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10.


「では、俺が連れてきた馬ではあれば半日ほどでつく。それで…」


「お待ちください!!」

思わず籠の中からチェンシーは叫んでしまった。

あっ混乱した頭で処理できず叫んだけど、次何いうかまで考えてなかった。


エシンはキョトンとしていた。


「エシン殿下。この様な危険な状況ですが、我らは長旅で疲れています。公主様も体調が優れていないのです。一旦休息を願い出たいのですがよろしいですか?」


元徳がすかさず願い出た。

元徳!!よくやりました!!


「ああそうだな。すまない。不躾だったな。では、天幕を張らせるからそこで休んでくれ。」


エシンは少しバツを悪そうにして連れてきた兵士たちに天幕を張らせた。


天幕は屋根の中央が高く、丸い形のテントをしており、羊毛フェルトで断熱を抑えた簡易な物を三つほど立てた。


一つはチェンシー、ワン、元徳が入り、残りがエシンと部下達、そして長安の兵士が休む事となった。

元徳の気遣いでエシン達に顔が見られない様に籠を天幕の入り口に備え付け入った。


「まだ正式な婚姻を結んでいるわけではないので、公主様をお守りするのが私の仕事ですから」

とチェンシーにぶっきらぼうに告げた。


天幕の中に引かれた羊毛の絨毯に座り、今までの野宿や簡易な宿よりかは楽だ。


「元徳。これからどうすればいいのでしょう。内戦が起こっている様では婚姻など難しいのでは?」


「あの王がどう考えているのかは私が間に入り立ち合います。今はこの突厥の状況を把握せねばなりません。もし婚姻後にあの王が他の突厥の者にやられてしまえばこの話事態、意味がないものです。そうなればあなたは何のためにここまで来たのかわからなくなります。ただ、今なら引き返す事もできますから。」


「ええ頼みます。」

正直、自分一人では心細いので元徳がいてくれて助かる。

「後、突厥語勉強してたから分かるけどまだ細かな所は理解できてなかったみたい。」

「…その辺りも不安がありましたから、問題ありません。私がその都度訳しますので。」

元徳はため息をつく。

「チェンシー様すごいです!私何言ってるかちんぷんかんぷんでした!」

ワンが尊敬の眼差しを向ける。

元徳の顔にこいつら大丈夫か?と書いてる様な気がした。

「ワン…。あなたには時間があれば私が突厥語を教えましょう。そこまで頭が回らなかった私の落ち度です。」

「元徳様ありがとうございます!!外国語は初めて学ぶので頑張ります!」

元徳は頭を抱えワンは嬉しそうにはしゃいでいた。


「とりあえず、一刻ほど休息しましたら、王に取り次ぎ説明を願い出ます。このまま進むのかはそこから判断しましょう」

「わかったわ。」


――――――――――――――


元徳が言った通り王に取り次ぎ、話し合いが行われた。皇族の養女という立場と婚姻前という事で、無闇に顔を晒すのは困るとエシンに伝えた。

王の天幕に入り簡易な衝立をたて王とチェンシーは顔を合わさないようにした。その中間に元徳が座り三角形のように向かい合わす。


ワンから手渡された薄手の布を頭から被り素顔を晒さないようにした。天幕の中は3人だけとなる。


「では、エシン殿下。我らに突厥の状況をお教えください。」


「承知した。先程も伝えた通り、突厥は今二つの勢力に分かれている。東突厥と西突厥だ。俺は東突厥を納めている。元々は俺の親父、木汗可汗ボクカンカガンが突厥を統一していたが叔父である阿波アパが親父が死んだ後、可汗を引き継ぐ形となった。それを俺が後に王位を奪った。王位を奪われた奴は西突厥を収めることとなったわけだ」


「ではこの争いは、あなたから始まったと?」


「我ら突厥は力こそが全てだ。弱い者についてくる者はいない。阿波は元々可汗の器ではない。小心者で陰気臭い男だ。」

エシンは胡座をかき膝の上に肘をつき掌に頭を乗せながら気だるそうに答える。


「騎馬民族特有のいざこざがここにきて邪魔をするのか……」

「どこの民族にもあるだろう。こんな事。」

「こんな事あっては困ります!公主様のお立場はどうなるのですか!何故和親公主を娶りたいなどと言ってきたのですか!?」


混沌とした状況に元徳は頭にきたのか、エシンが王であった事を忘れたかの様に食い気味にツッコむ。


すると飄々とした態度で元徳を見ていたエシンが、真っ直ぐ衝立越しにチェンシーの方を見つめた。


「可汗としてではない。俺個人の我儘だ。」

衝立と顔に被せた布越しでも感じる視線にチェンシーはドキッとした。今見られていると。


「それはどういう…」

元徳が訝しげに話そうとした所をチェンシーが手を挙げ止める

「……貴方の中で和親公主が特別な意味があるという事ですか?」


「そうだ。あぁだが、和親公主としてっていうのも違うな。まだ俺の中で判断が出来てるわけではない。」

エシンが顎に手をつきブツブツ呟きながら考えだす。

この王は頭で考えるより本能で生きてそうな気がする…


「結局の所、殿下は私に何を求めているのですか?」

少し呆れながらチェンシーは言う。


「そうだな…とりあえず今は顔が見たい。」


かお!?ど直球で何を言い出すのかと驚いていると、すかさず元徳が衝立とエシンの間に入り手を広げ近づけないように体を入れた


「可汗よ!!今はまだ正式な婚姻前です!!無礼ですぞ!」

「不躾な事ぐらいわかっている。確かめたかっただけだ。それならせめて手ぐらいいいだろ」


元徳がまた怒りそうになった所、静止させ、チェンシーは衝立から手だけをエシンに見せた。


「こちらでよろしいですか?」

「……細い指だ」

そう呟き少しだけ指を触れた後、エシンは満足そうに微笑んだ後突然立ち上がり、

「安心しろ。阿波は必ず倒す。婚姻の契りはそれまでは交わさない。今は俺の側にいろ。」


と言って颯爽と天幕から出ていった。


元徳と私は口をポカンと開けて惚ける。


「なっなんなのあの王!!!」

触られた指が熱を帯びた気がする。

「公主様、お気持ちは分かります。しかし今の状況的に婚姻は交わさずにいれるなら様子見として側にいるのも手です。」


エシンの言葉に逆に安心したのか冷静に元徳は切り出す。

エシンの言っていた確かめたい事が引っかかるがこのまま国に帰る事も現実的ではないので大人しく言う事を聞くことにした。



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