21.
天幕の外から鳥の囀りが聞こえ朝なんだと感じ、目が覚めると腕の痺れにびっくりする。
んん??と目を開けると目の前に肌色が見える。
よくよく見ると大きな背中があった。
え?背中?
ハッと頭が冴え見ると人間の姿で裸のエシンに後ろから抱きついてる姿勢の自分がいた。更に体の下に腕を回しているため強烈な痺れの正体が分かってしまった。
「ぎゃぁあああああ!?!??!?」
二日連続で大声を上げてしまい、外に控えてる見張の兵士達が公主の目覚めはいつも耳に悪いとコソコソと噂がたった。
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布団に丸まり震えているのをワンが抱きしめて慰めてくれている。
元徳が怒り狂い、ヤルカがため息をついていた。
「可汗よ!!あまりにも不躾ではありませんか!?婚姻前の乙女の前で全裸などっっっっ!?」
「悪かったって。俺も不可抗力というか、自分の意志で戻れんのだ。それにこれから裸なんざいくらでも見る事に「やめてぇえええ!!!」
ガクガク震えながら叫んでいた。
「あぁおいたわしやチェンシー様…この様な形で殿方の裸を見てしまわれては一生心の傷ものになってしまわれたかもしれません。」
ワンがヨシヨシと頭を撫でてくれる。いつもの立場が逆転していた。
「それは困る!確かに雰囲気も何も無かったかもしれんかったが…チェンシー、挽回させてくれ!」
なんの挽回か分からないが無視した。
服を着たエシンはちょっとずつにじり寄ろうとするが、3人に全力で止められていた。
「可汗様!ご報告があります!」
家臣が天幕の向こうから声をかけてきた。
するとさっきまでのふざけていた姿からすぐに可汗の顔立ちに変わった。
「あぁ、ご苦労。俺が出て聞こう。」
エシンはそのまま出ていった。もう仕事の顔になってる。あまりにも早く切り替わる姿がちょっと寂しく感じてる自分もいた。
「昨日言ってた西突厥の事かしら。私も支度しなくてはね」
まだ寝衣であった事を思い出し、用意する。
「チェンシー様、こちらは付けられないのですか?」
ワンがマスクを持ってくる。
「ええ。もう要らないわ。」
チラッと元徳の顔を見たが何も言わなかった。戦闘であれだけ顔を出していたらもういいだろうと思われた様だ。
「チェンシー様は可憐なお顔立ちですから、領民達も気になってるいるでしょうね」
美人なヤルカがそう言うと恥ずかしく感じる。
やはり漢人と突厥人は顔立ちが違う。ワンでもチラチラ見られていたが、私ともなると注目度が高くなってしまう。
落ち着かないがすぐに慣れるだろうと支度を出て外に出た。
その瞬間、時が止まった様に感じた。―――――
エシンの目の前には1人の少女に抱きついているサルグと、1人の男が立っていた。
その者の目を見た瞬間、目を離せなくなった。
深い青色…マーフヴァルドがそこに居た。
マーフヴァルドもチェンシーに気付き目が合う。
2人の間には何ものも邪魔しない時間を感じた。
「マーフ!?」
「えっ…?チェンシー?」
2人は同時に名前を呼んでしまった。
その姿をエシンは驚いた顔で黙って見ていた。
「あっ!?」
そうだ!私は唐では幽閉されてるんだった!!
バッと走り出しマーフの手を握る。
「この方は私の乳兄妹なんです!久しぶりね!おほほほ」
「え!?」
マーフの顔を見て目で話を合わせてと訴える。
「あー…そうです。」
「久しぶりに会ったから積もる話もあるので、ちょっとお話ししましょう!」
マーフの手を引っ張って連れて行こうとした瞬間、手が急に掴まれた。
「漢人と胡人とのか?それに手を繋いで行く必要はないだろう。」
エシンが私の手を握りマーフとの間に入って来た。
いつもの声音ではなく、低く怒った声をしていた。初めてエシンから私に向かって冷たい目を向けられた。
まずい…!?あまりにも下手な嘘といつものマーフとの距離感で接してしまった。
握られた手が力強く痛い。こんな風にエシンから触れられた事がなかった。
戸惑っていると、マーフがエシンの手を握り私達の手を振り払う。
「痛がっているでしょう。離してください。あなたが知らないだけでそういう家もあります。」
マーフも怒った顔をしていた。2人は睨み合っていた。これはまずい…
「エシン殿下、この者は確かに幼い時からの仲です。少し子供の頃からの癖が出たのでしょう。お許しください。」
元徳が後ろから助け舟を出してくれた。
「そうであってももう大人だ。慎め。」
エシンが不機嫌に言う。
「エシン様、申し訳ありません。」
婚姻前の関係で確かに今のは慎みが無かったと反省した。
微妙な空気の中、サルグが声を上げた。
「あのっ…公主様。僕の妹が生きていました。この間は、偉そうな口を聞いて申し訳ありません。でも感謝しています。あの時、あなたに諭されてなったらあのまま復讐心で生きていたらどうしようもないやつになってた。」
サルグの横に小さな女の子が居た。
良かった。西突厥でも生き残れたんだ。
「良かったわ。今度こそ大事な人を守るのよ」
「はい!」
サルグは笑顔を見せた。
「この人が妹を助けてくれたんです!」
サルグはマーフの顔を見る。
そういえば、マーフがここにいる事自体不思議だった。
「突厥に行商に立ち寄ったら叫び声が聞こえたんだ。急いで見にいったら、黒いモヤにこの子がまとわりついて苦しんでたから連れ出した。…でも周りの大人達は助けれなかったんだ…」
「西突厥はほとんどの人間が全滅していた。恐らく阿波が何かした影響での結果だろう。」
エシンが腕を組んで話す。
あの阿波が使った力はとんでもなく恐ろしいものなのだと感じた。
「そうだったのね…」
全滅した西突厥の状況は見るに耐えない光景だったであろう。
「それより話たい事があるんだろう。さっさと済ましてくるがいい」
エシンが後ろを向いて私に言って来た。顔を見ずに話されるのも初めてだ。
いつだってエシンは私の目を見て話してきた。少しだけ胸が痛んだ。
「ええ。失礼します。エシン様。」
「………」
エシンに頭を下げて元徳が休んでいる天幕に入った。
エシンとの天幕にマーフを連れていくのも変だと感じたからだ。




