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第12話 近未来編7

AIの部屋の入口は防弾ガラス製である。外の廊下を見張る人にとっては、とてもありがたいことである。

ロボットはまだ来ない。AIにソフトを入れてから、すでに一分近くたっていた。おかしい、なぜ来ない。後2分もすればウイルスを完全に破壊し、昔のAIに戻るのだ。いや、昔に戻るというよりも、『今』のAIの自我を殺してしまうと言ったほうがいいだろう。そんなこと、ウイルスは絶対に望んでなどいない。ならばどうして?、理由は?

一つも浮かんでこない、早々に手を打たなければAIの負け。それはそれでいいのだが、何か引っかかる。

と、ロボットが見えた。もちろん一体だけではない。その数、


{や、やりやがった・・・・・・}


不明。

一目見ただけでも嫌になってくるほどの数、と言うしかない。ロボットにより廊下が埋め尽くされていたのである。先が見えないくらい、それは多かった。手にはレーザーガン、ビームソード。

AIが今の今まで動かなかった理由、それは数で力押ししようと、全ロボットを8階に集結させるためだったのである。

いくら武器を使っても、一対一だと負けてしまう。ならば、百対一ならどうか、と。


「リーマス!あと何分?」


「あと1分45秒!」


それを聞くなり、刹那は廊下に飛び出していった。賢明な判断である。

迎え撃つなら、出来るだけ遠い位置のほうが良い。一体でも部屋に侵入させてしまえば全て水の泡なのだから。

ロボットたちは一斉にそれぞれの武器を構える。狙いはもちろん刹那ただ一人。


「やらせるかよ!!」


大剣を一振り、前方のレーザーガン部隊が壊滅し、


「はぁ!!」


もう一振り、ビームソードで一斉に切りかかってきたロボットを壊し、


「でやああ!!」


さらに一振り、後方のレーザーガン部隊を滅ぼす。


 {なんだ?}


自分に迫り来る機械人形を壊しながら、


{わかんないけど}


自分の体の、


{すごく、軽い}


変化に気付く。


{ロボットたちが遅く感じる}


大剣を振り回しながら、自らの変化に気味悪さと喜び、二つの感情が混ざった感情を覚える。今現在、間違いなく刹那が押している。


残り1分。


+++++


「あと、40秒。」


緊張。今、リーマスは緊張していた。

背中に感じるプレッシャーを、ひしひしと感じながら、リーマスは緊張していた。あと少し、だけど、みんなが。クリス、ロックス、それから刹那。心配、緊張、不安、プレッシャー。複雑に絡み合う心境。


「あと、30秒」


余裕なんて少しもなかった。少しでも早く終わらせたかった。この場から逃げ出したかった。なるべくなら、背負いたくはなかった。でも、自分の父の想いを、人々の恐怖をはらってやりたい、と言うのも事実だった。


「あと、20秒」


AIとリーマスは友達だった。思えば、あれが初めてだったのかもしれない。親近感がとてつもなく感じられた機械を見るのは、触るのは、感じるのは。

楽しかった。メンテナンスに行ってくると嘘をついて、AIと色々話をしたのを覚えてる。宇宙のこと、自然環境のこと、人間のこと、機械のこと、それから、自分のこと。


「あと、10秒」


友達を越えた関係だった。父が亡くなったときも、ずいぶんと励まされた。クリスも、ロックスも、それから町のみんなも、AIが好きだった。もはや家族だった。家族同然だった。その大事な家族が、突然いなくなってしまった。それどころか裏切った、悲しかった、つらかった、何もかも嫌になった。


「終わった。AI、スリープモードより起動」


何かの間違いと信じたかった。原因を探った、AIの意思なんかじゃない、何かがAIを操っている。そう思って、調べた。原因はウイルス。厳重なプロテクトも外されていた。

正直、良かったと思った。AIのせいじゃないと知って。だから取り返そうとみんなで決めた。ウイルスから、大事な家族を、取り返そうと。そう決めた。


「AI、完全起動。AI、聞こえる?僕だよ、リーマスだよ?」


帰ってきて欲しい。もう一人の、大事な家族。戻ってきて欲しい。機械のくせに、温かい心とおもいやりを持ったAIに。話がしたい。昔みたいに、色々聞かせて欲しい。だから、戻ってきて。


「リ、リーマス。ワ、ワタシハ一体何ヲシテイタノデス?」


戻ってきてくれた。大事な大事な、家族。温かい心の持った、思いやりを持った、家族。戻ってきてくれた。うれしい、とてもとても、うれしい。


お帰り、AI。


とても、心配、したんですから。


+++++


「???」


一斉にロボットたちの動きが止まった。

残り数体、5回も大剣を振れば全滅させることが出来ると言うところで、ロボットたちは時間が止まってしまったかのように静止していた。


「あ!!」


気付いた、もしかしたら、と。

思った瞬間、駆け出していた。AIの部屋に向かって。自動ドアが開くまでの時間がとても長く感じられた。早く、早く、と。―――自動ドアは完全に開いた。


「リーマス!!」


叫びながら入って来て、刹那が見たものは、泣いているリーマスだった。待てよ、失敗したのか?そんな馬鹿な、だってロボットたちが止まったじゃないか。

確かめなければならない、刹那はリーマスの方に歩を進める。と、


「アナタハダレデスカ?」


「うわああ!!」


AIが刹那に話しかけた。驚くのも無理はない、いきなり聞きなれない声が耳に入ったのも理由の一つだが、何よりも先ほどまで敵だった相手に話しかけられるということに驚いた。

AIは見た限り正常になっている。しかし、リーマスは泣いている。なぜだ?

刹那の考えている様子を見て、AIは少しおかしそうに言った。


「アア、リーマスデスカ。コノ子ッタラ昔カラ泣キ虫デネ、マッタク困ッタモノデス。」


AIの声は、女性のような感じがした。人間の、とは程遠いが、そう感じられた。


「ちょ、ちょっとAI、なに言ってるんです!!」


リーマスが少しあせったように言う。母と子のような感じ。思わず、刹那は笑ってしまった。


「せ、刹那さん!なに笑ってるんですか!」


怒られてしまった。でも、笑うことをやめなかった。リーマスは本気では嫌がってなかったみたいだったから。むしろ喜んでるみたいだったから。笑っているうちに一つのことが頭に浮かぶ、


「あ!クリスとロックスは!」


と同時に口に出していた。

クリスとロックス、囮役の二人の安否がまだ不明なのである。武器を持ったロボットに追いかけられている二人。レーザーに貫かれていないだろうか、ビームソードで体を斬られてはいないだろうか。もしかしたら、もうすでに殺されているかもしれない。

そんな・・・・・・。せっかく、せっかくAIが正気に戻ったのに、せっかくロボットによる虐殺の歴史に終止符を打ったのに、せっかく人々が恐怖から解放されるのに、それなのに、こんな結末はあんまり───


「ああ、それなら心配ないですよ」


泣いた後独特の声で刹那に言った。

心配ないとは、無事ということだ。何でわかるのだろう?その答えはリーマスの、


「AIの周辺温度感知器を使って探索してもらったんです。そしたら」


「元気ニ走リ回ッテマスヨ。体温モ見タ限リ正常。命ニ別状ハアリマセン」


姉弟と同じよう、AIにまでも邪魔をされたリーマスはむっとなってAIのほうを見る。なんとなくだが、AIは目をそらしているのがわかった。


「そうか、ふぅ、良かった」


安心のため息をつく。よっぽど不安だったのだろう。


「さてと」


心の中のもやもやがなくなり、刹那はふところから水晶を取り出した。

ここからが本番だった。本来の刹那の目的は日本に、いや、家に帰ることなのだ。前の世界の村の長老が言っていた、水晶に光を当てろ、と。

刹那はAIに埋め込まれているコンピュータの光を水晶に当てた。すると、


「おっ!」


水晶から一本の光が伸びる。光の伸びた先は自動ドアの少し前の空間。ここだ、ここにゲートがある。ここに魔力を圧縮して放てば、


「あ」


しまった、自分は魔力なんてない。あったとしても圧縮して放つなんて出来っこない。出来るのは、体から出てくる黒い霧を大剣に変えることだけ。

しかし、圧縮ということなら同じだった。黒い霧が大剣の形になって出来るわけだから、


{これで斬ってみるか?}


なんて事を考えたりする。物は試し、やってみよう、と刹那は大剣を振り上げる。そして勢い良く振り下ろす、何事も起こらないだろうと気楽な気持ちで。大剣が空を切ったときに、異変は起きた。ごごご、と音がし、空間に亀裂が入った。亀裂はどんどん広がっていき、やがて丸い穴になった。


「・・・・・・・・・・・は?」


一瞬、ほんの一瞬だけだったが、何が起こったのかを理解することが出来なかった。目の前に、『道』が在るということを理解することが出来なかった。


+++++


「AI、これは一体」

「私ニモ何ダカワカリマセン」


いきなり目の前に現れた穴。空間にあり、風を吸い込むようにぽっかりと開いている穴。

不意に刹那は大剣をもとの黒い霧に戻し、体に入れた。そして、得体の知れない空間の穴に入り込もうとしていた。

ゲートが開いた事はまぐれかもしれない、もう一度剣で斬っても開かないかもしれない。ならば飛び込むのは今しかない。開いたのが偶然だったとしても、それがゲートであることには変わりない。


「刹那さん!」


何を?、危険だ、の二つの意味を込めて刹那に言う。刹那はくるりとリーマスたちのほうを向き、笑って答えた。


「ごめん、もう行かなくちゃいけない。クリスとロックスよろしく言っておいてくれ」


「行くって、どこへ?」


心配そうに刹那にたずねる。出来ることなら引き止めたかったが、事情というものがあるのだろう。ただ一つだけ、どこへ行くか、それだけををたずねる。




「わからない!!」




笑顔で答えた刹那は、そのままゲートに入り、行ってしまった。再び、ごごご、という音がし、ゲートは閉じられてしまった。

自分らの家族を取り戻してくれた恩人、人々の不安を取り払ってくれた英雄が、得体の知れない空間の穴に入ってどこかに行ってしまった。


「行ってしまいましたよ。まだ、何もお礼言っていないのに」


「ソウデスネ」


なぜかは知らないが、不思議と悲しくはなかった。良く分からないが、多分これで良かったのだろう。ただ心残りなのは恩人に礼を言えなかったこと。


「ありがとう、刹那さん」


聞こえていることを、きっと届いているだろうと信じて、リーマスはこの言葉を声に出していた。空間の穴に迷わず入り込んだ理由はわからないが、きっとあの人は大丈夫だろう、なんとなく、わかった。


「さて!!これからは忙しくなりますよ!!」


「ソウデスネ。デモ、人々ハ私ノシタコトヲ許シテクレルデショウカ・・・・・」


リーマスが話してくれた事にかなりの不安を感じながら、AIはリーマスにたずねた。自分がしてしまったこと(もちろん望んでやったわけではない)、たくさんの人の命を奪ってしまったこと。許されるだろうか、いや、許してもらえるわけがない。自分は大変なことをしてしまった。取り返しのつかないことを。自分が嫌になる、だめだ。もう何をしても許してもらうことなんて───


「なに言ってんです、らしくない。姉さんだったら飛び蹴りかましてるところですよ」


はっと我に返るAI。リーマスの何気ない一言が自己嫌悪の渦から開放してくれた。たった何気ない一言で、おおげさかもしれないが、救われた。


「そうだぞ、AI。お前は私に怪我をさせた分、きっちり社会献上してもらうぞ」


声がして、出てきたのは、肩を押さえているクリス。しかし、なぜか笑っている。


「僕の足の分もね、AI。」


また出てきたのはクリス同様、笑っているロックス。しかし、左足のすねから下がない。傷口は見えないが、おそらく焼け焦げているだろう。出血はしていない。おそらく、ビームソードによって斬られたのだろう。


「・・・・・・・・・・・」


驚きで声が出なかった。クリスはともかく、ロックスは足を失ってしまったのだ。


「なに、心配ない。私の方はすぐ治る。ロックスも、AIの発明次第でどうにかなるだろう」


「そうですよ、AI。悪いと思っているのだったら、人々にその分、精一杯償ってください。もちろん僕たちも手伝いますよ」


肩を押さえるクリスと鉄パイプを杖代わりにしているロックスは明るくAIに言った。

リーマスの一言と同じくらい、あるいはそれ以上に、絶望しているAIにとっては救われるような、そんな言葉。


「ハイ・・・・・、ワカリ、マシタ」


生身の体だったら、もうとっくに涙を流しているところだ。こんなに、こんなに自分のために励ましてくれる、『家族』がいる。うれしかった、ありがたかった。支えてくれる人がいることが、何よりも。


「だったら、そんなに落ち込んだ声を出すな」


「そうです。落ち込んでる場合ではありませんよ」


やらなければ、自分のしてしまったことを償わなければ。

みんなのために、自分はやらなければならない。


「エエ、ワカリマシタ」


希望、やる気に満ちた、機械のAIの明るい声だった。




ちなみに3年後、この町は再びロボットと人間の理想郷となった。ロックスの足も、AIの発明によって無事再生したらしい。



+++++


「・・・・・・・・・・というのが発動当時の刹那さんの様子です」


ダンが一人の女性に、刹那のことを報告する。その隣にはダンと歳も変わらないくらいの青年が立っている。


「ふうん、そう。」


そっけなく、返事を返すのは眼鏡をかけた女性。長い栗色の髪の毛に、細い体には白いローブを纏っている。街に出てみれば、たちまち若い男から声をかけられるだろう。


「でも、報告が遅れたのはなぜかしら?ダン、ゼール?」


ふうとため息をつき、二人に問いかける。


「ええ、実験体の制御を奪われ、自分たちの魔力も封じられていたのです」


そして、ダンは間を置き、


「リバーによって」


その名を口にしたとたん、女性のやる気のない表情が一変。悲しみの表情をし、視線を下に向ける。


「・・・・・・・・・・・そう」


ただ一言、返すだけだった。しばらく、ほんのしばらくの間、沈黙が辺りを包む。


「そんなに暗くなんないでよ、もうあいつと君はな〜んの関係もないんだから」


その空気を変えるように、ゼールは明るく話しかけるが、女性は首を横に振り、


「あいつは、まだ私の大事な・・・・・・・・・・」


最後までつなげず、そこで言葉を切った。女性の表情はさらなる悲しみに包まれる。

辺りは、再び沈黙に包まれた。


近未来編、終了です

いかがでしたでしょうか、今回の物語せかい

飼い犬に手を噛まれる、それが実現した世界でした

今回、刹那は自らの『力』を自在に使うということを会得しました

力の本領はまだ発揮できていないにせよ、大きな進展には間違いありません

刹那は家に帰りたがっていますが、所詮は願望

人一人の思いが物語せかいの運命を狂わすことなどできますまい

ここまで言えば、おわかりでしょうか?

わからなくても結構、むしろわからないほうが良いのです

さて、次の物語せかいは偽者編

興味を持たれた方は前へ

興味が失せた方はご退場を

あなたがどちらを選ぶにせよ、この物語せかいは動くのをやめませんがね

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