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23.


エシンはウテュケン山の麓の草原で馬達といた。


馬は基本放牧されており、何十キロも先の距離を自由に草を食べたりしている。馬の数は突厥にとって財産や権力を表しており、この突厥ではエシンが一番飼っている。その数、数千から数万頭だ。


戦の後ストレス発散のため伸び伸びとさせていた。


そしてエシンの近くでアルプが草を食べているのを眺めている。

マーフヴァルドとかいう俺が倒れた時に支え助けてくれた胡人とチェンシー(元徳もいる)が今話している状況が落ち着かない。


何故だがわからんがあの胡人が気に食わない。

そして、お互い名前を呼び合った瞬間のチェンシーの顔が忘れられない。


俺の前ではあんな顔をした事がなかった。

まるでずっと求めていた相手にやっと出会えたかの様な真っ直ぐな視線。

近くに立っていた俺など眼中にない顔が、最高にイライラした。


そして手を払われた瞬間の胡人の顔も。チェンシーを守ろうとした視線。俺と同じだと感じた。


名前を呼び手を繋ぎ、見つめあっている2人の姿を見た瞬間初めて焦りを感じた。

俺の知らないチェンシーだと思った。


ブチブチと草を千切ってはアルプに向かって投げた。

アルプはその対応に怒り、鼻息で投げた草をエシンに吹きかけた。


「うわっ!?主人に向かってなんだお前!」

フンっとアルプはそっぽ向く。お前なんて主じゃない、かの様な態度だ。

そこに一頭の黒い毛色の牝馬が近づいてくる。アルプの体に鼻をすり寄せていた。


エシンがいつも可愛がっており、先の戦でも乗っていた愛馬、ヤヴァシュだ。

「おい!!ヤヴァシュ何してる!こいつはダメだ!」

体を引き剥がそうとするが、珍しく抵抗してくる。

アルプはヤヴァシュには興味がないのかそっぽ向く。

俺には決めた女がいる。―とでも言っているかの様でその姿に逆にヤヴァシュは燃え上がらせた。

「お前は馬なんだから馬を選べよ!」


なんともいえない心境になり、全てどうでも良く感じ草原に寝転ぶ。


今までこんな感情を抱いた事がない。

可汗の候補として高貴な家柄、恵まれた環境、全て俺一つで回っていた。思い通りにいかない感情が慣れない。


エシンは起き上がり、ウテュケン山にある洞窟に向かった。

そこには歴代の可汗が無数にある石盤群に文字を彫っていた。年代と名前、そして古代突厥文字でyokヨクと書いていた。意味は存在しない、となる。


皆、ミスランの覚醒が出来なかった者達だ。遡れる年代は数千年になる。


石の一つに触れた。彼らの想いが伝わってくる様だった。


子供の頃から原初の狼の記憶があった。そして、この想いも。


数千年前、まだ俺は風の狼と呼ばれる前魔獣だった。気づいたらこの草原に生まれそして人々に恐れられていた。

人間達からしたら恐ろしいモノを倒そうと思うのは当たり前のことだ。


人間に襲われて怪我をして瀕死の状態の時にミスランが助けてくれた。


ミスランの慈悲深い心に俺は心を洗われるかの様な気持ちになった。

ミスランが好きな人間を俺も受け入れようと思った。

人間達の為に魔物を倒したりなどしていたら今度は俺を崇拝しだした。


いつしか風の狼と呼ばれる様になった。


俺を救ってくれたミスランを生涯をかけて守ろうと思った。

いつも側に居てやりたいと思った。あの青い瞳にいつまでも俺を見て欲しいと思った。

あの黒い霧がくるまでは。


あの霧によって人間達は殺し、殺され俺も死にかけた。最後の力を振り絞り、ある神の元に行って願った。


もうこの姿では、俺は保てなくなる。俺を人間にして、ミスランをずっと守らせてくれ、と願った。


それが、最後の記憶だ。


今のエシンとしての俺は限りなくあの狼に近いと思う。だが、まだだ。もっと力をつけなくてはならない。


先の戦の様な弱さでは国もミスランも、チェンシーも守れない。



俺はその石盤を叩き割った。

「歴代の可汗よ、俺にもっと力を寄越せ!お前達の想いを全部俺が引き継いでやる!だから、もっと力が欲しい!!」


洞窟内に強風と共に突然竜巻が発生する。

立っているのもやっとな中、1匹の巨大な狼が現れた。

「ああ、いいぞ。上等じゃねぇか!!」


俺は剣を出し立ち向かっていった。


――――――――――――――


夕方になり、エシンとの天幕でチェンシーはもうすぐ執り行われる婚儀の衣装や髪に付ける花を選んでいた。ワンは自分の天幕で花嫁衣装の刺繍や細やかなモノを作ると意気込み籠っていた。


ヤルカと2人きりになり、色々とアドバイスを貰っていた。


「この花も素敵ね。」一つ一つ手に取って眺める。

気持ちは沈んだままだ。


物憂げな様子の私にヤルカは気を遣ってるのが少しわかった。


「チェンシー様、何かありましたか?」

「ううん!大丈夫よ気にしないで!ちゃんと切り替えるから」


だめだだめだ!周りの人に迷惑かけちゃう!と頬っぺたをぺちんとした。


その様子にヤルカがびっくりした後、言いずらそうにヤルカが話を切り出して来た。


「私…チェンシー様に言わないといけない事があります。」

「どうしたの??」


「その………私、実はエシン様の婚約者なんです。」


え?


は?


ポカーンと口が空き持っていた花を落とした。


「どう言う事!?!?」

「そのままの意味です。チェンシー様は和親公主として、正室になられ、私はいずれ側室としてなる立場の婚約者です。」


そんなの聞いてない!?

びっくりして立ち上がっていると、ヤルカが座らしてくれた。

でも一般的に婚約者って正室よね。一番最初の妻というか。

そういえば、突厥の王も別に妃が1人とは聞いた事がない。龍の国と一緒で一夫多妻制のはず。


今まで疑問に思わなかった私がおかしいんだわ。


「ヤルカ…でも婚約者なら普通逆じゃないの?」

「そうですね。本来なら立場は逆です。」

もしかして、女神の生まれ変わりが見つかって私が割り込んできたって事では!?


アワアワしてるとヤルカが微笑んできた。

「1からご説明しますから、安心してください。ただ最後まで聞いてくださった後にお願いがあります。私をチェンシー様の側使いから外すかどうかお決めください。」

ヤルカの言葉に体が固まる。そしてゆっくりと話してくれた。


可汗の長男として生まれたエシン様は可汗候補としてはかなり下位でした。可汗の決まる優先度として可汗の兄弟、その次に従兄弟、その次に息子となる。

龍の国の様に世襲制の嫡子からではないのです。


ですが、エシン様はお生まれになった瞬間皆が確信しました。風の狼の生まれ変わりだと。その聡明で威厳のある立ち振る舞いそして風の力を持っている事からすぐに可汗候補として祭り上げられました。


そして、同時に可敦候補も決まります。王族の流れのある私でした。基本的に突厥は1人の可汗の血筋から妃候補を選ばれます。私は遠縁ですが、エシン様の親戚という訳です。


子供の頃から側に仕え、可敦としての教育を受けさせられました。

龍の国の妃と違って可敦は政治的にも力が強いものが選ばれます。ただの血筋だけで選ばれるだけでなく突厥の一族をまとめ上げる力も見られました。


私とエシン様は日々将来の立場のために精進してきました。


そして…可敦候補にはもう一つの役割があります。他の可汗候補達を追い落とすか殺す事、もう一つが他の可敦候補を殺す事。


自分の夫を如何に優先して可汗に持っていくか、自分こそが夫の妻に相応しいと、他の可敦候補を殺す事ができるか。

そういう立場でした。


「それって…ヤルカから見たら私は殺す対象って事?」


「そうなります。私は今までの可敦候補者達を手に掛けようとした事もあります。」


頭が混乱する。つまりヤルカは私を殺さないといけないの?


正室の争いは血生臭いものです。

一度正室が決まれば後は側室はその様に殺し合いではなく普通に決めるそうですが、側室はあくまでも側室。権力は無いに等しいのです。

それだけ正室には可汗に等しい権力がありました。


伝統通りに動くならそうなるはずでした。


一つだけ誤差が生じます。


子供の頃のうちに私に向かって言いました。

「俺の可敦はただ1人。女神の生まれ変わりだ。側室はいらん。」


エシン様はその様に発言して私は可敦候補クビ宣言されました。


シーンと部屋が静まり返った。


「それって…生まれてくるかも分からない女神の生まれ変わりとしか婚姻しないって事?」


「はい。夢物語の様な発言でした。」


エシン!!

とツッコミたくなった。


当然ながら周りが反対し、形式上は私はエシン様の婚約者としての立場は続きます。


時が立ち、エシン様は可汗になられ東と西で争う事となりました。

ですが、エシン様は全く私の事など見てはくれませんでした。名ばかりの可敦候補として私は居たのです。


ある日エシン様が私に言ってきました。

「長安で生まれ変わりを嗅ぎ当てた」と。


あの時のエシン様のお顔が忘れられません。

運命の人を見つけた人はこんなにも幸せそうなお顔をするんだと。


「……」

長安で助けてくれた時の事だろうか。


ヤルカは少し寂しそうな顔をして話した。

あぁ、ヤルカはエシンの事好きだったんだ。


エシンが風の狼の生まれ変わりでなければ、私がただの長安の漢人であれば、彼女の本当の夫はエシンだった。


私という存在がいなければ可敦になれたのだ。


「最初は少し複雑でしたが、和親公主が来るとの事で私は漢語を学びました。本当に立派な可敦として務まるのか見てみたくなったのです。」

ドキッとした。

ヤルカに試されてたという事に。


その時にはまだ可敦を決める元可汗達が生きており、私にチェンシー様の動向を探らしていました。


私は定期的に元可汗達に報告していました。彼らは伝統を重んじている西突厥にいたのですが、あの様に西突厥は壊滅し彼らは死にました。


「つまり…その」

「私は解放されたのです。チェンシー様」


ヤルカは私の手を取って跪いた。


「もう、伝統に縛られずにいれるのです。私はチェンシー様と共にいてあの戦いから突厥を大切に見てくれる人だと思いあなたに忠誠を誓いました。」


ヤルカの目から涙が流れていた。

「側に居てもよろしいでしょうか?」


戦闘の時に手を握ってくれたヤルカの姿を見て、私を殺そうとなんてする人ではないと思った。


「ヤルカ…私こそあなたにそばにいて欲しい。」


ヤルカが顔を上げて驚いた顔をしていた。

全てを正直に話してくれたこの人を突き放すことなんてできない。


ヤルカと私はしばらく抱き合って泣いた。


少し落ちついた後、ふとまだヤルカが婚約者でいる事を思い出した。

するとヤルカは言った。

「あんな1人の女しか見ない変人、私の方からお断りします。」と婚約者候補からも降りた。


そうなったらエシンには私しか居ない事になる。

全てはエシンが招いた?(望んだ?)結果であるが、


もしこれで、私がエシンの事好きじゃなかったらどうするつもりなんだろうあの人、と思った。



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