第10話 近未来編5
「2体、か。まぁ何とかなるだろう」
「姉さん、死なないでね」
「がんばってください」
「ちゃんと振り切ってくださいよ」
一同は見張りのセンサーが届かないところに待機していた。
見張りのロボットはレーザーガンを所持している。近寄れば追いかけながらレーザーを放ってくるだろう。しかし、クリスの役割は見張りを破壊することではない。
「いってくる。しっかりやるんだぞ」
見張りの注意をひきつけ、刹那たちを進入させることだった。
「無事に。」
「怪我しないでください」
「姉さん・・・・・・・・」
そのため、クリスはゆっくりと見張りに近づく。見つかった瞬間逃げるつもりだった。自分だって命は惜しい。そろそろと、見張りに近づく。ゆっくりと、しかし確実に、徐々に徐々に近づいていく。
と、そのとき。見張りの一体がクリスに気付き、走って来た。
「!!!」
クリスは逃げた。もちろん二体の撃ってくるはずのレーザーのほうに気を配るのも忘れない。
見張りの二体はクリスを追いかける、が機械仕掛けの体である二体はとても人間の足には追いつけない。ならばと、
バシュー。
レーザーをクリスめがけて撃ち放つ。
クリスにレーザーが迫る。5メートル、3メートル、1メートル。もう当たる寸前のところで、
「はっ!!!!」
クリスはがれきの障害物のかげにダイブする。おかげで当たるはずのレーザーも空を切って一直線に飛んで行き、やがて消えた。
クリスはレーザーが通り過ぎていったのを確認するとすぐさま起き上がり、再び走り出す。
ダイブして起き上がるまで5秒ちょっと。だが、その5秒の間に距離を詰められる。
{もう一回ダイブすればあいつらの射程圏に入る}
緊急回避用のダイブはもう使えない。ならば、
{障害物に身を隠す}
あと少しで廃ビルの陰に隠れられる。その距離残り約10メートル。
そのまま走っていれば問題ない、が、
バシュー!!
バシュー!!
二体は同時にレーザーを放つ。
レーザーはどんどんクリスに近づく、
障害物である廃ビルはもう少し、残り3メートル。
だが、レーザーのスピードは人間の足よりも遥かに速い。
ぐんぐんとその距離を縮めていく。
もうレーザーとクリスの距離はない、クリスの体はレーザーによって貫かれた。
「うあ!!!!!」
しかし、貫かれたのは左肩。残りの一発ははずれて消えていった。はずれてくれたおかげで廃ビルに、ひとまず身を隠すことが出来た。
{左肩で良かった。足だったら死んでた}
出血部分を右手で圧迫し、止血する。右手が真紅の血によって真っ赤に染まる。どくどくと血が漏れ、地面に滴る。
しかし、歩を止めることは決してせず、ひたすら、走る。
その走りは、注意を引くためなのか、自身の命を守るためなのか、わからなかった。
+++++
「行ったね、見張りの連中は」
クリスに連れられて、見張りは正面の入口からいなくなった。
「早く行きましょう。ぐずぐずしてると見張りが戻ってきます」
ロックスがせかした。
まさにその通りだった。クリスが見張りのロボットを振り切ったのならすぐに戻ってくるはずなのである。こんなところにいる暇など微塵もなかった。
「じゃあ行こう」
その一言で、3人は入口に向かって走り出した。先頭はもう一人の囮役のロックス、そのあとにリーマス、刹那と続く。
入口のドアをくぐったロックスは二人に告げる。
「ではここで、2人はしばらくしたらAIのところに突っ込んでいってください」
言うなり、ロックスは走り出した。
AIの設備はそう簡単に移動できるものではなく、今も作られた当時の場所、つまり、8階の奥の部屋に存在している。またビルも改装などしていないため、ビルの作りは当時のまま。つまり、リーマスたちの父の趣味で設計した、まるで迷路のように曲がり角の多いのも、やたらと階数の多い造りもそのままだった。
ウイルスに犯されたAIは自己が破壊、もしくはワクチンを入れられるのを恐れ、下階に武器を持たせたロボットや見回りを無数配置した。そのロボットたちに音声機能を取り付け、侵入者を発見した場合は叫ぶようにする。こうすれば、一体でもロボットが侵入者を発見したときに、ロボットたちはその音声を聞きつけ、その階にいるロボットは一気に侵入者を追いかけることが出来る。機械に頼っていた人間たちは空飛ぶ乗り物など作れるはずがなく、屋上から乗り込まれる心配もない。ロボットは呼吸しないため、窓も必要ない。必要とすれば動くためのエネルギー(エネルギーのタンクは地下に無数存在しており、現在も無限にエネルギーを作り続ける)。入口だって一つあれば充分、他の出入り口など必要ない。
つまり、進入できるのは正面の入口一つ、ここさえ抑えれば人間たちは入ってこれないということになる、AIも安全だ。
しかし、その見張りを遠ざけ、他のものが進入してきたら、曲がり角の多いこのビルは侵入者にとっては有利になりAIたちには不利となる。無数にロボットはいるが、見失ってしまい、AIのところに踏み込めるかも知れない。それこそ、リーマスたちの最後の切り札であり、希望だった。
ロックスは左の角を曲がり、少し離れた角を右に曲がると、
「シンニュウシャ!シンニュウシャ!」
1体のロボットに見つかり、やたらと大きい声を上げられた。
{思ったより見つかるのが早かったな}
その声を合図とし、次々とロボットが現れる。と、同時に、ロックスはロボットに背を向け、一目散に逃げ出した。
「シンニュウシャ!シンニュウシャ!」
そんな声を上げながら、ロボットたちは追いかけてくる。
声のおかげで、まわりのロボットたちはどんどん集まってくる。一人だったのに、現在は10体以上、確実にいる。と、ロボットたちは手に持っていたレーザーガンを、
バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!
バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!
雨あられのように乱射した。
{!!!}
あわてて左角に身を隠す。
ひとまず安心、というところだが、正面からもロボットがこちらに走ってくる。手にはもちろんレーザーガンが握られている。銃口はロックスに向けられた。
「嘘でしょ!?」
バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!
バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!バシュー!
もちろん全員一斉発射、逃げるスペースなどあるわけ無い。あとは無数のレーザーに貫かれるだけ────いや、
{早くもか・・・・・・・・・}
リーマスにもらった箱を取り出し、レーザーと自分の距離が充分詰まったことを確認して、
{よっと}
ボタンを押す。すると、一瞬にして淡い青色の壁が円状に自分をすっぽりと囲む。そして、レーザーが自分の体を貫く1メートルほど前になって、
シュウ、
と、まるで火を消したような音を出し、レーザーは消えていった。
{しっかり機能しますよ、兄さん}
と、そんなことを思いながらロボットたちに背を向け走り出す。残り3秒前後、その時間を利用して、自分の隠れるところまで走る。レーザーはバリアが遮断してくれるから気にかける必要などない。
ロックスは走る、
障害物のあるほうへ、
自分の身を隠す盾のある方へ。
全力疾走で走る姿は、クリスと同じく、引き付けるために走っているのか、自分の命を守るために走っているのかわからなかった。