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第30話 不死編5

話は終わり、男は口を閉ざしたままだった。刹那とレオとレナも何を言ったらいいのかわからず、じっとしたままだった。リリアに限ってはレオにしがみついている。話を聞いたときに相当なショックを受けたようだった。


「夕食の用意ができましたよ〜」


その場の空気を変える声が聞こえてきた。女性はお盆の上に料理の持った皿をのせ、こちらにやってきた。卵を使った料理なのか、黄色いふわふわしてそうなものと、なにかの野菜を炒めたものが湯気を出していて、刹那たちの空腹感を増させた。

一人ずつ目の前にフォークと皿が置かれた。少しずつとって食べる方式らしい。


「食事の前にいやな話をして申し訳ないな」


「いや、むしろ話づらかったことをわざわざ話してくれて感謝している。リリア、食べづらい」


「うん・・・・・・」


レオが言いかけると、リリアはつかんでいたレオの腕をしぶしぶ放した。それを見計らった男性は、食事の前の言葉を言う。


「では、いただきます」


「「いただきます」」


こうして食事は始まった。食事中、場が暗かったのは言うまでもない。




++++++




食事が終わったあと、刹那達は部屋に案内された。さすがに男女が同じ部屋で寝るのはまずいと思ったのか、男性はわざわざ二部屋も刹那達に与えてくれた。今は今後どうするかを話し合うため男部屋に全員集まっている。リリアはベッドに座っている刹那の肩に、青い光を纏った手を当てていた。ケアである。

レオは腕を組みながら、一人悩んでいた。


{こうなった以上、もはや仕方ない、か}


レメンを撃破する考えは浮かんだものの、どうもやりたくはない。だが、この先に進むためにはやるしかない。刹那を刹那の世界に帰すためにも、自分の父を探すためにも、ここで立ち止まってなどいられない。なんとしてもやらねならない。


「はい、終わったよ。刹那さん、動かしてみて」


リリアのケアが終わり、刹那に動かしてみるように言う。言われた通り刹那は腕を動かしてみる。なんともない、痛むどころか斬られた前よりも調子がいいようだった。


「うん、大丈夫だ。ありがとう」


「どういたしまして。これからは気をつけてくださいね」


ケアがうまくいき、リリアはほっとしたようだった。腕をぶんぶん振り回している刹那はそういえば、とレナに聞く。


「そういえばさ、なんであの時痛みが和らいだんだ?ほとんど痛みなんて感じなかったけど」


言うのを忘れてたね、と言い、レナは説明を始める。


「魔力を活性化させると肉体が強化されるってことは・・・・・?」


「それなら既に教えてある」


「ならこの説明は省くね。それじゃあ、刹那は刃物で手のひらを切ったら死ぬ?」


いきなり大げさなことを言う。


「まさか。手のひらを切ったくらいじゃ死なないよ」


「なら同じ傷を小さい動物、例えば虫とかに与えたらどうなる?」


「・・・・・・・・・・死ぬかもしれない。それってまさか・・・・・」


満足そうに笑ってレナは答えた。


「そう。肉体の強化をしてなかった刹那には致命傷だったかもしれないけど、魔力を一点集中させたことで部分だけの強化を行ったから、たいした痛みにならなかったってこと」


「つまり、ねずみの受けた重傷は象にしてみればかすり傷に等しいってわけか」


「まぁそういうこと」


疑問が晴れた刹那は、難しい問題をやっと解いた子供のようにうれしがっていた。望んでいた知識が増えるとうれしいものだ。レナはそんな刹那を見て笑っていた。

説明が終わり一段落したところで、レオはベッドに腰をかけ話を始めた。


「明日は、レメンを殺すつもりでいかないといけない」


「え!?そんな!それじゃレメンが!」


いきなりのレオの言葉に刹那が血相を抱えて反対する。やはり、刹那は人の命を奪うという行為をかなり反対している。


「私はレオの意見に賛成。今日は本気で斬りにいかなかったけど、たぶん本気でいっても倒せないと思う」


「レナ!!」


「あくまで『つもり』。本当に殺すわけじゃないよ」


「でも!!」


「刹那、俺だってむやみに人は殺したくない。殺さずに済むんだったらそうしたい。だが、それが今日の結果だ。刹那の腕を斬りおとさせてしまうことになってしまった。俺の甘い考えがお前を傷つけてしまった」


「それは違うだろレオ!あれは俺の不注意でなったことじゃないか!レオのせいなんかじゃない!!」


「いずれにせよ、次の世界に行くためにはどうしてもあそこを通らなければならない。あいつの視界に入らず、ゲートを開き、進む。戦いながらの同時進行じゃ無理だ。あいつはたぶん一定以上のダメージを与えれば動けなくなる。その間に行けばなんとかなる。俺とレナで一気にダメージを与えて動かなくなった瞬間に行くこと、いいな」


「・・・・・・・・・・でも」


仕方ないとはいえ、どうも納得がいかない。もしかしたら死んでしまうかもしれないのだ。そう思うと、どうも気が滅入ってしまう。

そんな刹那に、レオは気休めの言葉をかけてやる。もしかしたら、気休めにもならないかもしれないが・・・・・・・


「心配するな。あれだけやったのに生きてるんだから、たぶん大丈夫だ」


「・・・・・・・・・・・うん」

頭の中で本当にいいのか?ということを考えながら刹那は首をゆっくりと縦に振った。


「刹那さん、ちょっといい?」


話が終わったそのとき、リリアが刹那に言った。うん、と返事をして、刹那は部屋の外に出ようとするリリアのあとをついていった。

戸をを開け、廊下に出た刹那とリリアはお互い見合うような形で向き合っていた。


「兄さんのこと、わかってあげて」


「え?」


いきなりのことだったので、なんと返答していいかわからなかった。しかし、不意を突かれている刹那を構うことなくリリアは話を続ける。


「今回の刹那さんのこと、一番気にしてるの兄さんなの」


「でも、あれは俺の不注意で・・・・・・・」


「そうかもしれないけど、私からもあれは兄さんの判断ミスに見えた。倒したって思ったから出てきていい、って言った。けど、まだ倒れてはいなかった。そのせいで刹那さんは傷ついた」


「レオは悪くない。悪いのは俺だよ」


「私が言いたいのは、兄さんのつらさをわかってあげて欲しいってこと。あれは刹那さんのせいかもしれないけど、兄さんはそれを認めない。だから兄さんは責任を自分ひとりのせいにしちゃう。兄さんの悪い癖なんだよね」


刹那は何も言い返すことができなかった。リリアはなにやら難しい顔をしている刹那に笑いかけた。


「難しく考えなくていいんです。単に兄さんはそういう性格だって理解してあげてほしいだけですから」


「わかった」


そう一言言うと、先ほどの難しい顔はどこに行ったのか、笑ってつぶやいた。


「レオ、ちゃんと俺たちのこと考えてるんだな。」


「そうですよ。変に難しく考える人なんです」


あはは、と刹那は笑った。つられてリリアも笑い、二人の笑い声につられてレオとレナが廊下にやってきた。


「おいおい、夜中だぞ。笑うのもいいけど、声を小さくしろよ」


「ごめんごめん」


ふぅ、とレオがため息をつき、もう遅いな、と呟いて会議はお開きになった。


「さて、そろそろ寝るか。ほら、部屋にもどれ」


「うん、それじゃおやすみ」


「おやすみ〜、刹那さん、兄さん」


「ああ、おやすみ」


レオの言葉で会議は終了し、レナとリリアの二人は部屋に帰っていった。レオも明日は早く出る、と刹那に言ったので、今日はもう寝るらしい。

備え付けのベッドにそれぞれもぐりこみ、レオが明かりを消すと、部屋の中は真っ暗になった。だんだん時間が経つにつれ目が慣れてきて、月の明かりが窓からさしこんで暗い部屋を明るく照らしていたのに気がついた。


「なぁ、レオ」


「なんだ?」


刹那に声をかけられ、レオは返事をする。刹那の声はさっき笑っていた声よりも細く、弱い声だった。

話しかけた刹那はすぐには話さず、少し間をおいてからレオに話しかけた。


「レメン・・・・・かわいそうだよな。今まで誰からもかまってもらえなかったんだろ?」


「ああ。話からはそう聞き取れる。おそらく、変な体になったせいで怖がって近寄れなかったんだろうな」


「ずっと・・・・・・ずっと化け物だって言われ続けたのに、それでも一人で生きてきたんだよな」


「たぶんな。ずっと一人だったんだろうな」


「死のう、って考えなかったのかな?」


「わからないな。だが、死のうとしたんだったら生きてるはずがないだろ」


「レオは、レメンのこと、かわいそうだって思うか?」


「・・・・・・・・・・・」


レオは刹那の問いに答えることができなかった。頭の中では孤独に生きてきたレメンのことを哀れに思ったが、口には出せなかった。口に出してしまうと、戦うときに躊躇してしまうかもしれないから。


「刹那、もう寝よう。明日は早い」


「うん、ごめん。変なこと言って」


「いや、いい。今度こそ、おやすみ」


「ああ、おやすみ」


こうして二人は眠りについた。

明日、どうなるのかはこの時点では誰にもわからない。

誰が傷つき、そして誰が傷つけるのかは、神でさえ、わからない。




+++++++




翌朝、刹那は目が覚めた。レオに起こされることもなく、一人で起きることができた。

むくり、と起き上がり、隣のベッドを見てみるとレオはいなかった。う〜んと伸びをしたあとベッドから降り、そのままドアを開けて下の階に下りていった。


「あ、刹那さんが起きた」


一番最初に気がついたのはリリアだった。階段をゆっくり降りてくる刹那は、むぅ、とむくれて言葉を放った。


「なんだよ。もうみんな起きてたのか」


「でもまだ朝食は食べてませんよ。行きましょう」


そう言うと、昨日夕食を食べた部屋のほうにたったと走っていってしまった。その後を刹那が追う。テーブルにはもう料理が置かれていて、いすにはもう全員腰をかけていた。


「なんだ、起きたのか。今のうちに食っちまおうと思ったのに」


レオがにひひ、と笑って刹那をからかう。昨日の真面目さは微塵もなかった。


「なんだよそれ。いくら俺の寝起き悪いからって、そりゃないだろ」


少しむくれた刹那は空いていた席に座った。クスクスと笑いながらリリアも席に着く。

全員そろったな、と言って、男性は食事の前の言葉を言う。


「それじゃ、いただきます」


「「いただきます」


朝食のときは昨日の暗さとは逆に、会話もはずみ、明るかった。




++++++




「そうか・・・・・・やはり行くのか」


「ええ。進むためにはあそこを通らなければなりませんから」


「・・・・・・・・・・・・わかった。くれぐれも、気をつけてな」


「色々ありがとうございました」


レオが男性との挨拶を済ませ、待っている刹那たちのほうに向かう。来た来た、と刹那が言うと、ふぅとため息をついてレオは刹那に言う。


「あのな、普通はみんなで挨拶するもんだろ」


「まぁ、いいじゃんか。ははは」


のんきなやつだ、と心の中でレオがあきれかえった。

これから刹那たちは、再びレメンの古家に向かおうとしている。人間離れした体を持ち、そのせいで村人たちから忌み嫌われてきた悲しい青年、レメンの住む家に。


男性の家を出るときに、打ち合わせは終わっていた。戦いは一瞬で終わるとレオは言っていた。なぜなら、初っ端っから本当に全力でかかっていくからだ。一定以上のダメージを食らわせれば動かなくなるのだから、全力でやればすぐに動かなくなる。これはレオに言われなくても刹那にも理解できた。レオとレナ(特にレナ)は戦闘に関してはかなり優れているということを刹那は知っているからだ。


4人はレメンの古家に歩き出した。一歩一歩進むごとに、なぜだかわからないが空気が重くなっていくのを感じた。それは刹那だけではなく、他の3人も同じだった。

古びた家が見えた。昨日ぶち破られたドアはいつの間にか直っていて、周りにあるはずの戦いの跡もなくなっていた。


「刹那、リリアを頼む」


こくりと頷いて、刹那はリリアと共に近くの茂みに隠れた。がさがさと入っていくのを見届けると、レオはチャ、と黒い神爆銃を構えた。ゆっくりと銃口を家の扉に向け、ゆっくりと引き金をひいた。ドンッ音が響き、弾丸が高速で飛んでき、そして、





ドオオオン!!





爆発が起こった。無防備で油断しているところを殺傷力の高い爆発で攻める。容赦がなかった。爆発で家の半分が吹き飛んで、残った部分は燃えていた。パチパチと音を出しながらだんだんと火は広がっていった。


{わかってる。あいつはこれくらいじゃ死なない。}


レオの思ったとおりだった。燃え盛る家の中から無数の触手が飛び出し、レオとレナのほうに向かってきた。まだレメンの姿は確認できていない。姿を家の中に隠して触手で攻めるという作戦だろうか。この作戦、一見良い考えのように思えるが、遠距離武器を持つ人間には実にあっけなく破られてしまうのだ。


触手はレメンの体から生えている。ということは伸びてきている場所を狙って撃てば、ほぼ確実レメンに被弾することになる。

するすると勢い良く伸びてきた触手をかわし、レオは右手に持っている銃をその触手の原点に向かって連射した。6回の発砲音のあとに銃弾が飛び出し、燃え盛る炎の中に向かっていった。

銃の中の弾が全てなくなったのがわかったレオは持ち手の部分をグッ、と握る。するとやはり光りを放ち、かちゃかちゃと弾が装填される音がした。


その瞬間だった。燃えている家の屋根を突き破り、レオとレナの前に着地したのだ。憎しみの目をし、右肩から下が触手を形成しているレメンであった。

レナがすっと紅の刀身、『神抜刀・炎』を抜き、レメンにかかっていった。


「よくも・・・・・・・・よくもこんな真似を・・・・・・・・・・・」


向かってくるレナを、レメンはただにらみつけていた。レナは構うことなくレメンの胴体に斬撃を加えた。一閃の炎の光を思わせるその太刀はレメンの体を切り裂き、倒れこんでしまうほどのダメージを与えた。

レナが後ろに跳び、間合いを取ったのを見計らったレオは容赦することなく装填されている弾丸を全てレメンに撃ち込んだ。当然よけることができないレメンはもろに弾を食らい、口から血を吐いてうつぶせに倒れてしまった。動かなくなる程度のダメージを与えたのだ。


「刹那ぁ!!!」


レオが叫んだのと同時に刹那とリリアは駆け出した。茂みから這い出し、刹那は懐から出した水晶から出ている光の指す家の中めがけて全速力で走った。

レオとレナは、レメンがいつ再び動き出すのかわからないのでいつでも攻撃できるようにレメンを見張っている。動き出したらその瞬間に再び攻撃を加える。えげつないが仕方がない。その隙に刹那はゲートを開け、次の世界に旅立つ。

レオの作戦は完璧だった。『ここまでは』。

刹那が家に入りこもうとしたその瞬間、


「え!?」


地面を突き破り、無数の触手が沸き出てきたのだ。すでに焼けてしまっているドアの代わりに、触手は刹那とリリアの進行を妨害した。家の中には入れさせない、まるでそんなことを言っているかのように。

家の中に入ることができなくなってしまった刹那とリリアは触手との距離をおき、レオにどうすればいいかアイコンタクトをとる。


しかし、レオもどうなっているのかわからなかった。最初に見たレメンは右肩から触手に変化していた。だが、その右肩の触手はピクリとも動いていないし、地面に刺さってもいない。ならば、刹那たちを妨害しているあの触手はどこから出ているのだろうか。

頭の中が混乱しているそのとき、レメンがむくりと立ち上がった。ダメージが回復してしまったのだ。

あわててレオは神爆銃を構える。しかし、撃つのを少しためらってしまった。


「何!?」


ためらったと言うよりも、レメンの姿に驚いて撃てなかった、と言ったほうが正しいか。

刹那たちを妨害した触手、それはレメンの腹の傷から生えていたのである。てっきり腕からしか触手を出さないものだと思い込んでいたレオは意表を突かれてしまった。


「なにボーっとしてるの!!」


レナが大声を張り上げ、まだ完全に起き上がっていないレメンに向かっていった。レメンは相変わらず恨みで満ちた目をしており、向かってくるレナをにらみつけた。

ひゅっ、と風を切る音が響き、紅い太刀が触手にはなっていない左腕の肘を切り落とした。血が噴き出しているが、レメンは気にしていない様子だった。レナはすぐさま距離をとり、レメンの次の攻撃に備えた。

やがて、レメンは完全に立ち上がった。最高潮の怒りと恨みを目に灯して。戦いはこれからだった。


{刹那とリリアを戻すのはもう無理だな}


レメンが立ち上がってしまったので、刹那たちはもうさっきの茂みには戻れなくなってしまった。うかつにレメンの近くを通ると攻撃される恐れがあったからだ。

こうなってしまえば、もう一度ダウンさせるしかない。幸いレメンは自分たちのほうにターゲットを絞っている。少なくとも刹那たちが攻撃されることはない。


そうとなれば急いで済ませなくてはならない。チャ、と神爆銃を構え、レメンに向かって発砲する。弾丸はグングンレメンに飛んでいき、レメンの胴体に命中した。

胴体に弾丸が当たったその瞬間、レメンの右の触手が始動し始めた。まるで蛇のように近寄ってきたかと思うと、いきなり先が尖り、高速で向かってきたのだ。

前から来る槍の雨、かわすには跳ぶしかない。レオとレナは上に高く跳び、向かってくる槍の雨を回避した。だが、


「レオ!!!!!」


刹那が声を張り上げている。槍の触手はかわしたし、追撃の触手も来ていない。ならば何なのだろうか?辺りを見下ろしてみる。

燃えている家、そのすぐそばにいる刹那とリリア、そして肘から先がない腕を『こちらに向けている』レメン。


{まずい!!!}


最初にレメンの古家にむかったとき、出会い頭に強力なビームでドアをぶち破ったのは他でもない、このレメンだ。

いやな汗がレオの体中から噴き出した。今は空中にいるため身動きが取れない。そして、レメンは腕をこちらに向けている。

キーン、と前にも聞いたような音が響き、レメンの向けている腕に光が集まった。そして、






ドォーーン!!!!






あのときと同じビームが放たれた。ビームはやはりレナではなく、まっすぐレオのほうに向かってきた。


「っちぃ!!!!」


レオは左手で腰のホルスターからもう一つの銃を取り出した。『神爆銃・光』である。『闇』の美しい黒とは逆の、太陽の光を受け、神秘的に光を反射している白。

チャ、と白い銃を構え、向かってくるビームに向かって引き金を引く。シャドウの腕を奪ったあの『弾丸』が、放たれた。文字通りの轟音と共に白い銃から巨大なビームが出た。そう、あのとき城の壁に巨大な穴を開け、シャドウの腕を奪った弾の正体はこの巨大なビームだったのだ。

レオの『アルテマ』はレメンの腕から出たビームをあっさりと飲み込み、そのままレメンのほうに向かっていった。

向かってくるアルテマに危機感を感じたレメンは横に跳び、ぎりぎりのところでアルテマの直撃を回避した。だが、レオの強力すぎるアルテマは地面をえぐり、激しい爆風を巻き起こし、レメンを巻き込んだ。

レオとレナはそのまま着地した。地面の表面の砂が舞い上がり、視界が悪くなっている。レメンはおろか、刹那とリリアの姿も認識できない。


{まぁ、刹那がうまく誘導してくれただろう}


そんなことを思いつつ、これからどうでるか。レオはそれを考えなくてはいけなかった。こう視界が悪くては、銃を撃っても無駄だ。かといってこのまま黙ってここにいるわけにもいかない。一体どうすれば―――――――


「が!!!???」


何の前触れもなく腹部に痛みが走った。見てみると、槍のように尖っている触手が貫通していた。その触手はぐねぐね動き貫通した傷口を散々広げたあと、あっけなくレオの体からぬけた。

肉体強化しているおかげでのた打ち回るほどの痛みはなかったが、それでも膝をついてしまうほどの痛みは残ってしまった。


{馬鹿な・・・・・・・・・・視界が悪くて俺の姿なんて見えるはずが・・・・・・・・・}


ふと、自らを貫いた触手を見てみる。


「なっ!?」


触手の一つに目があったのだ。こちらをじっと見つめ、傷ついたのを確認するとゆっくり目を閉じ、最初から目なんてなかったかのようになくなってしまった。


{くそったれ・・・・・・そんなことまでできんのかよ・・・・・・・}


「レオ?これからどうするの?」


不意にレナの声が聞こえてきた。まだレナのほうに触手は行っていないようだった。いくら触手に目がついていたとしても、近くにターゲットがなければ意味がないようだった。

だんだん舞い上がった砂が落ち着き、周りの様子も見えてきた。きょろきょろとレオを探しているレナは、血まみれで腹を押さえているレオを見つけた。


「レオ!!」


慌ててレナは近寄る。が、そのレオの近くにはさきほどの触手がまだうごめいている。しゅるしゅると自分のほうに伸びてきた触手に気がついたレナは触手を出している張本人のレメン目掛けて特攻する。

視界が回復し、ターゲットに狙いがついたのはレナだけではなかった。レメンは特攻してくるレナに向けてあのビームを再び放った。


「!?」


とっさに踏みとどまり、神抜刀を地面に突き刺して魔力を込める。すると、レナの周りに薄い紅色の炎壁が出来上がり、レメンのビームを防いだ。


レナの持つ神抜刀・炎は、持ち主の魔力を込めることにより、こめた分だけ炎が自在に使えるという能力を持っている。今行ったのは魔力による防壁である。他にもやろうと思えば自分の周り炎で包むということもできるし、炎で形成された巨剣を作ることも可能だが、今はそんなに時間がない。魔力を込めるにしても時間がかかるのだ。防壁は使う魔力も少ないため、短時間で作ることができた。逆に回りを炎で包むなどということは時間が1分弱もかかってしまう。

レメンのビームを防ぎきったレナは再度レメンに特攻する。もうそんなに距離は遠くない。す、とレメンは今一度レナのほうに向かって腕を構えた。もう一度ビームを放つ気だ。


さすがに二回目は放つ前の動作などもわかってくる。レナは二つ見抜けた。一つ目は放ってくる腕の切り口をこちらに向けていなければならないこと。もう一つは放つ前のほんのわずかな時間に腕が光るということ。


レメンがビームを放ったのはレナが空高く跳んだあとだった。レメンのビームは連続しては撃てない。時間がかかるのだ。だから一度かわしてしまえばあとはこっちのもの。二回目を放つときにはレメンを斬れる射程までたどり着いている。


レメンが自分のもとに降りてくるレナにビームを撃とうとするが間に合わない。落下の威力を利用し、レナの神抜刀はレメンの右肩を切り落とした。もう容赦はしない。チャ、と握りなおすと目にも止まらぬ速さでレメンの胴体を切り裂いた。たまらずレメンは倒れる。ここまでは今までと同じ、違うのはここから。

す、と神抜刀を振り上げ、レメンの首を狙い定めた。殺すつもりはなかったが、今回はやむを得ない、レナの神抜刀はレメンの首目掛けて振り下ろされた。そのときだった。


「!?」


足に違和感を感じ、体全体のバランスが崩れてしまった。背中から倒れてしまったレナは違和感のあった足を見てみる。触手がまとわりついていたのだ。


{そんな!?まだ動けたの!?}


慌てて触手を切断しようとするがもう遅かった。レメンはがばっと立ち上がり、レナの足に絡まっている触手を使ってレナを空中に投げた。別に投げられたこと自体はダメージとまではいかなかったし、空中にいる間も追撃はされなかった。だが、触手に絡めとられた足がかなり痛む。肉体強化をしていてもだ。おそらくつかまったときに恐ろしい圧力をかけられ骨折してしまったのだろう。


「う・・・・・・・・」


足は体を支えている部分の一つである。その足の片方が損傷してしまった今、レナには反撃はおろか逃げることすらできなかった。

レメンは近寄ってくる。とどめをさすために、ゆっくりと。


{まさか・・・・・ここまでやるなんて・・・・・・思わなかった・・・・・}


絶望が顔に浮かんでいるレナ。重傷を負っているレオ。その一連の流れを見ていた刹那は体から黒い霧を出し、大剣を形成した。


「刹那さん!?」


「リリア、俺がなんとかひきつけるからレオ達を安全なところに」


「でも!!兄さんだって、レナさんだってやられちゃったんだよ?勝てないよ!!」


リリアが必死になってとめる。

確かに、戦闘能力が優れているレオとレナがやられてしまったのだ。それなのに、戦いに関しては素人の刹那がレメンに打ち勝つなど無可能だった。無謀、自殺行為、それらに等しかった。だが、


「ここで俺が出ないと、レオとレナは絶対殺される。仲間が死ぬところを、俺は見たくない!!」


レメンが二人に近づいていく。もう時間がない。


「やるしかない。俺がやらないといけないんだ。リリア、頼む」


刹那がこんなに必死になっているところを、リリアは見たことがなかった。確かにこのままだとレオとレナの二人は確実に殺される。だが、刹那がほんの少しの時間を稼いでくれれば、二人を安全なところに避難させることができるかもしれない。


「うん!わかった!刹那さんお願い!」


「ああ、わかった。やってやるさ!」


刹那のこの戦いは、異世界で最初の山場となった。


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