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唐時代.___
王宮の治世は安定し、市中には国際色豊かな文化や宗教、民族がやってきた時代。
人々は治安の安定から商業が活発化し人口も増えていった。
しかし北からの異民族である遊牧民が掠奪しに襲いにくる事もあるが、巨大な城壁により守られ力は均衡していた。
そして人々は西域の道を開拓し遠い他国との繋がりができた時代となる。長安の絹が世界に広がる、シルクロード黄金期である。
長安の貴族の屋敷に1人の少女が中庭に面した部屋で琴を弾いていた。
黒髪の艶やかな髪を一つに結い穏やかな春の日差しが照らし白い肌が輝いて見える。16歳ほどの美しい少女、ヤン・チェンシーは目を瞑りながらゆったりと弾く。
胸の上まである長いスカートとゆったりとした袖の漢服を着ておりピンクのストール肩に掛けている。袖には優美な刺繍をされており裕福さを感じさせる。
それを侍女達はうっとりと見つめていた。
「チェンシー様…今日は一段と演奏が淑やかで素敵だわ。まるで普段と別人の様…」
「そういえば、今日って確か…」
侍女の1人がそう呟いた瞬間遠くから楽しげな太鼓の音が風に乗って聞こえてくる。
その音にチェンシーはピクリと反応し、演奏の手を止める。
太鼓の音と共に軽やかな笛の音も聞こえ人々の楽しげな歌声まで聞こえる。
祭りのような楽しげな笑い声と楽団が近づいてくるのを感じた瞬間、チェンシーはパッと顔を上げた。
「マーフ!帰ってきたのね!」
「あっ!チェンシー様!いけません!!」
侍女の叫びも虚しく、先程まで優雅に引いていた琴を蹴り飛ばし外に向かって走り出していった。
貴族の娘の仕草など微塵も感じさせず外の地面の砂埃を上げながら駆けていく。
そして道にラクダを乗りながら楽器を持って楽しげに演奏する人々とその周りをクルクルと踊り子達が回り踊っていた。
人々の顔立ちは長安の者とは違い、彫りが深く、鼻が高い。エキゾチックな顔立ちをしている。
男達の服装は長安の男と違い、動物に乗りやすいよう股が割れたズボンを着用し尖った形の帽子を被っていた。
踊り子達は細く体の線がわかる薄い布地の服、そしてズボンを着ており体の線が出ない長いスカートを着る漢人の女性とは違う。
彼らは長安の者から胡人と呼ばれている。長安の西の砂漠の地、西域からやってきて商業を生業としている。
春になると彼らの故郷ソグディアナから離れ西の国の物品を携え長安にやってきた。
長い旅路となるため長安に着くとお祭り騒ぎとなる。
彼らの喜びを目もくれずチェンシーは目的の人物を探しにキョロキョロと辺りを見て回る。
少し先に後ろ姿の背の高い人物を目的の人物かと思い走り出した瞬間、横から乱暴な手綱を嫌がったラクダがチェンシー目掛けて飛び出してきた。
「あ!!」
「危ない!」
ラクダに蹴り上げられそうになった瞬間、脇を抱え上げられ引っ張り上げられた。
軽い衝撃の後、ゆっくりと目を開けるとチェンシーは1人の男に抱き上げられていた。
青い瞳の端正な顔立ちの男が心配そうに顔を見つめていた。
「このジャジャ馬は!もう少しで頭をかち割られてたぞ全く…」
「マーフ!貴方なのね!ごめんなさい。周りをみれてなかったわ…それよりおかえりなさい!」
キラキラとした満面の笑みを見せられた瞬間少し顔を赤らめマーフヴァルドは目を逸らした。
マーフヴァルドは手の掛かる幼馴染を地面に降ろした。彼も胡人であり、この商隊の長であった。
瑠璃色の瞳が美しく一眼見て見惚れる人が多い。
ターバン風の布を頭に巻き付け髪を出さず、胡人の服装である立襟・前開きの長衣を着てズボンを履き帯刀している。
マーフの容貌は長安では珍しく道行く人々がチラチラと見ていく。
長身で均等の取れた体つきと変わった服装のため漢人の女性が色めき立つ
「人が集まってきた。屋敷に帰ろう。まったく、もうお前も大人になるんだ。そろそろ落ち着きを覚えたほうがいいぞ。」
「だって貴方を迎えに行きたくて。一年に何度も会えないんだよ。それに私はもう…」
「ん?なんだ?」
「なんでもないよ!いこ!」
子供の頃からチェンシーの家に行商に来るので幼馴染と言える関係だが、胡人は長い行商の旅路となるため一年で数回会えるかどうかになる。
足を怪我してはいけないとマーフはチェンシーをおんぶして屋敷に帰る事となりそれはそれで目立っていた。




