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第119話 恋慕編12

何やら色々なことがあった食事の時間であったが、それも終わりを告げ、各自自由時間となりその場は解散となった。


刹那とレナの席が隣同士であるため、何か一悶着あるだろうと踏んでいたメンバーだったが、案の定とても面白い―――もとい期待以上の展開を繰り広げてくれ、大満足の結果ということで落ちついた。赤面してお互い恥ずかしがるだけだろうと踏んでいただけに、なおさら。


ともあれ、状況が動いたのは事実である。ごくわずかではあるが、それなりにいい雰囲気を醸し出していたのだから、今更2人の気持ちを疑うような真似はしなくてもよいだろう。問題はこの後のことだ。いかにして2人の想いを実らせるかという、ただ1つの事柄。


言葉にしてみれば実に単純なことであるが、これが考えてみると案外難しいのである。風蘭曰く、2人が自発的に起こした行動を見たいとのことであるが、あの様子では自ら想いを告げに行くなど到底できっこないだろう。それができていたら、こうしてあの2人のための計画など練る必要などないのだから。


ここまで話が進み、さぁどうしようかというところで、先ほど食事をした大広間にて、一同はそれぞれ悩み込む。


刹那とレナはというと、2人とも食事が終わるなり外へと出て行ってしまった。お互い、それ以上その場にいることに少し耐えられなかったのだろうが、これからのことを相談したい一同としては好都合のことこの上ない。実にうまい具合にことが運んだものである。


とはいえ、いつ2人が帰ってくるかわからない。話をしている最中にいきなり入って来られては、この企みがばれてしまい全てがご破算になってしまう可能性大だ。刹那ならば何とか誤魔化せるが、レナ相手に誤魔化すのは無理がある。


作戦を知られないためにも、できるだけ手早く意見をまとめなければならない。それを早々に悟った風蘭が、まず先に口を開いた。



「誰か何か提案してっ!」



黙って何かを考え、そして案を出してくれると思った矢先にこれだ。長年の付き合いをしてきた雷光も何となく予想はできていたが、実際に発言されるとなるとなかなか肩すかしがくる。計画人ともあろうものが、なぜこうも無計画なのかを小一時間ほど問い詰めたい衝動に駆られたが、まず言いたいことが一つ。



「考えなしで人任せなんですね……」



ため息混じりにそう漏らす。文句よりも何よりも、雷牙はまず先にこれを言いたかった。



「そりゃそうよ! 小難しいことなんて、あたしがわかるわけないじゃん」



「まぁそうでしょうけど……」



「だ~か~ら! みんなの力を借りんの! あたしじゃ無理だから、みんなにお願い! 助け合いの精神ってやつよ! 素晴らしいでしょ? ってことで、何かアイディアどうぞ!」



「すごく自分に都合のいいように解釈しているようですけど……まぁいいですか」



それだけ言い、雷光はため息をついて腕を組む。


アイディアと言っても、雷光の頭にある考えは1つしかない。他にいいアイディアがあるのかもしれないが、今の状況と雷光自身の想像力ではそれ以外の案しか思い浮かばなかった。


何か言わるのだろうなと思いながらも、雷光は浮かんだたった1つのアイディアとやらを口にする。



「アイディアというほどではないですけれど、今夜にでも2人きりだけにさせるのがいいんじゃないでしょうか? 引き合わせる前に何か一言二言伝えて、お互いにその気にさせれば自然とくっつくかと」



僕にはこれしか思い浮かびませんでしたよと、語尾に付け加えて雷光が口を閉じる。


その場にいた一同、反論するなどなく、それが一番だろうなと胸の内で同意していた。確かに自立的にどちらかが動くことは難しいかもしれないが、そこは風花とレオの話術でそういった方向へと持って行くとなれば、雷光のアイディア通りに勝手にくっつく可能性も出てくる。


だが、ただ1人。今まで何1つ口をはさまなかった人物が、ここへきて挙手をする。



「えっと、雷光さん。いきなり今夜決行っていうのは急過ぎませんか? もう少しじっくりやってもいいと思うんですけど……」



雷光の意見に異議を申し立てたのは、リリア。


その口から放たれた慎重に物事を運んだほうがいいという意見も、確かに一理はある。事が事なだけに、軽率なことは絶対できない。あの2人の仲を取り持とうというのだから、失敗だけは是が非でも避けたい気持ちも、雷光は十分わかっているつもりだ。


だが、それを思案に込めていなかったわけではない。早々のうちに決着をつけなければいけないという理由もあるのだ。


それを伝えようと雷光は一度だけ頷いてから、ゆっくりと口を開く。



「もっともな意見です、リリアさん。僕も、できるならそうしたほうがいいと思うんです。ここまで来て、失敗だなんて最悪ですからね。でも、それはできないんですよ」



「どうしてですか? 何か、あるんですか?」



「ありますよ。僕達が旅を続けている大義名分は、世界に蔓延っている罠を外すことでしょう? こうやって取っている休息も、いつまでもというわけにはいきません。明日には、次の世界と旅立たなければいけないでしょう。となれば、実質残されている時間は今日くらいしかないというわけです。次、いつこういったまとまった休息を得られるかなどわかりませんから、何としてでも今日中に結果を出さなければ、と思ったのですが」



そう言った雷光の表情にも、こころなしか不満げな色が見える。雷光も、本当のところはもっと2人の様子を長く見守っていたいのだろう。見ているだけで笑顔になれる、2人の初々しい反応を、もう少しだけ堪能したいという気持ちだってないわけではない。


だが、それはできないのだ。今まで皆が致命的なダメージを負わずして生還していることは、正直奇跡に近いものであることは周知のこと。世界を狂わせているほどの影響を与えている存在を相手に、誰1人欠けることなくよくぞここまで来れたと感心するほどのものだ。


だからこそ、次こうして全員が全員揃うことは2度とないかもしれないという可能性も考えなければならない。いつ、誰が、どこで、どんな風にして命を落としてしまうのか、誰にもわからないのだから。

それには、もちろん刹那とレナも含まれる。想いを伝える前に、2人のうちどちらかが帰って来れなければ、その恋は永遠に実ることはない。実る可能性すらないのだ。それならば今のうちに打てる手は打たなければならないというのが、雷光の主張と考えであった。



「そういうことなら、わかりました。……ごめんなさい、私、考えが足りなくて」



「いえいえ、僕もできるならそうしたいと思っていましたから、どうかお気になさらず」



しょんぼりと落ち込むリリアに、雷光がそう言葉をかける。


その言葉は慰めではなく、本音であることは周りも何となくわかっていた。



「となると……、もう一仕事ってわけね」



場の流れを変えるように、押し黙っていた風蘭が漏らす。



「姉さん、レオ。何度も何度もあれなんだけど、お願いできる? こればっかりは他に頼れないからさ」



珍しく、若干申し訳なさそうに風蘭が尋ねる。


言葉通り、刹那とレナの件に関しては2人に任せっぱなしだ。風蘭もさすがに仕事量の偏りが顕著になっているために申し訳なく思っているのだろう。雷光、雷牙、そしてリリアに比べてずいぶん頑張っているのだから。



「私はいいよ~、ここまで来たらって感じだし~」



「俺もだな。今更雷牙と雷光が話に割って入ってきたら、さすがに怪しまれるだろうしな」



風花もレオも、特段嫌がることもなく素直に承諾する。


毒を食らわば皿まで。


ここまで世話を焼いたのだ。今からどれだけ焼こうとも、それはそれで構わないという感じである。



「あ、あの。その役、風花さんの代わりに私がやってもいいでしょうか? 絶対成功させて見せますから」



もう1度挙手をし、リリアが風蘭に尋ねる。


不安げな表情の中に確かな光が見えることから、何とか2人の仲を取りつぐための手伝いをしたいということが十分に窺える。


悩むまでもない。


リリアのその問いに、風蘭は頷いて応える。



「そだね。そろそろリリアにも頑張ってもらわないとね。じゃ! よろしく!」



レオも言うように、いきなり何もアプローチをかけなかったリリアが接近していくるとなると、レナに怪しまれてしまうかもしれないのだが、そこはリリアの手腕次第でどうとでもなる。何も文句を言わずここまで頑張ってくれたのだ。最後くらいは頑張ってもらおうと、風蘭は心おきなくリリアに一任した。



「じゃ~私の代わりによろしく~。頑張ってね~、絶対成功させてね~」



「はいっ! 頑張りますっ!」



両手をぐっと握りしめ、決意を露わにするリリア。不安がないわけではないが、きっと何か考えがあってのことなのだろう。今はそれを信じるしかないし、風蘭自身もそう信じたかった。



「それじゃ話は決まったね! それじゃみんなよろしく! これが最後だから、気合入れてね!」



その風蘭の言葉に一同は頷く。


指針は決まった。それぞれやるべきこともある。


これが最後なのだ。これさえ成功させれば、あとは本人たち次第でどうなるか決まる。


それぞれがそれぞれの役割をこなそうと躍起になっているその最中、ある男の声が響いた。




「あのさ、俺様は一体何をやりゃあいいんだよ。」




雷牙の、本当に間延びした声が、その場に何度もエコーしているかのような、そんな錯覚に一同は囚われていた。


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