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13.


長安では、灰色の雲が空を覆い隠し大雨が降っている。その中を1人の男が走る。マーフヴァルドは虚な顔で居た。


向かう場所は一つの寺院の前にきた。息が切れるほど走り胸が苦しい。全身雨でびしょ濡れでも気にせず泥だらけの状態で門を潜る。


寺院の入り口に1人の年老いた尼僧が行商人から食料を買い付けている所をマーフヴァルドは近づく。


ただならぬ気配に尼僧が気付き声をかける。

「そこの方、どうされたのですか。ずぶ濡れではありませんか!」

「ここ最近…漢人の貴人が仏門に入った者がいるはずだ。頼む。会わしてくれ…」

「どなたの事ですか?」

「ヤン・チェンシーだ。ここに居ると聞いてきたのだ。」

チェンシーの名前を出した瞬間、尼僧は顔色が変わる。

「どなたであろうと出家した者は俗世とは関われません。ましてやあなたは殿方です。会わせれるはずがありませんでしょう!帰ってください!!」


尼僧は無理やりマーフヴァルドを押し出し門を締め切った。

「お願いだ…!ここに居るのだろう!!」

門を何度も叩くが返事は返ってこなかった。


何故…後宮に入ったはずなのに、何故寺院になど入った…いや違う。あの時チェンシーを見送った事こそ間違いだった。決断できなかった俺が、一番愚かだった。

あの時別れを惜しんでいたチェンシーの顔が忘れられない。お互い好きで好きで堪らないのに選択できなかった。

王の勅命も俺の使命も全て捨ててあいつを連れ去るべきだったのかもしれない。


……そんな事できたのか?あいつの思いを見て見ぬふりしたのは誰だ。己の心を先に閉したのは誰だ。


全て俺の選択でこうなった……


雨に打たれ項垂れていると、尼僧といた行商人が近づいてきた。マーフヴァルドと一緒に追い出されていた様だ。


「大丈夫ですか?風邪を引いてしまう。私の家がすぐ近くにある。温まった方がいい。」

顔をよく見ると初老の胡人であった。

「しかし…」

「私はあの寺院に頻繁に食料を売りに行く。あそこで最近漢人の貴人が入ってきた記憶が無い。」

「それは本当ですか…!?」

「ええ。詳細は家に来てから話します。さぁ行きましょう。」


暫く歩いた先の民家に案内された。

――――――――――――――


男は快く歓迎してくれた。濡れた服は乾かすために干し代わりの服を貸してくれた。

暖かいお茶を淹れ、囲炉裏の前で暖をとる。


「申し訳ない。迷惑をお掛けしてしまった。このお礼は必ず返します。」


「いえいえ。同じ同胞ですから気にしないでください。それよりもあなたが言っていた者は私は見ていないと伝えましたね。寺院にいる尼僧達の食料の買い付け数はずっと一定でした。人数が増えれば必ず私に教えてくれるのです。それがないということは誰も入っていないのですよ」


「では…あの尼僧はその事を隠したということですか?」

「どういう事情があるかまではワシにもわかりません。通常であれば、男であっても尼僧が立ち合いのもとであれば面会はできるはずです。」


「先程の対応はそんな感じではなかった…。何かあるという事か」


胡人の官僚からチェンシーが移された寺院の名前はあそこで間違いない。何か後宮内であり仏門させられた、と言うことか?


1人考えていると男が食事まで用意してくれた。


「ここまでされては申し訳ない!」

「よいのですよ。こんな事突然話すと変かもしれませんが、あなたにはいつも感謝しているのです。あなたが率いる商隊に着いていくと安全で日程も遅れなく間に合う。完璧だ。他の商隊の時とは全く違うのです。あなたは素晴らしい商隊長だ。」


ニコニコと話し頭を下げてくれた。


何十、何百人を連れて旅するので個人の顔などは把握していなかったが、お礼を言われるのが初めてだ。


「そうだったのですか…俺の商隊に来る機会があったとは。」

照れ臭さと嬉しさで胸が熱くなる。


「だが、その完璧さが心配になります。あなたのお父様も素晴らしい方でしたが、あなたほど完璧ではなかった。道を間違えたりなどされた事もありましたが、間違いを修正し何度でもやり直す。その粘り強さも決して悪いことではないと思います。」


「父にもそんな事があったんですね。」

俺の前ではあまり見た事がない姿だった気がする。


男の言葉で思い出した事がある。

昔の父との会話だ。

「マーフヴァルドよ、人生での選択で後悔しない選択などない。必ずあの時ああしておけば良かった、と思う事があるはずだ。だが、その事を引きずらず前を見るのだ。我らの道は選択で大きく変わる。その都度やり直し修正する。決して立ち止まってはならんのだ」


父からの完璧な道を教わっていたが、道を違えた場合の事を教わっていた事を忘れていた。


俺は自分で自分を追い込んでいたのか…


「あなたの言葉で何か見つけた気がします。ありがとう。」

「何か役立たてれたのだったらよかった。丁度雨が上がりましたね。」

雨上がりからの日差しが差す。


チェンシーの笑顔を見たいと強く感じた。立ち止まってられない。


男にお礼を言ったマーフヴァルドは家を出た。

足取りは先ほどとは違う。真っ直ぐ前を向いて歩いて行く。


もう一度、チェンシーに会いたい。君に会ってちゃんと向き合いたい。困難な道を共に乗り越えれる様に。


マーフヴァルドは、曹 思遠の家に着く。

思遠はマーフヴァルドの姿を見るとすぐに声をかけてきた。

「マーフヴァルド!あの寺院にはヤン氏は居ないようだ!」

「ああ、それを俺も伝えにきた。」

「分かったのか!いやそれより耳寄りな情報がはいった。狼の国に行商に行っていた同胞から帰りに輿を運ぶ者達を見かけたと報告があった。身なりからして朝廷関係者に見えたとな。」

「輿だと…?」


何故、朝廷関係者がそのような動きをする?

献上品に輿…

マーフヴァルドは、何かに気づく。

「思遠、暫く出る。確かめに突厥に行ってみようと思う。」

「お前は正気か?商隊を置いて私情で行動するなど一族が許さないぞ!」


「だから仕事として行くのさ。ただの行商として、皆を説得してな」

「…全く。いるかも分からない者を探しに行くとは…分かった。何かこちらの動きで分かることがあれば知らせる。…あとお前少し変わったか?」


思遠はマーフヴァルドの肩に手を置く。

「昔のお前ならこんな考えなしの当てずっぽうな行動はしなかったぞ」

「失敗を恐れていては何も出来ないって事がやっとわかった。ただ殻にこもって自分を守るだけではダメなんだって」


一族の為に生きてきた。だけどそれじゃ俺の人生はどうなる。できるだけ足掻きたい。

マーフヴァルドは手を握り締めた。

「…お前が自分の意思を持つ様になった事が救いだな」

「ありがとう。思遠。俺を陰ながら支えてくれて。」

「お礼まで言えるほど成長したのか!」


やれやれと思遠は頭を振る。


「早速説得してくる!」

マーフヴァルドは掛け出す。その顔は何か解放されたような明るい顔立ちだった。


それを思遠は兄の様な心境で見送った。

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