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第111話 恋慕編4

刹那とレナが、まだ顔を赤らめながらしどろもどろしている頃、レオは風蘭たちの待つ広間の中へと戻り、2人の事を一同に説明していた。風花の言う通りの状況だったということ。手を貸さなければ、いつまでたってもあのままかもしれないということ。



「・・・俺の見解だとそんな感じだ。風花の言う通りだった、ってわけだ」



「へ~、そうだったんだ~。じゃ~、レオも協力してくれるよね~?」



わかっているくせに、風花は説明を終えたレオに白々しくそう尋ねる。


全てが目論見通りだというのにも関わらず、表情は相変わらず笑顔なのが何とも言えない。このポーカーフェイスぶりには、さすがのレオも舌を巻かざるを得なかった。



「最初にそう言っちまったしな。俺も協力させてもらうさ。正直、あの調子だと何年待っても2人の仲は進展しないだろうからな」



「おおおっしゃあーーー! レオも参加だね! これで全員! いよいよ本格的にアイディアを出していくかんね!」



もの凄いテンションで席から立ち上がり、風蘭はバンバンと机を叩く。その表情は、この状況が出来あがったことの嬉しさと興奮からか、若干赤くなっている。さながら、大人には内緒のいたずらを考える子供のようだった。



「それじゃ、まず最初に考えるべきは・・・え~っとねぇ・・・」



先ほどの勢いはどこへやら、風蘭は何から始めるべきかをその場で考え始める。どうやら目の前にぶら下がったにんじんよろしく起こった楽しげな出来事と、その場のノリだけでここまで突っ走ってきたらしかった。



「な、何も考えてないんですか、風蘭さん」



そのあまりの無計画さに、雷光が呆れた顔でそう尋ねる。



「あ~、うん。まぁいいじゃんいいじゃん! みんなで考えればすぐだよきっと!」



その前向きな態度に、雷光は大きなため息をついた。昔から知っているとはいえ、この要領の悪さには呆れて物も言えないのが正直な所だ。もう少し落ちついて物事を考えるということができないものなのかと思わずにはいられない。



「いや、それよりも先にやらなければならんことがある」



テンションが高くなってイケイケモードに入っている風蘭を制するかのように、レオが静かに言った。



「風蘭、レナから相談を受けたって言ったよな」



「うん、それで今回は皆で協力しようっていうことになったんだよ!」



「それはわかってる。けどな、刹那のほうはまだ確認取ってないだろ?」



「確認?」



「レナのことが好きだという確認さ」



レオの言う通り、風蘭は相談を受けてレナの刹那への気持ちを知ることができたわけだが、刹那の気持ちはまだ聞いていない。レナのことをどう思っているのか―――好きなのか、それとも仲間としか見ていないのか。それがわからなければ、計画をスムーズに進行させることができないかもしれないと、風蘭は納得した。



「レオの見立てでは~、刹那はどうなの~? レナのこと、どう思ってそう~?」



「おそらくだが、レナと同じ気持ちだろうな。ただ、刹那自身がそれに気がついていない、というのが俺の見立てだ」



『崩天剣』の能力を理解したときの刹那の発言と、先ほどの様子。何となくではあるが、刹那がレナの事を想っているのではないかと思ってしまうのだが、それだけではまだ何とも言えない。能力を会得したことをいち早くレナに知らせたかったのは、レナが剣の師匠だからと言われればそれまでであり、先ほどの行為で赤面していたのも、レナほどの美少女とああなってしまっては仕方のことだと言える。


それなのにレオがそう言うのには、一応理由がある。


雷牙達が参入してから行ってきた、どのメンバーで異世界に行くかを決める際に行うくじ引き。


レナと別のチームであり続けた刹那がその時に見せていた、妙に残念そうな態度。


初期の4人だった頃には絶対見せない態度を、なぜチーム分けの際で見せたのか。


刹那の表情の変化を見逃していなかったレオには、何となくではあるが理解できてしまう。


それが、一応の理由だ。大したことではないかもしれないが、そもそも本人ですら気がついていないものを推測する時点で、確定などできっこないのだ。数少ない情報で、いかに事実に近いものを想像するかが、この状況に必要なことなのである。



「ふ~ん、レオがそう言うなら~そうなんだよきっとぉ」



「おいおい、鵜呑みにするのかよ。確認しなくていいのか? 俺の勘違いかもしれんぞ?」



「だって私もそう思うし~。それにぃ、違うとしても判断のしようがないし~」



「まぁ確かにな。それで、どうするんだ?」



計画の発起人である風蘭にレオがそう尋ねる。


うーんと唸りながら腕を組むという風蘭には少し似合わないポーズを取り、そのままほんの少しの間を置いてから口を開く。



「やっぱり最初は刹那の気持ちを明らかにすることかなぁ。いくらレオの見解でも確定はしてないわけでしょ? 万が一のためにもさ、やっぱり刹那は自分の気持ちがどうなのか知っといたほうがいいと思うんだよね」



風蘭の意外な返答に、レオを含める全員が少しだけ驚いたような表情を見せた。テンションが高くなっている風蘭が、まさかここで一呼吸を置くような答えを出すとは思っていなかったのである。てっきり、そんなのは知ったことじゃないと言わんばかりの返答をすると予想していただけに、この結論に至ったことについては完全に予想外だった。



「で、問題は誰がやるかなんだけど・・・やっぱりレオに頼みたいんだよね。何でもない感じで会話を始めて、徐々にそっちのほうに話を持ってくって感じ。あたし達がやると誘導尋問だっけ? それっぽくなっちゃうかもしれないから、なるべく自分で考えさせるようなことを振ってあげて欲しいんだけど」



「そりゃ構わんが、その間お前らは何をするんだ?」



「レナの所に行こうかなって思ってるんだ。気持ちの最終確認ってところかな。姉さんも来る?」



「もちろん行くよ~」



風蘭の問いに、風花は2つ返事で答えを出した。言葉にこそ出してはいないが、レナをからかって恥ずかしがる反応を見たいという心の内が、妹である風蘭にはお見通しだった。もっとも、風蘭も最終確認という名目で同じようなことをしようとしていたのだが。



「ところで、僕はどうすればいいのでしょうか。さすがに何も仕事がないというのは退屈なのですが」



そろそろ仕事をしたいのか、雷光がそんなことを風蘭に尋ねる。


何をしてもらおうかと再び腕組みをしたところで、レオが横から口を出した。



「それなら頼みたいことがあるんだ。さっき刹那が訓練で庭に大穴を開けたんだが、それを代わりに埋めといてくれないか。今頃、2人で埋めてるだろうからな。そうなると話もできやしない」



「ああ、なるほど。先ほどの爆音は刹那さんのものだったんですね。もしかして、『眼』を使えるようになったんですか?」



「その通りだ。詳しいことは、事が終わった後にでも刹那に説明してもらうといい」



「そうします。・・・そうか、『眼』か」



どことなく楽しげな表情をして、雷光がぽつりと呟く。仲間が新しい力を得たとなれば、気になるというのが当然だ。実際に目で見て、そして得た力がどれほどのものなのかを知りたい。戦うことを好む一族の血が、雷光のその好奇心を生み出していた。



「雷光もやることは決まったみたいね。そいじゃ、各自行動に移しましょっか! あと、レオ。もう一度言うけど、答えを誘導するのはダメだからね。ちゃんと刹那に考えさせるような形にしてね」



「わかってる。任せておけ」



レオの返答に満足がいったのか、風蘭は最初の時と同じように、何やら楽しげな表情をしたまま立ち上がった。今のところはもう悩むべきことなどないのだから、あとは進むだけ。考えるより行動するほうが得意な風蘭がこうなるのも当然だった。



「よぉっし! それじゃおっけぃだね! 姉さん、行こ!」



「行こ行こ~。楽しみだな~」



張り切る風蘭と、間延びした声で返事をする風花。声の抑揚は違うものの、2人ともの胸の内にある感情は同じである。


この状況を最大限に楽しみたい。


手を握られただけで真っ赤になるレナの可愛らしい反応を、もっと堪能したい。


あまりまともな動機ではないが、その不純な動機がレナの手助けをしようという計画に結びついているのだから、なかなか馬鹿にできたものではない。


かくして、計画の前座とも言える行動が始まろうとしていたのではあるが、そこに今まで黙っていた雷牙が不意に口を開いた。



「なぁ、ちっと聞きてぇことがあんだけどさ・・・」



頭を掻きながら、言いにくそうにしながらも雷牙は続ける。



「さっきからお前ら、何の話してんだ?」




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