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第124話 恋慕編17

それから刹那とレナの両者にこれといった動きはなく、ついには夕飯の終了まで何事もなく時間は過ぎ去ってしまった。相変わらず例の2人は顔を見合わせるたびに赤くなり、顔を逸らしていたが、レナに関しては少しだけ違っていた。赤くなり、顔こそ逸らしているものの、刹那を見つめる際の目の色が、リリアと会話する以前とはまるで違う。明らかに、覚悟を決めた者の目だった。


そんなレナの密かなる決意を知らない刹那は、一体どうやって想い人に自身の気持ちを伝えればいいものかと、夕飯後の自由時間になるなり外へ出て行ってしまった。夜風に当たっていれば、きっといい考えが思い浮かぶだろうというレオの言葉を鵜呑みにしての行動である。その言葉の裏に隠された意図を知る由もない刹那は、これから自身の身に起こるであろうことを塵ほどとも予想だにしていないようだ。


居間から出て行った刹那を追うようにして、レナもまた居間を後にした。表情は若干強張り、頬も赤く染まっているものの、それでも怖気ついた様子は微塵も見られず、口をきゅっと結んでこれから起こる出来事に備えている様子が窺える。よほど鈍くない限りは、今まで起こった事や2人のためにしてきた事と、レナのあの様子から、これから刹那に想いを伝えに行くのだろうと想像することは難しくはなかった。


ともあれだ。


刹那とレナが居間からいなくなった以上、事が起こってしまうのは時間の問題である。


2人を除く一同は最後の話し合いということで席に着いたままなのであるが、あまり時間はかけられない。これから一体どうするかを速やかに決定し、そして行動に移らなければならない。急がなければ、事が終わってしまう。それだけは避けたい。何としてでもだ。


なぜ避けたいのか。


それは―――。



「見たい見たい見たいーっ! ぜ~ったい見たいっ!」



バンバンと机を力強く叩き、風蘭がそう主張する。いつになくムキになっており、絶対にこればかりは譲れないといった表情をしている。


風蘭が何故ここまでだだをこねているのかというと、それは今現在話し合っている内容のせいと言わざるを得ない。どんな内容なのかは、言わずとも何となくだが想像がつくだろう。


それすなわち、刹那とレナの様子を見るか否か、である。


主張通り、風蘭はその現場を自身の目で見届けたいと考えているわけである。せっかくここまで乗りかかった船。途中で降りるような真似はしたくないし、何よりも目玉とも言える2人の告白シーンを見逃すのはあまりにも惜しい。



「絶対駄目だ。こんな大勢で行ってみろ、いくらなんでも気づかれる。そしたらやってきたことが一瞬で終わるんだぞ。身に行くべきじゃない」



風蘭のその主張に対して反対しているのがレオ。言葉の通り、こんな大所帯で2人の様子を見に行こうものならば必ずといっていいほど勘付かれてしまうから行くのは駄目、というのが大筋の意見である。

見事なまでの行動派と慎重派。


今回はとことんぶつかり合ってしまう2人である。



「じゃあレオは2人の様子見たくないの!? 一大イベントだよ!? もう2度と見られないかもしれないよ!?」



レオの聞く耳持たないという態度にむっとしたのか、ムキになったような調子で風蘭がそんなことを口走る。


野暮な行為だと言われるかもしれないが、それほどまでに重要かつ興味深いことなのだから仕方がない。あれほどまでに奥手で、向き合うだけで赤面していた2人が、いよいよ想いを伝え合うのだ。

それぞまさしく一世一代。


うまくいくにしろ、失敗するにしろ、その機会を逃してしまえばもう必ずと言っていいほど刹那とレナの告白場面はお目にかかれないだろうということは、想像するに容易いだろう。

だからこそ、風蘭はこうも熱烈に事故の主張をしているわけなのだが、超のつくほど慎重なレオのことである。どうせ、俺は別にそこまで夢中になって見たいとは思わんだの、そんなことを言ってくるに違いない。どうしても引き下がれない風蘭は、何かレオを封殺できるうまい切り返し文句はないものかと、あまり上等ではない頭をオーバーヒート寸前までフル回転させる。


もはや意地である。


絶対に退かないという意地が、風蘭の頭を回転させていた。



「見たいに決まってるだろ、当然じゃないか」



ところが、返ってきたレオの言葉は実に意外なものだった。


ここに居合わせた全員が全員その言葉に驚いたのか、鳩が豆鉄砲でも食らったような顔でレオを見つめる。中でも返事を要求した風蘭は、自分の聞き間違えかもしれないとポンポンと耳を軽く叩き、動作不良を起こしていないかどうかをチェックするほどに驚いたらしい。



「大袈裟だな。風蘭の言う通り、せっかくここまでやったんだしな。俺だってそりゃ最後まで見届けたいさ」



「じゃあ兄さん、どうしてダメ~って言うの? 様子、見たいんでしょ?」



様子を見に行くことを反対している唯一の人物であるレオの本心が聞けた以上、リリアのその問い掛けは至極当然のものである。見たいなら見に行ったほうが絶対いいはずなのにと、リリアは納得できていないようであった。



「だから言ってるだろう。この人数で見に行けば絶対気付かれるって。時には我慢しなきゃならんことだってある。諦めろ」



「え~……」



それでもやはり2人の様子が見たいのか、リリアは納得できないといった調子で不満の声を漏らす。もう2度と見ることの叶わない2人の結ばれる場面。それをみすみす逃すのは、あまりに惜しい。


だがレオの言う通り、様子を見に行くことで全てが台無しになってしまっては話にならない。一歩間違えてしまえば、ここまでやってきたこともまず間違いなく水泡に帰す。それは決して一同の望むところではない。刹那とレナの仲を取り持とうと決めたのは、2人の仲を壊すためではないのだから。


風蘭もリリアも不満げな表情こそしてはいるものの、やはりここは諦めるしかないと悟ったのか、む~やら、う~やら唸るだけで、特に反論することはなかった。したくともできない、というのが正しいか。何だかんだで、2人ともレオの言うこともが正しいということを理解しているようであった。



「ちょっといい~?」



そんな中、やけに間延びしたような声で、今まで黙々と話を聞いていた風花が手を挙げる。


表情は相変わらず笑顔。にこにこと、ただ笑っている。



「別にみんな一緒に見に行かなくても~、1人ずつバラバラになって見に行けばいいんじゃないの~? そしたら騒がしくなることもないし~、隠れやすくだってなるし~」



確かに、一理ある。全員で行けば、さすがに身を隠すのも難しくなるだろうし、1人でも見つかった結果的に全員見つかってしまうことになる。


しかし、1人ずつ見に行くのならば、隠れ場所も十分過ぎるほどあるだろうし、万が一見つかったとしても誤魔化しが効くかもしれない。バラけて見に行くという風花のアイディアは、なかなか悪くないものだった。



「確かに、それなら良さそうだ。……お前らが自制できれば、の話だが」



言い終えるなり、レオは風蘭とリリアの2人に視線を向ける。


肝心の2人は何のことやらわからないと言わんばかりに顔を見合わせ、首を傾げてみせた。



「刹那とレナの様子見て興奮して、周りの草木を揺らしちまうのが目に見える。普段からじっとしてられないお前らが、今回だけ大人しくできるわけないだろ」



ずばっと。


本当にずばりと言われてしまい、風蘭とリリアの2人は『うっ』と一言唸ってレオから顔をそむけてしまった。2人して、痛いところ突かれたという表情をしている。実際にその通りなのだろう。レオの言葉に、何も返そうとしないのだから。


ほらなと呟いて、レオはため息をつく。レオもこういったことを把握した上で様子見を反対したのだろう。先ほども言ったように、レオだって刹那とレナの様子を見たくないわけではない。ただ、そういった不安の種がある以上、危険を冒してまで自分たちの事を優先させるわけにはいかないだけの話だ。


ただ、バラけて見に行けばいいと提案した風花も考えなしに発言したわけではなかった。先ほどまで浮かべていたものよりも更に明るい笑顔で、風花は言葉を紡ぎ出す。



「それならさ~、1人ずつじゃなくて~、2人ずつのペアで行けばいいと思うんだ~」



「2人ずつ?」



その新たな提案に、レオは思わず聞き返してしまう。



「そ~そ~。この人なら大丈夫だろうって人と~、この人は落ち着きがないな~って人とで分かれるの~。そしたら~、片方が変なことしそうになっても~、もう片方が押さえてくれるだろうから安心~っていうわけ~。全員で動くよりも気付かれにくいだろうし~」



なるほどと、レオは風花の提案に頷いてみせた。


風花の言う通り、その方法ならば何とか刹那とレナに気づかれることなく様子を窺うことが可能だ。気付かれる可能性もなくはないが、全員で一緒に見に行くよりかはずいぶん低いはず。万が一バレたとしても、2人程度ならば何とか誤魔化せる。


逆に、それ以上多ければ気付かれやすくなってしまうし、騒がしくもなってしまう。2人ずつという分け方が、2人に気づかれずに様子を見ることのできる最適な人数なのである。



「それで行こう。それなら、見れるぞ。決定的な瞬間をな」



やけに嬉しそうにそう言い、レオは笑みを浮かべて見せた。


色々反対はしてきたものの、自身の目で2人の様子を見ることは楽しみだったらしい。子供のようなその無邪気な表情を見ればわかる。もう反対しようという気はないようだ。


残るはメンバーを決めるだけ。誰と誰がペアになるか、それだけだ。



「ま~、とりあえず雷牙くんは私と一緒ね~」



メンバー選考の皮切りを果たしたのは風花だった。


迷うことなく、成り行きに任せていた雷牙にそう声をかける。



「何でだ? 別に他の奴でも―――」



「てめぇが余計なことしねぇように見張ってやるっつってんだよ。つべこべ言わねぇで頷けや」



口答えをしようとする雷牙を、風花は背筋が凍るような口調で封殺した。そのドスの効いた声を笑顔のまま言われた雷牙は、そのあまりの恐ろしさにただただ黙って頷くことしかできなかった。風花の真の恐ろしさを知っているためか、体全体が震えているような気がしないでもない。



「それじゃ雷光! あたしと行くよ! いいね!?」



「構いませんよ。くれぐれも騒がないようお願いしますよ」



風蘭も黙って話を聞いていた雷光に声をかけ、了承を貰うことに成功する。


今回、一番危なっかしいのが風蘭なのだけれども、雷光ならば風蘭のこともよくわかっているだろうし、騒ぎ出す前にちゃんと止めてくれるはずだ。そこら辺は雷光もわかっているのか、レオに目配せをして合図を送っていた。つくづくできた男である。



「そういうことなら、余り者同士ってことで俺はリリアとだな。あまりはしゃぐんじゃないぞ」



「わかってるってば。ちゃんと大人しくしてるから大丈夫!」



自信たっぷりに胸を叩き、リリアはそう言う。その言葉が本当かどうか怪しいものの、危なかったらすぐに止めてやればいいかと、レオはその嬉しそうな表情を浮かべているリリアを見ながらそんなことを思った。



「よし、そうと決まれば早速動こう。くれぐれも音を立てて気付かれないように頼むぞ」



レオのその言葉を話し合いの締めくくりとし、一同は溢れ出てくる胸の高鳴りを押さえつつも行動を開始した。


待ちに待った決定的瞬間。


それを決して見逃すまいと誓い、居間の灯りを消した後、各々家を音を立てずに飛び出して行ったのであった。



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