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第121話 恋慕編14

刹那とレオが別れた頃、リリアは家の周りをとてとてと歩き回っていた。言わずもかな、話をすべき相手のレナを探すためであるのだが、そのことを忘れてしまいそうなくらい外の天気はよく、時折吹いてくるそよ風が心地よかった。できることならば、このまま程よく育っているこの芝生の上に寝転がり、ひと眠りしたい気分だ。鳥の囀りを子守唄にし、温かい日差しの下でうたたねをするのは、最高に気持ちのいい一時になることは間違いない。


何とも悩ましい欲求だが、今回ばかりはお預けだ。今はそれよりもずっと優先すべきことがある。


レナにうまいこと言って刹那へ想いを伝えるように仕向けること。それが、今のリリアに課せられた一種の使命だ。


その責務を果たすためにも、レナと話し合うべくこうして出歩いてみるものの、なかなか見つけることができないというのが現状だ。狭い世界ではあるが、居場所がわからないとなればそれなりに探索も苦労する。


右を見て、左を見て、ぐるっと辺りを見回して、再び歩き出す。外に出てからもう何度も繰り返してきたためか、そろそろ目が回ってきたらしい。ふらふらと体を揺らし、リリアは芝生の上へと腰を下ろした。


一体どこにいるのだろうと、大きくため息をつく。早く見つけて、そしてレナと話がしたかった。刹那のことを好きなってどんな心境になったのか。同じ女として、恋する乙女として、ぜひレナの胸の内を聞きたかった。共感できる部分もあるだろうし、自身とは違うような考えを言ってくれるかもしれない。それが、今か今かと思えて仕方がなかった。



「もー……。レナさん、どこ行っちゃったの~?」



独り言を呟き、リリアは立ち上がった。


パンパンと腿の裏を叩いて枯れ草やらを落とし、どこを探そうかと思考する。


これだけ探していないのだ。ひょっとしたら入れ違いになったのかもしれない。そうに違いない。


リリアは少しだけ頭をひねり、驚くほど早くその結論に至る。義兄であるレオとは違って考えることが苦手のリリアは、この通り決断するのも早い。このおかげで幼少の頃何度か痛い目を見たりしたのだが、それはまた別の話だ。


そうと決まったのならばと、リリアは家まで引き返すことにした。絶対家の中にいるに違いない、もしもいなかったらまた探せばいいだけの話だと、極めて軽い気持ちでリリアは家へ向けて歩き出す。傍から見れば何とも危なっかしく、本当にレナを『その気』にさせることができるのだろうかと不安になってしまうほど楽観的であるが、本人のリリアは至って真面目にやっているようだった。



「あれ?」



何かに気が付き、リリアは歩みを止める。


視線の先は、家の上―――屋根である。


そこに、いた。


そよ風に煽られたのか、オレンジ色の髪の毛がさらさらとなびき、やたらと細長い太刀を抱えて座っている。遠すぎて表情はよくわからないが、間違いなくレナだ。いくら探しても見つからないわけだ。灯台もと暗しとはこのことである。まさか屋根に乗っているなど思ってもみなかった。


ゆっくりとしていた足取りを速め、レナへ声が届く位置まで駆け足で移動する。 ようやく見つけたという嬉しさからか、表情は明るい。子供のように無邪気で純粋な明るさが灯った可愛らしい表情だった。



「お~い、レナさ~ん!」



メガホンの要領で口元に手を当て、リリアは屋根の上に座り込んでいるレナへと声をかけた。


その大声に気がついたのか、レナは顔を上げて辺りを見渡し、そしてようやっとこちらへ向かって手を振っているリリアに気がつく。



「リリア~、どうしたの~!」



声を上げて、リリアにそう尋ねる。



「ちょっとお話したいなぁって~! ダメですか~!」



「いいよ~! ちょっと待ってて~!」



そう言ってレナは立ち上がり、リリアの元へ行こうとその場から飛び降りる。屋根から地面までは決して高いわけではないのだが、常人だったならばまず間違いなく怪我をするほどはある。しかし、日ごろから鍛えている人間であれば話は別である。特に身体の強化を使うこともなく、レナは楽々と着地することに成功した。



「さてっと……。お話ってどんなこと?」



さも何ともないように、レナはリリアにそう切り出した。



「んと……、ここじゃちょっと話しにくい、ことです。どこか2人きりになれる場所があったらそこがいいですけれど……」



これから話すことは、刹那とレナの仲を左右する極めて重要なことである。おそらくないとは思うが、誰かに邪魔されたりでもしたら一大事だ。事は慎重に運ぶべきであると判断したリリアは、それとなく邪魔の入りそうもない場所へ行くことを提案する。



「林とかどうですか? 誰も来ないだろうし、静かそうですし」



「え? ダ、ダメっ! 絶対ダメっ!」



リリアの言葉に、なぜかレナが必死になって反対する。リリアの手をぎゅっと握り、一気に赤くなった顔をぶんぶんと左右に振る。


ここまでレナが林へ行くことを拒否しているのには一応の理由がある。ご察しの通り、刹那がいるからだ。とぼとぼと、寄り道もせず真っ直ぐ林へと向かった刹那の姿を、レナは屋根の上から見ている。となれば、林に刹那がいることはほぼ確実。そんなところに行くなど、とてもできない。顔を合わせるだけで火が出るのがわかりきっているのだから当然だ。


そんなことを知らないリリアは、そこまで嫌がるならと林へ行こうという考えを即座に破棄した。要は2人きりになれればよいのだから無理に林へ行く必要は全くないし、強引に林へ行こうと言ってレナの機嫌を損ねてしまえば、その時点で刹那のことを話すことが難しくなってしまう。頭の回転がいまひとつであるリリアも、それくらいは考えている。


それならば、場所はどうしようかとリリアは首を傾げる。が、ものの数秒とかからぬうちにある場所が思い浮かんだ。



「それじゃ、レナさんがいた所はどうかな? 屋根の上だったら誰も来ないだろうし、それに……」



「それに?」



「わ、私も登ってみたいんです! 高い所、好きなんです!」



思わず本音が出てしまったリリア。若干目が輝いて見えるのは、おそらく気のせいではないのだろう。


身体の強化ができないリリアにしてみれば、こうして誰かに頼まなければ高い所から下を見下ろすことなど到底できない。場所が屋根という危ない場所であればなおさらだ。しかし、逆にそういった危険な場所だからこそ、登ってみたいという気持ちが強くなるのもまた事実。ダメと言われるからやりたくなるのは、もはや言葉では説明できない気持ちの問題なのである。



「うん、そこならいいよ。でも、落ちたら危ないから、絶対私から離れないでね。助けられなくなっちゃうから」



リリアの強烈なプッシュにより、レナは特段難色を顔に出すわけでもなく、快くその要求を呑みこんだ。レナにしてみれば、林でなければ場所などどうでもいいのである。



「はい、離れません! 絶対に!」



「うん、そうしてね。それじゃ、ちょっとごめんね」



一言断りを入れて、レナはリリアの胴に腕を回して捕まえる。


そしていつになくスムーズに身体の強化を行い、屋根へ向かって跳躍した。


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