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第133話 元凶編6

「刹那っ、レナっ!! やるしかないっ! 構えろっ! リリアは今の内に下がってろっ!」



言うなりレオはすぐさま銃口をギアスに向け、迷うことなく引き金を引いた。いきなり撃たなければならない状況に陥ってしまったため、放った弾丸は無属性の物だったが、牽制という役割だけをこなすのならば十分すぎる代物だ。


発砲音が響き渡った瞬間を皮切りとし、刹那とレナは同時に駆けだした。お互いに会いコンタクトを交わし、ギアスを挟み込むようにして距離を詰める。連携というやつである。心の通い合った2人だからこそできるその戦術は、ギアスの狂気から感じられる不気味さに決して劣ってはいない。


二刀流ならいざしれず、一振りの太刀で挟み撃ちの形で襲いかかってくる剣撃を受けきることは、普通に考える限りでは果てしなく難しい。片方の刃を受け止めれば、もう片方の刃が背後から襲いかかってくるし、回避しようにも襲いかかる剣が2つとなれば難易度は格段に上がる。


しかし、そんな状況に陥っているというのにも関わらず、ギアスの顔は狂気で歪んだままだった。その様は、今の状況を楽しんでいるようにさえ感じられた。襲いかかる攻撃を、闘志を、剣を、弾丸を、ギアスはまるで恐れておらず、自分の元へ届くのを今か今かと待ちわびているだけだった。


それは果たして余裕なのか、慢心なのか、血の迷いなのか。


刹那たちは知る由もなかったが、確かなことがただ1つあった。


ギアスは刹那とレナの連携を、攻撃などという高尚な物として認識していなかったのである。


まず最初に、ギアスは自身の顔面に迫ってくる弾丸を必要最低限のスウェーバックで悠々とかわした。これに至ってはちっとも不思議ではない。あくまでレオの弾丸は牽制用の殺傷性を狙っていない物であるため、回避すること自体はそれほど難しいものではないのだ。


だが、ギアスの次の動作が問題だった。レオの弾丸を回避した後に、首を切断しようと振るってきたレナの初太刀を『神抜刀・氷』で防ぎ、足元を狙ってきた刹那の漆黒の大剣の腹を蹴り上げ、攻撃の軌道をずらしてみせたのだ。。


同時に受けるのも、同時に回避するのも難しい連撃ならば、それぞれを1つずつやればいいと判断したのが、今のギアスの流れだった。それを思いつくことは大して難しくはない。その気になれば子供でも思いつくような簡単なロジックだ。驚くべくは判断した速度と、一切の迷いと無駄がないギアスの手腕である。あらかじめ、こういった結果が待っていることが知っていたような、防ぎ切れて当然だと言わんばかりな、そんな自信に溢れた動作は、子供のころから剣を扱ってきたレナでさえも舌を巻くほどのものだった。



「ちぃッ!!」



軌道を逸らされ、明後日の方向へ大剣を振るってしまった刹那は、素早く手元と全身を切り返し、掛け声と共にギアス目掛けて大剣を振り下ろした。狙いはレナの攻撃を受けた神抜刀を握っている右腕。殺す気でいかなければ倒せる相手ではないことは百も承知だが、どうしても刹那には命を奪う事は、例え真似ごとでもできなかった。


しかし、それ故に刹那の剣のキレが鈍ったりすることの心配は無用である。命を奪うことに関しては決して積極的ではない刹那であるが、戦闘不能にするだけならば問題はない。腕を斬り飛ばそうが足を貫こうが、こちらにはレナもリリアもいる。よほどのことがなければ死ぬことはあり得ないことがわかっている以上、急所以外を攻撃することに刹那はためらいを覚えなかった。



「ずいぶんな所を狙うな」



拍子抜けしたかのようにぼそっとギアスは呟き、先ほどと同じ要領で刹那の大剣の腹を拳で殴り、その軌道を変えた。いとも容易く、そして冷静に。


刹那も決して手を抜いているわけではない。むしろ、命を奪うことはないのだと思い切り大剣を振るっている。それなのにギアスは、まるで闘牛をいなす熟練のマタドールのように攻撃の軌道を変えさせている。2度も刹那の攻撃を、それもほぼ同じ動作で難なく防いだギアスは、明らかにこの防御方法に『慣れている』ことが窺える。むしろ、そうでなければおかしい。慣れていなければ、ここまで冷静に大剣の腹を殴って軌道を変えるなどという綱渡りの防御ができるわけがないのだから。



「刹那ッ! すぐに離れてッ! 早くッ!」



言われるがままに、刹那はすぐに態勢を立て直し、決してギアスから目を逸らさないよう後ろへと飛んで距離を取る。


刹那の攻撃を容易く防御してみせたギアスに接近戦で挑むわけにはいかないと悟ったのか、レナはそう叫ぶと同時に、自身が握っている『神抜刀・炎』に魔力を込める。それも、今の状態で出来うる限り全力で、傍から見れば自殺行為に近いような無茶苦茶な量をだ。


もちろん、レナは自信を犠牲にしてまでギアスの命を取ろうとしているわけではないし、神抜刀に込めた魔力の量も致死には至らないようちゃんと計算をしている。しかしその魔力の量は、費やしたら最後まともに戦うことなどできなくなるほどの膨大なものである。そうまでしなければギアスにダメージを与えられないと、レナはそう踏んだわけだ。


レナの魔力の流れを察したのか、今までの余裕に溢れていたギアスの表情が一変した。レナが何を仕掛けてくるかなどわからないギアスでも、その瞳から放たれている『覚悟』から、絶対に接近しているこの状態のままではまずいと感じたのだろう。すぐさま距離を取ろうと、鍔迫り合いになっているレナの神抜刀を弾こうとする。


しかし、ギアスのその判断は少し遅かったようである。


ギアスが間合いを取ろうとした瞬間をレナは見過ごさず、神抜刀に込めた魔力を『炎』として形成し、それをギアスに向けて放った。



「くっ……!」



咄嗟に羽織っていた黒衣を翻し、ギアスはその中へと隠れて身を守ろうとしたが、レナの創り出した炎は容赦なく黒衣ごとギアスを包み込む。その炎の温度の高さは、身近で放ったレナが最も把握している。触れた物を全て炭化させ、灰と化してしまうほどの高温は、布切れ一枚で防ぎきれるほど生易しいものではない。


そして何より厄介なのは、その範囲である。レナの放った炎は、ギアスを飲み込むだけでは留まらず、一足先に距離を取った刹那の鼻先ぎりぎりまでに及び、その周辺の草木の全てを焼きつくしていた。ほとんど溜めの時間も必要とせず、神抜刀に込めたありったけの魔力は、凄まじい威力と範囲を併せ持つ『武器』へと昇華したのだった。


これだけの炎を食らえば、普通に考えて生存することは不可能である。触れる物を全て燃やしつくす炎は、いくら魔力による身体の強化を施したところで無意味だ。ギアスも例外ではない。どれだけ素晴らしい身体強化を全身に施そうが、レナの炎に焼かれて燃え尽きるのがオチだ。


だが、一同は油断など欠片もしていなかった。あれだけの邪悪を放ち、刹那の剣を拳で弾くような真似を平然とやってのける人物が、この程度で倒れたとはとても考え難かったからである。どんな手段を使ったかなどわからないが、何らかの方法で絶対にレナの炎をやり過ごしたに決まっている。確定要素はないが、そう感じさせる予感めいたものが一同にはあった。


そしてその予想は、見事的中することとなった。


―――レオが放った銃の発砲音によって。



「っ!?」



レオが発砲したということは、ギアスがまだ戦闘不能になっていないということの証明となる。やはり、先ほどのレナの炎では倒すことができなかったのだ。


慌てて刹那は辺りを見渡すが、ギアスらしき姿は見当たらない。強力な敵から目を離すことがいかに危険であるかということは、レナと訓練を続けて来た刹那にはよくわかっている。一刻も早くその姿を捕捉しなければ、気がつかぬうちに斬り伏せられてしまうことも否定はできない。



「上だっ!」



レオが刹那の様子を見たのか、引き金を引きながらそう叫ぶ。


迷うことなく上を見ると、実に呆気なくその姿を確認できた。


―――高速で刹那の元へと落下してくるギアスを。



「な、に……?」



落下速度が異常に速かった。


まるで、地を蹴ったかのような、少なくとも自然落下では絶対に出ない速さだった。


それが身体強化によるものなのか。


あるいはギアスの持つ能力なのか。


どちらかはわからないが、ギアスはその勢いのまま大太刀を振りかぶっている。


思考している余裕など、微塵もなかった。



「ふんっ!!」



大太刀を振り下ろしてきたギアスを迎え撃つため、刹那はタイミングを合わせて振り抜く。盾としてギアスの攻撃を受けるような真似はしなかった。大剣で弾いたほうが、相手の態勢を崩せるため、追撃を許さないからだ。盾として防げば、相手に好き放題の攻撃を許すこととなるし、刹那自身も防ぐことより弾くほうが得意だった。




しかしながら、その選択が過ちであった。



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