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第20話 偽者編8

刹那の腹に青い光を纏った手を乗せているリリアの耳に轟音が飛び込んできた。


「!?」


なにが起こったか理解できていないリリアは、刹那を担いで出てきた扉の方を見た。しかし、何の変化のない扉を見ただけでは何が起こったのかを判断するのは難しい。

いっそ刹那の手当てをやめ、自分の目で何が起こっているのかを確かめたかったがそうするわけにはいかない。リリアは再び刹那の腹に青い光で包まれた手を置いた。

リリアは結晶化すらできないが、立派な能力者である。なぜならば、結晶を作ることだけが能力者に当てはまる条件ではないからである。自分の持っている魔力を自在に使える者も能力者として認識されるのである。リリアはレオや刹那とは違い、戦闘用具を生成することはできない。その代わりに自らの魔力を手に集中させ、それをかざすことで自然治癒の効果を高めることが可能なのである。

もちろんそういったメリットがあればデメリットもある。

自然治癒を意図的に高めるのだから体にかかる負担は大きくなるのである。そのため、命に関わる重傷を負った人にこれをやってしまうと、死亡確率を高めることになってしまうのだ。だからこそ使う場面は、軽傷ですぐに行動しなければならない人、重傷ではあるが体力がかなりあると判断されたときなど、限られてしまうのである。

刹那の場合は意識こそ失っているものの、シャドウに殴られただけで特に命には別状なかったし、本人も瀕死の状態ではなかったため、回復魔術が施されたのである。


「う、う〜ん・・・」


「刹那さん!気がつきました?」


刹那は目を開けると同時に軽い痛みが走る体を起こす。くるりと辺りを見回した刹那は、最初にいた王の間ではないことに気がついたようだった。


「あれ?レオは?」


「中で一人で戦ってる。刹那さん立てる?」


こくりと一度うなづくと刹那は立ち上がり、リリアと共に王の間へと足を運ばせた。

ぎぎぎ、と木のきしむような音を立てて扉を開けた。


「兄さん!!」


目に飛び込んできたのは、王の間の壁が円状になくなっているのと、傷ついたレオ。それと、右腕を失くしたシャドウだった。

あわててレオのほうに駆け寄ろうとするが、レオに右手で制された。まだ油断はできない、ということなのだろうか。


「・・・・・くくくく、はははははは、ひゃああっはははははははははは!!!!」


突如、シャドウが狂ったように笑い出した。右腕を失って激しい痛みに襲われているはずなのに、そんなものまるで最初からなかったかのように、冷たく笑っていた。

レオはあわてて左手の銃の引き金を引こうとする。が、やめて銃を下ろした。シャドウの右腕を奪ったレオのとっておきの弾、『アルテマ』はもう装填されていないためだ。あまりに危険すぎる弾なので、一発きりしか銃に込めなかったのである。

終わった。と3人は確信した。シャドウを傷つけるための最後の手段がもう無くなってしまったのだから。


「おもしれぇ!!おもしろ過ぎんぜぇ、てめぇ!!!鉄くずで出来た銃にもかかわらず、強化人間である俺の右腕を吹っ飛ばすなんてよぉ!!」


そう言うと、シャドウは残った左手に魔力を込め、空に向けて拳を放った。とたん、ゴゴゴと音がして、空中に穴が開いた。


「ゲート!?」


刹那があわててふところから水晶を取り出す。ダンの村の村長からもらったゲートの方に光放つ代物。王の間のランプの明かりを水晶にうまく当て、水晶から一筋の光が伸びた。がしかし、


「あれ!?」


シャドウの開いたゲートの方に光は伸びていかず、王の間の扉の方向に伸びていた。

レオが仕組みを理解していれば何かの疑問が沸いたのだが、あまり鋭くない刹那は単に故障かな?などと思ってしまうのだった。


「逃げるのか!!」


レオがゲートに入りかけているシャドウに激昂を飛ばす。が、シャドウは冷たい笑いを隠すことなくレオの方に顔を向け、


「何言ってやがる。このまま戦ったらてめぇらが死ぬっていうのは一番お前が知ってるはずだぜ」


明らかに上から見下しているような口調で言い放つ。


「てめぇはおもしれぇから生かしといてやる。もっと強くなって俺を殺しに来い!俺を恨んで憎んで、怒れ!俺を楽しませろ!!」


そう言い残すと、シャドウはゲートの中に消えていった。ゴゴゴ、という音が辺りに響き、ゲートは閉じた。


「兄さん!!」


リリアは傷ついたレオの方に駆け寄った。あわてて刹那もレオに近寄る。

レオは二人の方を向き、少しあせったように言う。


「親父を・・・親父を探してくれ。早くしないと、死に目に会えなくなる」


「兄さん、それってどういう・・・


「説明は後だ!今は親父を手分けして探すぞ!」


その言葉と同時に3人は散り、探し始めた。



+++++



刹那は王の間の天井を探していた。結晶化を使って肉体の強化を行い、大剣で天井を斬って穴を開け、そこから入って探していた。

リリアからあらかじめ借りていたランプを使って辺りを照らし、ほこり臭い床からくもの巣の張った天井まで、隅々まで探した。


「国王さ〜ん。居たら返事してくれぇ〜」


大声で叫んでみるものの、返事はまったくない。

早く探し出さなければ国王の死に目に会えず、レオやリリアが悲しんでしまう。恩人が悲しむ姿、それだけは絶対に見たくなかった。

自分の無力さに下唇を噛むレオ、悲しみに暮れるリリア。想像しただけで悲しくなってくる。絶対に探しださなければいけない。


「ここには居ないな」


隅々まで丁寧に探し、いないと判断した刹那は一旦下に降りることにした。もしかしたらすでにレオたちが見つけ出しているかもしれない。

そう信じて刹那はレオ達がいる王の間に戻っていった。



+++++



リリアは王の間の壁を調べていた。もしかしたら隠し部屋があって、そこに国王が居るかもしれないからだ。

調べる方法は手で叩き、軽い音がしたらそこが隠し部屋、というものだった。

入口の扉の横から始まり、叩いては一歩ずれまた叩く。この方法で王の間の壁は調べられたが、残念なことにどの壁も重い石音しか帰ってこなかった。


{どこなの、お父さん・・・・・}


リリアの不安は表情にまで出ていた。

生まれてすぐに天国に旅立った母親の代わりに、男手一つで育ててきてくれた大事な父親の死に目に会えないかもしれない。

リリアの不安は表情にまで出ていた。確かな焦りの色。いつも桃色の頬も少し青白くなっており、額には汗がにじみ出ていた。


「隠し部屋は、ないみたい」


もしかしたら刹那やレオがもう見つけているかもしれない。そう信じてリリアはレオのもとに戻っていた。



+++++



レオは王の間の床を調べていた。ひょっとしたら地下室があるかもしれないからだ。

王の間の端から端まで歩いて調べてみたが、どうも空洞らしき音はしない。

レオはすさまじくあせっていた。あと数分、いや5分で父親が死ぬかもしれないのだ。探し始めてからもう5分を切っている。

{くそっ、見つからない。どこだ、親父。}

床に国王はいないと判断したレオは刹那とリリアの報告を待つことにした。

広い王の間の端から端まできっちりと調べてないのだから、二人の報告を待つしかない。


「兄さん・・・・・」


そう言って駆け寄ってきたのは顔を青白くしたリリアだった。


「どうだった?」


「だめ、隠し部屋なんてない。」


「そうか・・・・・」


リリアの調べた壁がだめなのならば、後は刹那の調べた天井しかなかった。

と、上から人が落ちてきた。否降りてきた。刹那だ。


「どうだった?」


緊迫と期待が辺りを包む。が、刹那は首を横に振り、


「だめだ。国王どころか生き物一匹いない」


絶望となる言葉を言った。

天井、壁、床、これらにないとすれば、一体国王はどこに行ったのだろう。


「くそっ!!!」


いつもなら頭を働かせどこにいるかを予想するはずなのに、レオは近くにあった玉座を蹴り飛ばした。普段冷静なレオも、見てはいられないほど取り乱していた。

玉座は5メートルほど飛び、ガタンガタンと音を立て床に転がった。


「あれ?」


そう言ったのはリリア。

レオの蹴り飛ばした玉座の下に穴、というより地下へと続く通路があった。レオの探していたところは床のみだったため、玉座の下まで調べてはいなかったのだ。


「ここ、だったのか」


レオは安堵のため息をついた。刹那もリリアも一安心したようだったが、そうしている場合ではない。一刻も早く進んで国王を探さなければ。

刹那とリリアは地下に進もうとするが、レオに手で制された。


「兄さん?」


「レオ?」


「罠かもしれない。ここからは俺一人で行く」


言われてみればそうだった。ここに出入りしていたのはシャドウだけ。他の人間が入らないようになにか罠を仕掛けている可能性がないとは言いきれない。


「行ってくる。絶対ついてくるなよ」


リリアは何か言いたそうな顔をしていたが、今は構っている場合ではない。レオは刹那の持っていたランプを奪うようにして取り、地下へと続くはしごに手をかけするすると降りていった。



+++++



地下の通路にかかっているはしごを使って一番下まで降りたレオは、国王を探すためランプをかざした。地下の通路はこの城に潜入するときに通ったじめじめした通路に似ていて、たんに床に水たまりがなく、じめじめしていないという点以外はまったく同じ作りだった。

暗闇をランプの光が照らし、歩きやすくなった道を注意深く歩く。

地下通路独特の冷たい空気と暗闇の怖さはなんとも言えないものがあった。一歩進むたびに辺りを見回し、さらに進む。時間が迫るにつれてレオの焦りは確かなものになっていく。


{どこまで続くんだよこれ}


城で育ち、いたる所の隠し通路や隠し部屋を探し当ててきたレオだが、さすがに王の間のこの地下通路までは発見できてはいなかった。というよりは探すことができなかった。理由として挙げられるのは、たんに怒られるからである。神聖である王の間なのだから当然なのだが。

それゆえ、どのくらいの長さなのか、奥に何があるのかなどわかるわけがなかった。


{まずいな、少し急ぐか}


国王が一番奥にいる可能性が高いと判断したレオは走ることにした。もともと歩いている暇などなかったのである。

地下の空気が顔に当たりながらもレオは走った。父親のために精一杯走る。

走りながら気がついたことは、足元にあまりほこりがたまっていなかったことだった。シャドウがこの通路を使っていたというのは明白だった。

しばらくして、少し広い部屋にたどり着いた。どうやらここが最深部らしい。

着いたと同時にレオは辺り一面にランプの光をかざす。くもの巣のかかった古びたタンス。汚れた床、傷だらけの机、そして、


「親父!!!」


横たわる人。ひどい格好だった。国王の着ていた服はところどころ切れており、一目で死にかけていることがわかった。

レオはすぐさま駆け寄り父親の体を抱き起こす。体は人としての温かさを失っており、顔は青白かった。呼吸はしているものの、虫の息だった。


「親父!しっかりしろ!!」


レオは両腕で国王を揺り動かす。シャドウから受けた拳の痛みはすでに忘れていた。

閉じていたまぶたが開き、力いっぱい呼吸している口から言葉を搾り出す。


「レ・・・・・レオ・・・・・・」


本当に微かな声だった。死にかけている者の声。


「待ってろ、今リリアを呼んでくるから!」


応急処置の心得があるリリアを呼んでくれば国王が助かるかもしれない。

そっと国王を床に寝かせると、レオはもと来た道を戻っていこうとした。だが、


「親父!?」


ズボンの端をとても死にかけている者とは思えない力で捕まえ、レオを行かせないようにした。


「いい・・・・・もう助からない・・・・・」


「何言ってるんだ親父!!まだわからないだろ!!」


「いや、わかる。俺の体のことは俺が良く知ってる。それよりも、死ぬ前に話しておかなければならないことがある」


国王の言葉が耳に入ると、レオはさすがに諦めたのか国王の近くに寄り、聞き取れないくらいの小さな声に耳を傾けた。


「お前が二十歳になったら言おうと思ってたんだ。よく聞け、お前は俺の息子じゃない」


「!? じゃあリリアも・・・・・」


「いや、リリアは正真正銘俺の娘だ。だからお前とリリアは本当の兄妹ではないんだ」


いきなりの事実に、レオは内心かなり動揺していた。しかし、表面は冷静を装っていないと国王が次のことを話せない。


「お前は昔話した俺の親友の息子だ」


「じゃあ、俺の本当の親父はどこにいるんだ?」


国王は苦しいのか、すぐには話さず一呼吸をした。話を一時区切られたレオはもどかしいのとじれったいという思いの二つにはさまれていた。

時間にしてほんの10秒程度、しかしレオにとっては一時間にも感じた国王の一呼吸が終わり、続きが話された。


「お前の本当の母親は、お前を産んですぐに死んでしまった。リリアのときと同じだったんだよ。でも、そんなときにお前の親父の『ゼロ』は俺に産まれたばかりのお前を俺に預けて他の世界、つまり異世界に旅立ってしまった。『すまない、俺は行かなければならない』の一言だけを残してな。行き先を聞いても決して答えてはくれなかった」


「じゃあ、俺の本当の親父は・・・・」


「ああ、この世界にはいない。どこか他の世界にいる」


そう言ったとたん、国王の顔が一気に青白くなっていった。呼吸もだんだん弱まっていき、体力も尽きてきたようだった。


「おい!親父!しっかりしろよ!!まだリリアに会ってないだろ!!」


「レオ・・・・ごめんな。俺がんばったんだけど・・・・・どうしても勝てなかった。俺の力が弱いせいで・・・・・・・たくさんの人の期待と命を奪ってしまった・・・・」


「うるせえ!!遺言なんて聞きたくねぇよ!!!生きろ!生きて帰ってみんなに事情を説明するんだよ!!!」


「魔力を吸収されてるときもな・・・・・・・ずっと・・・・・・お前とリリアのことを考えてた。ちゃんと飯食ってるかなとか・・・・・・体は大丈夫かなとか・・・・・・しっかり生きてるかなとか」


「親父!!!ふざけるのもいい加減にしろ!!!怒るぞ!!!」


「それと・・・・・お前に渡しておくものがある」


そう言うと国王は懐に手を伸ばし、二丁の銃を取り出した。一つは光を思わせる真っ白な銃、もう一つは闇を思わせる黒い銃。その二つをレオに手渡した。


「なんだよ、これ?」


「これは・・・・・『神器』と呼ばれるものだ。この銃は・・・・・・・・


「違う!!!俺はそんなこと聞いてるんじゃない!!!なんだよこれは!!!形見なんてもらったってしょうがないだろ!!いい加減にしないと本当に───」


「レオ!!!!!」


国王が残された力を振り絞り一喝する。焦りと怒りではさまれていたレオの感情は吹き飛び、いつもの冷静さを取り戻した。


「まったく・・・・・最後まで世話・・・・・・焼かせやがって・・・・・」


残り少ない体力をさらに減らした国王はもう死ぬ寸前だった。声も途切れ途切れになり、呼吸も本当に微かなものになっていった。

レオは覚悟した。もう父親は助からない、いまさらリリアを呼びにいっても間に合わない。ならば自分だけでもこの人の死を見届けよう、と。

ごそごそ、と懐をあさり手紙を取り出した国王はそれをレオに手渡す。受け取った際に触れた手は氷のように冷たかった。


「それを・・・・・・・・・・・跡で読め・・・・・・・・・。大変・・・・・・・・・・だったんだ・・・・・ぞ・・・・・・・・・。あいつ・・・・・の目を盗んで・・・・・・これを・・・・・・書く・・・・・・・のは・・・・・・・・」


もう何も言い返さなかった。もうじき聴けなくなる自分の義父の声を、今は心に刻みつけて起きたかった。


「最後に・・・・・・・・・リリアに・・・・・・・・────


言葉を言い終える前に、国王は静かに息を引き取った。顔はシャドウから受けた苦痛から開放されたためか、国王の死に顔は安らかだった。

自分の愛銃の代わりに国王から譲り受けた二丁の銃をホルスターに入れ、苦痛に耐えて書いた手紙をズボンのポケットに入れ、国王の遺体を背負った。あんなに大きく、偉大だった義父の体は驚くほど軽くなっていて、それがなんだか悲しかった。

しかし、レオは泣かなかった。今は泣けない、リリアのもとに帰るまでは絶対に。死に目に会わせてやれなかったリリアを差し置いて、自分だけ悲しむわけにはいかなかった。

もと来た暗い通路をレオは引き返す。背に義父の亡骸を乗せて。

通路の暗闇は、来たときよりも暗く感じた。


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