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15.


身支度を終え、天幕を出るとエシンが立って待っていた。私を見ると微笑んでくる。それをマスク越しに感じ目を逸らす。


「まだこれをつける必要があるのか?」

「もちろんです。まだ完全に殿下の妃ではありませんから」

キッパリと言う。顔はもうすでに見られた仲であるが契約を結んだわけじゃない。厳密にはまだ妃候補といった立場だ。


「それは残念だ。お前の可愛い顔を早く見たいものだな」

この王は軽々しく歯の浮く発言多すぎる!あまりに女性慣れしてる雰囲気に慣れない。龍の国の皇帝の様に他にも側室とかいるのだろうか。


「それよりも家臣達がチェンシーに謁見したいと言っている。形式ばった挨拶だが、これもお前を歓迎したいと思っての行動だ。受けてくれるか?」


「畏まりました。」

和親公主としての最初の仕事だ。まずは突厥の貴族社会を理解しなくては。


「この度はおめでとうございます!偉大なる可汗様!そして将来の可敦かとぅん様!」


可敦は、突厥の女王を意味する。

エシンと私の天幕に次々と人が入ったり出たりと挨拶される。恐らく数十人者もの貴族が集まっている。唐の王の挨拶の様に恭しい感じではなく、胸の前に手を重ね軽く礼をされる。

そして何人か挨拶されていて分かってきたが、唐の王朝ほど複雑な社会ではない。


突厥の貴族は全て一つの貴族で成り立っている。可汗の親族から枝分かれし構成されている。

そして何より驚いたのが女性の立場も強いということ。何人かの代表者の中に女性もいた。


唐の王朝よりも政治の男女差別はない。戦になれば男だけでなく女も馬に乗り弓を引く。みな草原の戦士でもあった。


そしてみな屈強な体つきだ。その辺の漢人とは違う。

普段から馬に乗る生活なため運動量が多い。また普段の食生活も羊や牛などの家畜の肉を食べ、乳を飲む。こっちにきてからこの食事内容にはまだ慣れていない。


獣の乳を飲むなどと唐では嫌がられている。ワンも最初は顔が青ざめていたが今は少しずつ飲める様になっている。

たまに隷属している漢人から貰う野菜がかなり助かっている。突厥人は遊牧民だ。基本移動して生活するため農耕はしない。乾燥地というのもあるだろうか。



エシンはこのウテュケン山からは離れない。可汗がウテュケンを離れると国が弱くなると信じれてきたからだ。その為、その周りの地を家臣達がそれぞれ遊牧し移動しながら守っている。

彼らの中で命に等しい家畜と馬と共に大切にしている。全く文化が違うため毎日驚く事の方が多い。


挨拶が終わると気づくと夕方になっており宴が始まった。麓に沢山の天幕が張られて馬乳酒と家畜の肉を焼き皆歌い踊りだした。

和親公主が来た事は彼らにとってはかなり喜ばしい事だという。そして、女神の復活も。


どこの国でも宴はかなり盛大になる。貴族だけでなく祝い事という事で周辺の民達も集まりだしていた。それを天幕の中から見ていた。


エシンはいつの間にか宴の中心にいる。ここでは唐よりも格式張っておらず、自由なのだと感じる。男も女も。身分も。


「チェンシー様、宴の最中に申し訳ありません。1人お話したいと申し出てる方がおられます。」


ヤルカが話しかけてきた。私は馬乳酒はまだ苦手なため飲んでおらず酔っていない為承諾した。


1人の子供が天幕の中に入ってきた。13歳ほどの男の子で、刺繍の入った上着を着ておりそれなりの身分の者だと気づいた。(貴族は刺繍がゴテゴテしてて一般の民はあまり入っていない)


「公主様、謁見していただきありがとうございます。サルグと申します。こんな時に言うべきことではないのですが…どうしても伝えたい事があってきました。」

サルグは膝をつき頭を下げていた。

「いいえ。ちょうど暇してましたから。どうされたの?」


「元々は西突厥に住んでいたのですが、僕の母は西突厥人に殺されました。向こうでは弱いものは貴族であっても虐げられます。皆、宴なんか開いて浮かれていますが僕はどうしても西突厥が許せません…!向こうにはまだ妹が取り残されています。だから女神様の生まれ変わりであるあなた様に助けていただけないでしょうか!?」


サルグは涙を浮かべ握った拳が震えている。


「サルグ様。何もこの様な時に言わなくてもよろしいのでは?明日でも進言出来たでしょう。」

元徳が訝しげに話す。


「僕には時間が無いんです…!妹は向こうで一人きりだ!こんな宴なんて開いてる時間も惜しいんです。」


東と西の内紛は複雑に絡まっている。お互いを憎しみあっている。統一しない限り解決しない問題だ。そこに伝説の女神が復活したとなれば、一つの光となる。

突厥人全体の悲願が叶ったのだ。


私の存在は一つの兆しとなる。その重圧がのしかかってきた様に感じる。そして突厥人の苦しみも。


女神の生まれ変わりが現れる前から今回だけでなく突厥はよく可汗の争いで戦争が多かったと聞く。そこに王の選択、という絶対的存在を選べる者が現れた。


彼の要望は突厥全体の為にも早く取り組むべき問題だ。


でも…彼が望んでいるのはそれだけじゃない。


「西突厥を滅びて欲しいと思ってるの?」


「…!」

図星の顔をしてる。母を殺した相手なんだからそう思っても不思議ではない。

けどそうなればまた憎しみの連鎖を生む。彼と同じ人間が現れる。


「私が王を決めたとしても、あなたはそれだけじゃ納得しないと思う。」

「分かっています…統一したら全て水に流すべきだと。でも…!母の無念はどうしたらいいんですか!?あんな奴ら滅ぼすべきって言ってください!突厥を助けにきたのでしょう!!」


サルグは懇願と憎悪の目をして私を見た。

彼の失望は計り知れない。またあの女神を求める目をされる。

「私は……」


「サルグ。お前、何様のつもりだ」


エシンの声がして振り向いた瞬間、サルグが部屋の端まで吹っ飛んでいた。









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