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3.


浴場で足を洗い終え、自室で新しい服に着替えさせられていたチェンシーは少し落ち込んでいた。


「もうすぐでマーフには会えなくなるのよね。ここでの生活も…私はまだ帝のところに行く覚悟が出来てないわ」

「お嬢様、後宮に入る事はお家のためでもございます。どこかの官僚の息子の妻となるよりも名誉なことですよ」

「そんなのわかってる!本来ならこの歳なら成婚してないといけない事も。貴族としての役割を果たすべきだと…」


侍女達は気まずそうに顔を伏せる。本来なら母親がチェンシーの後ろ盾になる所、母親は小さい頃に他界している。後宮でのチェンシーの立場は不安定であった。


「婆はお嬢様ならどこでもやっていけると思っておりますよ。あなた様は誰かに屈した事などありませんでしょう。心を強くお持ちくださいまし。」


婆やが優しくチェンシーの手を撫でる。 

いつだって婆やは味方であった。


チェンシーは、出来の悪い官僚の息子達を言いくるめてきたり物理的に投げ捨ててきた。それはギッタンギッタンに。温室育ちのか弱い娘ではなかった。


「そうね。婆や。ありがとう!どんな嫌がらせも屈しないわ!婆やの言う通り心を強く持ち、己の力だけを信じるわ!」

「その域でございます!お嬢様!」

この婆に育てられたばかりの結果であった。ヤン氏は娘を伸び伸びとそれはそれは大切に野放しにしていた。他の侍女達は生暖かい目で見ていた。


「着替えも終わったし、マーフの所にいこうかな!」

「マーフヴァルド様でしたらお屋敷をもう出て行かれてましたわ。あの方も忙しい方ですものね。」


「えええ!!そうなの?もう明日の朝には発つ予定なのに…」

「いつもでしたら夕方には戻られましょう。お嬢様、心残りがないようお話くださいね」


「うん。わかってる。」


家を出る事、もう会えないかもしれない事、帝の妃候補になる事、それに……


頭の中がぐちゃぐちゃで落ち着かない!

そんな時は都の端っこに林がありそこで切られた丸太を体に紐をくくり付け走りながら引っ張る鍛錬したり瞬発力を鍛えるため落ちてくる葉を叩き落とすことをしに行く。


「ちょっと外に出てくる!」

「お嬢様!共の者を!」

「いらない!1人になりたいの!」


あっという間に目的地に辿り着き鍛錬を始める。

胡人風の服装が長安では流行っておりせっかく着替えたスカートの中にズボンを履きスカートをたくし上げた。


この林の近所ではどこかの奇人が、謎の鍛錬を行っていると噂になり人が寄り付かなくなった。


マーフは子供の頃から一緒にいて兄の様に支えてくれた人である。

それ以上にチェンシーの中では掛け替えのない存在になっていた。

子供の時に母が死んで間もない頃、寝床の中でずっと抱きしめて慰めてくれた。父は忙しく甘えれる時間が少なく侍女達は立場的に深い仲にならないよう線引きされていた。


身分も人種も家族でもないが、お互いを支え合ってきた。

自分の気持ちが落ち着かなく苦しい時は体を動かして考えない様に誤魔化すしかない。



その後丸太を引きずる鍛錬を行っていた所、突然林の奥から黒い霧が辺りを漂い出す。


「なにこれ!?」


霧は徐々に一つの塊になり獣の様な形を成す。濁った黄色い目が三日月の様に笑い出す。

その後チェンシーに襲いかかろうとしてきた!


「化け物!えい!!!」

チェンシーは丸太を軽々持ち上げた後獣に向かって投げ飛ばす


すると丸太を受けた獣は霧の様に飛散し、攻撃が効かなかった。


「嘘でしょ!今固形になったじゃんか!!!」


もう一発当てようにも近くに丸太はない。

黒い獣は走り出し一瞬で目の前に来た瞬間鋭い爪を立ててきた。

チェンシーは目の前で腕を上げ受け身の体勢になった瞬間!!!


シュンッッ!

ズバッッッッ!


遠くからかまいたちのような風の刃が飛んできて獣が雄叫びを上げながら真っ二つになり消え去った。



「へ……!?」


辺りは黒いモヤが出る前の普段通りの林に戻っていた。

目の前で起きたことが信じられず尻餅をついてると目の前に1人の男がやってきた。


フードを深く被りボロボロの胡人風の身なりの男であった。チェンシーに手を出し立ち上がらせようとしてきた。


「………早く、立テ。」

ぶっきらぼうに低い声で片言の漢語を話してきた。

「あっ…ごめんなさい。もしかしてあなたはさっき私を助けてくれた…?」


「………このへん、今はヘンだ。家に、帰レ」


男はそういうと林の奥に消えていった。

僅かに見えた赤い目が記憶に残った。


「…………すごい……すごいすごい!!!目の前で見たことない技をだしてた!一体何だったの!」



チェンシーは身に起こった危険なことより男の技に感銘を受けていた。

もはや武人が新たな技を開拓した感激のようである。


「あ!いけない!あの人の言うとおり家に帰らないと」


なんとなくさっきの現象が気味悪く思い走って帰ったのであった。



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