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第28話 不死編3

「え!?」


レオの叫び声で刹那は青年の攻撃に気がつき、間一髪で即死はさけることができた。が、その瞬間肩に冷たい感覚が走った。この感覚が何を意味するのか、またそれを理解するのに少々時間がかかった。そして目の前の光景がやっと飲み込めた瞬間、激しい痛みが刹那に襲い掛かってきた。


「うぐぅああああああああ!!」


右腕が肩からザッパリと斬りおとされてしまった。激しく流血し、刹那はこれまでにない猛烈な痛みと驚きで地面に倒れ伏してしまった。残った左腕で裂傷部分を押さえるものの、指と指の間から血が流れ出て止血することができない。目の前が暗くなっていき、息も苦しくなり、そして痛みによる絶望を味わっていた。


「が、は・・・・・、ぐうぅああ、あ・・・・・は、あが・・・・・・・・」


苦しいのは呼吸がうまくできないからだった。す、っとすぐに吸い、は、とすぐに吐いてしまい、まともな呼吸ができない。痛みによる呼吸混乱である。このままでは危ない。


「一旦撤退だ!!急げ!!」


このまま戦っていれば手負いの刹那が狙われる可能性がある。刹那の手当てにリリア、その援護にレオかレナのどちらかがつく。そうなると、この化け物を一人で相手しなければならない。


並外れた再生力を持つこの青年に勝つ方法はまだ見つけてないうえ、二人で攻撃してもすぐ回復してしまうのだ。一人で戦うには不利な点が多すぎる。一旦退却するのが得策だった。

レオは刹那の体を持ち上げ、そのまま青年に背を向けて走り出した。


「レナ!!リリアを!!」


声を上げる前にレナは神抜刀を鞘に収め、リリアと刹那の斬られた腕を抱えて逃走を計っていた。

しかし、青年は逃がすまいと触手を伸ばしてきた。レオとレナは身体能力を強化してはいるものの、わずかに触手の速度に及ばない。するするともうそこまで迫ってきた。


「ちぃ!」


ちゃ、とレオは持っていた銃を構え、入っている弾を全て触手めがけて乱射した。弾は全て触手に当たるが、スピードは落ちるどころか逆に上がってきた。

引き金に指をやるがカチッという音しか返ってこない。弾切れだ。

舌打ちをし、レオは銃のグリップをぐっと握った。するとレオの手が光り、カチャカチャとなにかの音がした。

レオは再び銃口を触手に向けた。もうレナと触手の距離はほとんどない。ぐっと引き金を引き、発砲音のあとに銃の中には入っていないはずの弾が触手めがけて飛んでいき、その弾が当たった瞬間、




ボォオオオン!!




小規模な爆発が起こり、触手は爆風で焼け焦げたり引きちぎれたりしていた。動かなくなった触手、そのチャンスを逃すわけにはいかない。今だ、とレオとレナはさらに速度を上げた。しばらく走り、後ろを向いて確認してみるが触手は追ってこないようだった。

4人の後ろ姿を見ながら、青年は持っていた剣を形成した腕で肩から生えている触手を切りおとし、そのままその腕をくっつけた。腕の切り口と肩の切り口はお互いの細胞を確かめ合うようにして交わり、数秒とたたないうちにくっついてしまった。腕も、剣の形からゆっくりと腕の形に戻り、戦闘の前の状態にもどった。


「・・・・・・・・・・・・・」


青年は4人の行ったほうをしばらく見つめ、そのあとゆっくりと家の中に戻っていった。何事もなかったかのように、平然と。




++++++




「うぅぐ!!・・・・・・・がぁ・・・・は・・・・・・・」


「刹那さん!!しっかりして!!!」


青年の触手を振り切ったあと、一向は刹那の手当てをするために近くの茂みに入った。出血の量がひどいので村に帰っている時間はなかった。茂みに入ったのも、万が一触手がきたときにやり過ごせるかもしれないからだった。

リリアは落ち着かせるために必死に声をかけるが、痛みのせいで我を失っている刹那の耳には入らなかった。右腕の傷を残った左手で必死に抑え、額には脂汗が浮かび、苦痛に顔をゆがめている刹那を見て、レオは悔しさと罪悪感でいっぱいだった。


「くそったれ!!」


悔しさを壊すように思い切り近くの木を殴る。しかし心の中のその感情は消えず、拳を意味もなく痛めただけだった。なぜもっと早く気がつかなかった。並外れた再生力を持っていたのはわかっていたのに油断をしてしまった。そのせいで刹那が傷ついたのだ。自分の浅はかさにいらだちを感じた。


「リリア、治りそう?」


「治すよりも刹那さんを落ち着かせないと。このままじゃ心拍数が上がって出血がひどくなっちゃう。どうしよう・・・・・・・・」


レナは心配そうに刹那の容態をリリアに聞くが、声の届かない刹那にリリアも動揺しているようだった。けが人を治したことは何度もあるが、こんなに取り乱している患者に立ち会ったことがないのでどう対処していいかわからないのだ。

困っているリリアを見て、レナも刹那に近寄った。肝心の刹那にはレナの姿がまるで見えておらず、ただただ痛みに耐えていた。

レナは刹那の肩をつかみ、ゆっくりと刹那に話しかけた。


「刹那、深呼吸しよう。ゆっくり吸って、吐く。ほら、繰り返して。吸って、吐いて」


かすかだが刹那にレナの声が聞こえ、自らの呼吸を正すように深呼吸をした。


「は・・・・・・・・、はぁ・・・・・・・・すぅ・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・・・・・」


「うん、その調子。吸って、吐いて。吸って、吐いて」


呼吸の乱れが少しずつ収まってきた。その間にレナは右手を刹那の傷口にかざした。すると、レナの右手が淡い青色の光を帯び、刹那の左手からとめどなく溢れている血が止まったのだ。魔力による止血だった。


「すぅ・・・・・はぁ・・・・・・・・・・すぅー・・・・・・はぁー」


「呼吸が落ち着いてきたね。刹那、体の魔力を傷のほうに持ってこれる?」


呼吸が落ち着き、自然と心のほうも落ち着いたようだった。しかし、一向に腕の痛みはひかず、痛みに顔をゆがめていた。


魔力を傷のほうに持っていく。どういうことなのだろうか?それは刹那やレオで言えば結晶形成するとき、リリアやレナで言えば肉体の回復のときに魔力を集中させるという意味、つまり傷のほうに魔力を集中させるということなのだ。

結晶のときに魔力を集中させるということを体で理解していた刹那は、レナの言われた通り体から黒い霧状の魔力を出し、それを傷のほうに移動させた。黒い霧状の魔力は傷に染み込んでいき、その全て傷に入ったその瞬間、刹那は異変に気がついた。


「・・・・・・・・あれ?痛みが・・・・・・」


「和らいだでしょ?」


「でもなんで・・・・・・・」


笑ってレナは答えた。


「今は腕をくっつけるのが先。リリア、抑えてて。」


動揺している刹那をたやすく落ち着かせるという行為に、リリアは驚かずにはいられなかった。自分ができなかったことをいとも簡単にやったのだから当たり前なのだが。


「あ、うん。わかった」


レナの言葉ではっと気がついたリリアは、刹那の斬られた腕の切り口と肩の切り口をくっつけた。傷口に当てられたのだからもちろん痛いはずなのだが、どういうわけか刹那はあまり痛みを感じなかった。

レナは両手を刹那の腕と肩の切断部分に当てた。やさしい青い光が出て、刹那は残っていたわずかな痛みが徐々に消えていくのを感じていた。ふと切断部分を見てみると、驚いたことにどんどん回復しているのだ。骨が接着し、筋肉がつながり、皮膚がその筋肉を覆い隠した。


「はい、おしまい。動かしてみて」


レナに言われてさっそく動かしてみる。あまり力が入らないがちゃんと指先まで動く。刹那は心底から驚いた。切断された腕がつながり、そして動かすことができる。それもほんの一分程度でだ。自分の世界の医学では到底不可能なことだった。


「どう?」


「少し力が入りにくいけど、大丈夫だ。痛みはない」


「まだ神経系のほうまで回復してないみたいですね。あとでちゃんとケアしますから安心してください」


リリアがほっとため息をついた。いや、リリアだけでなくレオもレナも一安心したようだった。


「刹那、すまない。俺が油断してなければこんなことには・・・・・・・」


謝るレオに、刹那は笑って返した。


「いや、レオが叫んでくれなかったら死んでたよ。頭めがけて振り下ろしてきたんだ。腕だけで済んでよかったよ。もう繋がったしな」


そう言って刹那は繋がったばかりの腕をぶんぶん振り回して見せた。が、


「ちょ、ちょっと刹那さん!!そんなことするとまたもげますよ!!」


リリアの口から洒落にならない言葉が飛んできた。せっかく繋がったのに、またもげるのはたまらない。ご、ごめん、と一言言って、刹那は腕を振り回すのをやめた。

さて、とレオが言った。腕組みをし、これからどうするかをみんなに聞かなくてはならない。


「これからどうするか、だな。村にいったん帰るか、それとももう一度あの化け物と戦うか」


その二択を聞いて、レナはすぐに自分の考えを口に出した。


「いったん村のほうに帰ったほうがいいと思う。今行ったって倒し方がはっきりしない以上戦っても無駄。それに刹那の腕のケアのこともあるから」


「うん。私もそれがいいと思う。それに村に行けばあの人のこと知ってる人もいるかもしれない」


「なるほどな。あとは刹那か。どうする?」


「俺も村のほうに行ったほうがいいと思う。なんであんな風になったのか、知ってる人がいればなんとかなるかもしれないし」


刹那もレナとリリアの考えと同じようだった。


「それじゃあいったん村のほうに帰還だな。行こう」


レオの言葉が耳に入ると4人は茂みから出て、村のほうに向かった。そのとき刹那は、なぜかわからないが急に気になってあの青年のいる家のほうを見た。

しばらく見ているとレオに名前を呼ばれた。刹那は家のほうに背を向け、3人の方に走り出した。




++++++




4人は村に帰還し、今日の宿を探していた。いつの間にか日が沈みかけていた。普通は宿があるはずなのだが、こんなところに人が来るはずないと村の人が判断したのか、全くないのである。村の人に泊めてくれるように頼めばいいのだが、あいにく村人は一人も出ていない。理由はおそらくあの青年も恐怖感を覚えているせいだろう。いつここにやってくるのかわからないのだから。


心なしか刹那の顔色が少し青くなってきた。やはりあのとき血を流しすぎたのだ。3人は心配そうに刹那に大丈夫?と聞くが、刹那は大丈夫と明るく振舞っていた。本当はレオに宿を見つけるまで安静にしていろと言われたのだが、そんなの悪いと言ってきかないのだ。

影が長くなってきた。もう夜になる。急がなければならない。と、そのときだった。


「あ、あんたら無事だったのか!?」


後ろから驚いた声が飛んできた。振り向いてみると、あの青年の家に行く前に止めたあの中年の男性がいた。なにやら幽霊でも見ているかのように驚いている。


「悪いのだが、あの家の青年のことについて教えてもらいたいのだが」


男性はしばらく考えていたが、ふぅとため息をつき、


「お前さん方、今晩泊まるところは?」


「ない。悪ければ野宿だ」


「なら俺の家に来なさい。もう夜だ。話は俺の家でする」


ちょうど太陽が山に沈み、一気に暗くなった。着いてきなさい、と男性が歩き出したので、そのあとを追った。村中を歩いていると、各家がパッと明るくなり、その光で道が照らされて歩くのが楽になった。


「ここだ。入りなさい」


男性が開けたドアの家にも明かりはついていた。どうやら同棲しているらしい。男性がただいま、といって入るとお帰りなさいという声が飛んできた。声からして中年の女性のようだ。案の定出迎えてくれたのは予想通り、男性と同じくらいの年齢の女性だった。


「あら?あなた、そちらの方たちは?」


「『レメンの古家』から生きて帰ってきた人たちだ。」


「え!?レメンの!?」


「そうだ。今晩泊めることになった。夕食の準備を頼む」


こくりと頷き、女性はそのまま奥の部屋に入っていった。男性もその部屋に続いたので、刹那達もあとに続いて入っていった。その部屋には大きなテーブルがあり、人数よりも多い数のいすもあった。男性がそのいすに座り、立ち尽くしている4人に座りなさい、と言った。言われたとおり4人はいすに座った。男性の隣にレオ、その左隣からリリア、刹那、レナ、といった席順だった。

4人がいすに座ったのを確認すると、男性はなんの前触れもなしに口を開いた。


「君たちはあの家で何を見た?」


「青年だ。それも傷がすぐ再生するというおまけがついた、な」


「青年、か。あのときのままか・・・・・」


男性は両手に頭を乗せてうつむいた。この男性は何か知っている。レオは確信した。


「あの家は『レメンの古家』と呼ばれている。そこに立ち寄ったものはどんな人間でも殺された。本当に『どんな人間でも』だ。だからあの家に行って生きて帰ってきたのはお前さん達だけだ」


「・・・・・・・・とりあえず、こちらからも聞かせてもらう。あの青年は何者だ?」


レオの言葉に男性はすぐには答えることができなかった。まず、どこから話そうか。迷った末、過去のことから入ることにした。事の始まりから、と言うべきか。


「今から20年前。俺がまだ18のときに、友にレメンというやつがいた。レメンは明るいやつで、村の連中からも好かれていた。それに頭のいいやつで、村の問題もあいつがすぐに解決策をだしていた。だが・・・・・」


そこでいったん男性は言葉をきった。その次のことがとても話しづらかった。そのまま時間が過ぎていった。いつまでも黙っているわけにはいかない。男性は口を開いた。


「あいつの家に遊びにいったときだ。突然空間から黒いマントを羽織った男が出てきて、レメンに、何かをしたんだ。そのときから、あいつの体はおかしくなってしまった」


男性の言葉に刹那は反応した。黒いマントの男、まさか・・・・・・。

刹那が異世界に旅立つ原因となった男。その男が、まさか・・・・・・。


そんな刹那の心境をよそに、男性はことの始まりを語り始めた。


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