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17.



「ウテュケンまであと少しです!」

家臣の1人が報告してきた。

馬を走らせながら、近づいてくるウテュケン山を,睨む。

「エシン、お前を殺さなきゃぁ俺が殺されるんだ。可汗を必ず奪い取るからな…!」


40代くらいの醜悪な顔立ちの貴族の男、阿波が馬の手綱を更に握り走らせる。


阿波の兄でありエシンの父、木汗可汗が死にやっと自分に可汗がきた。兄の治世は長くそして安定しており周辺国への侵略も定期的に行い、突厥の恐ろしさを見せつけていた。だが、突然の病により兄がポックリ逝った後、可汗の継承権は世襲制ではなく、「兄終弟及けいしゅうていきゅう」=兄が死んだら弟が継ぐという制度のもとに行う。


伝統通りに俺になった瞬間、周辺国が反発してきた。その対処を行っている最中にエシンが可汗を名乗り上げ他の王族共が賛同し、エシンが周辺国と外交や侵略を行い平定した。その後伝統を重んじる西とエシンに付く東に分裂する。


俺が可汗に相応しく無い、許しがたい状況に怒りで頭の血管がはち切れそうだった。


俺を認めない突厥人共は皆殺しだ!

東の奴らは1人残らず殺す!

殺気立って血走った目になる。そしてあの事を思い出す。


「私は貴方が可汗になるべきだと思います。」

西に分裂して間も無くあの女の使いのものから渡された書状に書かれていた。


どういう訳か、楊貴妃から貰った書状には事細かく東の動きが書かれていた。

俺に情報を送り、動きを把握させていた。漢人どもは俺に可汗になるよう味方になっていると感じた。だがある日、ある命令がくだされた。

エシンを殺し、公主を長安に連れ帰る事。出来なければ西突厥から滅ぼす、と。


これまでのやり取りの中で何人か使者が帰って来ていなかった。書状と共に5本の指や目玉だけ入れられて届いた事もある。


最後の書状で痛感した。俺はただの駒だったと。

ただの脅しならいい、最近伝え聞いた話で小国が一つ壊滅したと聞いた。あの女は本気だ。


そしてもう一つ書かれていた。

・使い方 何人かの人間の前で事前にこの紙を燃やす事。

・この石を可汗の城の前に来たら割ること。


お前に有利な状況を提供しよう。私からの最後の贈り物。――――――


女の言う通り、奇襲を仕掛ける東突厥の領地に入り書状に入っていた黒い紙を燃やした。その後恐ろしい光景が目の前で繰り広げられた。

俺は連れて来ていた西の領民や多くの兵を置いて何とか脱出できた兵と共に向かった。

いや向かっているんじゃ無い…逃げたのだ。


黒い煙が領民達や兵を次々と取り囲み、倒れたものが皆死んでいた。そして、黒いモヤは一緒に入っていた石の中に吸い込まれていった。


人智を超えた現象に恐ろしくなり逃げたのだ。だが、この石を手放せられなかった。何か重要な役目があるのだと感じた。


「お前達死に物狂いで闘え!!!」

兵達は一斉に攻撃を開始し、エシン達の軍に軍馬に乗り斬りかかっていった。


何故だ、何故、何故なんだよ…!!!

何が有利だ!!皆死んだではないか!?

「俺は死にたくねぇ…!俺こそが突厥の可汗なんだよ!!!」

そう叫んだ後、石を割った。その瞬間、黒い光に包まれた。全てが飲み込まれた時、女の笑い声が聞こえた様な気がした。


―――――――――――――――


エシンは的確に命令を出し軍を動かしていた。西突厥の兵達は、こちらの軍勢の人数などお構いなしに襲いかかって来た。切り付けられ血を流してもお構いなく立ち上がり攻撃してくる。

その殺気立ってる様子に違和感を感じた。そして気づく。生気が感じられない。


「なんだこいつら…!」

「エシン様!!ところ構わず攻撃してきます!」

東の兵達は、異様な様子に焦り出す。いくら攻撃しても立ち上がり向かってくるのだ。腕や足がもげても口を使い攻撃してくる。


「首と足を狙え!!弓兵!もっと矢を放て!!」

おかしい…とても人の動きでは無い。

エシンも何人も馬に乗りながら切り伏せてまわったが、動きが止まらない。


そして西の軍勢の後方から弓兵の攻撃を風の力で流れを変え東の軍勢に当たらない様にし、東の弓兵の矢を追い風でスピードを上げ敵に襲い掛からせる。

だが、いくら風を変え攻撃を交わし反撃してもその兵士が死なないのだ。



西の軍勢の奥に阿波が騎乗したまま止まっているのが見えた。


「あそこか!」

エシンは直ぐに反応し、向かう。


―――――――――――――


「チェンシー様!矢を番い、矢の先を見て集中してください!そして腕を体の後ろに持っていく様に引いて…お腹の真ん中に力を入れながら狙った先に放ってください!」


ヤルカが私の体を支えながら弓の使い方を教えてくれている。

周りは戦闘が始まったため女達は矢を放っている。男達を守るため彼女達は必死に矢を放つ。


なんとか自分の身体能力で弓は放つまで出来るがまだ敵に当たっていない。生々しい戦闘の風景に緊張してしまう。


「ヤルカ、当たらないわ!」

「手に力は入れてはいけません!お腹の真ん中に力を入れ、頭を天に吊るされている様に姿勢は真っ直ぐするのです!そして呼吸を整えて。」


ヤルカの指摘を意識し、深呼吸し、バクバクする心臓の音を沈める気持ちで弓を構える。


狙う先は敵の兵士の胴、

敵の兵士が味方の後ろから斬りつけようと手を上げた瞬間、矢を思いっきり放つ!


ビュン!!!

ガッっ!


矢が胴に的中し、倒れ込んだところを味方の兵士が気付きとどめを指していた。


「当たった!!」

「お見事です!その感覚を忘れずに攻撃してください!」

ヤルカは、喋りながら私の補助をやめ敵を射っていた。守れた喜びを味わう前に味方を助けるべく違う標的を探す。


遠くから見ていて戦場の動きが分かるが、どんどん味方の兵士が運び込まれてくる。こちらの方が数の上では優勢のはずなのにだ。


「どうして…死んで無い!」

さっき攻撃した兵が立ち上がっていた。そしてすぐに襲いかかっている。

「やっヤルカ!!西突厥人は凄く頑丈なの?死なないの!?」

「そんな訳ありません!!…蘇っているの?」

ヤルカは驚愕した顔をしている。


よく戦場を見ると黒い霧が立ちこみ出して来ている。発生源を探すと、遠方に1人の騎兵が立っていた。そしてそこに向かって単身でエシンが馬に乗り掛けている。


直感で分かった。あの霧が原因なのと、私を襲って来た物に近い存在だと。


エシンが危ない!!

この距離じゃ私の攻撃も当たらず守れそうにない。


気づいたら駆け降り麓にいた馬に腹這いに乗っかっていた。


「チェンシー様!!!」

ヤルカの叫び声が聞こえていたが、馬が驚き興奮し私を乗せたまま戦場を駆け出す。

周りの者が馬に蹴られまいと逃げ惑う。


「きゃあー!」

馬にはまだ乗ったことがなく、振り落とされない様に必死にしがみ付く。


私の馬鹿!乗れるわけないのに!!!


敵か味方かわからない矢を馬が必死に避け更に興奮している。


これじゃエシンの所に行く前に死んじゃう!

「お願い!!落ち着いて!私を助けて欲しいの!」

必死に馬の立て髪を掴み振り落とされそうになりながら懇願する。


戦場からいつの間にか少し離れ、草原地帯で馬を大人しくさせるために声を掛ける。


徐々に落ち着き出した馬にホッとして馬の目を見る。


「ありがとう。そして驚かしてごめんなさい。私は守りたい人がいるの。お前を困らせるかもしれないけど、近くまで行ったら降りるから」


馬がジッとこちらを見つめてくる。突厥が操る馬は本来獰猛で、初めて乗る人間はほとんど振り落とす。鹿色の馬はチェンシーを気に入ったのか尻尾を振り顔をすり寄せてきた。


この仮面が邪魔ね。

チェンシーはマスクを外し捨てた。


もうこれは要らない。隠す必要がないのだから。

元徳の小言が聞こえて来そうだと感じた。


「あの黒い霧の源まで連れて行って。お願いよ。」


馬は一言鳴いた後、走り出す。慌てて馬の首に捕まり体制を整えた。今度は乱暴な走りではなくチェンシーを落とさないように真っ直ぐ走る。そしてチェンシーが指名した方向に向かう。

「ありがとう!」馬の立て髪を撫でた。


黒い霧に近づくほど背中の刻印が熱く感じる。

女神の力なのだろうか、この霧を何とかしなければ恐ろしい事になると感じた。


「エシン!今行くから!」

チェンシーを乗せた馬が駆け出していく。

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