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第136話 元凶編9

「―――ッ!!」



地面に倒れたと同時にレナの身体の強化は自然と解けた。レナの魔力の消費量は半端な物ではなく、両断された足の止血を施すだけでいっぱいいっぱいらしい。しかしながら、血こそ出ているものの、痛みが全く感じられないということには、さすがのレナも驚いたようだった。


だが、それもつかの間のこと。すぐさま自身のやるべきことを判断し、レナは動き出した。


レナのすべきこと。それは、自分の両断された足を治療することである。


正直、足を両断されている状態ではどう足掻いてもギアスに一太刀を浴びせることは叶わない。通常の状態でも難しいというのに、機動力の源である両足を奪われたとなっては、それはもはや絶望的だ。刹那を助け出すにしても同様、足がなければ話にならない。


戦うことも出来ず、救出も叶わないとなれば、レナは一刻も早く自身の足を治療するしかないのだ。足さえあれば、戦うことも刹那を救出することも出来る。他にいい策もないのだから、残されているこの一手を打つしか選択肢は存在しない。



「くっ……!」



すぐ目の前に落ちている足に、手を伸ばす。切り口から見える断面は、自分のものであるからか余計にグロテスクに感じられる。他人を治すことには慣れているレナであるが、自身がここまでの大怪我を負ったのは、ずいぶん久しぶりのことであった。



「長引くから、それは止めろ。面倒だ」



それだけ言って、ギアスはレナの両手を切り落とした。


何の躊躇もなく、本当に人を斬っているのかと疑いたくなるほどの自然さだった。


支えを完全に失い、レナは地面に倒れる。



「貴、様……ッ!」



あまりに残酷な所行に、レオが怒りの声を発する。


しかし、そんなレオを見てギアスが笑う。



「うろたえるなよ若造。どうせ、先に逃がした娘が治せるのだろう」



一度切断したはずの刹那の腕が綺麗に治っていたことから推測したであろうその答えは、もの見事に正解していた。とは言っても、その答えを導き出すことは別に難しいことではない。冷静になって考えてみれば、誰だって想像ができる。恐ろしいのは、治るからという理由で何のためらいもなく刹那とレナの四肢を切断した冷酷さだ。


罪悪感のかけらなど欠片ほども見せず、これほどまでに平然と人を傷つけるなど、『狂っている』としか言いようがない。螺子が2、3本どころの話ではない。全ての螺子が吹っ飛んでいると言っても通じそうなほどの狂気を、ギアスは醸し出していた。



「さぁ、残りは貴様だけだ。精々足掻け」



「……言われんでも、元からそのつもりだ」



言うなり、レオも『眼』を発動させる。刹那もレナも戦闘不能になった今、流れ弾を当ててしまう心配はもはやなくなった。遠慮なくやれるというものである。


とは言うが、それはあくまで通常の弾丸に限定される。ここで大規模な威力を持つ弾丸を乱射すれば、動けなくなっている2人の他にも、隠れているリリアも巻き込みかねない。そのため、先ほど使った『重力』のような芸当は使うことはできない。無暗矢鱈に使ってしまえば、2人の胴体はおろか、そこら辺に転がっている四肢さえも失くしてしまうかもしれないのだから当然だ。


だが、心配には及ばない。レオの『眼』を発動させた時に使用できる『超集中力』。ギアスの能力が『加速』と『減速』のみに限定されていれば、物事を全てスローモーションで見ることのできるレオの能力は決して不利には働かない。有利にさえなるかもしれない。


しかし、それはあくまで実力が伯仲していればの話。長年培ってきた経験と技術。それを持ち合わせているギアスとレオでは、積み上げて来た物が違いすぎる。能力の相性を考えても、これでトントンといったところだ。


……それでいい。


相性が悪くないだけマシである。


絶対に一矢報いてやると、レオは地面を蹴って横へと跳び、両手に握られている『神爆銃』を連射した。



「……ふん」



何の問題があるのかと言わんばかりに、ギアスは目を細めて弾丸を紙一重で躱した。別に、ギリギリでなければ避けられなかったわけではない。避けるために使う動作を最小限に抑えただけだ。それほど、ギアスにとってこの攻撃は大したことのないものだったのだろう。


弾丸を放ったレオとしても、避けられるだろうということは予測済みである。刹那とレナをこれほどまでにあっさりと倒したギアスが、この程度の攻撃を避けられないなどあるわけがない。


それがわかっていたからこそ、レオは迷うことなく作り出した弾幕の範囲を広げた。その広さに比例するよう引き金を引く回数を増やし、豪雨のような弾丸をギアス目掛けて撃ちまくる。連射する際には、レオの結晶である弾丸は便利なことこの上ない。魔力の供給さえ怠っていなければ、リロードの心配などいらぬマシンガンへと変貌を遂げるのだから。


しかしながら、そのままギアスを中心とした弾幕を展開したとしても、再び『加速』されて脱出されてしまえば意味がない。それどころか、弾丸を搔い潜られて接近されてしまう可能性だってある。


だからこそ、レオが弾幕を展開した先はギアスの動く先だった。いくら加速をしようと、最初から展開されている弾幕をくぐり抜けることは不可能だ。速さの問題ではなく、弾丸と弾丸の隙間がほんの2、3cm程度しかないのだから、人間の大きさではその隙間をくぐり抜けることは物理的に出来ないのだから。


避ける先に展開された弾幕は、確実にギアスを捉える。加速すれば自身から弾幕に突っ込むことになるし、減速したところで同じことだ。体の動きを停止させれば話は別だが、1度弾丸を避けて力のかかった体が、簡単に運動を止めるとも思えない。


そんな中、ギアスが講じてきた手は『減速』だった。体の動きが一気に遅くなり、レオの作り出した弾幕に突っ込むことを先送りにする。


ただの減速であれば、レオは構うことなく弾幕を展開し続けたままでいただろう。だが、ギアスの減速はただの減速ではなかった。ほぼ停止に近いほどの速度。それこそ、毛虫が地面を這っているのと大差ないほどだ。


いくらレオの使用している『超集中力』といえど、針の穴を通すような繊細な弾道を築いていれば、ギアスの『減速』が『停止』だと勘違いしてしまうのも無理はなかった。少しの判断が自身の首を絞める結果となるこの戦いであれば、じっくりと様子を見るわけにもいかないのだから当然だ。


しかしながら皮肉なことに、その誤認がレオの悪手を招く結果となってしまった。


ギアスの動きを停止だと判断したレオの手にした神爆銃の銃口は、ギアスの向かう一手先ではなく、ギアス本人に向けられていた。今まで通り、ギアスの移動するだろう先へと弾幕を展開しようにも、停止されてはどうしようもない。そこから逆走するかもしれないし、予想外の方向へと移動するかもしれない。つまるところ、『停止した先のことなど予想できない』のである。


闇雲な方向に弾幕を展開するよりかはと、レオはギアス本人に狙いを定めたわけなのだが、ギアスはそれを待っていましたとばかりに笑って減速していた体を急激に加速させ、展開された弾幕を潜り抜けてレオへと急接近した。そのまま弾幕を展開していれば、もろに突っ込んでいたという、何とも皮肉な結果だった。


先を読まれて弾幕を展開されてしまっては、迂闊に移動することもできなかったが、直接自身を狙ってきてくれるとなれば話は別だ。もちろん、すぐさまレオはすぐにギアスの先を読んで弾幕を仕掛けてくるだろうが、ギアスにしてみればほんの少しの時間さえあれば十分だった。自身の使うことのできるわずかな時間を『弾幕の回避』ではなく、『自身の攻撃』に注ぎ込めれば、それでよかったのだ。



一瞬。



ほんの一瞬でギアスは手にしている『神抜刀』に魔力を込め、振るうことによって魔力を解き放つ。その魔力はレオへと突き進む複数の巨大な『つらら』と化して、矢のような速度でレオへと襲いかかった。



「ちぃっ!!」



ギアスの行くであろう先をを狙い続けて弾幕を展開し続けたとしても、つららが自身を貫いてしまっては意味がない。かと言って横に跳んで回避しようにも、ギアスは跳びつつ展開した弾幕の『一瞬の誤差』を見抜いて接近してくる。つまり、『向かってくるつららを回避すれば、ギアスの接近を許してしまう』ことになるのである。


どう動けば最善か。


ほんのわずかな時間でそれを思考してレオの出した答えは、1つだった。

それは、『向かって来るつららを弾丸で砕きつつ、ギアスの動く先に弾丸を叩きこむ』というものであった。


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