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第24話 女兵士長編3

城の作りというか、王などの国の中心人物のいる間の扉は巨大で、さらにちょっとやそってでは壊されないような作りになっている。(結晶ではもちろん壊れるであろうが)

女はすっと刹那の前に出て、その大きな扉を二回ノックした。たたくと鐘のような重い音が響き、辺りの空気を震わせた。


「王妃様。レナです。侵入者を捕らえてまいりました」


「入ってきて」


艶っぽい大人の女性の声がした。この声の主こそが王妃なのだろう。

「失礼します」と女は言うと周りの兵士に目配せをする。すると兵士たちは王の間の扉の前に行き一斉に力を込めた。扉はゆっくりと開き、その奥の様子が刹那の目に飛び込んできた。高く大きい玉座に座っている女性、広い間、明るく照らすシャンデリア。女性は人目で王族とわかる容姿をしていた。少し青みがかかり、つややかな紫色の髪の毛、見たものを虜にするような瞳、色っぽい唇。

ただ一つおかしいところがあった。側近がいないのだ。普通ならばありとあらゆる事態に備えて必ず兵士がいるものなのに、この国の王妃の近くにはいない。いや、どこかに隠れているのか。王妃を守る人が近くにいないなどあるわけがない。

女はため息をついてその王妃に言った。


「兵士を最低二人は近くに置いてくださいって言ってあるでしょう。王妃様がこんなに無用心な国はそうそうありませんよ?」


「いいじゃない。だって居ても邪魔なだけなんだもの」


本当に兵士をつけていないようだった。単にわがままなだけなのか、特別な理由があるからなのか。刹那にはそこまでわからない。


「で?その可愛い子は?」


「ああ、進入者です。能力者だから少し捕獲するのに手間取りましたけど」


レナが言い終わると王妃は刹那のほうをじっと見つめ、何かを見定めるような顔をしている。と、王妃は表情を変えポケットに手を突っ込み、なにやら小さなガラス玉を取り出した。そのガラス玉は王妃の手から離れ徐々に上昇していき、高く上がったところで光を放った。その光はまぶしいとまではいかないものの、なにやら神々しさあふれた不思議な光だった。そして、放つだけ放ったあと、






パァン!!!!!






そのガラス玉は粉々になり、まるで粉雪のように空を舞った後、文字通り消えてなくなった。レナも周りの兵士もぽかんとその光景をみていた。今起きている事態を把握することができないようだった。


「ふふふふふふふ・・・・・・・・」


王妃は笑っていた。ついさきほどの気配ががらっと変わり、禍々しい雰囲気になっていった。


「見つけた・・・・・・・・・・ついに、ついに見つけた・・・・・・・・・・・」


なにやらつぶやき刹那のほうを見ている。

おぞましかった。怖かった。


「王妃様?」


レナは王妃の豹変ぶりに疑問を持った。こんな王妃、生まれて一度も見たことがない。いつもの王妃ではなかった。


「そ、それでこのものの処分はいかがなさい───」


「今ここで殺しなさい」


きっぱりと、なんのためらいもなく言い切った。その顔は不気味な喜びで満ちていた。その言葉にレナはもちろん、刹那さえも驚いた。


「は、話が違うじゃないかよ!しばらくは生きられるんじゃないのかよ!」


大声を出した刹那をかばうようにレナは王妃に言った。


「そんな理不尽な!この者は器物は破損したものの、死人けが人は一人も出していないのですよ!?死刑はあまりにも理不尽です!絶対反対です!」


こればかりはさすがに女も反対した。王妃に忠誠を誓っていても、理不尽な罰には納得できなかったらしい。

王妃は怪しく笑って女に言った。


「これは国の定める罰の制度に従ったわけじゃない。私の仕事もためなの」


「どういうことですか?」


「この子を殺すことが私の仕事だと言っているの。理解した?プロミネンス隊長?」


この場にいる兵士、レナ、そして刹那も言っていることがわからなかった。

その様子がおかしいのか、王妃はあははと声を上げて笑っている。高笑いというやつだ。


「そうね、わからないわよね。でもそれでも私はかまわないわ。あなたがその子を殺さないというのなら・・・・」


王妃は玉座に預けている腰を上げ立ち上がった。


「私が殺すわ」


「そうはさせません!!」


そう言って二人の戦いは始まってしまった。

その場にいた刹那とその周りにいる兵士はなにもできず、ただ呆然と立ち尽くしていた。



+++++



「邪魔するのなら、少し黙ってもらおうかしら。レナ・・・・・」


「・・・・・・・」


レナは手に持っていた鞘から長く紅い太刀を取り出し構えた。迷いはしなかった。王妃に剣をふるって許されるはずはない。だが、罪の軽いものを死刑にすることのほうが許されるはずがないとレナは信じていた。

殺すつもりはない。まともに戦うつもりもない。そんなことをすればすぐに王妃が死んでしまうからだ。戦いに慣れ、さらに場数を踏んできたレナならば、太刀のみねで殴り気絶させることくらい簡単だ。

急接近すれば相手はひるみ一瞬だが身動きが取れなくなる。その一瞬を狙って首に太刀を打ち込めばなんとかなる。

頭の中で組み立て、確認する。大丈夫だ。相手は訓練もなにもしていないただの王妃様だ。


「来ないの?せっかくだから遊んであげようかと思ったのに、残念だわ」


構えてばかりでかかってこないレナに、そして硬直している場に飽きたのか、王妃はため息をつき、右手の平ををさっとレナのほうに向けた。


「悪いけど、かかってこないのならこっちからやらせてもらうわ。私は無駄な時間が大嫌いなの」


すると辺り一面、いや部屋全体が紫色に包まれた。


「!?」


レナは驚いていた。一瞬で感じ取り、そして理解したからだ。

驚くべきことだった。この紫が全て魔力だったからだ。こんなに大規模な魔力、訓練なしでは絶対に扱えないし、ましてや出現させることもできない。毎日玉座に座っていただけの王妃に訓練する時間などないはずだ。


「驚いた?私がこんなことできるなんて。でも、驚くのは少し早いわよ?」


驚いているレナが面白いのか、王妃は怪しく笑っている。悪魔のような笑みだった。

レナは王妃の言ったことが気になっていた。


「驚くのはまだ早い」


魔力を部屋全体に行き渡らせたのは何か意図があってのことなのか?だとしたら相手が攻撃に移る前に決着をつけなければならない。もしかしたら一撃で致命傷をもらう攻撃かもしれないからだ。

ばっとレナは飛び出した。床を蹴り王妃に攻撃するつもりだった。だが、


「!?」


足に力が入らずそのまま前のめりになって倒れてしまった。変だな、と思いつつ再び起き上がろうとするが、なぜか体に力が入らない。

ふと見ると、王妃が自分の前に立っているではないか。あわてて体を起こして距離を取ろうとしても、やはり体が動かない。


「どう?動かないでしょ」


「何を、した・・・・」


うふふ、と笑って王妃はしゃがみこんだ。レナの悔しそうな顔をみながら解説をする。


「《魔力吸収》。今私が発動させた『魔術』。名前の通り、体の中の魔力を吸収するというもの。体を動かしているものは体力と魔力。両方欠けていても体を動かすことはできないし、どちらか一方欠けていても体は動かせない。魔力はどんな人間にも血と同じように体を巡ってるって知ってた?だからこの場にいる人間は例外なく動けなくなるの。もちろん魔力を全て奪われると心臓などの臓器も停止するから、今は半分くらいしか奪ってないわ」


周りの兵士、刹那もレナ同様、体に力が入らずその場に倒れこんでいる。この場にいる誰一人体を動かすことはできなかった。王妃に抗えるものはいなかった。


「さて、お仕事しないとね」


王妃は立ち上がり倒れている刹那のほうへ歩いてくる。

こつこつとゆっくりと歩み寄ってくる。刹那は恐怖感を覚えていた。抗えない、これから殺される、という二つの感情に。


「一つ、聞かせて。あなたは何者なの・・・・・・・・」


王妃は足を止めてゆっくりとレナのほうに体を向ける。声の通り、ぐったりしているようだった。


「そうよね。不思議よね、訓練も何もしていない王妃様がこんなに強いなんてね」

ふふふと笑いながら、王妃は再び刹那のほうに歩み寄った。


「そうね・・・・・・・、神の使い・・・・かな。ある器を壊すために張られた罠。そしてこの国の正式な王妃ではない。私にはこれだけしか言えないわ」


神の使い、刹那は反応せずにはいられなかった。異世界に旅立つきっかけとなった原因のリバー、レオの父親を殺し、国を混乱に陥れたシャドウ。どちらとも「神の使い」と言っていた。無関係だとも単なる偶然だとも思えなかった。絶対にこの二人に関係がある。


「なぁ、あんたリバーとシャドウを知ってるか?」


体は動けなくなっているものの、レナのようにぐったりとした口調ではなかった。

刹那がそういうと、その女は刹那のほうを向いて笑い、答えた。


「やっぱり、喋れるのね。魔力をあれだけ吸収したのに。まぁいいわ、動けないみたいだし。教えてあげる。どちらも私の同志よ。二人の名前を知ってて生きてるってことは・・・・あの二人がしくじったわけね」


はぁ、とため息をつき腕を組んだ。


「もう・・・・一つ・・・・・、正式な王妃ではないって、どういうこと・・・・・?」


にやりと笑い、王妃はレナに背を向けたまま答えた。


「もうすぐ任務も終了するし、種明かししてもいいかな。この国のもともとの王は私が殺したわ。だって任務を遂行するためにはどうしてもこの階級でなくてはいけないもの」


「馬鹿・・・・な・・・・・、遺言では・・・・隠し子のあなたに全てを・・・・任せる・・・と書いてあった。鑑識の話でも・・・・・字は王の・・・ものだったと・・・・・・。王がそんなことを・・・・・書くはずが・・・・・・ない・・・・・」


「ああ、それか。ちょこっと痛みつけてやったらおとなしく言うことを聞いてくれたわ。どんな生き物も痛みには逆らえないからね。書いた後は苦しまないようにすぐ首をはねてやったわ」


「そん・・・・・・な・・・・・、そんな・・・・・ことって・・・・・・・」


事実を知ったレナは怒るでもない、悲しむでもない、ただ呆然と虚空を見つめていた。今までこの国を全てこの得体の知れない女に動かされてたということと、行方不明の王をこの女が殺したということに多大なショックを受けていた。

さきほどまであったほんの少しの闘志さえも、レナの眼から消えうせてしまった。それを悟った女は怪しく微笑み今度こそ刹那を殺すために近づく。

刹那は身の危険を感じていた。死の恐怖というやつが今になってやっとわかった。全身から一気に汗が噴出した。

そばにいた兵士の剣をすっと手に取り、刹那の首に押し付けた。


「さぁ、さようならよ。この世から。」


そしてゆっくりと振り上げ、刹那の首めがけて振り下ろす。






ズガン!!!






発砲音がした。目線を音のしたほうに向けてみるとそこには、


「レオ!!ナイスタイミング!!」


神器、『神爆銃』を手に持っているレオの姿と後ろに隠れているリリアの姿があった。

女は弾丸によってはじかれた剣のほうをみて驚いた。


「へえ・・・・やるじゃない。高速で振り下ろしている剣を打ち抜くなんて。かなりの腕をもっているわね、あなた」


女は動揺することなく、やはり妖しく笑っていた。

レオはとりあえず今の状況をじっくりと見た。倒れている兵士と刹那、一人笑っている女、大体は予想がついた。全部この女がやったのである。


「刹那、この女の能力は?」


「魔力吸収って能力だ。吸収されると動けなくなる」


「なるほどな。通りでみんな倒れてるわけだ」


う〜んとあごに手を当て、何かいい考えはないかと頭を働かせる。後ろでレオの服をぐいぐい引っ張りながらリリアは小さな声でレオに話しかける。


「ちょ、ちょっと兄さん。こんなときに考えてる場合じゃないでしょ?」


「ば〜か、こんなときだから考えなきゃならないんだよ」


リリアにそう言ってから怪しく笑っている女に目線をやった。


「この状況をひっくり返すにはどうすればいいか、ってな」


その妖しい笑みは少しもくずれることがなく、女は大きな声で笑った。


「あはははは、無理無理。あなたがどれだけ強くても魔力を吸収されれば動けなくなるのよ?ひっくり返すなんて無理よ」


その無情な宣告にもかかわらず、レオは不敵に笑っていた。


{レオ、やっぱり何か考えがあるんだな}


刹那は心の中で、この状況を逆転する手立てを考えるレオに尊敬の意を抱いた。

そのとき、緊迫していた場が動き出した。レオが横の壁めがけて一発の弾丸を放った。高速でとんでいった弾丸は壁に当たると同時に爆発した。火の属性の弾である。やはりというか壁には大きな穴が開いた。何をするつもりなのか、刹那には想像がつかなかった。


「さて、覚悟はいいか?」


「きゃ!!」


レオはそういうと銃を腰のホルスターにしまいこみ、リリアの体を担いで女のほうに特攻していった。


「何考えてるの?そんな自爆行為で私に勝てるの?」


「ふっ・・・・」


レオは構うことなく女のほうに突っ込んでいった。

女はというと、言葉とは裏腹にレオのその行動に完全に意表を突かれていた。まさか銃を持っているやつがわざわざしまい突っ込んでくるなど、あるわけなかったからだ。


「!?」


レオは女の少し手前に倒れている刹那の体を残った右腕でつかみ、そのままあらかじめ空けておいた穴まで一気に跳んだ。まさか、


「最初から戦う気なんてなかったの?」


「ああ。悪いが一旦退かせてもらうぜ。刹那に傷つけさせるわけにはいかないからな」


そう言うとそのままレオは飛び降りた。あまり長居していると追撃を食らう可能性があるからだ。

目的の刹那を逃がし、その場は沈黙した。


「う・・・・・」


レナは何とか動こうとするが、無駄であった。魔力を抜き取られてしまってうんともすんとも動かないのである。

それを見た女は少し不機嫌そうにすぐ近くにいた兵士の剣を手に取った。


「ごめんね。生かしてあげたかったけど、真実を国民に伝えられると面倒なことになるの」


動けなくなったものに止めを刺さなかったのは無駄な殺しをしないためである。女は刹那を殺し次第この世界を後にするつもりだったため、レナと兵士たちによって国民に伝えられても関係ない。

しかし刹那に逃げられてしまったため、真実を知ってしまった者の口をふさぐしかない。知られてしまえば刹那抹殺がやりにくくなるためだ。

刹那と同じように首に剣を突きつける。白く、冷たい刀身。


「最後よ。言い残すことはない・・・・・ってしゃべれないか」


すっと剣を振り上げる。首をはねるつもりだ。


「さようならレナ・プロミネンス隊長。殺すには惜しいくらいの美貌と戦闘能力だったわ」


そして何の迷いもなく剣をレナの首めがけて振り下ろした。


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