魔法のペン
家に帰って、寮のことを母さんに報告する。
「……ってことらしいんだけど」
「そう、じゃあ引越しの準備をしないとなのね。家具とかはあるのかしら?」
「え?いや、俺寮に住むつもりはないんだけど?」
「え、でもうちそこまで裕福じゃないから、毎日新幹線代がかかると大変なのよ。わかるわよね?」
それを言われると弱くはあるのだが……
「俺、村八分にされて死んじゃうよ?」
「ルナちゃんって子と仲良しなんでしょ?大丈夫じゃない」
「あいつは俺を孤独にする要因の一つだよ!」
「ま、寮で生活できるなら寮で生活しなさい。そうすれば友達を作る機会もあるわよ……きっと(笑)」
「今最後すっごい投げやりじゃなかった!?ねぇ、母さん!?ねぇ!返事しろよ!」
結局無視されて、俺は泣きながら一人で引越しの準備を始めた。
懐かしいおもちゃなどが出てきて懐かしみながら進めていたら、服と教科書と小物をまとめ終わったのは夜になってからだった…
翌朝、教室に入った俺は黒板にデカデカと書かれたメッセージを見て固まる。
『エルス・レルクレムくんへ
今日、一限は公欠にしてあげるから教室に着き次第学園長しつにくるように
みんなの学園長 緋鶴華憐より』
「エルスくん、よかったじゃん。熱烈なラブレターだよ」
「……こんなイベント望んでないんだけど」
「早く行ったら?カバンは置いといてあげるよ」
「……ありがとう」
ルナにカバンを渡して、俺は廊下をノロノロとカタツムリもびっくりのスピードで歩いていった。
ホームルームの始まりを告げるチャイムを聴きながら、他の教室より分厚く作られた豪華な扉を叩く。
返答を待ってからドアを開けると、昨日スピーカー越しに聞いたやかましい声が直に鼓膜を揺らした。
「あ、やっときた?入って入って!随分と遅かったね〜そんなに嫌だった?傷つくなぁ、年取っててもわたしも人間なんだよ〜?もうちょっと気を遣ってほしいんだよ。そうそう気を使うと言えばさぁーー」
「それを聞いてたら、2時間目まで公欠になっちゃいそうなので今度にしてくれます?」
「確かにね〜。ごめんなぁ若人よ、わたしおしゃべりだからさぁ、お話ししたくてしょうがないのよ。それで本題なんだけど、君に白組の寮長をお願いしたいのよ」
「いやです」
「はっきり言うねぇ。でも、もう手続きも終わっちゃってるからごめんね。無理なの」
「俺、了承の返事をした記憶がないんですけど」
「平民の了承って、貴族なら意外と簡単に代行できるのよ?」
「汚い!さすが貴族汚い!」
「ひどいなぁ、普通の貴族なら結構やってることだよ。で、受けてくれるよね?」
「辞退させていただきまぁす!(体育会系)」
「汚い貴族の強権で握り潰させてもらうね(完全無視)」
彼女は、いくつかの書類を俺の前に出しながら言った。
「それに、君にはシェルブルームの所の娘がついてくるって聞いたけど?彼女だけで大抵の赤と黄の生徒は黙らせれるよ。」
「あいつ、強いのは知ってたけどそんな偉い家の人なの?」
「偉いとかじゃないわよ。シェルブルーム伯爵の実の娘なんだから、遠縁だけど王族の血を引いてるわよ。」
……あいつ、それなのにあんななの?
絶対突然変異じゃん…貴族にあんな脳筋がいるわけないもん
実質今、俺はアレの取り巻き状態な訳か…そりゃ避けられるわ。だって誰も伯爵令嬢と喧嘩したくないもん。
「というか、一年生で寮長とかなれるんですか?聞いたことないんですけど」
「え、知らないけど初めてなんじゃない?」
「それ、大丈夫なんですか?偉い人から怒られたりって」
「何言ってるのさ、この学園で一番偉いのは何を隠そうこのわたしなんだから。この魔法のペンで名前をちょこ〜っと書くだけでランプの魔人よろしく大抵の願い事はかなえられちゃうんだよね」
彼女は、俺の手にペン《魔法でもなんでもない》を握らせ無理矢理に名前を書かせる。
「うわぁ!この人、ナチュラルに犯罪に手を染めたぁ!!」
「はぁい、ちょっとちくっとしますよ〜」
「いやだぁ!初めての1年生寮長になんてなりたくない!!」
俺が必死に暴れても、彼女の手は動かない。
ちくっと指先に痛みが走り、無理矢理に血印が押される。
……ひどいよぉ。こんなのってないよう……
「引き受けてくれてありがとうね!」
「引き受けてないんですけど(正直者)」
「でも、もう書類もできあがっちゃったから(すっとぼけ)」
「教育委員会に訴えてやる!」
「現役の貴族の証言と平民の証言、どっ血が優先されるかな?」
「理不尽だ!!!」
汚い!さすが貴族汚い!
「じゃ、もう帰っていいから!今度ちょっとしたお願いくらいなら魔法のペンで叶えてあげるから、考えときなよ!ばいばーい!」
背中を押されて、部屋の外に放り出される。
俺は廊下に手をついてさめざめと泣いた。
チャイムがなっても戻ってこない俺を心配したのか、学園長室の前まできたルナはしゃがみ込んで俺の頭を撫でながら言った。
「よしよし、なんで泣いてるの?」
「が、学園長がぁ!俺を勝手に寮長にしたぁ!人を!勝手に史上最年少の寮長に仕立て上げやがったぁ!」
「おぉ、エルスくん寮長になったの?よかったね、おめでとう」
「よくないんだけど!?」
自然な動作で、俺を抱き抱えたルナは教室へと向かっていく。
「あの、ルナさん?教室ついちゃうんですけど?みんなからの俺の評価が女の子のお姫様抱っこをタクシーがわりにするやばいやつになっちゃうんですけど?教室で村八分にされかねないんですけど?」
「わたしがいるよ?」
「他に仲間がァ!!い゛な゛い゛よ゛お゛ぉ゛!」
「シャボンディ諸島まで運んであげようか?」
あ、◯NE PEACE読んでるんだ…4000年前の漫画なのに…
あ、違うぞ?Oじゃなくて◯だからな。勘違いしないでくれよ
「エルスくん王に!!わたしはなる!!」
あ、結構好きなんだ…まぁ、いまだに好きな漫画を聞いたら候補に上がるような有名漫画だもんね…で、エルスくん王って何?
「ちょっと!ほんとに俺の社会的地位が死んじゃう!伯爵家の娘に寄生したヒモ男になっちゃう!」
「あれ、わたし、お父さんが伯爵だってエルスくんに言ったっけ?」
ルナが、これまでで一番真顔になった…えっとぉ、隠してた感じ?
そんでめっちゃ見てくる…なんならちょっとずつ顔が近づいてきてる…
「ち、近いよぉ…」
「あ、ごめん。で、それ、わたし言ってないよね。誰から聞いたの?」
「なんか、学園長が教えてくれた(素直)」
俺を下ろしたルナが来た道を戻っていく
「え、どうしたの?下ろしてくれたのは嬉しいけど、教室反対だよ?」
「ちょっと、学園長を、ぶっ殺してくる」
「うわぁ、殺意がすごい!」
でも俺もひどいことされたから別に止めない!やっちゃえルっさん!
2限が始まる直前、満身創痍のルナが戻ってきた
「ど、どうしたお前!?」
「……扉が変形して、ガトリングガンになった……撃たれる前に叩き壊そうとしたら、上から手榴弾が落ちてきて、転んだら、ちょうど頭のところにピ◯ゴラスイッチって書かれた金ダライが落ちてきた」
なにその地味にムカつくトラップ?
「…てか、なんでお前の被害そんだけなの??」
「もしガトリングガンが実弾だったら、骨折じゃ済まなかったかもしれない」
「非殺性のゴム弾でも俺は死んでる自信がある」
授業が始まって入ってきた数学の教師が、ボロボロなルナを見てひっくり返ってしまって、2時間目は自習になった。
「エルスくん!シェルブルームさんを保健室に連れて行ってあげてください!ついでにルミィ先生(数学担当の教師。ちっちゃくて可愛い、なぜかいつも俺を当ててくる)も連れていってあげてください!」
他の生徒に呼ばれてきた担任の先生に言われて、俺は自習すらさせてもらえなかったが。
「エルスくん、行こっか」
「行こっかじゃない。両手を広げるな。『抱っこぉ』じゃねぇよ。絶対無理だわ。胸元にしがみついてくるなァ!当たってる!柔らかいのが当たってるから!」
わがままを言うルナを振り払って、気絶したままきゅうきゅう鳴いているルミィ先生を背負って立ち上がる。
背中に全くと言っていいほど柔らかいものがあたらなくてものすごく安心すーー
「首がァ!?ル、ルミィ先生?起きてます?」
「……きゅう」
「寝てるか…」
「エルスくん、それでいいの?めっちゃ首絞めてたよ?」
何を言うか、こんな可愛らしいルミィ先生が首なんて絞めるわけがないだろう。
こんなちっちゃい子に疑いの目を向けるなんて情けーーグェッ首が!?
振り向いてルミィ先生の顔を確認するが、やはり目を閉じてきゅうきゅう鳴いて気絶したままだったのでそのまま保健室まで向かった。
3時間目はルナが保健室に連れて行かれていたことでまともに授業が進んだらしい。
連れて行った俺が、午前中にまともに受けられた授業は4時間目だけであった。
「俺は悪い物に取り憑かれている可能性がある」
「急にどうしたの?」
食堂で無料で食べられる焼肉定食を食べながら、俺はスマホでお祓いをしてくれそうな寺を探していた。
「どう考えても俺は悪いことをしていないのに、とんとん拍子で話が悪い方に進んでいくんだ」
「撫でてあげようか?」
「要らんが!?」
他の人の目も多いこの食堂で周りの見えていない幸せ絶頂の頭の悪いカップルみたいなことを始めようとするルナを引き離す
「このように、何かされたわけじゃないのに俺にひどいことをする奴が後を立たないんだ(ルナと学園長の二人だけ)」
「エルスくんと関わろうとする人ってわたし以外にいなくない?」
「はぁ?い、いるし。今日だって親友の消しかすくんと1時間しりとりして過ごしたわ」
「ぼっち極めすぎて、イマジナリーフレンドを生み出してる……」
消しかすくんは存在するが!?
なぜか毎日、消しゴムを使うまで顔を出してくれないが…ハ◯ション大魔王的な存在なんだと思う
「けしゴムを使っただけで呼ばれて飛び出られたら迷惑極まりないけどね」
隣でルナがなんか言っているが無視だ。俺の友人は消しかすくんだけだからな……
あれ!?もしかして、俺の友達少なすぎる!?
「ま、まぁいいだろう…俺についている悪霊を除霊してクリーンな体になるのだ…!」
脳内に、カスミからブルブルと恐怖に震える様子が表示された……ハマってるのかな?
ち、違うぞ!?カスミは悪霊じゃないだろ!?ちょっと他の人を不幸にしたりするだけで…ってここだけ聞いたら思いっきり悪霊だわ!?
……あれ?今俺『大人のための絵本』発動してたっけ?不思議に思ったが、まぁカスミが悪いことをするわけがないので放置する。
「やっぱり、俺には悪霊なんてついてなかったから除霊するのはやめだ」
「わたしが余った焼肉のたれをご飯にかけてる間に何があったの…?」
「俺は、今日、人に話しかけようと思う」
一ミリたりともやりたくはないが、寮長をさせられると言うのなら、寄生虫作戦はやめだ。このままだと、俺が入ったからって言う理由で白の寮がかっそ過疎になってしまう。もし限界集落の要因なんて陰口を叩かれたら俺の精神が3日で壊れる自信がある。
「エルスくん、浮気?」
「俺、お前と男女的交友を育んだ記憶がないんだけど?」
「わたしをあんなにめちゃくちゃにしたのに?」
「してないが!?」
「わたしの大事な棒を折ってまで、女を教え込んだのに?」
「なんのことだ!?意味がわからないんだが!?」
「2日前のことなのにもう忘れちゃったんだ?あんなに激しかったのに……」
「あっ!?お前、訓練場でやった打ち合いのことを言ってるんだな!?わかわか誤解を生むような言い方するんじゃねぇ!?」
「打ち合い(意味深)」
「含みを持たせるなぁ!!」
教室に戻ってから、先生を待っている間に前の席の女子に話しかけてみたが、その子は俺とルナのやりとりを見ていたようで、ゴミを見るような目と「へんたぃ」と言う言葉をいただいた。
誤解なのに……(泣)
やっぱり、俺の運を奪っているのは外的悪霊のようだ……さっさと除霊したいけど、方法がわからない…
「なぁ、ルナ。お前ってってどうやったら消えるの?」
「エルスくんと子供を作ったらかな?」
「表舞台からじゃなくて、俺の目の前から消す方法が知りたかったんだけど」
ちなみに授業中だ。科学の先生はおじいちゃんなので、小声ならバレないだろう。
「うーん、わかんないけど、試しにキスとかしてみたら?」
「昨日NHKで見たまんじゅう怖いを思い出したからやめとく」
「そっか、残念」
残念てあーた…隠すつもりが微塵もないじゃないですか…
小声でこそこそと話していたら、前方からチョークが飛んできた。
「楽しそうなところ悪いけど、授業中だぞ?」
「「……」」
煙を上げて、コンクリートの壁に突き刺さったチョークを見つめた俺たちは、前を向いて真面目に授業を聞き始めた。
すばるは、ワンピースにわかです




