章間.
チリン―チリン―
長安の後宮にて。
鈴の音で目覚める。あぁ、使者がきたか。
顔を上げた瞬間、ピチャっと顔に赤黒い液体が滴り落ちる。
そういえば、食事をしてる最中に寝てしまったのだ。
部屋全体が血みどろであたりに奴隷の死体が転がっている。むせかえる様な血の匂いに恍惚としていると部屋の外から宦官の声がした。
「貴妃様…件の者が参りました。」
「今目覚めたの、少しお待ちいただいて。」
「承知いたしました。」
宦官が離れた後、楊貴妃は指で死体の顔に着いた血を舐めた後、腕を上げた。その瞬間部屋中に飛び散っていた血や肉達が一つの黒い塊になり霧状に飛散した。
血の鉄臭い臭いが瞬時に香り高い桃の香りへと変化する。
「あぁもう、奴隷を全て食べ切ってしまったのね。また調達しなくては…」
貴妃の瞳は金色に輝き妖しく光る。
血みどろの服を投げ捨て、新しい漢服を肩から羽織り寝床に腰掛ける。白く美しい肢体が僅かに見え妖艶である。
「いいわ。通して。」
扉が開き、1人おどおどした男が入ってきた。出立から突厥人である。
「貴妃様、申し訳ありません!失敗しました!刺客がやられ、公主に接触しようにも次々とやられてしまい…!」
入ってくるなりバッと、男は貴妃の目の前で膝をつき頭を下げて平伏する。
貴妃は冷たく男を見下す。
あの狼か…封印を解くためだけに利用したがやはり邪魔をしてくる。
「元々期待などしていません。ですが、この私が情報を与えたのです。可汗を殺し公主を連れ帰る、こんな簡単な事も出来ないなんて…次は無いと阿波に伝えなさい。愚鈍な事を続けるのであれば、お前にそれ相応の報いを与えると。」
使者はガタガタと震えながら退室した。
誰もいなくなった部屋で貴妃は自分の体を抱きしめる。
「…姉様…やっと覚醒したのね。でも早くしないと私…貴女が愛した世界を壊しちゃうわ…!もっともっと人間共の血が欲しいの!貴女が選んだ人間を…!」
遠い記憶の中からある少女の横顔を思い出す。太陽の光にあたった後ろ姿が神々しい少女を。
あの綺麗な顔を汚したい、踏み潰したい。
「数百、数千年ぶりよ…やっと会えるかしら…」
チェンシーの背中を触った時の感触を何度も思い出しては喜びを噛み締める。
貴女を殺せる時が近づいてると言うことに。
この身体に入ってから2年になる。そろそろ馴染んできた。貴妃は鏡を見て自分の体をなぞる。
「宦官、殿下の元に行きます。身支度をしたいから侍女を呼んで。」
「畏まりました。」
傀儡となった王の元に行こう。手始めに人質の鄯善の王子を斬首し、覚醒の祝いに小国を一つ潰してあげる。
「これから楽しみだわぁ」
恍惚とした表情で微笑んだ。




