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ミメーシス・エイドロン  作者: すばる
1章

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7/29

戦う恋愛脳

嫌な予感がしたので、一応『ラプラスの悪魔』で未来を確認しておいたが、特におかしなこともなかったので気にしないことにした。

それでも、心に残ったモヤモヤする感情が気になって仕方がなかったのでご飯を食べたあと、俺はさっさと寝てしまうことにした。

寝れば大抵のことは忘れられるからな。


「じゃ、もう寝るわ。おやすみ〜」

「はい、おやすみなさい」


返事を背中で受け止めながら、階段を登る。


「エル!お母さんも話くらいは聞けるからね」

「大丈夫だよ。なんとなく嫌な予感がするだけだから」


いつも変なところで察しのいい母さんを安心させるために返事をしてから部屋に戻る。

倒れ込むようにベッドに横になると、不可解なほどに心地いい眠気が襲ってきて抵抗する暇もなく眠ってしまった。





たおれた木々の隙間で、うさぎが時計を見ながら走っている。

白いばらを真っ赤に塗ったトランプの兵士は処刑されかけて、王様は女王に逆らえない。

帽子屋は茶会を開いて陽気に陰気な歌を歌っているし、猫は笑って顔だけ残して消えていった。

住人は皆、ずっと何かを探していて俺もその一人だった。

違和感だらけの世界に違和感を覚えることもせずに毎日同じ行動を繰り返す。

空に向かって水が落ちることも、火が冷たいことも、食べられたケーキが増えていくことも、この世界では違和感たり得ない。

いびつに歪んだ世界を変えるのはいつだって勇者アリスで人を変えるのは愚者アリスだった。

しかし、それが現れるのはいつだって突然で、変わる準備なんてさせてくれない。

例えば、そう、今回のように。

「………………………お兄さん?何で、ここにいるの」

俺をお兄さんと呼んだ水色のジャージで身を包んだ少女は眠たげな瞳を大きくしてこちらを見つめている。

俺は喋らない。

物語の登場人物で喋るのは、いつも主要なキャラクターだけだから。本来役割も持たない脇役には、たったの一言だったセリフは与えられない。

じぃっと見つめてくる少女は、諦めたように視線を外して歩き出す。

「………………………変なの」

くすくすと笑った少女に、俺はどこか既視感を覚える。初対面なはずなのに、なぜだろうか…

不満げな少女は脇役の足をゲシっと蹴って去っていく。

痛かったが、それを表現する術は存在しない

……痛い?蹴られて?

皆が夢を見ているあべこべのこの世界で、痛みなんてあるわけがない。

そんなものがあったら、目が覚めてしまうではないか。

空が眩んで、夢が終わるーー



朝起きると、めちゃくちゃ右足が痛かった。

寝ぼけてぶつけたかな……?

きちんと寝たはずなのに、体もなんかだるいし眠りが浅かったのだろうか?


リリィの弁当を用意している母さんに「おはよう」と声をかけてから、靴を履き替えてカサブランカとカスミの日傘を持って公園へ向かう。

早朝の公園にはまだ誰もおらず、虫の鳴き声だけが響いていた。

慣れた手つきで『大人のための絵本』を起動し、カサブランカとカスミを呼び出す。

遊びに行った二人を見……カスミがこけた。あ、カサブランカが助けた…良かったぁ


またすぐに転んだカスミは顔面から鉄棒に突っ込みそうになってカサブランカに抱き止められて救われている…昨日の帰り道はだいぶ不幸もなりを潜めていたと思ったんだが、今日はまたひどいな…

『万能の天才』を確認していると、見覚えのない才能が一つ増えていることに気がついた。


『不思議な国の客人』ーー3%


今日も特訓をする物だと思って待っていたが、10時を回ってもめるが姿を見せない。

誘拐された小学生ってメルじゃないだろうな…?

そう思って、めるに電話をかけようとスマホを開くとL◯NEの通知が来ていた。


『める:戦争が始まったから1ヶ月くらい連絡できないです。』

『める:もう一人でも特訓できると思うですから、練習を怠らないようにするですよ』


と言うことらしい。

戦争ってそんな突然起こるんだ…?

まぁいいや…仕方ないから一人で特訓しよう。


「どうせなら、貴族に負けないような特訓をしよう」


そう思って、特訓を始めようと思ったのだが…

特訓って何をしたらいいんだろうか?

とりあえず、筋トレ?

スマホを通して、色々調べた俺は、学校が始まるまでの1週間、貴族の圧力に負けないための訓練を行なった。

訓練の内容は、走り込み10km、素振り100本、腹筋腕立てスクワット背筋を200回ずつ3セット。これを『ラプラスの悪魔』を発動しながら行うことにした

まずはっきり言っておくと、死ぬほどきつかった。


初日なんて、10時に初めて終わったの次の日の深夜2時だったし。『ラプラスの悪魔』の連続発動による頭痛と両視界が違うものを映すことによる酔いで達成できたのが不思議なくらいだった…

深夜2時に、家に帰った俺は母さんに死ぬほど叱られた。筋肉痛でボロボロだったが、翌日もこなすとなんだか楽になった気がした。

3日目は終わるまでの時間が早くなり、4日目は休憩時間をしっかり取っても17時には終わった。

『ラプラスの悪魔』もほぼ常時発動できるようになってきたし、視界のずれによって起こる酔いには完全に慣れた。おそらく、発動したままでもSASUKEを問題なくクリアできるだろう。

5日目からはもう、夕方に初めても23時には終わるようになったので入学式も入学準備も普通に時間を取ることができた。


学校が始まる前日、俺はだいぶ筋肉がつき始めていた。

とはいえ、戦闘系の才能は持っていないので一般人の域を出ないだろうけど

そんなにゴツくはなりたくなかったので、この細マッチョ的な体型はありがたい。

そして、貴族対策に武力を求めた俺だったが特訓をするにつれて一つの結論に辿り着いた。

なんか強い感じの貴族の取り巻きになってやろう。

そうすれば、虎の威を借りながら狐として3年間過ごせるはずだ。

あと、これは準備期間に分かったことなのだが、『世界変形モトメルモノ』は、買い物のメモですら効果が働くことがわかったので、ノートさえとっていれば授業にはなんとかついていける気がしていた。



日付が変わり、電車を何度か乗り換えて東京へ向かい、豪華な家が立ち並ぶ貴族街を通り抜けて校門を潜った。

家から制服できたし、堂々と胸を張って歩いていたから平民だとはバレずにこれた……はずだ

春は恋の季節だというけれど、俺は恋をする気は微塵もない。

もし、貴族に恋人がいないのに取り巻きの俺に彼女がいたら絶対に関係が悪化するからな。

風に乗って運ばれてきたハート型の花びらを捕まえて、強く握って潰れたそれを落下させる。

地面に大量に散らばったハートを踏みつけながら、下駄箱に貼られたクラス表を見て、俺は目を剥く。


え、Aクラス?俺は平民だぞ?

なぜ動揺しているのかわかっていない人が多いだろうから説明すると、この学園のクラスはA〜Gまで、成績と家柄で決定されている。そして、学期ごとにクラス替えがあり、所属していたクラスはそのまま就職先や社会的信用につながるのだ。つまり、クラスは高ければ高いだけいいのだが…1年生の最初のクラスは家柄で決定されるはずだった。

つまり平民の俺がAクラスに抜擢されるはずがない……のだがなぜか俺の名前はAクラスの中に名前を連ねていた。

A教室に入って、座席表を確認してこそこそと自分の席に座る。


良さげな貴族を見極めるのは人がそろってからでいいだろう。

周りが口出しできなさそうなやつがいいな……偉そうで小物っぽいやつだと尚いい。

なぜか毎日少しずつ増えてこの間15%を超えた『不思議の国の客人』の進捗を確認していると、いきなり教室のドアが吹き飛ぶ。

ドアの近くで談笑していた数名の貴族令嬢が「きゃあ!」と叫んでから各々の才能で、ドアの破片から身を守った。


『ラプラスの悪魔』ですでに見ていた俺は驚きはしなかったが、未来では刻まれなかった才能の名前が『万能の天才』に刻まれた。

なぜ、今になって追加されたのだろうか?条件がよくわからない。才能を見ていた時間が短かったからだろうか?


『悲劇王』ーー3%

『初代ファラオ』ーー4%

『コペルニクス的展開』ーー2%


才能かっこよいな……!?多分上から、シェイクスピア、ナルメル、コペルニクスだろうな。あ、進捗が上がった。全問正解か

……ん?あそこ…なんか…?

うわぁ!才能のない子がある子に抱きしめられて守られてる!あ、あの子達付き合ってるのかな?絶望の学園初日だったが、素晴らしいものを見せてもらったぜ……(ニチャア)


おっと、まずいな、心の奥底に封印していた危ない性癖が顔だしてきやがった…

ん、?周りの席の貴族たちが心なしか席を離したような気がする…?

傷つくんだぞ!?そういうの!

夜の月のように、短く切り揃えたブロンドの髪の毛に電灯の光を反射しながら、ドアを破壊して入ってきた少女は教室を見渡して言った。


「うるさい。叫ばないで」


静かな、しかし確かな圧を含んだ少女の言葉に、教室は静まり返る

表情の起伏が乏しいその少女は、再び教室を見渡した後にボソリと呟いた。


「期待はずれ」


それが聞こえた数人の貴族が立ちあがり叫弾しようとするが、少女はどこからともなく取り出した木刀でそれを阻止する。

座り直させたれた貴族の少年は、顔を真っ青にして肩で息をしていた…

こいつの取り巻きになるのは無しだな。こいつだけは無し。3年間これの横暴に付き合わされて平穏を失う可能性が高い。

静かに、窓際の1番角の席に座っている俺に近づいてきた少女は、高い身長を生かして尊大に見下ろしながら威圧して言う。


「わたし、そこの席がいいんだけど」


彼女からは強大な、押し潰すような圧が発せられていた。

怖くはないが、譲る方が無難か?

……いや、これからすり寄る貴族(予定)にこう言うのから身を守る盾になれるアピールをするいい機会か。


「だけど、なんだよ?もし、それでお願いしてるつもりなら是非とも主語術語の使い方を小学校で学び直すことをおすすめするぜ?」


できるだけ、不遜に、この程度では負けないとアピールしながら言った。

周りの貴族達は俺に目向きもしなかった。かなしい

すると、たとえ平民でもAクラスにいる生徒を不敬と叩き切ることはできないらしく、「ふーん」と、彼女はつまらなさそうにいってから俺の隣の席の貴族を同じように脅迫して席を譲らせる。

脅迫された貴族は顔を真っ青にして、カバンを持って立ち上がり、どこかへ行ってしまった。

教室からも出て言ったが、転校でもするのだろうか…?


……というか、こいつそんなに怖いかな?

まぁ、木刀持ってるし怖いか。

一人で納得した俺の横で、貴族から強奪した席に座った彼女はこちらを向いて口を開く。


「ねぇ、きみ、名前は?」

「人の名前が聞きたいなら、自分から名乗るべきじゃないか?」

「んー…才能の力はあんまり感じないのに。なんでだろ?まぁ、いいや」


彼女は鉄壁のようだった無表情を崩し笑って言った。


「わたしは、ルナ・シェルブルーム。よろしくね、エルスくん」


俺の名前、なんで知ってんだよ……


「エルスくんさ、面白いね。ロボトミー手術とか受けてる?」

「受けてねぇわ。勝手に人をアンドロイドにジョブチェンジさせるな」

「ふーん、エルスくんて、今日暇?放課後ちょっと、付き合ってよ」


断りたかったが、有無も言わせてくれなかった。

そのまま、あくびをしたルナは机に突っ伏して寝始めた。

その後、教室に入ってきた担任の教師(俺でも名前を聞いたことがあるレベルの大物貴族だった)が声をかけたり揺さぶったりしたが、ルナはその日放課後まで一度も目を覚ますことはなかった。

こいつ…青春とか諦めてるのかな…?




ルナのことを早々に放棄した先生方の長々とした授業のレクリエーションを受け終わった放課後、俺はルナに連れられて訓練場に連れて来られた。


「ねぇ、ルナさん?俺は何をさせられるの?」

「来ればわかるよ。あと、呼び捨てでいい。そういうのめんどくさいから」


説明する気がないルナについていくと、その建物の全貌が目に入る。

中央には大きな舞台があり、その周りには取り囲むように座席が設置されている。

座席の下側を通って闘技場のような石造りの舞台に向かった俺たちは、雰囲気にそぐわない近代的な機械に出迎えられる。


「それに学生証をかざして。もらったでしょ?」


ルナが学生証をかざすと、ルナの服がジャージに変わり薄い膜のようなものが体にそうように発生する。

それに倣った俺が学生証をかざすと、同様の現象が俺の身にも起こった。


「え、何でジャージ…?」

「これに学生証をかざすと、設定した服装に勝手に変更されるんだって。このシールドが怪我しないように守ってくれるみたいだから、手加減無しでやれるね」


あ、その膜シールドなんだ

地面から生えていた機械が、ズブズブと地面に埋まっていく。

闘技場の壁に立てかけてあった木刀を2本持ってきたルナは、片方を俺の方に投げ渡す。


「え、待って、何するつもり?俺、戦えないんだけど?」

「大丈夫だよ。戦えない人は、あの時、わたしの脅しで席を譲てるから」


そう言って木刀を構えた彼女は、俺の必死の訴えを無視して刀を振り回す。

いくら特訓したとはいっても、1週間程度の付け焼き刃だ。勝負の役に立つほどのものじゃない。

『ラプラスの悪魔』で2秒ほど後の未来を見続けることでなんとか回避しているが、鋭く的確に急所を狙ってくる木刀がいつ当たってもおかしくない。

特訓していなかったら、3秒で酔ってその場にうずくまっていた。ありがとう特訓!ありがとう付け焼き刃!

こんなことを考えてる間にも、ルナは木刀を振り回している。


「いやっ、ほんとにっ、無理っだから!俺、戦えないからっやめっ!?」


あっぶねぇ!今掠った!絶対鼻削れた!カサブランカ呼ぶか…?


「まだ一太刀も当たってないのに何言ってるの?こんなに避けられたの、わたし初めてなんだけど」

「いや!それっ、才能だっ!から!ちょっとっ!待ってっ!」

「わたしも、才能まで使って、全部避けられるのは、初めてかな」


どことなく嬉しそうに、それでも機械的に淡々と振るわれる木刀を避けながら俺は、『万能の天才』で『大人のための絵本』を発動する隙を必死に探す。

技と技の切れ目、どうしても隙が発生するその技の接続部でなんとか『大人のための絵本』を発動する。

勢いよく振るわれた木刀が現れたカサブランカを捉えて、へし折れる。


「……え?」


折れた木刀を見ながら、呆然としていたルナがこちらに顔を向ける。


「え…?」


不思議そうに折れた刀の片割れを拾って持ってくるカサブランカを見てポカンと口を半開きにして固まっている。


「る、るなさーん、大丈夫ー?」

「な、何?あの子…?」


指を刺して、油を差し忘れたブリキ人形のような動きでこちらを向くルナ。


「俺の才能の…効果的な何か…?」

「なんできみまで疑問系なの…?」

「だって、俺も、結局カサブランカがなんなのかよくわかってないんだよ!あいつ最初真っ黒な流動体だったんだぞ!?」

「だってって…えぇ…?」


俺とルナから、ヤバいものを見る目を向けられたカサブランカは、全く気にせずに俺の影からカスミを引っ張り出していた


「ねぇ、エルスくん…君の影から女の子出てきたけど」

「あれも才能だ…世界一可愛いだろ」

「なんで親バカ発動してるの…?」

「親バカじゃない。創造主バカだ。」

「変わらないでしょ…というか、何個才能持ってるのさ、君」

「一個だよ…実質3…いや4個だけど」

「化け物なの?」

「多分違う」

「ちょっと自信ないじゃん」


ルナはくすりと笑ってから、カサブランカ達の方に顔を向けた。

日傘を差しながら、興味深そうに例の機械を観察している二人。

爆発…しないよな?流石に、多少の不幸じゃ爆発しないと信じて、意識を背けると、カスミが折れた木刀につまづいて転んだ…あぁ、やっぱり不幸はフルスロットルだ…

そんな二人を指差して、俺の方を向いて、俺に疑いの目を向けてくるルナ。


「本当に才能なの?女の子に影を塗りたくっただけって言われても信じられるくらい人間してるけど」

「多分……?」

「変なの…まぁ、いいや、ちなみにさ…その眼も才能なの?」

「ん?あぁ、忘れてた…」


発動しっぱなしになっていた『ラプラスの悪魔』を解除して右目に視力が戻る。

特訓の間ずっと発動してたから、つけたままなことに気が付かなかった。

完全掌握したと言っても過言ではない…メルみたいに幾つも並行して未来は見えないけど


「ねぇ、ちょっと、あのおっきい方の子と戦ってみたいんだけど」

「カサブランカとか?別にいいけど…木刀は大丈夫なのか?備品だろ?」

「うん、緋凰の生徒なら、備品を壊しても大丈夫だから。それに……もう、負けないと思う」

「そうか…カサブランカー!ちょっとこいつと戦ってくれるかー!?」


こっちを振り向いたカサブランカがぐっとサムズアップしてくる。

懐かしい…あったなぁそんなスタンプ。

カスミを回収して、周りの観戦席の方へ移動する。

そこは天井があったので、日傘を外すことができた。

目下の舞台に目を向けると、シールドの代わりに紙風船を頭と左胸につけたカサブランカとルナが見合っている。

カァン!と合図がなって、カサブランカが一気に距離を詰める。そのまま、ルナの腹部に拳を向ける。

振るわれた拳が、木刀にあたってーー跳ね上がった


その隙に、ルナが木刀を振るうが、それが到達する前にカサブランカは長い足でルナを蹴飛ばして距離を取った。

え、なに今の…?一発でシールドにヒビ入ったけど?

ギリギリ、ルナのシールドは割れずに、勝負は続行される。

ルナは狙いやすい胸の風船を狙うが、カサブランカも木刀を叩きおとしたりしながら対処している。

攻防が激しくなって、ルナの木刀が大きく弾かれ、カサブランカが攻勢に回る。

長い足が、ルナ向かって勢いよく振るわれ、ルナを守っているシールドにぶつかり割れーーパァン!ーーる

同時に、体を捻ったルナの木刀が紙風船を叩き割り、勝負の結果は引き分けに終わった。

ルナは息絶え絶えの様子だったが、カサブランカは余裕そうだった。

ほんとにどうなってんだあいつ、化け物か?

観客席を見渡して、俺たちを見つけたルナは、「負けなかったでしょ」とピースサインを向けてきた。



この勝負の、相打ちという結果にカサブランカは特に何も感じていないようで、彼女はいつも通りだった。

あ、いや気にしてるな、あれ。握った手がめっちゃぷるぷるしてる。

握りすぎて、普通の人間だったら血が出てそうなくらい握ってるし。あ、壁殴ろうとしてる!?

この施設めっっちゃ高そうだし、破壊とかされたらヤバいぞ!?絶対破産するっ!?最速で止めるには……


「いけ!カスミ、君に決めた!」


背中を押すとカスミは日傘を差しててててーっと走って行く。

そのままの勢いで抱きつかれたカサブランカは拳を収める。

……よし、これで破壊神は封印されたな。


「どう?負けなかったでしょ?」


表情を変えずに、飄々とした雰囲気のままこちらに歩いてくるルナ。


「だな」


短く返事をすると、彼女は興味深そうに目を細めながら俺の体を見渡す…


「ねぇ、エルスくん。君、やっぱり戦えるでしょ」

「どこをどうみてその結論に至ったんだ?戦えねぇよ」

「うそ。だって、君、鍛えてるでしょ?結構筋肉あるし。それにどんな才能でも本質的な肉体までは変質しない。変形型の才能は全て、後付けで体の周りに飾り《オーナメント》をつけているだけ。そして、君はそんなに大掛かりな変形はしていなかった。つまり君がわたしの刀を避けたのは君の実力。違う?」

「違うが……?」

「まだ惚けるんだ?わたしとしては、さっさと認めてもらって、再戦を申し込みたいところなんだけど」

「あーごめん、俺これからお腹痛くなる予定あるんだわ」


俺がお腹を抱えながら逃げようとすると、背後でルナが口を開いた。


「『英霊の素質』全ての武器を完璧に扱うことができる才能。完璧とは言っても、使っている時間と指導者によってその技術は向上する。これでどう?」

「どうって?」

「あれ、足りなかった?文化圏による武器の制限はなくて戦意が途切れるまではどれだけ体がボロボロでも動けたりするかな…どう?真似コピーできそう?」

「なんで、俺の才能を、知ってる?」

「さっき、右目を見た時に。その才能は昔、一回見たことがあったから。

質問には答えたよ。今度はそっちの番」

「…………」

「わたしの才能は、真似コピーできた?」


黙った俺に繰り返した彼女は、目を閉じて持っていた木刀をクルクルと回しながら再び口を開く。


「わたし、強いんだよね」

「あぁ、さっき見たから知ってる」


というか、カサブランカに刀を当てられる時点で弱いわけがない。

俺なら、刀を振る隙すら与えられずに地に沈むだろう。というか、実際そうなりかけていたし。

なんともないような顔で、彼女は続ける。


「でもさ、わたし木刀でなら才能が発現する前から同じくらいできたんだよね」

「はぁ?」

『どんな才能でも、肉体までは変質しない』

この言葉が示すのは、彼女の肉体は才能発現前と変わっていないことで、もし剣筋も才能に頼ったものでないと言うのならば、才能なしにあんな芸当もできるのかもしれない。

「道場でも、元々敵はいなかったし、数人がかりでやっと勝負になり始める程度だった」

「まぁ、だろうな。お前みたいなのが大量に打ち合ってたら腰抜かすわ」


ちゃかしたら、木刀が飛んできた。大袈裟に体をそらして、回避する。


……いつ投げたか見えなかったんですけど?


何事もなかったかのように、彼女は話を続ける


「才能が発現してからは、何人がかりでも、勝負にならなかった。」

「あ?刀での強さは変わらなかったんじゃないのか?」

「わたしには、集団戦の才能がなかった。でも、わたしの才能は、集団戦をするための才能だったから」


一対一ではまずまずの技量の差で相手にならず、一対多でも才能によって一対一と変わらない実力で叩きのめせてしまうから結局勝負にならなくなってしまったと……


「わたしは、戦うのが好き。そして、強い人が好き」


嫌な予感がする。

なんか、これ以上聞いたら今後これに付き纏われる気がする!

踵を返して、二人を呼びながら帰る準備を始める


「カサブランカー!カスミー!かえrーー」

「まって」


俺の言葉を遮って彼女は、俺の腕を掴む。

力、強くない?全然振り解けないんだけど

豊満な体を、腕に押し付けながら、上目遣いで彼女は言った。


「わたし、君のことなら好きになれそう」


ルナが、じっと、期待を込めた目でこちらを見ている。

無言で、俺は『万能の天才』を呼び出す。


『英霊の素質』ーー59% UNROCK!


確かに項目は増えてるし、もう使える状態だ。

この進捗の増え方……本当に自分の才能の情報をほとんど全部明かしやがったな?

1つ2つくらいは隠してるかもしれないが、流石にわからねぇな。


「何が目的だ?」

「さっき言ったでしょ?」


腕を解放した彼女は、拾い上げた木刀を俺に突きつけて言った


――春は、恋の季節だ。


「わたしと戦って。わたし、恋がしてみたいの」


そして、戦いの季節でもあるのかもしれない

読み返すと、しいなちゃんとルナちゃん喋り方似すぎ……?まだ7話なんですが……?

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