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第32話 異次元図書館編1

現在刹那たちはゲートの中を移動していた。レオとリリアは刹那とレナよりも先に入ったため、少し前のほうにいる。たまに刹那の様子をちらっと見て確認してくるが、刹那は大丈夫、と手を振って伝えた。


「なんか、思ったより落ち込んでないね」


「え?」


不意にレナが刹那に声をかけた。

レナは命を奪ってまだ時間が浅いのに、刹那が落ち込んでないことを不思議に思っていた。普通ならば2日は自分の殻に閉じこもり、自分の精神をゆっくりと正常に戻すものなのに、刹那は違っていたからだ。


「普通の人だったら後悔とかして精神が沈んでるはずなんだけどね」


不思議そうに言い寄るレナ。刹那は笑って答えた。


「レメンのおかげだよ」


「?」


「聞こえたんだ。レメンの声が」


死んだ人間が喋れるわけがない。しかし、刹那が嘘を言っているとも考えづらい。嘘をついても意味がないし、第一目が嘘を言っていない。


「そう。レメンはなんて言ってたの?」


「ありがとう、って言ってたよ」


「そっか」


それを聞いて、疑問が解けた。同時に、レナもあのときの刹那のように笑った。

やがて光が見えてきた。次の世界だ。次の世界は、果たして・・・・・


刹那とレナを、光が包んだ。二人はまぶしさのあまり目を閉じる。だんだんと光が弱まってきたのを察した二人は目を開けた。


二人の目に入ってきたのは、無数の本棚だった。あたりの壁という壁は本で埋まっており、上を見上げてみれば、どこまで続いているのかわからないくらいに本棚が連なっている。


「何・・・・ここ?」


人の気配が感じられない。あるのは本棚による圧迫感だけだった。


「そういえば、レオとリリアはどこに行ったんだ?」


きょろきょろと辺りを見回してみる。しかし、レオとリリアの姿はどこにも見あたらない。襲ってきたのは不安だった。二人の姿が認知できない。どこに行ったのかわからない。


「探しにいこ。ここにいても仕方ないし・・・・・・・」


「いや、そこは動かないほ〜がいいと思うなぁ〜。かわいこちゃん」


後ろから声が聞こえてきた。レオの声では絶対無い。

ばっと振り向いてみる。そこには肩にかかる程度の緑色の髪と、レモンキャンディーのような薄い黄色の瞳をしている若い青年が立っていた。


「うかつに歩いちゃうと迷子になるよ〜。ここはとぉ〜っても広いからねぇ〜」


ふざけた口調だった。まるで町で女に声をかけている男のような、そんな口調。

青年はついてきて、と一言言って刹那とレナに背を向けて歩き出した。二人は顔を見合わせ、青年のあとをついていった。得体のしれないこの青年についていくのは危険なのだが、ここにいても仕方ないし、ここを知っていそうな雰囲気を出しているこの青年のあとをついていかなければ青年が言ったとおり迷子になってしまう。黙ってついていくしかなかった。


「すごい数の本でしょ。どれがどれだかわからないよね〜、これだけあればさ」


あははと笑いながら青年は言った。なんだかなぁ、と刹那の調子は狂ってしまうのだった。

しばらく本に囲まれた通路を歩いたあと、青年は本棚に納まっている1つの本に手を伸ばした。ゆっくりと本を開くと、ごごご、と聞きなれたあの音が聞こえてきた。


「ゲート!?」


「さ、入って入って。お仲間もお待ちかねだよ」


言われるままにゲートに入る。刹那とレナに続き、その青年もゲートに入った。


「なんで、本を開いただけでゲートが・・・・・・」


「まぁまぁ細かいことは気にしない気にしない♪」


楽しそうに言う青年。本当に調子が狂う。

今開けたゲートは、さっき通ってきたゲートと何一つ変わりがなかった。周りには七色の光、ふわふわ浮いているような感じ。まったく同じだった。

そして光が3人を包み、目をくらました。


「さ、ついたよ」


目を開けてみる。そこはさっきの本棚だらけの通路とは違う、広い部屋だった。ソファー、ガラスのテーブル、手頃な棚、それにぎっしりとつまった本棚が一つ。見回してみると、腕を組んでいるレオと、そわそわして落ち着きのないリリア、それに眼鏡をかけ、栗色の髪をした美女を見つけた。


「レオ!リリア!」


「来たな」


「刹那さん、レナさん。やっと来た」


そういって、二人は駆け寄ってきた。


「連れてきたよ」


「はい、ご苦労様」


そう言うと、その美女はこちらに歩み寄ってきて、刹那たちに笑いかけながら言った。


「ようこそ、『異次元図書館』に。私はここの図書館の管理人、名はオリアス」


「異次元、図書館?」


「そう、異次元図書館。存在するありとあらゆる次元の世界につながっている図書館よ。まぁ立ち話もなんだから、こっちに来て座ってちょうだい。話は長くなるだろうから」


刹那たちに言うと、オリアスは自分の机であろう場所に座った。その机の上はごちゃごちゃしており、彼女の性格がはっきりと現れていた。

刹那たちはその近くにあったソファーに座った。


「さて、まずは・・・・・・何が聞きたい?」


「なんで俺たちはここにいるんだ?」


間髪いれず、レオがオリアスに聞いた。それから説明か、とオリアスは苦笑いをした。


「私たちが来るように仕向けたから、よ」


「なぜ?」


「その子が必要だったから」


オリアスの指の先には、他でもない、刹那があった。


「え!?俺!?」


「なぜ刹那があんたらに必要なんだ?」


仰天している刹那を差し置き、レオはオリアスにたずねる。


「ここから少し話が長くなるから・・・・・・」


いったん話をきり、青年に目を向ける。青年は笑って言った。


「わかったよ、あいつも連れてくる」


「ええ、お願いね」


青年は本棚の一冊を手に取り、ゆっくりと開いた。するとやはりゲートが出てきて、青年はその中に入っていった。入った後のゲートはゆっくりと閉じ、床に落ちていた本は淡い光に包まれ空中に浮き、取り出した部分に再び収まった。

さて、というオリアスの声で、話は戻った。


「昔、ある異次元の世界の話。その世界には神様がいたわ」


「神様?」


思わずリリアが口を開いてしまう。オリアスは笑って頷いた。


「そう、世界を作った正真正銘全知全能の神様」


「馬鹿なことを言うな。そんなのいるわけないだろ」


レオが反論する。オリアスは困ったような顔をした。


「しょうがないでしょ。いたんだから」


「・・・・・・・それで、なんでその全知全能の神様がその世界に降臨してるんだ」


レオはため息をついてオリアスにたずねた。ここで神の存在を否定しても意味がないと判断したのだろう。

レオの言葉が耳に入ったとたん、オリアスの雰囲気が変わった。さっきまでとは違う、張り詰めた表情。


「その世界は、昔神様を滅ぼそうとして戦いを挑んだ世界の一つだったからよ。もちろん、神様が勝ったけどね」


「一つ?他にも神を滅ぼそうとした世界が?」


「ええ。神を滅ぼそうとした世界は二つ。そのうちの一つよ。もう一つの世界のことはあとで説明するわ」


言った直後、オリアスはいすから立ち上がった。そして刹那たちの前に立ち、腕組をしたあと、話を始めた。


「その世界にいた神様は人間たちを見張っていたの。もう一度自分を倒しに来られたらたまらないからね。でも、神様は自分ひとりじゃ見張るのが大変だからって自分のほかに神を作ったの。創造の神『ガレス』、破壊の神『シヴァ』、死の神『タナトス』、生の神『ヒュプノス』、時の神『ゼール』。神様はそれぞれの神に『神器』を与え、人間たちを見張らせたの。神器はすさまじい破壊力をもっていたから、人間たちは好き勝手できずに自分たちの行動を抑えられるようになった。」


腕を組みなおして、話を続ける。


「人間たちは押さえつけられる、という行為に腹を立てて、もう一度神様に戦いを挑んだの。その戦いはこれにまでない壮絶なもので、何百年も続いたわ」


ん?と声をあげ、レオは疑問をぶつけた。


「おかしくないか?人間が創造主あいてに戦いを挑んでもすぐ敗北するはずだ。それが何百年も続くのか?」


その通りだった。創造主である神をあいてに何百年も戦いが続くわけがない。短期間のうちに勝敗は決まってしまうはずなのである。


「いいところに気がついたわね。なぜ圧倒的な力を持っていたはずの神々が苦戦を強いられてしまったのか。それはね、人間たちが神々の所持している神器を全て奪ったからなの」


「そんなことできるのか?」


レオが疑いの目でオリアスを見た。しかし、オリアスは平然と話しを進めた。


「できたのよ。人間たちは魔力を使ってなんとか神器を盗み出した。もちろん、神器一つを盗み出すのにたくさんの命が犠牲になったわ」


「・・・・・神器が人間の手に渡って、それから?」


眼鏡をくいっと直し、話を続ける。


「強力な武器を手に入れた人間たちの勢いは増し、形勢は逆転。人間たちは神々を何度も倒す一歩手前まで追い詰めたわ。強力な力を持っていた神々でも、地上の人間のほとんどを相手にして平気なほど強く作られていなかったからね。それでも、神々はいつもぎりぎりのところで逃げていたから、戦いは硬直。追い詰めては逃げられ、攻め込んでは撤退する、それの繰り返しだった。でもある日、その長い長い戦いは何の前触れもなく終わってしまったの」


「え?勝敗は?」


今度はレナが口を開き、オリアスにたずねた。


「人間の勝利。被害は神様と、時の神。どちらとも一人の人間によって殺されてしまったわ」


「「「「 !? 」」」」


4人は驚きで声がでなかった。

創造主ともあろうものが、たかが一人の人間によって負けてしまった。全てを創ったものが、人間というちっぽけな存在に倒されてしまったのだ。こんなことありえるわけがなかった。


「神様が最初に創った人間は誰だか知ってる?」


「ああ。アダムとイヴだろ」


「ええ、その通り。じゃあその二人は人間たちを引っ張っていくため、神様から膨大な量の魔力を授かった、っていうことは?」


「それも知ってる」


「話は少しずれちゃうけど、そもそも魔力って何だかわかる?」


「・・・・・・・・」


レオは答えることができなかった。今まで何気なく使ってきた魔力。その正体がなんだか見当もつかなかった。


「わからないわね?それじゃあ教えてあげる」


腕組みをやめ、笑いながらオリアスは魔力の正体をいう。


「まぁようするに、体を動かしている『魂』の力ね。神様が世界を作ることができたのも魂のおかげ。魂は体を動かしてる。だから魔力を使いすぎれば体が動かなくなる。全ての魔力を使ってしまえば心停止、脳停止、とか今ふつうに体の中で起こっていることが全て止まってしまうの」


オリアスの言ったことを4人は理解した。つまり、魔力は魂が持っている力のことなのである。魔力は体を動かしているため、全て使いきれば死に至る。

ふと、レナの頭にあることがよみがえった。自分の世界でサラと名乗っていた女から魔力を吸収され、体が動かなくなったときのことである。そのとき、サラがオリアスと同じようなことを言っていた。通りであのとき動かなくなったはずだ、とレナは苦笑いをした。


「もう一つ質問ね。死んだ人の魂はどこにいってどうなるか、わかる?」


「・・・・・・・わかんないよ」


リリアがぼそっ、とつぶやく。するとオリアスが笑いながらリリアの頭にポン、と手を置き、そのままわしわしと撫でた。


「ひゃっ!」


「うんうん、素直ね。それじゃ教えてあげる」


そういうとオリアスは手を引っ込め、再び腕組みをする。リリアはとっさにレオの腕にしがみついた。レオはまたか、と言ってため息をついた。


「死んだ人の魂は、冥界にいくの。そこで前に行った悪いこととかを総合的に死の神と生の神が判断し、新たな肉体に魂を宿らせる。つまり、魂は新しく作られるものじゃなくて、もともと存在する魂を繰り返し繰り返し使い続けてるの」


「それじゃ神様と時の神を殺した人間って・・・・・・・」


「ご察しの通りよ。アダムの強力な魂の入った人間、そいつが殺したの。人間たちの所持してる神器の半分を使ってね」


はぁ、とオリアスはため息をつき、話を続けた。


「そいつは強大な魔力を使い、まずは時の神を殺して『あるもの』を奪ってそのあとに神を殺したの。あまりの出来事に他の神々は対応しきれず、神様をみすみす殺させてしまった」


「・・・・・時の神から奪った『あるもの』って何だ?」


レオが聞くと、オリアスは困った顔をし、手を横に振って答えた。


「わからないのよ。細かいことまで師匠は教えてくれなかったからね」


オリアスの言った『師匠』という言葉が気になったが、今は後回しにすることにした。


「死にかけの神様は最後の力を振り絞り、その世界を崩壊させた。その世界の生きものは全て異世界に強制召喚され生き延びることができた、もちろん神々も他の世界に飛ばされたわ。でも、問題はそのあとに起きたの」


オリアスは刹那たち4人に背を向け、今起きている事実を話し始めた。


「神を殺した人間は自らを全知全能の神と名乗り、異次元の世界全てを崩壊させると宣言したらしいの。異世界に飛ばされる寸前に聞いたってガレスが言ってたから間違いはない」


話を聞いていたレオが口を開いた。


「人間が世界を滅ぼすっていうのか?」


「前代未聞よ。呆れてものも言えないわ」


はぁ〜、と深いため息をつき腕を組み替えた。


「それで、対応策はうってあるのか?」


「もちろんよ。私たちが戦っても勝てないのは目に見えてる。神様を殺したヤツだしね。だから私たちはある人物を探すことにしたの」


「ある人物?」


「そう。それが、刹那君」


「!?」


「最初にも言ったが、なぜ刹那なんだ?」


「魂は繰り返し利用されるって言ったわよね。神様の魂も例外じゃないわ」


「まさか、刹那の魂は・・・・・・・」


レオが恐る恐る聞く。オリアスはもったいぶらず、はっきりと伝えた。


「そう。刹那君の魂は世界の創造主、神様の魂」


それが耳に入ったとたんレオとレナは勢いよく立ち上がった。レオはホルスターに入っていた銃をオリアスに向けて構え、レナは神抜刀を抜き刹那をかばうように前に立ちふさがった。


「ふ、二人とも」


「レナさん!兄さん!やめなよ!」


「刹那をどうする気なんだ?答えろ!!」


怒りと銃を向けられたオリアスは別におびえた様子もなく、いたって普通にレオに伝えた。


「別に刹那君の魂を取ろうなんて考えてないわよ。怖いからその銃を下ろしてくれないかしら?」


レオはおとなしくと銃を下ろしたものの、銃をホルスターにしまわなかった。少なからずとも警戒しているのである。レナにしてみれば太刀をしまうそぶりも見せず、じっとオリアスをにらんでいた。


「レナ、前が見えない・・・・・・・」


「黙ってて」


どうやら、刹那の言うことを受け入れるつもりはないらしい。仲間を思う気持ちは大切なのだが、レナの場合行き過ぎている。


「だからそんなことしないって言ってるのに・・・・・。まぁいっか。これから説明するわね」


オリアスは困った顔をして説明を始めた。レオとレナに敵意を向けられたことが少しショックだったらしい。少し落ち込んだような声でゆっくり話し始める。


「簡単なことよ。刹那君がその人間を倒してくれればいいの」


「本気で言っているのか?」


「もちろん本気よ。今まで見た中で一番魂と肉体がなじんでるもの。報告によれば初めての世界でいきなり結晶を使ってたみたいだし」


「・・・・・なんでそのことを知ってるんだ?」


今まで黙っていた刹那が立ち上がり、口を開いた。顔が引きつっていて、驚きを隠せていなかった。

オリアスは刹那を見て言った。


「それはあの子たちが来てから説明・・・・・・・、って来たみたいね」


すると、ごごごという音が聞こえてきた。音のほうを向いてみるとゲートが開いており、最初にさきほどの青年が出てきて、そのあとに続いて刹那と同じくらいの年頃の頼りない男の子が出てきた。


「連れてきたよ」


「はい、ご苦労様」


「・・・・・・? 刹那、どうした?」


レオが急に立ち上がった刹那に声をかけたが、刹那の耳にはは入っていない様子だった。刹那は青年の連れてきたその男の子のほうにゆっくりと向かっていった。頼りない顔をした男の子。最初の世界で世話になり、そしてその世界の村を焼き尽くしていた怪物を倒すのに協力してくれたことをよく覚えている。

その男の子は笑って近寄ってくる刹那の手をとった。


「刹那さん、あれから大丈夫でしたか?」


その男の子の名を、嬉しさのあまり叫んでしまった。


「ダン!!!!」


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