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第15話 偽者編3

レオは早足で階段を下り、あっという間に入口付近にたどり着く。もちろん刹那とリリアも後から付いてきた。城の人たちはみんな入口の防御を固めている。


「入口だけじゃなく、この城の城壁全て強化してくれ。入口から入ってくるとも限らないからな」


入口の扉の前でうろうろしている人たちに、嫌味ではない声をかける。

一斉にはいっ、と返事をし、それぞれ四方八方に散っていった。レオも手に金槌をもち、扉の強化にあたる。リリアも腕まくりをし、服に似合わない格好で城壁の強化にあたる。


「刹那、おまえもこっちで手伝ってくれ」


うろうろと何をすれば良いのかわかっていない刹那に、レオは金槌を投げる。おっとっと、と危なげにそれを受け取り、やっと刹那も強化にあたった。

{えっと、この板を打ち付けるのかな?}


じぃ〜、と周りの人たちの仕事を見る。

その様子をまねて、床に置いてある大量の板を、山積になった釘で打ち付ける。

とんとん、とんとん、ひたすら板に釘を打ち付ける、意外にも難しい。みんなは手際良く打ち付けれるのだが、どうも刹那には荷が重かったらしい。


「う・・・・・・、これは・・・・・・」


曲がっていた、それも1、2、センチではなく、斜めになっていた。刹那も決して器用な方ではないし、なにせ始めてやる事だからうまくいかないのも無理はないのだが。


「やり直しておくべきだよな。これじゃ、あんまりだ」


しぶしぶ板を外す、はずなのだが、


「あ、あれ?」

外れない、釘を強く打ちすぎたみたいだった。それもそのはずだ。釘の周りには、金槌で叩いた跡がしっかりと残っている。

釘VS刹那、今壮絶な戦いが幕を開ける。

必死に取り外そうとするが、四隅に打ちこめられた釘がそうさせない。しかし、刹那もそれを超える力を出そうと踏ん張る。


「ふん、ぬぬぬううう!!!」


外れない、外れない、外れない。ありったけの力を振り絞るがどうしても外れない。もはやこれまで、と刹那が諦めかけたそのとき、救世主は現れた。


「なにやってんだ、刹那」


レオが呆れたような(本当は呆れている)声を出して現れた。

ふんふん、と刹那の打った板を見つめ、はぁ、とため息をついた。一目でわかった、これは無理だと。


「刹那」


「な、何?」


妙に優しい声でレオは刹那に話しかける。そして、刹那の両肩に手を置き一言。


「がんばれ、俺は忙しい」


「は?」


そうして唯一の救世主は去っていった。

ちなみに、刹那の張った板は、中の人たちによって無事取り外された。こんな大事なときに、まったく、何をやっているんだか、そう思わずにはいられない滑稽極まりない光景だった。



+++++



見張りが撤退し、城壁の強化も十分すぎるほど行ってから数時間が経ち、あたりはすっかり夜になっていた。

夕食を食べ終わった(刹那にとっては最初の異世界の食事となった)三人はレオの部屋に入り、レオとリリアの二人は刹那の話に耳を傾けていた。話題は対ラチス戦のことだった。


「へえ、それでおまえはどうしたんだ?」


「いや、よくわかんないけど黒い霧がでかい剣になって、それで倒したんだよ。無我夢中だったから、怖いって感じなかったな」


「へぇ、それじゃあ刹那さんも『能力者』なんだ」


なにげなく言ったリリアの一言だが、そのことに刹那が反応した。


「リリア!何か知っているのか?」


がっつくようにリリアに問い詰める。

そうなんだよ、と答えると思っていたリリアは、完全に意表を突かれてしまった。てっきり刹那は自分の能力のことを知っていると思っていたからだ。

びっくりしているリリアのことを思って、レオは刹那をなだめ、座らせる。


「刹那、お前知らないのか?」


驚いたように刹那に問いかける。刹那は黙ってうなづいた。

わかる訳がなかった。刹那もこの能力について早く知りたかった。この得体のしれない能力について教えてもらいたかった。


「う〜ん、それじゃあ刹那、お前の言ってた黒い霧っていうのを出してみろ」


言われたとおりにしようと、黒い霧のイメージを頭に思い浮かべる。徐々に体、手から黒い霧が出てくる。よし、とレオは次の説明に入る。


「その霧は『魔力』を具現化した物なんだ。魔力は普通体内を巡っているもので体外に出すと・・・・」


そのとき、刹那の周りの黒い霧が、刹那の体に戻っていった。


「自動的に体内に戻る仕組みになっているんだ。次はお前の魔力で大剣を形成してみろ」


再び黒い霧をイメージする。体、手から黒い霧が出て、それを大剣の形になるよう頭に思い浮かべる。そして、刹那の魔力は大剣の形になり、黒い刃の大剣が刹那の手に握られた。

「それが『結晶化』と呼ばれるものだ。魔力が体内に戻る前に魔力を圧縮し、固体にする。その固体は人それぞれ違った『戦闘用具』になる。その戦闘用具のことを『結晶』というわけだ。それで、魔力を持ち、自在に操作できる人間を『能力者』と呼ぶわけなんだ。結晶を出している間は体の中の魔力が活性化し、通常時の2倍の身体能力が備わる。わかったか?」


レオの問いに、刹那は頷く。

正直、こんな能力を持っていても、全然うれしくなかった。こんな能力、人を傷つけることにしか役に立たない。そんな能力、自分は要らない。そんな様子を見たレオは、励ましの声をかける。


「別に落ち込むことなんてないぞ。魔力は大半の人間が持っているし、それを使えるか使えないか、それだけの話だ。現に俺も能力者だしな」


えっ、と刹那はレオの顔を見る。自分と同じ能力を持っている人がいる。そのことに、刹那はほんの少しの、いや、かなりの喜びを感じた。

見せてやろうか、と言って腰の銃を右手に取る。そして、銃のマガジンを取り出し刹那に見せる。中には弾が装填されていなかった。


「中に弾はないな?」


そう言うと、弾の装填部分をぐっと手で押さえる。

すると、レオの手が一瞬白色に光り、その瞬間、カチャカチャとマガジンから音がした。


「ほら、弾があるだろ?」


といってマガジンを見せる。先ほど見たときにはなかった弾が装填されていた。そのことにあっけに取られている刹那の姿がおかしくて、くすくすとリリアは笑う。


「手品?」


言った瞬間、刹那の頭にレオの拳が振り下ろされた。

いて〜、と頭を押さえる刹那にレオは呆れたように声をかける。


「見せてやるって言ってるのに、手品見せてどうするんだよ。まったく・・・・・・・」


ガチャン、とマガジンを銃にしまい、腰に戻す。


「に、兄さんの結晶は弾なんです。だ、だからとても銃使いにとっては都合の良い能力なんですよ」


刹那とレオがあまりにおかしくて涙目になって答えるリリアは、言い終わった後、笑い崩れてしまった。むっとなったレオは、リリアの頭めがけて拳をを振り下ろす。


「いった〜い。何するのよ兄さん」


「なんとなくだ」


頭を押さえて痛がるリリアにレオは無茶苦茶な理由で弁解した。なによそれ〜、言いながら、リリアはレオにかかっていった。

ばたばたという音が部屋中に鳴り響き、ギャーギャーと叫び声が聞こえる。そんな二人の姿は、仲の良い兄妹そのものだった。



+++++



数分後、レオとリリアのじゃれあいは治まり、再び会話に入る。話題はレオとリリアの修行時代のことについてだった。


「あの時は本当に大変だったな」


「うんうん、二人でお父さんにかかっていっても歯が立たなかったもんね」


「へぇ、大変だったんだな」


昔、まだ国が平和だったころ。レオとリリアの二人は、親である国王に訓練を受けていた。小さいころから国王に、『いざとなったら民は自分の力で守れるようになれ』、といわれ続けてきたため、幼いころから手に銃を持たされ、過酷な訓練を続けてきたのだという。

レオが12、リリアが10のとき、中間テストと称し開始されたのが2対1の真剣勝負。チーム編成はもちろんレオとリリア、国王、という具合。ルールは当たると色のつく弾を一発づつ所持し、チームの人間一人でも当たったら負けというものだった。

有利になったのはレオ達なのだが、いくらなんでも実力の差がありすぎる。まだ幼いレオたちは正面から挑んだが、あっけなく撃たれて再テストとなった。


二回目の中間テスト、レオは正面からかかっていくのは無理だと判断し、二手に分かれて勝負することにした。が、国王にしてみれば「どちらでも、弾が当たれば自分の勝ち」だったため、片方に集中して戦った。弾も制限され、二人で無理だった相手に一人で勝てるわけがなく、再び再テストとなった。


三回目のテスト、「おびき寄せる」という形をレオは取った。リリアをポイントまで移動させ、自分は国王を移動させるように離れていく。銃弾は一発限りなのでむやみには撃てないはずだから、充分よけれる距離を保ちながら移動する。どうにかリリアの隠れているポイントまでたどり着いたレオは、国王に向かって発砲する。『充分よけれる距離を保っていたため』、国王はひょいとよける。と同時にレオとの距離をいっきに縮めた。もう弾はない、となれば自分が撃たれる心配はない。リリアがどこかに隠れているはずだが、撃たれる前に撃てば良い。そう思い、射程距離にレオが入った瞬間、引き金に人差し指をかけ、発砲した。充分近い距離のため、レオはよけることが出来ず、弾に当たり服が青色に染まる。

もう一回だな。国王がレオに言うが、レオはにやりと笑い、俺たちの方が早かったよ。と国王に言う。服を引っ張り、背中を見てみると、青色に染まっていた。後ろにはニコニコ笑っているリリアが立っていた。


当たる前に当てれば良い、この考えは何も国王だけが持っているものではなかった。

リリアが隠れているポイントまでおびき寄せ、弾を撃つ。弾が一発だけなので、それを使えば迷わず突っ込んでくる。標的は『レオのみ』になる。リリアは標的からはずれる。

その一瞬を狙い、リリアは撃つ。という具合に、国王は先に撃たれたことに気がつかず、レオに撃った、ということになる。


「大変だったな、あの時は。気に入ってた服は青くなっちまうし、親父は負けず嫌いだから認めない認めない言ってたし。まったく、説得するのが大変だったぜ」


「ほんとほんと、いくら言っても俺が早かった、なんて言っててね」


「そうなのか。ずいぶん苦労したんだな」


そのまま感想を述べた。今は笑っているが、昔は大変だったのだろうと思う。


「でも、大変だったのはそのあとだったんだよ、刹那さん。センスのある兄さんはどんどん上達していったけど、私は全然駄目でね、いつも怒られてたんだ〜」


言い終わるとちらとレオの方を見てもう一言。


「ま、そのたびに兄さんから優しく慰められたんだけどね」


いたずらっぽくふふ、と笑う。レオは少し赤くなり、


「な、なに言ってる。俺がいつそんなこと言った」


とぼける。刹那にもこれは嘘だとわかるくらいに、レオは動揺していた。その姿が可愛いくて、リリアはからかう。


「確かねぇ、『お兄ちゃんがついてる、だから────」


「だぁ〜〜〜!!!!言うな、言うんじゃねぇ!!」


あわててリリアに跳びかかるが、ひょいとかわされ、ずででと情けない音を立てて転ぶ。


「あとねぇ刹那さん、『なにがあっても、俺が────』


「やめろ〜!!リリアぁぁぁぁ!!」


最初に見たときのレオ姿とはあまりに違いすぎていた。余裕があり、知的な雰囲気だったのに、今ではリリアにいいように弄ばれている。その様がおかしくて、おかしくて笑いがこぼれてしまう。

和やかな部屋の中、異変は突然起きる。





バーンッ!!





扉の勢いよく開く音が耳に伝わる。さっきの動揺とは一変し、緊迫感のある表情でレオは銃を構える。


「た、大変です。国王軍が攻めてきました!」


さっと銃を下ろし、大臣に近づく。


「あとどれくらいでここに到達する?」


あごに手をやり、考える格好をとって大臣にたずねる。


「あと10分ほどで」


何か理由があるのだろうか、大臣はかなりあせっていた。


「数は?」


「そ、それが・・・・・・・・・」


言うべきなのであろうが、どうして言い出せない。口の中でもごもご、ということしか出来ない。


「数は?」


もう一度、大臣に聞く。さすがに言わないわけにはいかず、大臣は答える。あまりに絶望的な数を。


「約2000です・・・・」


{・・・・・・・覚悟の時、か}


それを聞くとふっ、と笑い、レオは歩き出した。


「爺、誰も外に出すなよ。俺が出る」


「しかし!!」


大臣はあわてて引き止めた。

最低でも数は2000人。それも、鎧、剣、銃を持った完全武装、これに一人で立ち向かう人を引き止めないわけにはいかなかった。自分たちの大将が出て行くというのだからなおさらだ。

と、方向転換。爺の方を向き、肩をつかむ。強く、つかむ。


「なあに。この国で俺に勝てるのは親父だけさ。2000人でも、な。わざわざこんなところに大将が来るわけないから、なんとかなるさ」


それだけ言い残して、レオは部屋を出る。

はずだったのだが、


「俺も行ってもいいかな」


刹那の声でレオの歩は止まった。


「刹那さん?」


隣にいたりリアは信じられないといった顔で刹那を見る。自ら戦場に赴くというのだ。なんの関わりもない青年が。しかも、2000の武装兵に。


「・・・・・・・・気持ちはうれしいが、もう追い返すだけじゃ済まなくなったんだ」


レオは残念そうに、そして悔しそうに言う。

リリア、大臣は意味がわかったようだが、その言葉が何を意味しているのか、刹那には理解できなかった。追い返すだけではもう済まない?ならばどうしようというのか。


「今まで追い払えたのも、攻めてくる郡の数が少なかったからだ。でも、今回は違う。2000の大規模な数でここを潰そうとしている。策を仕掛けても、それをかわしてくる奴らが必ずいる。だから今回は策を仕掛けなかった」


まだわからなかった。絶対的な数なのに、策も仕掛けないでここにいる意味がわからなかった。


「今回は、殺さなければならない。向かってくる敵全員」


耳を疑った。あんなに、あんなに人のことを想っているレオが、かつての国民や兵士を殺すと言った事を信じられなかった。否、信じたくなかった。自分の耳がおかしくなったと本気で思いたかった。


「俺一人で行くって言ったのも、こっちの兵士の手でかつての同士たちを殺させたくなかったからなんだ。そのぶん、俺はこの城に向かってくる敵を殺すことをためらわない。完全に『敵』と割り切ることができるのは俺だけだからな。」


言っている意味をようやく理解することができた。でも、信じたくなかった。レオがあんなことを言ったことを。


「お前に覚悟はあるのか?人を殺す、命を奪う覚悟が」


刹那は固まった。勢い良く言ったはいいが、そのことを考えてはいなかった。

無理に決まっている。訓練を行っているのならまだしも、そんなことには無縁のただの青年に、人を殺すなんて出来るはずがない。いままで人なんて殺したことなんてなく、殺す勇気もない。


「・・・・・・・・・無理、なんだろ。できないよな、話を聞く限りじゃ化け物しか倒したことがないだからな」


言うと、レオはくるっと扉の方を向いた。そして足を動かす。行くつもりだ。


「お前の恩を返したい気持ちもわかる。でも、今はここで待っていろ」


ばたんと扉を閉める。そして向かう、戦場へ。


「兄さん・・・・・・」


リリアは気持ちを声に出し、想う。どうか無事に帰ってきますように、と。

刹那はというと、自分の無力さに打ちひしがれていた。何もできない自分の手を見つめながら、そう思っていた。


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