第2話 初世界編1
どれくらいの時間がたっただろうか・・・。刹那は見慣れない部屋の布団に寝かされていた。
「ここ、どこだ?」
刹那は起き上がろうとした。しかし、全身がひどい痛みに襲われおきることが出来なかった。
「う!いててててて。」
ばたんと、いきなりドアが開き、おとなしそうな男の子が入ってきた。
「あ、目が覚めましたか?」
男の子が刹那に声をかけてくる。
見た目、刹那と同じくらいの年頃の男の子だったが、決定的に違うのは頼りなさそうな感じがするということである。
「あんたは?なんで俺こんなとこにいるんだ?」
刹那は、自分が抱いている疑問を男の子にたずねた。
男の子は困っていた。どう返答すればいいのか分からないが、とりあえず知っていることを刹那に伝える。
「なんでって言われても、道端に倒れていましたので僕の家に運んできたんですよ。それと、僕の名前はダン。なにかあったら遠慮なく言ってくださいね。」
ダンは一部始終を説明すると暖炉にまきを入れた。弱弱しかった炎が、だんだん大きくなり、しばらくするとごうごうと燃えていた。
パチパチと、薪の燃える音がする中、今度は逆にダンが刹那に尋ねた。
「そういえば、あなたは?まだ名前を聞いていませんが。」
ダンは刹那に名前を聞いた。自己紹介の基本であるが、最重要なことでもあるのが名前である。
「ああ、俺の名前は刹那。ところで、ここ地球じゃないのか?」
刹那はダンに名を名乗り、再びダンにたずねた。
そもそも、刹那は自分の住んでいる町に暖炉がある家などあるわけが無かった。もしあったとしても、自分の家の近くにはないはず。近くにあれば自分の耳に入ってくるはずである。
刹那の問いに、ダンは不思議そうな表情で答えた。
「地球?ここは名前なんてないただの島国ですよ。」
ダンは刹那に言った。
島国?島国・・・
そんなところあったか?そういう問いかけが刹那の頭の中でぐるぐるまわっている。
おかしい、なにかおかしい。なぜ自分の住んでいるところではないのだ、気絶している間に運ばれたのか?馬鹿馬鹿しい、それだったら監禁か何かされているはずだ、道端に捨てるなんてさらった意味が分からない。
{いや、まてよ・・・}
刹那の頭に一つの心当たりが浮かんだ。
黒いマントを羽織った、青紫色の髪をした男が現れたときに発生した空間の穴、すなわち、ゲート。あの男は確か、ゲートは異次元と異次元をつなぐ役割をしているようなことを言っていた。
そのゲートに引き込まれた記憶がよみがえってきた、確かに吸い込まれた。
それならば全部つじつまが合う、このわけの分からない世界にいることも、ここが異世界であるということも。
刹那は自分はゲートに吸い込まれ、異次元に来たことを悟った。
「そろそろ夕飯にしましょうか。」
ダンはそう言うと、戸棚を開け中からパンを2切れ取り出した。刹那が必死に情報を整理しているのに、夕食・・・・のんきなものである。
「では、いただきましょう。」
取り出したパンは食パンに良く似ていた、形といい、外のみみといい、似ているというよりも食パンそのものだった。
ダンは刹那にパンを一切れ手渡した。しかし刹那はパンを食べようとしなかった。というよりも、口に運ぶ作業すらいていない、手渡されたパンをただただ手に持っているだけである。
「食べないんですか?」
「体中が痛くて起きられないんだよ。手を貸してくれ。」
ああ、そうかと、ダンは自分のパンを口にくわえ、刹那の体を起こした。刹那の体を起こすときに、ダンは刹那の着ている服に疑問を抱いた。
こんな服見たことが無い、作りから柄まで、布が使われているということ以外は自分の服とまるっきり違っていた。
「あなたはどこから来たんですか?その服もこの世界のものじゃないし、あなたは何者なんですか?」
今度はダンが刹那にたずねた。
刹那はゲートによってこの世界に来てしまったことや、ゲートの仕組みなどをできるだけ丁寧にわかりやすくはなした。ダンは驚いた様子だったが、刹那の話し方があまりにも真剣だったためそれが本当のことだと悟った。
刹那は、この世界にもゲートがあるはずだ、だからそれっぽい場所はないか、とダンにたずねた。
「んー、それっぽい場所ですか、残念ながら僕にはわかりません。」
ダンは答えた。刹那はがっかりした様子だったが、ダンは話を続けた。
「だけど、長老なら何か知っているかもしれません。長老は本当にいろんなことを知っていますから。」
ダンの話が終わると刹那はうれしそうに、
「だったら早く長老のところに行こう!うまくいけば地球に帰れるかもしれない!」
と言い、布団から起きようとしたが、やはりあの全身の痛みが襲ってきた。
「あせっちゃだめです。みたところそれは打撲によるものだと思われます。明日になれば痛みもひきます。長老のところには明日いきましょう。」
刹那はうなずくとパンも食べずに寝てしまった。
やれやれと、ダンは刹那が手に持っていたパンを口に運んだ。
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夜中のことだった。刹那は激しい爆音で目を覚ました。刹那は少し外の様子を見てこようと布団から起き上がった。痛みもずいぶんなくなり、立って歩くのには何の支障もなかった。
ドオオオオオオオオオオン!!!!
何の前触れもなく轟音が辺りに鳴り響いた。刹那が急いでドアを開けると外は火の海だった。
空には得体の知れない怪物が10匹飛んでいた。不意に、その中のひときわ大きい怪物が手のひらから炎の塊を放った。その塊は勢い良く地上に落ちていったかと思うと、民家を焼き、火柱を上げて燃え盛った。もくもくとあがる煙、民家を焼く炎、そして人の断末魔の叫び、この情景はまさに地獄だった。
外の断末魔の叫びでダンは目を覚ました。あわてて外の様子を見たダンは、みるみる顔が青ざめていった。
「くそ、なんてことだ。」
ダンの声は震えていた。こぶしを握り締め、思い切り歯をくいしばっていた。
その様子のせいで、刹那の抱いていたおとなしそうというイメージは完全になくなっていた。
いまあるのは、憎しみだった。刹那にも分かるくらいの、憎しみだった。
窓の外の、燃え盛る光景、ダンはただただ見ていた。
{このままだとこの家も・・・}
行かなければ、頭にそんな言葉が浮かんだと同時に、
「ここは危険です。とりあえず避難しましょう。」
と言い、刹那の手を引っ張って家の中から連れ出した。が、
「分かった、分かったから手を離してくれ、自分で走れる。」
刹那が手をつなぐ事を拒否したので、ダンは先に家を出て炎をかいくぐってある方向に向かって全力で走り出した。もちろん、そのあとを刹那が追いかける。
しばらく走ると、小屋の前に着いた。森の中にあるその小屋は、猟師やきこりの小屋かと思うほどに、小さく、質素だった。
ダンは息を切らしながら小屋の扉を開けた。ぎぃー、ときしんだ音がドアから聞こえる。
ドアが開くと同時に、ずんずんと入っていくダンのあとに続き、恐る恐ると刹那が後から付いていく。
小屋の中に入ってみると、見た目とは裏腹に広く、天井も高かった。ダンは部屋の真ん中にあるテーブルを移動させ、その辺の床とあまり変わらないくらい精巧に作られた幅50センチくらいの地下への隠し扉を開けた。
「こっちです。」
と、ダンが刹那に呼びかけた。刹那はテーブルを元の位置に戻し、しゃがんで地下へと入っていった。
真っ暗だった。ダンがどこにいるかも分からない、と思ったのもつかの間。ダンが、懐から出したろうそくに火をつけたのである。ぱっと、闇が光に照らされ明るくなる。
「降りますよ、しっかりと付いて来てくださいね。」
「分かってるっての!」
なぜだかは知らないが、ダンがすごく大人っぽい。刹那はそう感じていた。
最初のころもそうだった。無理して長老なる人物に会いに行くときも無理するな、と止められ、小屋に向かうときも決してあわてずに炎を避けて走っていた。(初めてこんな事態に陥ったため刹那は非常に動揺していた)冷静沈着、まさにこの言葉がピッタリだった。
「どうしたんです?付いて来て下さいって言ったでしょ。」
ダンが少し降りたところで刹那に少々からかい混じりに刹那に呼びかける。
「わかったって!!」
刹那が少々むきになるのを、ふふっと笑いながら軽く流す。刹那は、少しだけ、怒りながらダンに付いて行った。
地下室へと続いている階段は思ったよりも長く、刹那はだんだん不安になってきた。
ところが2〜3分くらい降りたところで階段は終わってしまい、代わりに木で出来た大きな扉があった。