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6.


朝になり後宮に向かう輿に乗る。正装の漢服といつも降ろしていた髪を高く結い上げた。

化粧をし、額の中央に花畑の模様を描く。唐時代の高貴な女性の出立だ。


「あぁ、なんという…立派になったなチェンシー。後宮で辛い事があっても私を思い出すのだよ。お前の味方の父を。」


「父様、今までお世話になりました。お手紙は必ず書きます!お体に気をつけて。」


父様や家人達に別れの言葉を告げ出発する。


見送りにはマーフは居なかった。

家に着きラクダから降ろしてくれた後、マーフは私の頭を撫でて微笑んでいた。

その後、やる事があると一言言ってどこかに行ってしまった。


なんとなく胸騒ぎがしたが、マーフが言っていたいずれまた会えるという言葉を信じたいと思った。

夜の闇に小さくなっていくマーフの後ろ姿を消えるまで見送った事を何度も思い浮かべながら出発した。



――――――――――――――


後宮に着いたのち直ぐに謁見があるかと思ったら特に何もなく、後宮内での自室に案内され部屋付きの侍女が挨拶に来た。


「ヤン・チェンシー様。今日からお世話さしていただきます!ミン・ワンと申します。ワンとお呼びくださいませ!」


14.5歳程の市民階級の者だった。後宮は沢山の女達が集まる。チェンシーの様に高貴な家柄の娘は帝に見初められるため妃候補として入るが、それを支えるために身分の低い者も入れられる。彼女らは後宮勤の経験が今後箔がつくため、次の仕事を見つけやすくなる。年季が明けた後の結婚にも有利になるのだ。


何年振りかの秀女となるためチェンシー意外にもかなりの家の娘達がやってきていた。


「よろしくねワン。貴女はもう2年ほど後宮に居たみたいだけど、前の主人はどうしたの?」

「それは…大変申し上げにくいのですが帝はお一人の方しか寵愛されてませんので、心を病まれまして家に戻されたみたいです。チェンシー様が来られなかったら私どうなってたか!」


秀女以外でも有力貴族や功臣が、娘を皇帝に“奉る”形で入内することもできた。だが、後宮は一度入るとよっぽどの理由がない限り出られない。妃は何人も子を産まなければ王朝は続かない。その伝統のために多くの女が後宮に入る。家の存続のために。だが、中には選ばれないという事は子供の頃から妃候補になるために生きてきた女達には耐えられない屈辱となる。


「やっぱり。おかしくなる人も居るのね…」


今上帝は、若い頃は名君と言われていた。安定した政治、穏やかで聡明な方で卓越した政治手腕と知性のある方だった。

それまでは伝統通り多くの貴妃達がいたと聞く。

ある女と出会うまでは。


そんな帝が秀女を行うとは不思議でならない。

群臣達の言う事を聞いたのか別の思惑があるのか。


「チェンシー様。後宮はかなり広いですから見てまわられますか?」

「そうね。暇だし外に出て見ましょう!」


宮殿・庭園・池・回廊が連なり数千人規模の女性・宦官が生活していた。何十もの殿舎(建物群)があり、

皇后・四妃は独立した宮殿、下位妃嬪は集合殿舎、宮女はさらに別区域と分かれていた。


チェンシーは下位妃婿となる。


父様は、今の後宮の内情的に娘を入れたくないと、話があっても身分不相応と断っていた。

だが、今回の勅命は逆らえずしかも私は推薦枠となる。他の貴女達と少し違う立場であった。


そのため他の貴女達からするとたった1人だけ推薦された者がいるとなると自分たちの好機が遅れてしまうと危惧する。


外に出た瞬間、5.6人の貴女達がチェンシーを取り囲んだ。


「貴女が、ヤン・チェンシーね。少し向こうでお話しできませんこと?」

同意の返事もなく人に使われていない殿舎の裏に呼ばれた。


逃げられない様に壁側に追いやられワンが震えながらチェンシーの後ろに控えた。


「皇族の分家でも無く名門の家でも無いただの鴻臚寺の女が推薦人ですって?」

「貴女どんな手を使いましたの?外交官らしく賄賂かしら!」

「今回の秀女は、天宝帝がやっと心変わりされたって噂なのよ!今までと違う特別な秀女に中途半端な家の者が有利なんて信じられない!」


女達の妬みや怒りの目が恐ろしかった。


「私も何故推薦人なのかは分かっていませんわ。賄賂なんて我が家は絶対にしない!家を落とす様な事ができますか!あなた方と一緒にしないで!」


精一杯反論していると、奥で扇で顔を仰いでいた貴女が前に出てきた。


「リ・メイラン様…!」

1人の貴女がそう名を呼び後ろに下がった。

李 明蘭…聞いた方がある。武門の家で代々皇族を支えている由緒ある家だ。


高潔な出立で刃の様に冷たい目をしていた。


「貴女…今どういう状況か分かっていませんのね。1人だけ前にいっているものにここは生易しくなくてよ?だって…そんな者消して仕舞えばいいんですもの!侍女達!」


「あぁ!チェンシー様!!」


リ・メイランの呼びかけに周りの侍女達がチェンシーに向かって水をかけ、驚いていた隙にチェンシーの腕を押さえつけて拘束した。ワンも捕まえられている。



「目を潰しちゃえば、五体満足な健康な体じゃなくなる。帝だって見なくなるわ。入宮初日に事故に遭った残念なおひと!」


リ・メイランは髪に刺していた簪を取り出し突き上げた。


えええ!後宮ってこんな武力行使な野蛮な世界だったの!?

チェンシーの腕力であればワンを助け逃げれるが、そうなった場合この者達は賄賂を渡した宦官に告げ口するに違いない。


だが,このままではいけないと侍女に謝りながら蹴り上げようとした瞬間、


「まぁ…とっても見苦しい事ですこと」


鈴音の様な涼しげな声が聞こえた。


皆がそっちを見ると、1人の女が立っていた。


妖艶な微笑みとキラキラと陽の光に光る艶やかな黒髪。そして目を奪われるほど均等にとれた豊満な体。

その身体から発する香り高い桃の香り。


一目で分かった。

楊貴妃だと―――――

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