第25話 女兵士長編4
ドン!!
銃撃音がしたかと思うと、女の腕は空を舞っていた。撃たれたほうを見てみると、そこには逃げたはずのレオが立っていた。
「悪いな。裏をかくのは得意でね」
行ったとみせかけ、相手の油断したところを狙う。これにはさすがの余裕を持った女でも隙を突かれてしまう。
鮮血が女の腕からあふれていた。傷を見てみると、撃たれたというよりも斬られたという感じの傷だった。女はレオの跳躍力を見て能力者と判断したため、そう驚くことはなかった。
「やるじゃない。完全に意表を突かれたわ」
「ゲートの位置がここだったんでな。どうやってもここは退いてもらわなくちゃならなかった」
女は分離した腕を拾い上げ、頭上でプラプラ動かして見せた。
「あ〜あ〜、レディにすることじゃないわよ。こんなにしちゃって」
そうした後、女はその腕をレオのほうに投げつけた。レオはチャット銃を構えるが、特に攻撃の意図があるわけではないとわかるとそのまま腕をキャッチした。
「あなたが斬ったんだからちゃんと供養してよ?」
血がぼたぼたと垂れているのにも関わらず、やはり女は笑っていた。妖しく、艶やかに。
残ったほうの腕で女は魔力を圧縮した。次第に球が出来上がっていき、ソフトボール大になったその圧縮した魔力を地面に放った。シャドウのときと同じように丸いゲートが出来上がり、女はその穴に迷わず入っていった。レオは追撃をしようとはしなかった。退かせることが目的で、戦うことが目的ではないからだ。
「ふぅ。まぁ今回はいいわ。退いてあげる。無理に殺してこいなんて言われてないしね」
「誰に、頼まれたんだ?こんなこと」
レオは既に腹の部分まで沈んでいる女に問いかける。女は笑っていった。
「『神』よ。また会うかもしれないから覚えといて。私の名は、サラ」
そう一言だけ残して、女の体はその穴に沈んでいった。体が全てゲートに入り込んだ瞬間、ゲートの穴は閉じ、その場に短い沈黙が流れた。
レオは銃をしまい、レナのほうに歩を進めた。そのときにレナ警戒したしたのは当然であろう。
「進入・・・・・・者・・・・・・・・・・」
「さて、争う気はないからこっちの事情を伝えておく。俺たちは他の世界、異世界からここにやってきたものだ」
「異世・・・界・・・・・?」
疑問をレオにぶつけるレナ。ああ、とレナに一言いい、レオは話を続けた。
「今回こんな騒動を起こしたのはこの部屋に異世界の扉があったからなんだ。この世界から出て行くためにもここに来る必要があった。まともに言っても取り合ってくれるはずがないし、第一に王妃のいる場なんてたとえ町の者だったとしても簡単には入れない。だから今回はこんな騒動を起こさざるをえなかった。許してもらいたい」
そう言ったあと、レナは口をしばらく塞いだ。
この者の言っていることが嘘だとも思えない。目が嘘を言っている目ではない。でも異世界から来ただと?そんなことがあるわけない。しかし実際に王妃は偽者だったし、侵入者たちの強さも納得できる。
「もう少し・・・・・・・話を・・・・・聞きたい・・・・・・」
「悪いが考えさせてくれ。連れの意見も聞かないといけないからな」
そう言い残すとレオは跳躍し、壁にあけた穴から下に降りていった。
再び辺りは沈黙し、レナは大きくため息をついた。
{今日は・・・・なんだか疲れたな・・・・・・。寝てるとこ起こされたし、魔力吸い取られて力入らないし・・・・・・、なんだか眠い・・・・・・}
いつの間にか重たくなっていた瞼を閉じ、レナは体の負担を癒すため深い眠りについた。
++++++
「どうだ?刹那」
「だめだ、体が動かない。しばらくはこのままかな、リリア?」
「うん、魔力がほとんど底をついてる。これじゃ動かせないよ」
「仕方ない。今日はここで野宿かな」
「え〜、寒いよ〜痛!!」
「文句言うな。この世界の金ないし、大体今宿屋に行ったら兵士たちに見つかって牢獄行きだ」
刹那、レオ、リリアの3人は城外の目立たない木陰にいた。城から脱出したレオは刹那、リリアをこの地点に下ろし、これからのことについて少し話し合っていた。
刹那は体が動かないものの、口はきけたためなんとか意見を言うことはできている。半分はレオとリリアの会話なのだが。
「いやよ!こんな寒いところで寝るの!変な人に襲われたらどうするの!?こんなに可愛くて愛らしい女の子に手を出さない男なんているはずないわ!」
「安心しろ、お前を襲う物好きこの世に存在しない」
「なによそれ〜!兄さんだって時々私のこといやらしい目で見てるくせに!」
「いつ誰が誰をいやらしい目で見たって?え?」
「いや、あの、二人とも、俺を無視しないで・・・・」
「大体なんで俺がお前なんかをそんな目で見なくちゃいけないんだよ」
「すっっっっごく可愛いからに決まってるでしょ〜!」
「自画自賛かこのばかたれ」
「なにお〜〜〜!!いいもん。兄さんの子供のときに私に言った言葉全部刹那さんに言っちゃうから!!刹那さんあのね・・・・」
「ちょっと待て、そりゃ反則だろうがああああああ!!!」
「なによ!良いでしょべつに!減るもんじゃないし」
「そういう問題じゃないっての!とにかくそれだけは絶対駄目だかんな!!!」
「そんなこと言っても言っちゃうもん!」
「だからああああああ!!!」
「頼むから俺を無視しないでくれ・・・・・・・・」
こうして刹那の希望もむなしく、二人はこのあと1時間ほど口げんかしていた。
「なによ!!」
「なんだよ!!」
「お〜い・・・・・・・・・・」
+++++++
東の空から日が昇った。朝がやってきた。
「う〜んんん!!」
大きく伸びをし、すっと立ち上がってみる。なんともない。動かなかったのが嘘のように体が動く。
{そういえば昨日リリアが言ってたっけ・・・・}
けんかが終わったあと、リリアは魔力のことについて刹那に話したのである。魔力は体力と同じで休んだり睡眠をとったりすることで自然に回復する。だから、動けなくなるほどの魔力喪失であっても一日寝れば治るだろう、とのことだった。言われた通りぐっすり寝たらまるで元通り。体の不具合は見当たらない。
「お、起きたか」
「おはよう、刹那さん」
昨日のけんかが嘘のように二人はくっついていた。二人の手には魚やら何か野菜が握られていた。そういえばレオの国以来なにも口に運んでいないことに今気がついた。空腹で胃が少し痛む。
「さ、火をたかないとな」
「え。でも火をたいたら城の兵士に気づかれるんじゃないのか?」
「私もそう言ったんだけど、大丈夫だって聞かないの」
一通り会話が終わるとレオは近くにあった木の枝を拾い集め一箇所にまとめたあと銃を取り出した。ドン!と発砲音がしたあと、木には火が点っていた。
「火の属性の弾さ。魔力を最小限まで抑えればこんなことにも使えるんだぜ」
得意そうにそう言うとあらかじめ尖らせておいた木の枝に魚と野菜を突き刺し、ちょっとしたバーベキュー的な朝食が始まった。
「レオ。この後どうするんだ?」
バチバチと魚の脂がはじける音がした。それをおもしろそうに眺めながらレオは言った。
「ああ、城に行く。もちろん正面から堂々とな」
「え!?捕まるって!」
あわてて刹那は否定するが、レオは少し微笑みながら言った。
「なぁに、大丈夫さ。女の兵士に本当のことを話したら『もう少し話を聞きたい』って言ったんだ。戦う意思はもうないんだから事情のしらない兵士に捕まっても女の兵士を呼んでくれって言えば大丈夫さ」
そういうと少し焦げ目のついてきた魚をひょいっと取る。
「焼けたぞ。食わないと黒焦げになっちまうぞ」
あわてて魚を取り口にほおばった。魚の脂が口の中いっぱいに広がった。素直においしいと思った。
やがて三人の食事は終わり、再び城の中の町に入っていった。橋を渡り、紋をくぐった先にあるその町は昨日と何一つ変わらないにぎやかな雰囲気だった。
と、目の前から城の兵士がこちらに向かってやってくる。武器を構えてはいるが敵意を示している目はしていなかった。三人の足は止まり、そして兵士たちも三人の前で止まった。
「異世界の方ですね?」
兵士の一人が丁寧に聞いてきたことが意外だった。その質問をするためにまっすぐこっちに向かってきたのは、若干町の人々との服装が違いわかりやすかったからであろう。
「そうだが」
「プロミネンス隊長の自宅までご案内するよう言われて参りました。ついてきてください」
そう言うと体をひるがえし、裏の路地のほうに歩いていった。三人は迷うことなくついていった。
表のにぎやかさは消え、静かな空気になった。人こそいるものの、表の人数とは到底比べ物にならないくらいその数は少なかった。
こつこつと地面に靴が当たる音があたりに響き、やがてある家にたどり着いた。
「こちらになります。くれぐれも失礼のないように」
そう言って兵士たちは表のほうに引き返していった。行く前にあまり面白くなさそうな顔をしていたのは気のせいだろうか・・・・・。
とりあえずレオが家のドアを数回ノックしてみる。「は〜い」と女の声がした。少しバタバタという音がしてガチャとドアが開いた。
「あ、来たね。入ってちょうだい」
そういうと女は再び消えていった。レオは刹那とリリアのほうを見てちょいちょい、と手招きをする。刹那とリリアはレオの後に続いて家の中に入っていった。
中はいたって普通の家だった。丸いテーブル、棚、カーテン、いたって普通の民家だった。
「そこにかけてて。今紅茶だすから」
言われた通りテーブルぼ近くにあるいすに腰をかけた。それを見計らっていたかのように女は紅茶の入ったカップをすっと差し出し、自分もいすに座った。
「最初に、自己紹介かな。私はレナ。レナ・プロミネンス」
「俺はレオ・ヴァルヴァット」
「えと、俺は杉本刹那。刹那でいいよ」
「私はリリア・ヴィンスタール。ちなみにレオの妹ね」
そう言ってリリアはうれしそうにレオのほうを見て笑った。はぁ、とレオのため息も聞こえてきた。
さて、と言ってレナは口に運んでいたティーカップをテーブルに置いた。とたんにさきほどの表情とは一変、ピリッとした真面目な顔になった。
「詳しく教えてもらえる?整理がついてないの」
「ああ。わかった」
レオはとりあえず自分たちのことを話した。ある異世界の人間によって自らの国が戦争になったこと。その後刹那と一緒に異世界を旅していること。そしてこの世界にたどり着き、次の世界に進むためにやむを得ず進入という形をとってしまったことなど。
レナは驚きもせず、静かにレオの話に耳を傾けていた。自分の国でも同じようなことがあったのだ。いまさらその話が嘘だとは思えなかった。
一通り説明が終わると、レナは再びティーカップに口をつけた。
「大体の事情はわかった。私も少し考えたんだけど・・・・」
カタ、とティーカップをテーブルに置き、一段と真面目な表情をして言った。
「私も連れて行って」
3人は驚かずにいられなかった。会って間もないのに、いきなり旅に連れて行けと言うのだ。
「こっちにはお前を連れて行く理由なんてない」
「私には行かなければいけない理由がある」
レナはその真面目な顔を崩さず言った。
「大げさかもしれないけど、あなた達はこの国を救ってくれたじゃない。あなたたちがいなければ私は死んでた。だから―――」
「恩返しとして役に立ちたいってことかな」
刹那がレナの意図を言葉にした。当たっていたのか、レナは刹那のほうを見て笑った。
「そう。だから私も連れて行って」
レオは困ってしまった。役に立ちたいという気持ちはうれしかったが、女を連れて行くわけにもいかない。どうしたものかと考えていると、刹那はレオの顔を見て言った。
「レオ、連れて行こう」
「あのなぁ、女連れて行っても仕方ないだろう」
しかしそのレオの一言に、レナは納得しなかった。
「失礼な人ね。女でもこの国一番の兵士なの」
「それは俺も保障する。だって俺なんかじゃ全然歯がたたなかったもん」
え、とレオは驚きの声を上げた。刹那が兵士長に負かされたということは聞いていたが、まさかその兵士長がレナであるということを知らなかったのだ。
レナはニヤっと笑ってレオに言った。
「さぁどうする?これでも連れて行けない?」
しばらく悩み、そしてはぁとため息をついた。
「まぁ、刹那が言うんだったらいいだろう。リリアもいいな」
「うん、もちろん。よろしくね、レナさん!」
刹那たちに恩返しをするということで、国一番の剣技を持つレナも刹那たちと共に異世界を旅することになったのであった。
「うん、よろしく」
+++++++
「ただいま〜」
「おかえり・・・・ちょっと!なんで確認で腕がなくなってるの!?」
あわててその青年はサラのほうに近寄る。あわてて右腕をとって見るが、血は止まっているようだった。
サラは苦笑いして青年に言った。
「あとあとにめんどうだからね、今のうちに殺っちゃおうって思ったらこの様」
「だから確認だけでいいって言ったのに!」
あまりの必死さに、サラは自分が悪いように思えてきた。
「わ、悪かったわよ」
「早く治してきて!!」
「はいはい・・・・」
後ろのドアのほうに歩いていき出ようとする前に、サラは青年にたずねた。
「そういえば『あの子』は?」
「ここにいてもやることがないからってわざわざ罠を張りにいったよ」
「まったく、ここでおとなしく私の帰りを待ってなさいって言ったのに」
不機嫌そうな顔をしていたが、怒っているようではなかった。それは言いつけを守らない子供をもつ母親そっくりだった。
「早く治してきて!!」
「はいはい・・・・」
いつまで経っても行かないサラに大声を飛ばし、修復室へと向かわせるのであった。
さて、いかがでしたでしょうか。今回の物語は?
この世界でも出てきました、神の使い。名はサラ
刹那の前に現れる神の使いとは一体何なのか?
それはもう少しあとにわかることです、あせってはいけません
そうそう、今回の世界で刹那の仲間に新たに加わった女兵士長、レナ・プロミネンス
その実力は折り紙つきです
そして、レオとレナの持つ神器とは一体?これももうじきわかることです
さて、長くなりました。次の物語は不死編。
望まない永久の命を得た青年の滑稽なお話をお楽しみください