22.
元徳とチェンシーとマーフヴァルドは天幕の中で事の顛末を話した。そしてこの事は内密にする様お願いした。
「まさか、突厥の王と婚姻するなどとは考えてはいなかった。」
マーフは困惑した顔をしていた。
「ええ。後宮に入った者がまさか突厥に嫁いでたなんてびっくりするわよね。」
うんうんと首を縦に振る。第三者目線で見たら驚く展開である。
「あなたの事ですよ。公主。」
元徳が呆れたように話す。
「元徳殿が付いているなら、大丈夫かと思いますが異国の地だ。何があるか分かりませんね。」
「もう既に何度かチェンシー様は死地をご経験されていますよ。」
「えっっ!?」
マーフがびっくりし私の顔を心配そうに見てきた。
「大丈夫よ!私の体が頑丈なのマーフは知ってるでしょう!それよりマーフと元徳は知り合いだったの?」
「お会いするのは初めてです。ですが、マーフヴァルド様は胡人の中でも優秀な商隊長なので名前は聞いていました。」
「俺も元徳殿は、科挙を史上最年少で合格した秀才と伺っています。」
胡人同士の情報ネットワークの中で知っていた関係であった。
「それより…チェンシー。君は受け入れれるのか。突厥の可汗の妃など。本来の公主でもなく、無理矢理なったのだろう。そんなもの続けれる訳がない。君が辛くなるだけだ。」
マーフがまた心配そうに見てきた。
この人はやっぱり優しい。私の味方であり続ける。
「今更辞めれるはずがありません!これは国のために」元徳が声を上げたが、静止した。
「マーフ。ありがとう。私は自分で決めたのよ。突厥の人々は私を大切にしてくれた。皆を助けたいと思ったの。それに長安の父様やあなたのためにも選んだ。
あなたが私に教えてくれたのよ。使命の大切さを。」
そう言った瞬間マーフの顔が固まった。
「使命…だって…?偽物の使命だぞ…!そんなものに囚われて人生を無駄にしたいのか…!?」
「マーフ…?」
胡座をかいて座っている膝の上の手がワナワナと震えている。いつものマーフの雰囲気ではない。
そう言えばマーフは行商で来たといっていた。
「他の人達は…?」
「ここにくる事を反対されて無理やり抜けてきた…。説得をかなりしたんだけど、だめだった。」
一族を置いてきた?マーフならそんな事しないはずだ。どんな事よりも商隊を導く事を優先していたからだ。
「君が居るかもしれないって伝え聞いて来た…!俺は君にもう一度会いたくて来たんだ!」
マーフは、私の目を見つめて言った。
蓋をしようとした感情が溢れ出した。
あぁ、そんな…マーフは使命を捨てて私に会いに来た。今までの彼の苦労や培った信用を捨ててまで。
私だってずっと会いたいと思っていた。マーフの事を忘れたくても忘れられなかった。
「それはっ…!?」
「俺は間違っていたんだ…自分の感情を捨てて一族の為に生きるなんて死んでるのも同じだと気付いたんだ。もう自分の感情を偽りたくないんだ…!」
マーフの一言一言が心に刺さる。
「俺はやはり君の事が!「もういいでしょう。諦めなさい。」
元徳が割って入って来た。
「なんとなく、あなた方の関係は一目見た時から気付いていました。きっとあの可汗様も。あなた方の感情を優先すると二つの国がまた争いが始まるのですよ」
冷静に元徳が話す。私の今の立場を思い出させるかの様に。
「偽りとはいえもう、あなたとは身分が違うのです。与えられている役割の重さも」
マーフが絶望した顔をしていた。
何もかも遅すぎたのだと…力なく項垂れる。
私の目から一筋の涙が流れた。もう無理なのだと感じた。
「マーフヴァルド様、あなたにも立派な使命があるはずです。胡人の商隊長ではないもう一つの役割が。」
顔を下に向けていたマーフがその言葉に反応する。
「いつまでその頭の布を巻いているのです。あなたを求めているものは他にもいるのです。」
元徳はマーフヴァルドを見つめていた。
彼の言っている意味が分からなかったが、マーフの目に少し力が戻った様に見えた。
「元徳…それはどういう?」
「ここからはチェンシー様は関係ありません。もうあなたは突厥の人間になる。今は突厥の事だけを考えてください。」
マーフは突然頭の布を取りあの綺麗な金髪を出した。
「分かりました…。今は引きます。」
マーフは一言そう言って俯いた。私の目を見る事は無かった。
「では、迷いを断ち切る為にチェンシー様の婚姻を見て行かれてください。もう数日以内に始まりますから。」
元徳は残酷な事を言った。
ワンとヤルカが呼ばれ私は退席することになった。
最後までマーフのあの青い目はこちらに向かなかった。




