。しっかりやらなきゃ」


「わかったよ。よっと・・・・・・・」


立ち上がるレオ。痛みはなくなっていた。服を着て、刹那たちの鍛錬を見に外にへ出ようとしたそのとき、


「ねぇねぇ、兄さん」


「なんだ?」


レオの態度に、、リリアは頬を膨らませた。


「なんだ?じゃないよ〜!治してあげたんだからありがとうぐらい言ってよ〜!」


ここで素直にありがとう、と言えばよかったのだが、からかうことが好きなレオは、


「さてさて、『そんなこと』よりも刹那たちを見に行くかなっと。」


「『そんなこと』ってなによ〜〜!!!せっかく治してあげたのに〜〜〜!!!」


「うぐぐ、かなり腹が痛い・・・・・・・。誰かさんの下手な治療のせいで逆に苦しい・・・・・・」


「ひっど〜〜い!!なによそれ〜〜!!!」


リリアはわざとらしく腹をおさえるレオにかかっていった。

家の中からバタバタと騒がしい音。当然気になった刹那たちの鍛錬が中断されたのは言うまでもない。




++++++




夕食(もちろんレナが作ったもの)を食べ終えた4人は、部屋割りをすることにした。もう夜なので、あとは各自自分の部屋で時間を過ごそう、というレナの提案からだった。

部屋は、現在刹那たちがいるこのリビングを除いて8つある。しかし、部屋といってもベッドがついていて、ちゃんと落ち着けるという部屋は5つしかない。残りはシャワールームとトイレとなっているからだ。

もちろん人数分部屋があるし、部屋の造りも広さもそれほど変わりがないのだが、全員どこでもいい、という答えだったので決めるのに一苦労した。

そして現在、4人は自分の部屋に入り、それぞれ自由に過ごしている。


「広いな・・・・・・」


刹那は自分の部屋となった部屋の広さに驚いていた。自分の家の部屋と比べれば2倍はあるし、天井も高い。壁の色も白で統一され、明るい雰囲気を出している。

部屋の中央にはガラス製の丸いテーブルがあり、部屋の隅には棚がある。ベッドに備え付けられている小物入れの中には目覚まし時計があった。短針と長針のあるごく普通の時計だ。これで寝過ごすこともないだろう。

申し分ない広さと、色合い。自分の部屋にはもったいないな、と頭に浮かぶほどそれは見事なものだった。


「とう!!」


感動と興奮で胸がいっぱいになった刹那はベッドに飛び込んだ。ボフン、と音がし、ベッドに体が沈んでいった。とてもふかふかだった。

心地良いのでそのままごろごろしてみる。右にごろごろ、左にごろごろ。


「いって!!!」


見事に転げ落ちてしまった。無様である。

頭をさすりながらゆっくり立ち上がると、ちょうどノックの音が聞こえてきた。


「刹那さ〜ん、お風呂どうぞ〜」


「ああ、今行くよ」


リリアだった。おそらくもうみんなシャワーを浴びたのだろう。刹那は部屋を出てシャワールームに直行した。

ドアを開けてみると、洗濯機と洗面所があった。驚いたことに、刹那の家で使用しているタイプのものだった。


{レオたちどう思ったかな・・・・・}


そんなことを思いながら服を脱ぎ、シャワールームに入る。誰かが使用したすぐあとだったので、まだ湯気がたっている。

キュ、と水栓をまわし、温かい湯で体を洗い流す。


「あ〜〜〜〜〜、生き返る〜〜〜〜」


疲れ、今までの汗。それらがそれだけ溜まっていたか、今刹那は実感していた。たぶん、これからは今までとは比べ物にならないくらい疲れが溜まっていくのだろう。簡単に予測できることだ。

目を閉じ、刹那はしばらく湯を浴びていた。



+++++



しばらくし、刹那はシャワールームを出て自分の部屋にもどった。体が温かいうちに眠ったほうが気持ち良いし、早く眠ることができる。

ベッドの近くにある目覚まし時計を手に取る。短針は10を指し、長針は34を指していた。後ろに手を伸ばし、アラーム時刻を7時にセットする。これでよし。

そのまま電気を消し、ベッドにもぐりこむ。ふかふかのベッドは刹那の体を癒し、そのまま夢の中へと誘う、はずだったのだが、









ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ!!!!!!!!









「うわ!!!なんだこれ!!!!」









異様にうるさい目覚まし時計のアラーム音とレオの大声が飛んできた。

何事かと思って刹那はベッドを飛び出し、レオの部屋のドアを開けた。中には時計を怪しそうに見ているレオがいた。


「おお刹那!これなんとかしてくれ」


さっ、と刹那の目の前に目覚まし時計を差し出した。どうやらアラームセットがうまくできてないらしいかった。

刹那は時計のアラーム時刻を自分と同じ7時にセットし、レオに手渡した。


「これで朝にアラームが鳴るからもう大丈夫だよ」


「へぇ〜、便利なもんだな。刹那はこういうのを使ってたのか?」


「まぁそんな感じかな。ちゃんと決まった時間に起こしてもらってるよ。それじゃおやすみ」


「ああ、おやすみ」


そのままレオの部屋を出た。

今度こそ眠りにつこう。そう思って自分の部屋のドアに手をかけたどのときだった。









ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ!!!!!!!!









「ひゃ!な、なにこれ!!」









同じようなことが起こった。リリアの部屋からだ。たぶん、レオと同じことをやったのだろう。

リリアの部屋のドアをノックし、入る。そこには目覚まし時計をもってうろうろしているリリアの姿があった。


「あ!刹那さん!これ止めて〜!!」


レオ同様、さっ、と刹那の目の前に目覚まし時計を差し出した。レオと同じように7時にアラームをセットし、リリアに手渡す。

「明日にはアラームが鳴るからちゃんと起きろよ」


「うん。ありがと、刹那さん」


にっこり笑ったリリアのいる部屋をあとにし、『今度こそ』眠りにつこう、と決意したそのときだった。









ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ!!!!!!!!









「!? はっ!!!!」








ズバン!!!








レナの部屋から何かを斬る音がした。

あわててレナの部屋のドアをノックし中に入る。そこには、無残にも半分に切り捨てられた目覚まし時計と、神抜刀を手にしているレナがいた。


「あ、刹那。これ何?いきなり変な音がしたから斬っちゃったんだけど・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・」


呆れて物も言えなかった。レオやリリアのように驚くのならばまだわかるが、『音がしたから』というだけの理由で武器で切り捨てたのだ。


「・・・・・・・・・・・レナ、あのさ」


「ん?何?」


「・・・・・・・・・・・やっぱりいいや。お休み」


「?うん、おやすみ」


刹那は目覚まし時計のことを教えておこうと思ったが、レナが見事にぶっ壊してしまったので教えても意味がないと判断したのだ。

レナの部屋のドアを閉め、今度こそ刹那は眠りにつこうと自分の部屋に向かった。

やわらかなベッドの中に入り、そのまま目を瞑る。数秒とたたないうちに、刹那は夢の中へと入っていった。


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