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16.


一瞬の事で反応出来ずにいると、壁まで吹っ飛ばし、座り込んでいるサルグを見下ろしているのがエシンだと気づく。


エシンはいつも以上に瞳の赤色がより赤く見える。そしてかなり気が立っていた


「お前の母を守れなかった事を他人の力に求めるな!自分の非力さを目を瞑り嘆かわしい奴め。お前の母が亡くなった責任はお前とそして突厥を纏めれなかった俺にある。全ては俺に言うべき事だろう!」



「可汗様…力がある人に頼ってなにが悪いんですか!女神様はそのためにいるのでしょう!」


「女神は人々を救う為にいる。だが、己の復讐のために滅びろなどと願うなど許されない。お前の欲望で汚すな!」


エシンがサルグの首元を掴んだのを見て走ってその手を掴み止める。

「エシン様!…やめて!私に女神としての力があるかは分からない。けど皆の力にはなりたいと思ってる!女神の生まれ変わりだろうと何だろうともし皆を救えるなら何だってする。私の決定に意味があるのなら、突厥のために王を今決める!そうすれば、皆も安心して…」

一瞬自分の意識とは違う景色が見えた気がした。誰かの記憶だったもの



大勢の人間達の前で指を差していた。その決定によってひと時の再生と繁栄、そして滅びが始まるのだと――――――

場面が切り替わり目の前に大量の死体が広がっていた。何十何百にみえるそれが折り重なっていた。

家々から火の手と大勢の人の叫び声が聞こえた。人間達が殺し合っている。ふと自らの手を見ると血がびっしょりと掛かっており血塗られていた。

死体と思っていた人間が足を掴んできた。

女神よ…なぜ…と憎しみに満ちた目が私を見る。


ワタシが決めてしまったから…

王を決めたからだ…

許して…許して…!?


見えた光景と負の感情が一気に心を埋め尽くす。体が恐怖で震え出した瞬間、



エシンはサルグから離れ私を抱き締めていた。

「可汗は、お前が決める必要はない。自らの力で勝ち取り示すものだ。女神が決めて治めるものではない。だから大丈夫だ。」


その温かさと力強さで現実に戻される。


「エシン様…私今…」

「チェンシー?」

エシンが心配そうに私の顔を触れようとした瞬間、


「敵襲だ!!西突厥が来たぞー!」

外から声がした。その声を聞いてエシンが反応し離れる。

家臣の者が天幕の中に入ってきた。


「可汗様!読み通り、奴らが来ました!」

「分かった。今すぐ戦闘準備しろ。子供や戦えぬ者、後は漢人達を直ぐに山頂に集めろ!」

「御意!」


今まで祝杯の宴の最中であった空気は一気に変わり踊っていた者も飲んでいた者達も武具と防具を取り出す。まるで事前にわかっていたかの様に動きだす。


「どう言う事でしょうか?今から戦闘が始まるのですか?」

「分からないわ。皆さっきまでと違って殺気立ってる。」

ワンが不安そうに近づいてきた。

「チェンシー。今から阿波達がやってくる。宴に乗じて東を襲いに来たのだろう。こんな千載一遇の時は無いからな。これを機に俺たちも西を撃つ!だからここから離れるなよ。」


エシンが真剣な眼差しで見てきた。その後、後ろにいたサルグに目を向ける。


「お前の母を守れなかった事は俺の責任だ。必ず阿波は倒すから待っていろ。」


サルグは驚いた顔をした後、顔を伏せ頭を下げた。


エシンは私の顔を見た後微笑みそのまま家臣達と天幕を出て行った。


「嫁いで数日に争いですか。これは大いに天から祝福されていますよ。チェンシー公主様。」


元徳がため息つきながら横に来た。

「私は文官で闘えませんので、後方で動けぬ者達に命じ武器の手入れや矢の準備をいたしましょう。争いは、後方も怠るとやられますからね。ざっと見たところ、まだ矢の補充が少なく見えます。傷を負った者への天幕の準備をせねば。」


続々と山頂には、戦闘に参加できない子どもや老人などが上がってきていた。

戦闘に参加するのは男だけでなく女達も参加していた。主に前衛は男が行き、女は弓で後方支援していた。

東突厥は多くのものが戦闘民族であった。


ウテュケン山の周りは草原で見渡しが良く、障害物が無い。また周りには2つの川が流れており後方は傾斜が強く、1箇所からしか登れない。天然の要塞であった。その為歴代の可汗はここを治めてきた。守りの上では強く崩れることはない。


「チェンシー様、私たちはここに居ましょう。」

ワンが裾を引っ張った。唐の長安は都市の中では長らく平安で争いなどあまり起こっていない。彼女からしたら直ぐそばで争いがある事が未知の出来事で不安で仕方がない。


「…ワン。ごめん。私は行くわ。突厥の問題は公主である私にも関係する。自分だけ安全な場所で見てるだけなんて出来ない!あなたはここに居て!」


ワンと元徳が引き留めようとして来たが、直ぐに天幕から飛び出し、山頂から駆け降りた。

その後ろをヤルカが着いて来た。


「ヤルカ、私にも弓を教えて。あなたは戦えるのでしょう!」

「チェンシー様がお望みとあれば。」

ヤルカは既に弓を抱えていた。


長安では体を鍛えていたから手順さえ覚えれば弓は弾ける自信がある。今思えば婆から体の鍛え方の伝授だけでなく女神の生まれ変わりとして単純に身体能力が高かったのかもしれないと思い返した。


あのあまり余る体力や力はそこからきてたのね。

何となく他の者とは違う感覚が腑に落ちた。


遠方を見るとエシン達は麓に騎兵の軍勢を並べていた。そして、山の崖上から女達が弓を構えていた。


川の向こうには既に敵の軍勢が馬に乗って迫っていた。距離にして数キロ先である。


「もうあんな所まで!?」

「ですが、よく見ると好機です。阿波は焦っているのでしょう。西突厥の軍にしては人数が少ないです。精鋭だけ呼び寄せたのかもしれません。」


エシンの軍勢が数万人に対して阿波の軍勢は一万人程に見えた。有利なはずの現状に胸騒ぎがした。阿波の軍勢の周りに見える黒いモヤに見覚えがあった。


「ヤルカ…私の行いは間違いじゃ無いわよね…」

弓を引けば最悪人を殺すかもしれない。その恐怖に手が震える。

「チェンシー様、これは命の戦いです。襲いにくる獣相手に何もしない者など居ません。貴女様の行いは多くの民のため、突厥の未来のためなのです。大丈夫ですよ。私も共に居ますから。」


ヤルカが震える手を包む様に握り返してくれた。

ヤルカの薄い青い瞳が微笑む。


その青を見て、マーフヴァルドの深い青い瞳を思い出した。


あぁ…貴方も使命のために生きていた。

偽者とは言っても東突厥の人々は公主の自分を大切そうに見て接してくれた。祝福してくれた。


与えられた役割、守るべき者達、私にも使命が出来た。

「ヤルカ、お願い。私に力を貸して…!」

ヤルカの手を強く握り返した。




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