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第14話 偽者編2

「俺の親父は王様なんだ。しかも、かなりのお人好しの王様がな。城下町で騒ぎが起こったりしたら、まず自分がその場に行く。王様がだぜ?無法者たちが暴れだしたときだって、だまって城を抜け出してとっちめちまった。変な王様さ」


飽きれたようにため息をつく。しかし、次のことを語る際に、微笑みによく似た表情になっていた。


「でも、すごく強いんだ。俺も、親父に銃の撃ち方から体術まで全部教わった。

昔、この国の王様になるまでは、親父の親友と一緒に賞金稼ぎやってたらしいんだ。親父が使うのは両手のハンドガンのみ。狙った獲物は逃がさない。凄腕、だったんだそうだ。その親友は親父が王様になったときに行方不明になったらしい」


熱っぽく語ったあと、前置きは本題へと変わった。


「町の人間からも愛されていた親父が変わっちまったのは5ヶ月くらい前のことだ。理由を無理やりこじつけて処刑したり、トラブルがあっても救援なんて絶対しなかった。

もちろん俺は怪しく思った、当然だろ?問い詰めたんだ、親父に。なんでこんな酷いことするんだ、って。そしたら、牢屋に入れられた。理由なんてない、ただ『うるさかった』だけらしい。

でも、その夜、爺が牢屋から出してくれた。爺に助けられなかったら確実に処刑されてた。明らかに違ったんだ、以前の親父と。まるで別人だ。爺も同じ考えだったらしくてな、俺は爺と一緒に、妹を連れて逃げたんだ。同時に、親父に不信感をもった兵士も、ひどい扱いをされてる町民も、全部逃げたんだ。あの国から、あの親父から、な。でも、残ったやつもいた。親父を心から信頼して、あの人がそんなことをするわけがないって最後の最後までかばっていたやつだ。そいつらはたぶん、兵士になって戦場に駆り出されたり、とっくに殺されているかのどちらかだろうな」


ふぅ、とため息をつき、一度話しをやめた。

酷い話だ、と素直にそう思った。なんで変わってしまったのだろうか。いままでは優しい王様だったのに、なぜいきなり人が変わったようになってしまったのだろうか。

大臣の方に目をやると、少々青ざめた顔でうつむいている。よほど辛いことだったのだろう。当然だ。無罪の人間を処刑されているところを見て、うれしいはずがない。


「俺たちは協力してばらばらになった町のやつらを集め、この城に集結させた。そしてみんな決めたんだ。親父を倒すんじゃなくて、もう一度話しをしようってな。親父が変わってしまった理由でもなんでも、聞きたかったらしくてな」


希望というやつがまだ途絶えていなかった。

レオを中心に人々は団結し、必死になって望みを果たそうとしている。王様の変わってしまった原因を知ろうという望みを、果たそうとして。

それを知り、原因を解決できれば、元の王様に戻るかもしれない。そんなことを考えながら、今日も戦っているのだ。

しかし、その望みのために犠牲になった人がどれだけいるのだろうと考えると、やっぱり悲しくなってくる。戦いなのだから、という理由で、人は殺しても、殺されても良いのだろうか。


「この戦いで、何人死んだんだろうな。」


思ったことを口に出す。

出してもしょうがなかった。あまりにひどい現実を目の当たりにしたのだから。


「教えてやろう、刹那。」


レオがしぼんでいる刹那に向かって言う。刹那はそんなことを聞くつもりではなかったのだが、断る前にレオの口が開いてしまっていた。


「こっちの被害人数はゼロだ。一人もこっちの軍の人間は死んじゃいない」


驚いた。嘘もここまで堂々と言えることなのかと、非常に驚いた。

戦いで死人が出ないはずがない。戦いというのは殺し合いだ。それなのに一人も死んでいないという。明らかに矛盾していた。ありえないと、割り切ってしまおう。


「レオさんの考え出した策はすごいなんてもんじゃないですよ。真正面から激突させるなんてこともなかったし、命を第一に考えて行動させていましたしね。それに、レオさんが戦いに出るなんてことになると、相手なんて全滅ですよ、全滅」


興奮気味に、刹那に一方的に話す大臣の姿は、初めてカブトムシを捕まえた子どものようだった。

大臣の話し方から、これは嘘ではないことにようやく気がついた。戦いで死人が出ないなどということなど前代未聞、ありえない話だったため、信じることが出来なかった。


「さすがに、怪我の方まではカバーできなくてな。あいつらには悪いことしちまったな」


苦笑しながらレオは事実を話した。

とんでもないことを言ってくれる。死人を出さないだけでもすごいのに、怪我の方まで気にかけているのだ。

刹那は、なんとなくレオに付いていってる人たちの気持ちがわかった気がした。

この人に任せれば大丈夫、特別思ったわけではないのだが、なんとなく、ただなんとなく、そう感じた。

ギィー、と音を立て、正面の大きな扉がゆっくりと開いた。

レオはすかさず右手の銃を扉に向ける。カチャ、と冷たい金属音が辺りを緊張させる。緊迫した空気が刹那たちを包み込みこむ。が、


「兄さ〜ん、入るよ〜」


それは、大人の女性の声とは違い、まだ成熟していない女の声によってうちけされた。その声が耳に入るなり、レオはゆっくりと銃をおろした。


「扉開ける前に言うもんだ、そういうのは」


徐々に見えてきた、声とは違い、大人っぽい姿の女性に声をかける。

髪の色はレオと同じ銀、瞳は深い青色のレオとは対照的な、空のような淡い青色。身長こそ小さいが、それを感じさせないくらいの清らかな姿。


「別にいいでしょ〜、兄妹なんだから」


あのなぁ、と小声で言うのを無視し、ふふ、と笑ってこちらへと近づいてくる。こつこつと床に靴がぶつかる音が広い部屋の中に響いている。


「あ、この人?兄さんの作戦に引っかかっちゃった人?」


言うなり、まじまじと刹那の顔を覗き込む。

長い髪、大人な雰囲気、それらとは逆に子どものような話し方。それゆえ、馬鹿にしている感じはまったくなく、興味本位で聞いているという風にしか感じ取れない。


「ああ、刹那って言うそうだ。しばらくはここに居させる」


レオの居させる、ということは本人の意思を無視して強制的にさせると、と解釈してよさそうだった。


「そう、始めまして刹那さん、私はリリア・ヴィンスタール。レオ・ヴィンスタールの妹だよ」


にっこりと笑って自己紹介をするリリア。妹、レオの妹。でも、似ていない。髪の色と目の色は似てはいるが、顔が全然似ていない。他人と言ってしまえば本当にそう思えるくらいに、二人は似ていなかった。本当に兄妹なのだろうか?

「似てないな。二人とも」


思わず感想を述べる刹那。すると、レオがははは、と笑い出し、


「よく言われるんだ、似てないって。似てんのは髪と目だけなんだけど、種族が同じだと、他人でもまったく同じだって場合があるから、これが兄妹の証明にはならないからなぁ」


と、他人事のように言うレオ。自分たちの問題だというのに、のんきなものである。


「似てようが似てなかろうが、兄妹は兄妹なんです〜」


リリアは頬をふくらませ、すねてみせた。

これが刹那とレオとリリアの出会いとなった。



+++++



「で、何の用だ?なにか用事でもあるんじゃないのか?」


レオがリリアにたずねる。


「そうそう、付近で城の見張りをしていた国王軍が撤退したの。何かあるんじゃないかと思って」


先ほどの空気が一変、深刻なものと変わった。レオはあごに手をあてて、考える格好をした。


「妙だな、見張りを解除しても何のメリットもないはずだが」


見張りというものは、普通相手に見つからないよう、隠れて行うものである。しかし、国王軍は隠れる様子もなく堂々とこの城の様子をうかがい、さらに少人数構成ではなく、わざわざ人手を増やし、一つの『軍』として置いている。だが、レオの軍はそれを討滅しようとはしなかった。放っておけば、こちらの動きを相手に知らせるということになるのに。


理由として、こちらの軍はあまりにも戦力がなかったことが挙げられる。向かってくる意思のない敵に、少ない戦力で立ち向かうという無駄なことをレオはしなかった。否、させなかった。こちらにも訓練した兵士がいるとはいえ、国王軍の方がその兵士の数が圧倒的に多い。武装し、訓練を受けていて、なおかつ数の多い国王軍を打ち負かすということは無理だ。

そのため、レオは相手を全滅させるのではなく、追い返すという形でこれまで戦闘を行ってきた。相手の動きを読み、その先に罠を仕掛け、相手の戦闘能力、あるいは戦意を奪うという正面からぶつからないやり方をしてきたのである。しかし、動きがなく、ただ様子を見ているだけの見張りに、罠は仕掛けれない。相手が動かなければ罠の張りようがないのである。これも理由の一つになる。


更にもう一つの理由として、見張られていても別に困らない、ということだった。相手をただ追い返す、ということしか出来ないため、こちらは動く必要がない。だったら放っておいても良いだろう、ということで放っておいたのだ。

国王軍の見張りも、そのことを知っていた。こちらが向かって行かないのだから後退する必要も、動きがないのだから報告する必要もないのだ。ならば、なぜ撤退する?

しばらくレオは考える、はずだったのだが、ほんの1分程度経った後、がばっ、と継ぎはぎの玉座から立ち上がる。


「爺!外の部隊を呼び戻して城の守備を固めろ!!城に入る際、一人一人この城の者かの確認も忘れるな!」


「は、はい!!」


慌てて大臣は扉を開け、駆けていった。


「ど、どうしたの?兄さん?」


いきなり態度が豹変し、城の守備を固めるレオに問いかける。

先ほどの余裕のあった表情、目をは違う、何か妙に慌てている。見張りが撤退しただけなのに、なぜ守備を固める必要があるのだろうか。


「この城の報告をするのには誰か一人か二人出せば良い。食料の補給も場合もそうだ。わざわざ見張りを撤退して得られるメリットは一つ、国の兵力が増幅することだ。なぜ、増幅させたか、それは・・・・・・・」


レオは歩き出す、扉の方へ。刹那とリリアは少しあっけに取られてからレオに付いていく。


「全軍でこの城を潰すつもりだからだ!!」


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