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第109話 恋慕編2

罠を外しに異世界へと飛び立っていたチームが1人残らず集結したのを確認すると、いつものように一同は報告会を始めた。


今回はどちらのチームも『罠』を外すことに成功したということで、あまり雰囲気が重くならなかったものの、刹那たちの世界で姿を見せた神の使いの1人である『ジェノ』の事が話題に出た際に、張り詰めた緊張感が代わりとしてその場の空気を凍らせた。



「情けないが、歯が立たなかった。刹那が来てくれなかったら、確実に殺されていた」



レオがいつになく真剣な表情をしながらそう言う。


『眼』を使用してもまるで意味のない強力なジェノ。偶然とは言え、刹那がジェノを倒していなければ、悲惨な結果が待っていたことだろうと常々思う。



「・・・なるほど。そちらも、決して楽に『罠』を外したというわけではないわけですね」



ルウネとの戦いで重傷を負った雷牙のほうを見て、雷牙が呟く。


当人である雷牙はジェノのことなどどうでもいいようで、椅子をカタンカタンと揺らしながら大して興味もなさそうに話を聞いていた。風花とレナによって施された手術がうまくいったため、ダメージは微塵も残ってはいないようだった。



「要は強ぇ奴がいるってこったろ? だったら俺たちももっと強くなりゃいいことじゃねぇか。違うのか?」



雷牙らしからぬ、的を射ている意見である。


敵がどんどん強くなるからどうすればいいかという答えなど1つしかない。自身たちも強くなるしかないのだ。考えた所で誰かが助けてくれるわけでもない。結局は、自分たちで火の粉を振り払うしか方法はない。



「安直だけど~、それが一番かなぁ~。あと雷牙君、いい加減に真面目にしてね~? みんなに失礼でしょ~?」



「・・・はい」



風花の間延びした声の裏に隠された怒気を感じ取ったのか、雷牙は椅子を揺らすのを止め、大人しく姿勢を正した。本気で怒った風花がどれ程恐いのかわからないが、なるべく怒らせまいとする雷牙の態度の変わりようが、何だか微笑ましく思える。



「報告は、まぁこんなところか。次のチーム分けは2日後だ。それまで、各自ゆっくりと体を休めておけ」



一同はレオの言葉に頷き、報告会は終了した。


それと同時に、刹那が勢いよく席から立ち上がると、内から湧き出る興奮を押さえずにレナに話しかけた。



「レナ! あのさ、見せたいものがあるんだ!」



「え、あ・・・、み、見せたいもの?」



何やらそわそわとしながら、レナが刹那の言葉にそう返す。


視線も合わそうとせず、しきりに視線を泳がせているその様は、明らかにおかしい。


だが、今の刹那にとって少しくらい態度がおかしくとも気にはならない。自身の成長の証を、一刻も早く見せたいという気持ちは留まることを知らず、先ほどから強まっていく一方であった。



「あぁ! ほら、早く行こう!」



「え? あ、きゃ・・・」



レナの手を引いて、刹那がそのまま外へと引っ張っていく。いきなりの事で驚いたのか、レナの頬は心なしか赤く染まり、抵抗も何もせずにただされるがままになっていた。引っ張っている刹那にはその表情が見えていなかったのだが、果たしてそれがよかったのか悪かったのか。



「何だ? おもしれぇもんか? それなら俺も―――」



『行くか』と言って席から立ち上がろうとした雷牙の顎を、隣に座っていた風花の拳が見事に捉えていた。にこにこと笑っているその表情からはとても想像のできないほど鋭く、素早い一撃。油断していたとはいえ、あの雷牙が避けられなかったのだから、その凄まじさを想像することは容易いことだろう。



「え? 雷牙、どうかした?」



立ち止まり、刹那は何か言いかけた雷牙に声をかける。



「うぅん、何でもないからぁ、早くレナちゃんに見せたいもの、見せてあげぇ」



にっこりと笑顔で、風花が刹那にそう言う。明らか隣の雷牙が大変なことになっているのだが、風花がそう言うなら大丈夫なのだろうと思い、刹那は頷く。



「それじゃレナ、行こう!」



「わ、わかったから、引っ張らないでってば~!」



どたばたと音を立てそうな勢いで刹那とレナは外へと出て行った。

その場にいた一同は刹那たちを見送った後に、席でふらふらとしている雷牙に視線を向けた。不意打ちだったからか、それとも強烈だったからか、何やら白目を剥いている。



「雷牙く~ん、余計な事は言わないでねぇ~? 空気はちゃんと読まないとね~」



相変わらずの笑顔でそう言う風花だが、果たして雷牙に聞こえているかはわからない。よっぽど打ち所が悪かったのか、雷牙の意識はまだ覚醒しない。



「姉さん、気づいてたの?」



驚いたように、風蘭が風花へとたずねる。


先ほど風花が雷牙を殴った理由など一目瞭然。刹那とレナの邪魔をさせたくなかったからだろう。ということはつまり、レナがどういった感情を刹那に抱いているかを知っていることになる。



「当たり前だよ~。あんな露骨な態度に気がつかないのなんて、この馬鹿くらいだよぉ~」



ガンガンと乱暴に雷牙の頭を叩き、風花はそう言う。


確かに、レナが刹那に連れだされる時に見せた表情を見れば、何となくではあるがその胸に秘めている気持ちを予想することは容易い。だからこそ、それに気がつかない雷牙を止めたのだろう。



「ん、んぁ!? な、何だ何だ!?」



ようやく我に返った雷牙が、驚いたように辺りを見回す。いきなり気絶させられ、そしていきなり目覚めたのであれば、誰しも同じような反応をするだろう。顎を思い切り殴られたというのに、けろっとしているその態度は、さすがとしか言いようがないのだが。



「雷牙く~ん。駄目だよ、ちゃんと2人の気持ちを汲み取ってあげないと~」



「あ、あぁ。悪かったって」



底知れぬ恐怖を感じられる風花の笑顔を見て、雷牙は頷きながらそう言った。


どんなことでも逆らわず、素直に、何より怒らせず。それが、雷牙が風花と接する際に気を付けている事項であった。破った時のことなど、想像したくもない。


と、今まで黙っていたリリアが口を開いた。



「やっぱりレナさん、刹那さんのこと・・・?」



「それは間違いないと思うよ。前の世界で相談受けたからね」



ふふ~んと、風蘭が自慢げに言う。



「そっかぁ。羨ましいなぁ・・・」



「何がだよ?」



「・・・別にぃ。何でもないの」



ちょっとご機嫌斜めといった具合に、リリアがレオからぷいっと顔をそむける。


リリアの心情を知らないレオからすれば、わけがわからないの一言である。いつものことではあるが、ため息をつかずにはいられない。



「・・・で、ここでそんなことを話してどうするんだ? まさか俺たちで何とかしようって魂胆じゃないだろうな?」



話を変えようと、レオがそんなことを切り出す。


この類の話題が出た時点である程度の予想はついてはいるが、それでも聞かないわけにはいかない。



「当然じゃんよ! あたし達がやらないと誰がやるのよ!!」



バンバンと机を叩いて、風蘭がやや興奮に風蘭がレオに言う。


どうして自分たちがやる必要があるのかわからないが、とりあえずレオの予想は当たったようだった。他の連中はわからないが、少なくとも風蘭は2人の恋路の応援をすると決めたらしい。



「で、みんなは? やるでしょ? やらなきゃ2人の恋は成就しないよ!! ・・・たぶん」



周りをぐるっと見回して、風蘭が意見の合意を求める。


やるなら大勢のほうが心強い。それに、主犯である風蘭には思いつかないようなアイディアも出てくるかもしれない。1人でやるより、大勢のほうが成功する確率が高まるのは言うまでもない。



「私『達』はもちろんやるよ~。ね? 雷牙く~ん?」



「? ん、まぁ・・・やるけどよ」



やたらと乗り気な風蘭の誘いを断ることなど、雷牙にはできなかった。何のことかいまいちわからないが、とりあえず参加はしようと気持ちを切り替えることとする。断ったら、また鉄拳が飛んでくるかもしれないといったことも理由にあがるのだが、とりあえず置いておく。



「よ~し! 他は!? 遠慮しなくていいよ! みんなでやれば成功率もドドンとアップ!」



「えっと・・・、私もやります!」



風蘭の口説き文句に乗るようにして、リリアが勢いよく手を上げた。


仲間の恋を応援したいという気持ちももちろんあるが、何よりも年齢の近い男女が、『そういう関係』になるまでの経緯を見てみたいという好奇心のほうが勝っていた。同じような年齢の友がいないリリアにとって、こういった色恋沙汰の出来事は初めてなのだから当然だ。



「それじゃ、僕も参加しましょうか。不謹慎ですが、面白そうですしね」



珍しく笑みを浮かべながら、雷光も賛同した。何だかんだ言っても、こういったイベントは楽しみらしい。いつも落ちついた様子の雷光が参加するのは、正直言ってかなり意外である。



「さぁさぁ! あとはレオだけだよ! やるでしょ? もちやるでしょ!」



残るレオに、風蘭が詰め寄る。


これだけ賛同者がいれば、当然レオも乗ってくるだろうと風蘭は考えていたのだが、当のレオは腕組みをしたままため息をつき、呆れたように言った。



「あのなぁ。それは本人達が自分たちでやるべきことだろう? 俺たちが手を出すべき問題じゃない。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られるんだぜ?」



「そうだけどさ……」



「それに、相談も受けていないのに勝手に騒ぐのもどうかと思うぞ。刹那かレナかが協力して欲しいっていうんならまだ話はわかるがな」



もっともな意見に、イケイケだった風蘭も押し黙ってしまう。


確かに、これは2人の問題だ。進むも、戻るも、止まるも、一歩進むのも、そのままの関係を維持するのも、それは刹那とレナの自由である。いくら仲間とはいえ、第三者が深く介入していい問題ではない。



「俺たちが余計なことをして、関係が捻じれる可能性もないわけじゃないからな。黙って見てるだけのほうが、俺はいいと思うぞ」



レオの言葉に、意気消沈していく風蘭。


ここまで正論を言われては、もう返す言葉もない。協力をするということが、かえって関係を悪化させる要因にもなることも確かだ。それが自分たちの手によるものならば、後悔の念は非常に大きいものになるだろう。


協力をするべきだと思い込んでいた風蘭の頭も、レオの言葉で冷えたのか、何もせずに見守ったほうがいいのではないかと思えてきた。確かに2人から『協力してほしい』という頼みを聞いたわけでないのに、勝手に事を起こすのもまずい気がする。


そんな風蘭の姿を見かねたのか、風花が発言した。



「確かにその通りだね~。2人は別に協力して欲しいって言われたわけでもないし~」



「だろう? だから俺は―――」



「でもそれは~、協力して欲しいって言えないだけなのかもしれないよ~? 仲間だからこそ、言いづらいことってあると思うなぁ」



「む・・・」



先ほど風蘭がレオに対して閉口していた時と同じようにして、レオも風花の言葉に閉口してしまった。レオの言ったことももちろん確かではあるが、風花の言っていることもまた確かなこと。正論であるが故に、レオも簡単には反論できない。



「こういうのってぇ、堂々と言えるものでもないでしょ~? 恥ずかしいとか、色々理由はあるはずだよ~。助けてって言いたいのにぃ、言えない仲間をぉ、レオは見捨てちゃうの~? そこまで薄情じゃないよね~?」



「う、む・・・」



目には目を。


歯には歯を。


言葉には言葉を。


あれだけもっともだと思えたレオの言葉も、風花の言葉によって霞がかってしまう。普段はおっとりとしているように見えて、やるときはやるものである。思いもよらない風花の反論に、レオも何と言ったらいいか悩んでいるようだった。



「・・・風花の言うことももっともだが、あくまでそれは憶測に過ぎないだろ。本当に、刹那とレナのどちらかがそうだとは限らない」



ようやく言葉を紡ぎ出したレオ。


その言葉を待っていましたとばかりに、風花がレオに追い打ちをかける。



「だよね~。だから、確かめないといけないよね~。その確認をねぇ、レオにやってもらいたいの~」



「俺に? 何でまた」



「私たちが確認して、結果をレオに報告してもぉ、何だか協力して欲しいからって嘘ついてるみたいでしょ~? だからぁ、本人の目で確かめたほうがいいかなぁと思って~。レオなら嘘なんてつかないと思うしぃ、ちゃんと公平に判断してくれるでしょ~?」



何とも言えない明るい笑顔を浮かべながら、風花はそうレオに言う。こんな無邪気な笑顔の裏に、一体どんな表情が隠されているのかと思わずにはいられない。助けられた風蘭でさえ、何だか呆気に取られている。


ここまでやられては仕方がないとレオはため息をつき、ゆっくりと席から立ち上がった。



「・・・わかった。そのかわり、あの2人が協力を必要としてなかったら、お前らにも降りてもらうからな」



「もちろんだよ~。それじゃ頑張ってね~」



元気よく手を振っている風花に見送られ、レオは2人のいる外へと向かって行った。


レオがいなくなったタイミングを見計らい、風花は小さな子供に注意するような感じで風蘭に声をかける。



「風蘭~、やるんだったら反対する人も引き込むような殺し文句を考えなきゃダメだよ~」



「う、うん。ごめんなさい」



風花がレオを言い負かしたことの驚きがようやく覚め、風蘭はしきりに頷いていた。


・・・我が姉ながら恐ろしい。


それを再確認せずにはいられない光景だった。



「ふふ~ん♪ さぁってどうなるかなぁ~♪」



鼻唄交じりに、風花がそんなことを呟く。


その笑顔には先ほどまでの凄みはなく、ただ純粋にこの後の展開がどうなるのかという期待感だけが溢れていた。


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