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第123話 恋慕編16

「ど、どど、どうしてそんな! 無理無理! 絶対無理! ろくに話だってできないのに、好きですって言うなんて無理だってば!」



手をぶんぶんと振り、レナはリリアの提案をものすごい勢いで拒否する。


今までのことを考えてみると、レナがここまで言うのにも頷けるし、恥ずかしがるのもわかるのだけれども、そこで『そうだね、それじゃやめようか』などと言って引き下がるなどできない。刹那とレナの関係を壊すことが最悪の事態だとすれば、現状がずっと続くことがその次に悪い事態だ。


何も起こらないとなると2人があたふためいているという状況が続くため、長い期間それを見て楽しめるという判断もできるが、いつまで経ってもそのまま、というわけにもいかない。これからまた異世界へと旅立ち、その時になっても2人の関係がこのままだと罠を外す行為にさえ影響が出てくる。


やはり、一番いいのは2人がくっつくこと。


恋仲になること。


となれば、言うことなど決まっている。



「この際、できるかできないかは置いておいて、レナさんはどうしたいんですか?」



「? 何が?」



「このままでいいのか、それとも一歩前進したいのかです。言ってる意味、わかりますよね?」



もはや行きすぎとも思える容赦のない直線的なもの言いに、レナは思わず口をつぐんでしまう。


リリアの言葉に、レナは一瞬だけ何もしない、できない自分のことを責められているのではないかと思ったのだが、明らかに必死になっている顔と、心底自身と刹那のことを心配してくれている雰囲気を感じ取り、そうでないことを理解した。


理解したところで、レナはリリアに言われたことを脳内で反芻させ、これから一体どうしたいのかと他でもない自分自身に問いかける。


このままの関係を望んでいるのか?


恥ずかしさから顔をそむけ合い、まともに会話すらできない今の状況を?


答えは―――否である。


自身の想いに気がつけた今だから言えるのだが、この状況よりも以前の関係のほうがずっとマシのように思える。刹那への想いに気がつけて、そのせいで恥じらいを覚えるよりも、前のようにくだらないことを話して笑っていたほうがよかった。そっちほうが今よりも距離が近かったような気もする。好きだと気付けた現在よりも、気がつかなかった過去のほうがよかったとは、実に皮肉なことである。


となれば、レナ自身のすべきことが見えてくる。


それは1つ。



「……もっと、刹那の近くに行きたいよ」



ぼそっと。


耳を澄まさなければよく聞こえないほど小さな声で、レナは呟いた。


この状況を打破し、刹那と『そういった』仲になりたいと望んでいるのは傍観しているリリアたちだけではなく、その騒動の中心人物であるレナもだったのである。せっかく自身の想いに気がつけたというのに、今のままではあんまりだ。もっと刹那の近くにいき、もっと刹那のことを知りたく、そしてもっと刹那に自分のことを知ってほしい。それが、恋心を抱いたレナの望むことであった。



「……それなら、だったらやることは1つじゃないですか!」



ぐっと胸元で手を握りしめ、リリアがレナに言う。


この状況下でやることと言ったら1つしかない。


それはすなわち、刹那に想いを伝えること。


好きですと、言うこと。


リリアに言われるまでもなくも、レナはそのことに気が付いていたのだが、いかんせんそれを行動に起こすだけの勇気がどうしても出ない。手順としては実に単純なもので、刹那を誘い出し、誰も来ないような場所へ向かい、想いを伝えればいいだけなのであるが、刹那を誘い出す時点で無理に近い。刹那とまともに話もできないというのに、外へ誘い出すなど絶対にできない。


やらなければ状況も打開しないし、レナもそうしたいと願ってはいるが―――できない。


本当に、板挟みの状態だった。



「やっぱり、できないよ」



ぽつりとそう呟いて、レナは再び顔を伏せてしまった。



「面と向かってなんて、言えないよ」



覇気のない声で、さらに続ける。


想いを伝えることが、こんなにも難しく、そして過酷なことか。


初めて抱く種類の困難に、すっかりレナは意気消沈してしまったようだった。


となれば問題が1つ。


今のまま―――レナがこんな調子では、絶対に今の状況は打開しないことになる。


打開しないどころか、何も起こらないまま終わってしまう。


かと言って、無理矢理レナに言って聞かせるわけにもいかない。そんなことをしたところで、逆効果なのは目に見えている。行動は、自発的に行わせなければならないのだ。


八方ふさがりのこの状況。


何もできず、何もさせることもできない。


そんな中、リリアはふっと優しく笑ってそっとレナに近付き、ゆっくりとその小さな肩を抱きしめた。いつもとは違うしおらしいレナの姿が、何だか無性に愛おしくなっての行動だった。可愛らしくて、愛らしくて、とても壊れやすい。守ってあげたくなると言えばいいのか、レナの体を抱きしめているリリアは、ふとそんなことを思った。


レナはというと何も言わず、ただリリアにされるがままになっていた。相変わらず顔を伏せたままだったが、心なしか胸の内に沸いていた不安が和らいだように見える。


それを悟ったのか、リリアは腕の中のレナに言葉をかける。


背中を押し、行動を起こさせてくれる勇気の出る言葉を。



「刹那さんも、今のレナさんと同じ気持ちだと思いますよ」



「え?」



驚いたように、今まで伏せていた顔を上げ、レナは近づいていたリリアの目を見る。



「それ、ホント?」



恐る恐るといった風に、レナは口を開いて確認する。



「確かではないですけどね。直接刹那さんに聞いたわけではありませんから。ただ、刹那さんがレナさんを見ているときの顔が、今のレナさんの顔とそっくりだから、そう思ったんです」



まるで子供に言い聞かせるようにリリアの声色は優しげで、慈愛に満ちたものだった。


刹那の気持ちは本人に聞いたわけではなく、ただ人伝に聞いただけに過ぎないだけに確実なものとは言えなかったが、それでも確信めいたものがあった。言葉にしてレナに伝えたように、2人ともお互いを見る顔が、本当にそっくりだったのだ。どこか呆けていて、夢中で、時間が止まったかのように夢中になって、想い人の表情を見ている。よほど鈍い人でない限り、それが好意によってもたらされたものだという判断をするのが普通だ。リリアとて例外ではない。



「全然、気がつかなかった……」



「あれだけ顔を逸らしてれば気がつけませんよ。今のままだと、ずっとそういったことが続くと思いますよ。刹那さんのことをずっと想ってばかりいるのに、大事なところを見落としてしまうなんてこと、嫌ですよね?」



「……うん」



「だったら、勇気を出さないといけませんよ、レナさん。誰も取ったりしないからって、レナさんのところに来るなんて保障なんてない。刹那さんが欲しいなら、自分から取りに行かないと」



「……そうかなぁ?」



「少なくとも、私はそう思いますよ。女の子の意地の見せどころです。一世一代の気持ちで、挑んでみたらどうですか?」



いつにない強気な物言いで、リリアはレナに自分の気持ちを伝えた。


確かに、刹那からのアプローチを待つという手も、ないわけではない。先ほど言ったように、刹那がレナのことを想っているのは確実と言っていいくらいだし、レオがうまいことやってくれて、レナに想いを伝えようと計画を立てている最中なのかもしれない。


けれど、それだといつになるかわからない。いつレナの元に想いを伝えにくるのか。いつ仲間以上の関係になるのか。アプローチが来るまでの待つ時間を、レナの胸はずっと締め付けられているに違いない。いつ来てくれるのか、いつ想いを伝えに来てくれるのか。それを自身に問いかけるたびに、落胆と切なさを感じる羽目になる。


それならば、自分から行ったほうがいいに決まっている。そうすればすぐにでも刹那に想いを伝えられるし、刹那の気持ちを知ることもできる。仲間以上の関係にもなることだってできるだろうし、今胸の内に巣食っているもやもやも解消できる。先手必勝という言葉もあるように、待つよりも攻めるほうがよっぽどマシな結果になるのは明白だった。



「……リリア」



「なんですか?」



「うまく、いくかな」



「いきます。きちんと自分の気持ちを刹那さんに伝えれば、きっと応えてくれます」



「……意地の、見せどころかな」



「はい。女の子の強さ、見せつけてやりましょう」



「……うん、そうだね。そうだよね」



芯の通った強い声色で、レナは言葉と共に決心した。


勇気を振り絞ろうと。


女の子の意地とやらを見せてやろうと。


刹那に想いを伝えようと。


ただ、決意をしたとは言っても不安は消えない。


だから、せめて。



「リリア」



「何ですか?」



「もうちょっとこのままでいさせて」



「もちろんです」



その不安が和らぐまで。


もう少し、このまま。


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