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第16話 偽者編4

鉄の胸当てと額当てをし、一撃死だけはしない必要最低限の防具を装着して、レオは夜の風が涼しい城壁の上に立っていた。


{思ったよりも少ないな}


そう思いながら徐々に近づいてくる国王軍を見つめる。

馬に乗って移動しているらしい、どどど、と音がする。軍の所々に暗闇を照らす明るい光が灯っている。たいまつである。ゆらゆら揺れながら、しかし速い速度でこちらに向かってくる。


{そろそろ、か}


マガジンを外し、左手で装填部分を押さえる。白色の光が暗闇を一瞬照らし、マガジンに弾が装填される。

国王軍があと数百メートルと迫って来る。それを見計らって右手の銃を動いている軍に向けて、引き金を引いた。


{・・・・・・・・悪い}


パンッ!と音がし、一発の弾が軍に向かって放たれた。ぐんぐんと近づいていき、前方の兵士の一人に当たる。と、





ボオン!!





弾が爆発し、ドーム状に炎が広がる。いっきに300人ほどの兵士が爆風を浴び、焼け死ぬ。


「なにがあったぁああああ!!」


「と、突然爆発して・・・・・」


軍隊がパニックに陥り、馬の手綱を引き、歩を止める。辺りを見回すが人の姿を確認できない。ざわざわ、と騒ぎがおき始める。

こうなってしまえば都合が良いのはレオである。相手が混乱し、自分を認識出来ていない間に連射すれば、だいぶ数が減らすことができる。


このチャンスを逃すわけにはいかない。


ぱっと城壁から飛び降り、混乱している軍に向かって走る。結晶化をしているため、速度が約2倍、文字通りあっという間に射程距離までたどり着いてしまった。銃を構え、ためらうことなく、撃つ。パンッ!と音がし、弾が軍めがけて飛んでいく。弾丸は再び兵士の鎧に当たり爆発する。爆風により、何十人もの兵士が空を舞い、焼け死ぬ。


「被害数はぁあああ!!」


「半数が爆発により死亡しています!」


ぐっと足を曲げ、軍を飛び越すように跳ぶ。浮遊している途中、真下の混乱している軍に向かって銃を構え、弾を3発放つ。パン!パン!パン!と3発の弾が軍めがけて飛んでいき、そして爆発する。混乱している軍は真上からの攻撃に気がつかず、爆発に巻き込まれる。残ったのは10数人。


「何なんだよこれはあああああ!!!!」


見えない敵の恐怖、もうじき死ぬかもしれない不安感、双方の感情にはさまれ、発狂する。

すた、と着地し、最後の一発を放つ。ためらうことなく、引き金を引く。

残った兵士の真ん中に向かって弾はとんでいく。弾は地面に当たり、辺りは爆発とその爆風に包まれた。

焼け焦げた臭いが鼻に刺さる。人の焼けた臭い、血の焦げた臭い。

人をたくさん殺してしまった、かつての国民、兵士を。自分の仲間を、たくさん殺してしまった。

しかし、間違ったとは思っていない。昔は仲間でも、今は敵なのだから。自分たちの居場所を壊す、敵なのだから。

そう割り切ったはずなのに、頭に何度も敵だと呼びかけたのに、なぜか涙が出てきて、


「みんな、ごめん・・・・・・・・」


自然に口が動いてしまっていた。




++++++++




沈黙があたりを包み、10分が経とうとしていた。

刹那、リリアは(大臣は人々にもしもの準備を呼びかけているためいない)レオの帰りをただひたすら待っていた。レオが出て行ってから二人は一言も話をしていない。刹那は自分の無力さに打ちひしがれ、リリアは兄の無事を祈っている。会話も必要ないといえば必要ないのだが。

外は先ほどよりも少し騒がしくなったみたいだった。聞こえなかった大人数の声や、カチンと金属音のぶつかる音がする。この城の人たちも、大臣の声により、ようやく戦闘の準備を始めたようだった。


{レオ、大丈夫かな}


不意にそんなことが頭をよぎる。前の世界でもそうだった。

刹那は心配性なのである。昔、母が仕事の都合で何日も家に帰らなかったときも、わざわざ仕事先に来て安否を確認してたし、友達が転んで膝をすりむいたときも、おおげさに救急車をよんでいた。

そんな性格の刹那が、戦場に行ってしまったレオの帰りを黙って待っているのには理由があった。レオの言葉である。

お前の気持ちもわかる、と言っていた。恩返しをしたいという気持ちをわかるといってた。だったら、きっと何かをさせてくれるはずだ。生きて帰ってきて、きっと何かを自分にさせてくれる。その思いが、自らも戦場に赴くという感情を抑えていた。

自分の命がなくなるかもしれないという恐怖感はまったくなかった。というよりも、その思いに押しつぶされていた。それほどその思いは強く、揺るがなかった。

沈黙の場、刹那は密かな思いを胸にただひたすらレオの帰りを待つ。が、


「刹那さん」


リリアの声で、はっと我に返った。

あわててリリアのほうを向きなおり、顔をみる。寂しい、不安、そんな感情が混ざり合った、悲しい顔をしていた。


「兄さんのこと、心配ですか?」


あたりまえだ、と大声を出すところだが、今大声を出してしまうとリリアが泣き出してしまいそうなので、こくりと頷いた。


「私も兄さんが心配で、つらいの」


そう言うと、リリアは顔を下に向け、その壮麗な顔は更に悲しくなった。


「でも、一番つらいのは兄さんなの」


そう言うと少し間を置き、再び口を開く。


「つらくないわけがない。敵と割り切ってるって言ってたけど、仮にも自分の仲間だよ?そんなこと、できるわけない」


そのことは、わかっていた。いままで共に過ごしてきた人を殺す。普通に自分では無理だ。人を殺すのにも勇気がいるのに、近くの人を殺すことなんてできるはずがない。レオも、平気なふりをしていたが、心の奥はやりきれない思いでいっぱいなのだろう。


「兄さんはきっと全員殺して帰ってくる。私が心配しているのは兄さんの安否じゃなくて、殺した後のことなの」


「殺した後?」


普通、戦場へ行ったものを心配するとしたらその者の体の安否である。怪我をしていないだろうか、死んでいないだろうか、などの心配をするはずなのだが、リリアはその後のことを心配している。なぜだろう?


「いままで近くに居た人を殺して、正気でいられると思う?」


「・・・・・・・・」


無理だ、と思った。少なくとも、自分は無理だと思った。


「もしかしたら、心が壊れてしまうかもしれない。そしたら私、私・・・・・・・」


そう言った直後、リリアは兄を、レオを心配するあまり泣き出してしまった。二人しかいないレオの部屋に、リリアの泣き声は響き渡る。


{何考えてんだ、俺}


自分以上にレオを心配している人がここにいるじゃないか。他人の自分よりも、身内であるリリアの心配の方が大きいに決まっている。

だったら、もう心配なんてする必要なんてないじゃない。泣き出すほど心配しているリリアがいるのだから、自分はそのリリアを慰めなければいけない。自分まで心配している顔をしていたら、リリアの心配は大きくなるばかりだから。


「レオって、強いんだろ?」


「はい?」


泣き出すリリアに励ましではない言葉をかけた。言われたリリアはいきなり聞かれたことに少し戸惑い、短い言葉で返す。


「だからさ、レオってすごく強いんだろ?」


「はい。とても戦闘センスがあって、とっさの判断力にも長けている。それにどんな状況でも諦めない強い心を持つ、とても強い人です」


泣き腫らした目で静かに、でも誇らしげに兄の強さを語る。子どものころから一緒に国王の訓練に耐えてきたのだ。そんなことくらいわかっている。

それを聞くと、さっきの不安がっていた表情を消し、笑ってリリアに言う。


「それだけわかっているんだから、信じてあげないと」


「え?」


「それだけ自信を持ってレオのことを言えるんだから、きっと大丈夫だって思わないと。最悪のことを考えても結果は変わらない。だったら明るい考え方でいかないと損だろ?」


「・・・・・・・・」


刹那なりの慰め方はとても変なものだったが、それでも本人は精一杯の慰めなのだろう。少し赤い目をしたりリアはふふふと笑い、


「ありがとう、刹那さん。だいぶ気楽になったよ」


刹那に礼を言う。


「うん、きっと兄さんなら大丈夫だよね。あんなに強いんだからね」


さっきまでマイナスだった思考を、刹那の言葉がプラスへと変えていた。刹那は特別言葉の使い方がうまいというわけではなかったが、ただ慰めたい一心で言った下手な言葉でも、リリアの不安を充分取り除くことができた。

―――一方レオのほうも、心に大きな傷を負ったものの、心が壊れてしまうというまでは至らなかったため、一応杞憂に終わったといっても良いかもしれない。




++++++




「・・・・・・・・・・」


思ったよりも、くる。

人を殺すのはこれが初めてというわけではないが、今回はかなり、くる。

今まで殺してきたのは町の人たち。つい何ヶ月前までは剣や鉄砲の変わりにくわを持って畑を耕していた人たちだった。ずっと城の中で暮らしていたため、その人たちとは関わりがなかった。だから、あまり気にかけず殺すことができた。―――もちろんつらかったが。

でも、今回の人たちは・・・・・


「・・・・・・・・・」


見たことのある人たちが大半だった。

一気に今の拠点としている城を潰すのだから、訓練した人間でなければいけない。そのため、今までは兵士を無駄に失わないために町民を戦場に駆り出していたのだ。―――全てはこの作戦のために・・・・・・・。

訓練した人間といえば兵士となる。その兵士の訓練は城などで行われ、レオもたびたびその光景を見ている。それに、国を守るための兵士なのだから城に居なければいけない。となれば、自然に顔を覚えていてもおかしくはない。それに優しい国王の息子ということで話しかけられ、仲良くなった兵士もいたりするわけだ。


「・・・・・・・・・」


断末魔の叫びは聞き覚えのあるもの。当然だ、一番仲の良かった兵士なのだから。


『お、君がレオ君か。私は守備兵長の役目につかさせてもらっているものだ』


『へえ、そうなのか。レオ君も大変なんだなぁ』


『私はこの国の王様が好きだ。もちろんこの国も好きだ。だからこうやってこの城の守備についてる、みんなを守りたいからここにいるんだ』


何回も話しかけてくれた。いつの間にか毎日話すようになっていた人。


「・・・・・・・・・」


城に帰還している足は、重かった。怪我をしたわけではないのだが、なぜか重い。まるで帰ってはいけないと、自分の足が言っているみたいだ。

でも、帰らないといけない。振り向いちゃいけない。まだ自分にはやらないといけないことがある。みんなとを国王に会って理由を聞かなければいけないということが。だから今は振り向いちゃいけない。少なくとも今は。

それに、早く帰らないとみんなが心配する。他人なのに命をかけた戦いに出るなんて言っている客人、いつも近くにいてオーバーなリアクションを取る爺、それに、泣き虫のリリア。みんな待ってる。帰らないと。


「・・・・・・・・・」


重たい足を引きずり、やっとの思いで強化された扉の前に着いた。開けてもらおうか?いや、まだ残党が残っているかもしれない。

左手をぐっと握り、その手が白色に光る。結晶化だ。

ぐっと足を曲げ、溜めた力を使い一気に地面を蹴る。勢いの強さにより、痛いくらいの風が顔に当たった。すた、とうまい具合に城壁まで跳ぶことができた。下を見下ろしてみると、おそらく全員だろう、城のみんながたいまつを持ち、おとなしく待機している。

ちゃんと言いつけは守ってくれたらしい。

ゆっくりと歩き、そしてみんなのいる城門の前に跳び下りる。


「レオさん!!」


「レオ様!!」


みんなから自分の名前を呼ばれ、レオは怖くなった。今から報告することが、言わなければならないことを言うのが怖くなった。


「レオさん、怪我は?」


「・・・・・・・・ない」


自分の心配を先にしてくれたのはありがたかった。でも、自分の安否を確認した後はおそらく、敵のことを、あいつらの事を聞いてくるだろう。


「それで、あいつらは・・・・・・・・」


言いたくなくても言わなければならない。それが義務であり、またこいつらのためなのだから。

重い口をゆっくり開き、言葉を絞り出すようにみんなに伝える。


「みんな、一人残らず・・・・・・俺が殺した」


「・・・・・・・そうですか」


聞いたとたん、力が抜けたようにうつむく。


「悪い、少し疲れたから部屋に戻る」


言うことを言ったら、ごまかしの入ったいいわけで自分の部屋へ、逃げるように帰っていった。これ以上この場に居たくない、みんなから『仲間殺し』なんて呼ばれたくない。

少し早歩きで階段を上がっていく。

なんだか、その夜の風はなんだか少し冷たくて、なんだか寂しくて、より一層レオの悲しみを深くした。

無意識に足を動かしているうちに、いつの間にか自分の部屋の前にたどり着いていた。


{今日は、寝よう}


扉に手をかけ、力を込める。ゆっくりと扉は開き、部屋の明かりが目に飛び込んでくる。まぶしい光に目が慣れるまでの間、白いものに包まれるような感覚に陥る。





ドンッ!!





不意に胸に衝撃が走り、あお向けに倒れこむ。


「いててて・・・・」


背中に痛みが走った。いや、痛みより気になるものがある。なんだが、腹に重みを感じる。それに、やわらかい。物ではないらしい。なんだろう。

徐々に徐々に目が光に慣れてくる。だんだん腹の重みの正体があらわになる。


「兄さん!!兄さああん!!」


銀色の髪の毛、小さい体。

リリアだ、泣き虫なリリア。ほんのちょっとの事ですぐ泣き出してしまう、妹。

よっぽど心配だったのだろう。自分の胸から離れようとしない。


「おかえり、レオ」


刹那もいる。リリアとは逆の、やっぱりそうだという顔をしている。


「刹那、どうしたんだこいつ」


「よっぽどレオのことを心配してたみたいだった。あんまり妹を泣かせないほうがいいよ」


笑みを浮かべながらレオにリリアの先ほどまでの様子を伝える。


{まったく、こいつは・・・・・}


こんなに泣かれちゃ、俺が悲しめないじゃないか。そう心の中でつぶやき、泣き虫な妹の銀髪の頭を優しくなでた。

終わらせなければならない、この戦いを。一刻も早く。


「さぁ、明日は早い。今日は寝るぞ」


この城のみんなのため、いままで殺してきた人のため、そしてリリアのため。


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