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第135話 元凶編8

怒声と共に、大剣は振り下ろされる。


しかし、ギアスは驚いた様子を見せない。極めて落ち着いた動作でレナに蹴りを入れて引き離し、空いた神抜刀で容易く刹那の剣撃を受ける。しかしながら、全身全霊の一撃とまではいかないものの、現在の出せる力を全て出しきった一撃であっただけに、ギアスは若干ながら表情を歪めていた。『眼』を使った上での攻撃を、ただの身体強化で受け止めるのは、さすがのギアスでも負荷がかかるようであった。



「なるほど、『眼』を使う程度までには成長していたか」



「あァッッ!!」



言葉に応えるように、刹那は大剣の連撃を放つ。上から振り下ろした大剣を切り上げ、再び振り下ろす。ギリギリのところで捌かれるが、関係ない。今の状態ならば強引に押し切れる。


構うことなく大剣を右に切り返し、そして素早く左に向けて薙ぎ払う。力任せにならぬように注意を払いながら、鋭く、重く、迅く振るう。大剣を防いだギアスの神抜刀の金属音が、辺り一面に響き渡る。


激しくも、高音で美しい金属音。


お互いの武器が一種の特別な物であるが故の音色だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

今は1手でも多く攻撃を仕掛けなければならない。


ギアスが攻撃から防御に転じているこの機会を、逃してはならない。



「う、っらァアアアアッッ!!!」



雨あられという言葉がふさわしい、刹那の大剣による攻撃。


このままではまずいと感じたギアスが立ち位置を変えようとするが、そうはさせまいと刹那が斬りかかって動きを止める。今は刹那のほうが速く動ける。攻めあぐねているギアスを好き勝手攻めることのできる絶好のポジションを譲るわけにはいかない。


目まぐるしく変わる2人の立ち位置に、レオとレナは手を出しあぐねていた。レオに関して言えば、ギアス目掛けて撃ったとしても、すぐさま立ち位置が変わって刹那に命中してしまう可能性がある以上、うかつに弾丸を放つような真似はできないし、魔力の大半を消費してしまったレナにしても、共にギアスに斬りかかっていっても刹那の邪魔になるだけだ。『眼』さえ使うことのできないレナには、足を引っ張るとわかりきった行為を踏み切るような真似はできなかった。


しかしながら、2人の援護など必要ないと言わんばかりに、刹那はギアス相手に優位に立っていた。決して距離を取られるような甘い攻撃は微塵もせず、鋭くも重い1撃を何十と重ねる。先ほど腕を両断された者の動きとは到底思えない、攻め。一歩も引かず、ギアスに向けて全てをぶつけていた。



優勢。



今の刹那に適する言葉だ。



あれだけ猛威をふるったギアスが、『眼』を使った刹那には防戦を用いるしかない。そうしなければ、ギアスの四肢は刹那の大剣によって両断されるからだ。命を奪うことを良しとしない刹那だが、戦闘不能に陥らせることであれば容赦はしない。今こそ防がれているが、刹那の猛撃を何時までも防げるとは思えない。


もちろん、刹那のスタミナの消費量はギアスの比ではないため、持久戦に持ち込まれれば勝ちはないのだが、それよりも先にギアスの防御を破れる自身が刹那にはあった。刹那の放つ一撃を、一々顔をしかめて受けているギアスが、そうそう長くこの状況を保っていられるとは到底思えない。

圧倒的に見える、刹那の猛攻。


確かに、このままであれば刹那はギアスを押し切り、そのまま戦闘不能に陥らせる事だろう。



しかしながら、それはこのまま攻め続ければの話。



そもそも、刹那たちの何十倍も生き、その間ずっと神の復讐をするために戦い続けて来たギアスが、『眼』を使用しているとはいえ、そこまで戦闘の経験の深くない刹那に押されているわけがないのだ。



絶対に、何かを隠している。



先ほど使った物理法則を無視した動きの正体がわかっていないのに、刹那は攻め続けてギアスに手を出させない事だけを考えている。ギアスが、自身の攻撃に耐え続けることはできないと『錯覚』している。

それが、命取り。



「……迂闊だったな」



その言葉と同時に、ギアスの動きが速くなる。それも、『眼』を使用している刹那を遥かに上回るほどにだ。


一瞬の加速ではあったものの、刹那の振るった大剣を回避しつつ、その背後へと回り込むには十分だったようだ。大剣はその威力を助長させている重みがあるため、切り返しが普通の剣と比べて極端に遅い。斬りつけようと振るった直後であればなおさらだ。


刹那の背筋を、冷たくもおぞましい感覚が走り抜ける。


ギアスを相手に背を向けていることが、この上なく恐ろしくてたまらない。


可能な限り素早く後ろを振り向くが、どうやら遅かったようだった。


振り向いたと同時に、先ほど腕に感じられた時と同様の感触が両足の大腿部に感じられ、体が傾いていく。


足を斬られたのだと、見なくともわかった。


浮遊感が襲い、刹那の全身は地面へと叩きつけられる。それとほぼ同時に両手も切断される。いわゆる『達磨』というやつだ。これではもう移動も出来なければ反撃もできない。完全に動きを封じられた状態であるにも関わらず、両手両足の傷口に痛みが感じられないのは、さすがとしか言いようがない。



「さて、次は―――」



そう言いかけたギアスに、レオの放った無数の弾丸が襲いかかる。


刹那が倒れた今、誤射してしまう心配はもはやなくなったのだ。ようやく止まったギアスに連射しない道理など、あるわけがない。


連射をするがため、その弾丸は通常の物ではあるが、身体強化を施している体くらいならば易々と貫ける速度と威力を持っている。それが雨あられのように撃たれればさすがのギアスも防御に徹しなければならないはず。


その目論見は見事当たったのか、ギアスは手に持っている神抜刀で弾丸の雨を次々と叩き落としていく。これくらいの芸当であれば、それほど珍しくはない。身体強化を施したレナでさえやってのけるのだ。ギアスに出来ないわけがない。


ただ、自身に弾丸が命中することを防いでいるため、ギアスは足を止めざるを得ないようだった。その場から脱しようとすれば、レオの弾丸の雨が容赦なく自身の体を貫く。ギアスがレオの連射を防ぎきるには、叩き落とすこと一点に集中しなければならないのだ。



「刹那っ!!」



ギアスがレオの弾丸で足を止めているうちに、レナは動き出す。四肢を両断され、その場に倒れ伏している刹那を目の前して、冷静でいられるわけもない。先日、恋仲になったばかりならばなおさらだ。


普通であれば、レナのこの判断は正しい。一切身動きが取れない状態の刹那を救出し、離脱するのは確かに間違ってはいない。だが、先ほどから使ってきている能力の正体が不明であるギアスに限っては、その判断は過ちである。


現段階でギアスの能力についてわかっていることは、『自身の体の速さを減速させる』ことと、『自身の体の速さを加速させる』ことの2つ。内の『加速』だけでも、レオの放っている弾幕から離脱し、斬りかかられる可能性があるというのに、レナは刹那を助けることだけにしか頭になく、何の策もなく突っ込んでいる。ギアスの能力のことなど、すっかり頭から抜け落ちているようだった。



このままでは、返り討ちは必須。



何も出来ず、刹那と同様に戦闘不能になる。



「馬鹿ッ! 無策で突っ込むんじゃ―――」



レオがそう叫ぶが、レナは止まらない。刹那を助けることだけしか考えていないレナに、レオの言葉は届かない。『恋は人を盲目にさせる』とはよく言ったものだが、戦局ではそれが死に直結する。それがわからないほどレナは経験が少なくないはずなのに、危機にさらされている人物が刹那であったならば、それも仕方がないことのようだった。


だが、仕方あろうとなかろうと、今は戦闘の真っ最中。そのような戯言は通用しない。


それをわかっているからこそ、ギアスは接近してきたレナに容赦はしなかった。


レオが危惧した通り、ギアスは自身の体を加速させることによってレオの放つ弾幕を離脱し、接近してきたレナの両足を何のためらいもなく斬り捨てた。レナは何が起こったか理解できていないようで、急接近してきたギアスに対して何の反応もできず、ただ足を斬られる様を眺めているだけだったが、自身の体を支えることが出来なくなり体が傾いたことで、レナはようやく自身がいかに馬鹿なことをやらかしたかを理解した。


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