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ミメーシス・エイドロン-α-  作者: 名無し
3章

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ウォータースライダー

プールについて、水着に着替えた俺は無駄に広くて種類のあるプールを眺めていた。

かれこれ俺が着替え終わってから20分ほど待っているが、やはり女子という生き物は支度に時間がかかるのかリリィはまだ出てきていなかった。


「うーん、先に入っちまおうかな?」


そんなことを思いながら、プールに視線を向ける。

水面に太陽の光が反射してキラキラと輝いており、ウォータースライダーからは「イィヤァァァ!!タスケテェぇぇ!!!」と悲鳴交じりの歓声が絶えず聞こえている。

いや、明らかに事件性のある悲鳴だったな今の!?

俺は絶対にウォータースライダーには乗らないと心に誓った。


「お兄ちゃんお待たせ〜!!」


背後から、そんな声が聞こえて振り返りーー


「ゴフゥ!?」


ーー件の紐を身につけたリリィを見て、盛大にむせた。


「だ、大丈夫お兄ちゃん!?」

「り、リリィ…いつの間にそんなの買ったんだ…」

「え?昨日一緒に買ったじゃんか」

「あれ?ほんとだ」


そう言われて、もう一度視線を向けると水色のワンピースタイプの水着を身につけたリリィが立っていた。

どうやら、見間違いだったようである。

変な見間違いをしたものだが…ま、別にどうでもいいか


「よし!とりあえずスライダーに乗ろうお兄ちゃん!」

「え、」


あの事件性がありそうなウォータースライダーに乗るの?


「別のにしないか?なんか、やばそうだし」

「えぇ?あれに乗らないと始まらないって心霊スポット専門家のみゆちゃんも言ってたよ?」

「心霊スポットって言っちゃってるじゃん!?俺は絶対にいやだぞ!?」


絶対にいやだ。なんかやばいことに巻き込まれそうだからな。死んでもいやだ…いや、そんなに目をうるうるさせてもダメだぞ?

お兄ちゃん的に妹に危ないことをさせるのはNGなのだ


「お兄ちゃん…お・ね・が・い♡」


だ、だめだぞ?


「危なくってもぉ、お兄ちゃんが守ってくれるんでしょぉ?」


そ、そうだけど…俺が守りきれない可能性もなきにしもあらずというか…


「お兄ちゃんのかっこいいところぉリリィ見てみたいなぁ」

「し、仕方ないなぁ!今回だけだぞ!」


いつの間にか階段の目の前まで誘導されていた俺は、リリィと一緒にスライダーの階段を登り始めた。

……一段のぼるたびに階段が軋む!?全然錆びてる感じもしないのにギィギィ言ってる!てか一人も並んでないんだけど!?さっきまで断続的に響いてた叫び声はなんだったの!?

てっぺんまで登ると、歪んだ鉄柵に周囲が囲まれていた。なぜかここだけ錆びている。多分、水飛沫が飛ぶからだろう。そうに違いない。


「わぁ、全然混んでなかったね!いつも結構混んでるってみゆちゃん言ってたのに」

「多分、みゆちゃんは見えちゃいけないものが見えちゃってるんじゃないかな?」

「何それ?」


まあ、わかんないなら…それでいいよ…多分その方が幸せだからな

チラリと下を見下ろすと、太陽はさんさんと輝いているのに薄暗く影が落ちていた。

薄幸そうなインストラクターの人の指示に従って、スライダー用のボートに乗り込む


「わぁ、すっごい高いね」

「あぁ、なんかすっごいいやな予感がする」


言うと同時に、世界が垂直に傾いた。


「すごぉい!早いねお兄ちゃん!!」

「お、おかしい!絶対におかしい!ボートに乗って垂直落下はどう考えてもおかしい!!」


俺が鍛えていなければすぐにボートから振り落とされて地面のシミ…いやプールの藻屑になっていただろう。

ぐんぐんと、スピードをあげていたボートは、飛沫をあげながら水面に落下してコースを走り出した。


「こ、ここからは普通っぽい…よかっ…なぁァァい!!!」

「わぁ!飛んだ!!!」

「り、リリィ!お兄ちゃんから手を離すなよ!?」

「うん!」


コースの急カーブで、ボートが外に飛んだ…なんとか下のコースに着水したが、普通の人だったらこのままお星様になっていたんじゃないか…?

俺とリリィは、その後も命の危険がありそうなコースを潜り抜けて、なんとか下のプールに着水した。


「楽しかったね!またやろ!」

「ごめん…お兄ちゃんもう無理かも…流れるプールとかいこう?な?」

「えぇ…まあいっか!じゃあ流れるプール行くよ!お兄ちゃん!」


流れるプールはめちゃくちゃ混んでいたので、海のような波が出るプールや時々爆発…のようなものが起こるプールなどで遊んだ。

そして、そろそろ帰ろうかと言う頃ーー


「きゃあああああ!!」


ーー誰かの叫び声と共に、水面が大きく波立った。

胸ほどまでしかなかったはずのプールから、巨大な龍が、首を持ち上げる。


「な、なんでこんなところに魔法生物が!?と、とりあえず逃げろ!!」


誰かが叫んだのを皮切りに、付近にいた人々が走り出した。

確か、青嵐星(セイランセイ)に生息している水龍だったか?確か危険魔法生物に指定されているから、地球への持ち込みは成長度合いに関わらず禁止されているはず……

っていや、そんなことは今どうでもいいな!

刀があれば、どうにでもなりそうだが…ないから無理だな!よし!


「リリィ!逃げるぞ!」


言うと、リリィは不思議そうな顔をしてからーー


「せっかく空いたんだから、行こうよ」


ーー流れるプールを指差して言った。


「は?」



うちの妹は頭がおかしくなったのだろうか?

行きたがっているプールは他の人がいなくなった代わりにだいぶ危険な魔法生物が堂々と占拠しているのがわからないのだろうか?


「何言ってんだ!?」


無理矢理に引っ張るとリリィが不満そうな顔をする。


「別にいいじゃん、もうちょっとくらい遊んでも?」


頬をぷくぅと膨らませたリリィが非難するような視線を向けてくる。

どうしよう、うちの妹の頭が、おかしくなってしまった。それもとんでもないレベルで。

父さんのせいだろうか?

とりあえず、家族会議の議題が増えたな…


「あちゃぁこりゃあ予想外だったにゃあ。ま、念のためついてきてたのが無駄にならなくてよかったってことだよネ」


後方で、血飛沫が舞って、その後少し遅れて弾けた水飛沫がそれを洗い流した。

振り向くと、先ほどまで自慢げに口から水を吐き出していた水流の体が水に浮かべられている。胴体から切り離された頭はだらしなく舌を出したまま放られている。

しかし、そんなものに注目している暇はなかった。

そんなものよりも圧倒的な存在感を孕んだ何かが、こちらを見ている。

固まっている俺を放置して、それの体が砂のようになって風に溶けていく。

その粉が、茜に染まった空に溶けきると、空にーー


「ありゃ、驚いちゃったかにゃ?」


ーー逆さまの空に、悪夢が、立っていた。

枝にとまって羽を休める蝶のように堂々と、凛として立っている。

青紫の蝶が散りばめられた彼女の着物は、揺れるたびに粉を撒き散らしてキラキラと輝いて、重力に逆らった青い髪が、ゆらゆらと揺れる。


「なんだ…お前?」


咄嗟にリリィを庇いながら問う。

明らかに異質で、異常な逆さまの女は扇で口元を隠しながら首を傾げている。

勝てない。現れた瞬間にそれを悟って体が、才能が警鐘を鳴らした。

パネルは出さずに、『ラプラスの悪魔』を発動する。


「ありゃりゃ?警戒させちゃったかにゃ?ピンチを救ってからフレンドリーに言ったつもりだったんだけど、人生ってうまくいかないものだよネ☆」


顔に似合わずキャピキャピした喋り方をする女は、首を傾げながら言った。

バチバチと、視界を奪いながら発動した『ラプラスの悪魔』はバグったように明暗するのみ。

こんなこんなこと今までなかっただろ!?『不思議の国』ですら発動はしてたのに!?

女は、逆さまのままで口を開く。


「少年的には、どうするのがよかったと思う?アドバイスちょうだいよ。今後に活かすからサ」

「……とりあえず、水着できたらよかったんじゃないですか?ここ、プールですよ」


ヴォルさんと同等…もしくは、それ以上(まあ、どちらにせよ勝ち目を見出せないことが伝わればいい)のオーラをまとった女は、着物の柄と同じ蝶を指に留めて目を細めた。


「確かにそれがよかったかも。ま、いいよネ!やることは変わんないし」


じりと、距離が縮んで視界が暗転する。

気づけば、女が目の前に立っていた。


「ばあ」


眼前に現れた威圧感に気圧されて、飛び退ることもできずに、腰に手をやる。

刀がない。反射的に柄を握ろうとした手は、空を切って前後にぷらぷらと揺れるに止まった。

顔の両端に手を添えて、いないいないばあのポーズで固まっていた彼女は、すぐに俺から離れて喋り出した。


「大丈夫だよぉ、ボクは君たちに危害を加えようなんて思っていないよ。ただ、お願いが聞いて欲しいだけ」

「お願い、ですか?」

「そうそう、お願い。とっても単純で簡単な、ネ」


相も変わらず無表情な彼女は、下手くそなウィンクをしながらそう言った。

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