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ミメーシス・エイドロン-α-  作者: 名無し
3章

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52/53

ばちこん!

下手くそなウィンクをしたまま、姿勢をただした彼女は裾を直しながら距離をとる。


「ありゃ?ボクの渾身のウィンクは不発?練習してたんだけどにゃあ?」


練習してあれなら、多分才能がないのだろう。

何がおかしかったのか、彼女はカラカラと、微塵も表情を動かさずに笑った。


「そんにゃに警戒しなくていいのに〜さっきも行ったけど、ボクはキミたちに危害を加える気はないよ?」

「……信用できないですよ」

「えぇ〜?ボクがその気なら、昨日の夜にはもう終わらせれてるんだよぉ?」


くるくると、指に乗せた蝶を回しながら、彼女は続ける


「パネルをみてみたらいいんじゃないかにゃあ?流石に出てるはずだしぃ」


言われて、パネルを出す。

これまで、見てきた才能の一番下。一番新しくに追加されたそれの名はーー


「ーー胡蝶の、夢」

「おぉ〜せいかいだぁ。聞いてたけどやっぱりずるいよネ?一回見せたら、名前バレするなんてさぁ?」


彼女は、初めて少しだけ眉を顰めて見せた。

いつだ…?いつ見せられた?

いや、おかしいことはたくさんあった…空に立っていたのも、水龍の首を一手で切り落としたのも、突然現れたのも。全て才能の効果だと言われれば十分納得のいくものだが


「一貫性がない、でしょ?ま、当然だよネ」

「あ?」


心を読んだかのように、俺の思考にセリフを挟み込んできた彼女は驚く俺を無視して続ける。


「だって、全部、ボクの才能じゃないもん」

「それはどういうーー」

「今日、妹ちゃんちょっと変だったんじゃなぁい?」


彼女は俺に質問もさせず、唐突に話題を変える。

妹って、リリィだよな?

確かに、いつも以上に変だったような気がする…?


「それに、こんな怪しい女が出てきて、一方的に話してるのに逃げようともしないでしょ?」

「……リリィに、何をしたんですか」

「安心しなよ。夢を見ているだけさ。ま、覚めるかは僕の気分次第だけどネ」


胡蝶の夢とは、かつて唐で荘子が唱えた論語の一つだ。

その内容は、異常なまでにリアルな自らが蝶になる夢を見てこれまでの人生は蝶がみた夢だったのでは無いかと勘違いしそうになる。みたいな感じだったはずだ。

そして、彼女の言葉を組み合わせると…


「夢…いや、幻覚を見せる才能?」

「うんにゃ?ボクの才能は、対象の認識を歪ませること。ま、もうちょっとできることはあるけど」

「リリィに、何をしたんですか?」

「普段通りにしてもらってたのさ。ま、普段通りじゃ無いことは脳内で勝手に補完されちゃって変なことになるんだけどネ。さっき水龍が見えてなかったのとかさ」


彼女は、指から飛び立った蝶を目で追いながらいった。

確かに、それなら今日の朝リリィが俺を見て不思議そうな顔をしたのも、ちょっと違和感があったのも納得がいく。

ただ、それが真だとするならーー


「じゃあ、さっき水龍の首を落としたのは…なんなんですか?」

「うーん、ナイショ♡きみがお姉さんともっと仲良くなったら教えてあげよう」


バチこん!とウィンクを決めた。

この数分の間に何があったのか、先ほどよりだいぶ下手くそになっていた。

ほぼ目を見開いているだけだ。

あ、さっきつられて右目もつぶってたから意識してるのか…!


「ま、そんなのはどうでもいいんだ。問題は、少年がお願いを聞いてくれるのかどうか、それだけ」

「…内容によりますけど、聞くだけなら」

「わぁ、よかった。話すら聞いてもらえなかったら、妹ちゃんを人質にせざるを得ないところだったよ」


もう、されているようなものだが。よほど無理な内容でもない限り、受けざるを得ない状況だよ、もう。

パンと手を合わせて、彼女は懐から紙を取り出した。

彼女はそれを、濡れないようにクリアファイルに挟んでから俺に渡した。


「キミに助けて欲しいんだよ。お家の呪いに縛られた、可哀想なお嬢をね」


蝶が空に姿を消して、俺は神妙な面持ちで彼女から受け取ったクリアファイルを覗き込む。

そして、俺はそれを見てすぐに天を仰いだ…

ファイルが曇ってて…何も見えねぇ…

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