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第125話 恋慕編18

急な事情によりまして、異次元図書館を125話を持って終了させていただきます。ご愛読いただいた方には大変申し訳ありませんが、どうかご理解のほうをよろしくお願いします。

今回は誠に申し訳ありませんでした。次回作にご期待ください。

レナの決心も、風蘭達の行動も何も知らない刹那は、どこまで行こうというあてもなく、ただ月明かりの下を黙って歩いていた。夕方にレオから言われた事を実行すべく夜の世界へ飛び出したはいいものの、ちっともいい考えなど浮かんでこない。優しく頬を撫ぜるそよ風や、木々や葉の揺れ動く柔らかい音は、確かに昼間には味わえない実に心地よいものでこそあるが、そのおかげで今まではなかったアイディアやらが沸いてくるということはなかった。



「はぁ~……」



本当に、これから一体どうすればいいものかと刹那は深くため息をついた。いつまでも決心がつかない自分のふがいなさを丸半日感じていれば、誰でも自己嫌悪の念に駆られる。どうしてこうも踏み込めないものかなど、考えてみればきりがない。


とは言ものの、別に刹那自身が特に焦りもせず、現在の状況に対してのんびりと構えていたわけではない。刹那だって、今自分たちに与えられた自由時間の限度はわかっている。いつまでもこうやってちんたら悩んでいる時間などないことも重々承知している。


そのことがわかっていながらも、やはり刹那には気の利いた言葉も思い浮かばないし、踏み出そうとする勇気も出せなかった。そんなのただの怠慢だろうと思われるかもしれないが、それは違う。刹那は必死だった。初めてなりに足掻いた。今までたった1度も恋愛をせず、想いを伝えることにどれだけの勇気と覚悟がいるかわからない中、懸命に努力した刹那を誰も責めることはできないだろう。


しかしながら、刹那がどうであろうと時間は関係なく過ぎ去っていく。もう少し待ってくれと願っても時は止まってくれないし、もっと猶予をくれと祈っても時は遅くはならない。時間は無情であり、残酷だ。激流が如く流れて行き、止まることも緩まることもない。残された時間は、おそらく今夜だけ。さらに悪いことに、皆の就寝する時間を考えたら、もう3、4時間ほどしか猶予はない。その短い時間の中で、いよいよ刹那は覚悟を決めて勇気を振り絞らなければいけないわけだが、この調子で本当にそこまで漕ぎつくことができるのか、という話である。



「はぁ……」



もう何度目かわからないため息をついた後、刹那はゆっくりと芝生の上に腰を落とす。


現在地は庭。小さくも力強い草花の生い茂る、この世界の顔と言ってもいい場所である。


先ほどから転々と歩きまわっていたが、さすがに少しくたびれたのだ。虫達のさざめきと、ほんの少しだけひんやりとした草花の絨毯は、昼間とはまた違う魅力を醸し出しており、刹那の体を微量ながらも癒してくれている。



「レナ……」



そっと、自身の想い人である名を呟く。


今回の出来事の中心であるレナ。


出会ってしまってから、もうずいぶんと月日が流れたかのように思える。


初めてレナと出会ったときは、お互いが敵同士であった。刹那はは女王の住まわる城の侵入者として、レナは歴代最強の女兵士長として、それぞれが全力でぶつかり、戦った。


しかし結果は悲惨たるもので、刹那はものの2、3回ほど打ち合っただけで敗北し、呆気なく王の間までに引き連れられることとなった。少し前までは一般人であったため戦いに関しては素人であり、発現したばかりの能力に頼りきりの戦闘だったこともあり、刹那の敗北はほぼ確定していたことなのではあるが、それを考慮してもレナの強さは凄まじかった。開花した能力など毛ほどにも役に立たず、攻撃も全て綺麗に流され、結局何が起こったかを理解する前に剣を喉元に突きつけられていた。



絶対的な格差。



太刀打ちできない強者。



戦った時に感じ取ったレナに対しての素直な感想がそれだった。



しかしながら、戦うよりも前―――すなわち、初めてレナを見た瞬間に抱いた印象はそれと大分異なる。強そうだとか、圧迫感があるだとか、勝機がまるで見えないだとか、そんな戦闘を連想させるようなものでは断じてない。




―――美しかったのだ。




夢物語の騎士のような出で立ち。



炎を連想させるオレンジ色の髪の毛。



女神を思わせる整った顔立ち。



鋭いながらも真剣な瞳。



その全てが集約されたレナという人物が目の前に存在していることが奇跡であるかのようだったことを、刹那は昨日のことのように覚えている。敵前だというのにも関わらず数秒見惚れてしまったということも、その時が初めてであった。それからは1度たりともそういったことがないのだから、よほどレナと初対面したときの衝撃が凄まじかったことなのだろう。



「綺麗、だったな」



ため息をつきながら、大きくため息をつく。


思い返してみれば、あの瞬間からすでにレナに心を奪われていたのかもしれなかった。今の今まで気がついていなかっただけで、本当は最初から好きだったのかもしれない。可憐で、勇ましく、美しい。誰がいつ心を奪われたとしても、ちっともおかしなことではないのだ。



それだけに、だ。



そのレナに、想いを伝える。


告白をする。


その行為が、今になってとんでもないことのように思えてきてしまった。


自分如きがあのレナに告白など、そんな大それた真似をしてもいいのか。


そんなことをしても許されるのか。


そんな考えが、次々と頭に浮かんでは消えていく。


確かに大それた事かもしれない。


おこがましいかもしれない。


けれど、好きなものは好きなのだ。


いくら身の丈に合わない所行だろうと、諦められない。


はっきりと自身の気持ちに気がついてしまったのなら、なおさらだ。



「よし」



そう口に出して自身を奮い立たせ、刹那は立ち上がった。

覚悟は決まった。あとは行動に移すだけである。

実際に会ったとしても、何と言っていいかわからずにうろたえるかもしれない。

言葉がうまく出て来ず、無為に時間を過ごすだけかもしれない。

それでも構わない。

会話の内容も、告白の手順も、もう考える必要などない。

これだけ考えて思い浮かばないのだ。これ以上頭をひねらせたところで無駄だ。ぶっつけ本番でやるしかない。

不安でないと言えば嘘になるし、もっと悩んでもいいのではないかという考えもないわけではない。

だが、もう刹那は決心したのだ。

レナの想いを伝えるという、一大決心を。



「さて、と」



そうと決まれば、早速レナを探さなければならない。


先ほどまではなるべく顔を合わせようとしなかったというのに、覚悟を決めた今となっては、この世の誰よりも会いたくなるのだから不思議なものだ。


どこに居るかはわからないが、心配は無用だ。見つからなかった次の場所へ、またもや見つからなかったら次の場所へといった風に探せばいいのだ。要は虱潰しだ。レナとて神出鬼没というわけではない。ちゃんと順を追って探せば見つかるはずである。


夕食が終わってずいぶんと時間が経つが、まだ眠ってはいないはずだ。そこらを注意深く歩いていればそのうちに見つかるだろうと、刹那は足を踏み出した。



「せ、刹那っ」



その瞬間に、背後から自身を呼ぶ声が聞こえた。


声の主は、振り向かなくともわかる。


今から探しに行こうと決め、想いを伝えようとしていたレナその人である。




    *      *

  *  うそです   +  

     n ∧_∧ n

 + (ヨ(* ´∀`)E)

      Y     Y    *

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