ピタゴラス式不運
カラオケから出る際、うろんな客が消えたくないと暴れて机が壊れた。
……忘れてたけどこいつ、実は馬鹿力なんだよな。
鳴り響いた轟音に駆けつけてきたアルバイトの女性に土下座したら、弁償と系列店の出禁だけで済ませてくれた。
前科がつかなくてよかったぜ……
「なぁ、家に帰るまでには才能解除するからな?」
驚くような感情と肩を落とすスタンプが脳内に送りつけられるが、流石に家に連れて帰るわけにも捨て犬よろしく段ボールに入れて道端にポイ捨てするわけにもいかないから我慢してもらおう。(スタンプ爆撃は全力でやめさせた)
ちなみに、途中からわざわざ才能を通して意思を送るのが面倒になったので、今は声に出して問いかけている。
うろんな客からのレスポンスは未だ全て才能を通した感情とスタンプだけで、まともな言葉は交わせていないが。
体力作りも兼ねて、電車を使わずに走って家に帰っている俺とその後ろを走るうろんな客。時々後ろからコンクリにヒビが入る音がするが、無視を決め込んでいると家が近くなってきた。
「じゃ、また明日の朝呼ぶから待ってろ」
話を聞く程度の分別はあるのか、うろんな客からの妨害もなく『大人のための絵本』のバッチをスロットから外す。
溶けるように影と同化してうろんな客が消える……
え、何あの消え方……こわぁ
家に帰った俺は、部屋に潜んでいたリリィをW除菌のファブリーズで撃退してベッドに倒れ込み、泥のように眠った。
翌朝、リリィ(翼の生えた無菌状態)は自分の巣に帰ったのか、俺の部屋にはいなかった。
起きてきたリリィ(無臭&無菌)に絡まれないうちに家を出ようと、さっさと着替えて、鞄を持って近くの公園へ向かう。
そこで、うろんな客を呼び出すと同時に『大人のための絵本』の枷が一つ外れるのを感じる。
俺の影が少女の形に歪み、場の空気が重苦しく歪む。
すると、犬の散歩をしていた女の人のカバンからおもちゃのボールが転げ落ちた。コロコロと転がったそれは、通勤途中の男性の足元で止まり画面をスクロールするのに夢中だった男性は見事にすっ転んだ。それに驚いた犬が勢いよく走り出し、突然のことに反応しきれなかった女の人が勢いよく転けて引きずられた。
…不幸のピタ◯ラスイッチかな?
絶対、これ『不幸な子供』が解放されたせいで起こったよな?
今はしょうもない連鎖事故だが、このままエスカレートすると人が死んでもおかしくない。
うろんな客には悪いが、事が大きくなる前に一旦才能を外そうと思い『万能の天才』のプレートを呼び出ーー
ーー目の前を犬が走り抜けて、予想外の事態に驚いて指先がブレる。
ブレた先で、指先が当たってスロットへ移動した『ラプラスの悪魔』が強制的に発動される
刹那、緋色が弾けて右目の視力が奪われ、未来を指定せずに起動された才能は確定せずに歪んで廻る全ての未来を見せつける。キャパシティを超えた情報量に脳が焼き切れ、俺はうずくまる。
なんとか、顔を上げて『ラプラスの悪魔』を外して深呼吸をする。紙とペンを取り出して『世界変形』の効果を発動させてさっさと脳内をクリーンな状態に戻す。
肩で息をしながら『大人のための絵本』をスロットから外して周りを見渡す。
落ち着いた俺が目線を上げた先には、『ラプラスの悪魔』を恐れたのかうろんな客が凄まじい勢いで離れていった跡が残っていた。陥没した地面は、道中に広がっていて、それに足を取られたお爺さんが転び、それを助けようと近づいたおばさんも別のヒビに足を取られて、転ぶ。その足に引っかかった石が勢いよく木にぶつかって、衝撃で折れた枝がその下にいた俺の頭にぶつかった…痛い
頭を抱えながら俺は空を見上げる…
終わらないんだが?才能を外してるのに事故が連鎖し続ける…
終わらない不幸の連鎖を見ながら、死んだ目で現実から逃避していると、陥没した地面を避けながら、めるがちょこちょこと走ってくる。
いくつも不幸の起点になりそうなものがあったにも関わらず、その全てを避けている。
「エルスくん、なんです?この有り様は」
「えっと、うろんな客を出したら、『不幸な子供』が勝手に発動して……なんや勘やあって気づいたらこうなってました」
「なんやかんやって……まぁ、地面は勝手に治るからいいですけど…不幸ってここまでですか…ぱっと見局所的な自然災害って言っても過言じゃないですよ、これ」
「あ、それはうろんな客が悪い。全面的にあいつを責めてくれ」
「でも、エルスくんの才能ですよね?」
「……」
何も言えなくなった俺を見ながら、めるは呆れたように周りを見渡す。
「これは…早急に制御しないと不味そうですね…」
深刻そうにめるが言ってくる…
ふぅ、うろんな客はいつの間にか仲間になってたし、今回のも気づいたら制御できてたりしないかな…?(現実逃避)
「気づいてたら制御できたりしないかなみたいな顔すんなです」
何も言ってないじゃん…!!(涙目)
「顔に書いてあったです」
何も言ってないじゃん…!!(号泣)
「とりあえず、未来を見ながら1番マシになるように調整するですからもう一回発動してもらっていいですか?」
言われて、発動すると、近くで布団を叩いていた叔母様の手から勢いよく布団叩きが射出され、向かいの家の窓にぶつかり驚いた猫が飛び上がってその家の中からガラスが割れる音が響いてくる。男性がそれを袋に入れて外に出して、男性が家に戻った途端、置かれたゴミに鳥が群がりガラスを取り出す。ガラスを加えた鳥が飛び立っていく。
終わりかと思って油断した俺の上で、そのうちの1匹が大きめの尖ったガラスを取りこぼす。重力に従って落ちてくるガラス片は飛び退いた俺が先ほどまでいた場所に突き刺さり、冷や汗を垂れ流して『大人のための絵本』を外した俺は戦慄する。
持ち主への殺意が高すぎやしないか……!?不意打ちの『ラプラスの悪魔』とか、ガラス片とか、枝以外死んでてもおかしくないぞ!?
ちなみに、うろんな客はめるの『ラプラスの悪魔』にビビってちっちゃくなっているので、今回のピ◯タゴラスイッチには参加していない。
これを見て、ここでの訓練を諦めたらしいめるが、少し離れてどこかに電話する。
相手と二言ほど会話した後、めるはこちらを振り返って俺に立つように促した。
「エルスくん、ここで特訓はできないですから研究所に頼んだら場所を借りれたです。何もない半径2kmの円がすっぽり入り切っちゃうくらいの体育館ですから、起こせる不幸も限られるですから。頑張ってくださいです」
「さっすがめるさん!頼りになる!めるさんのいいとこ見てみたい!それ!イッキ(拍手)イッキ(拍手)いっグボァ!?(白目)」
「ふざけてないでさっさとついてくるですよ(追い討ち)」
「なんで殴ったの?」
めるはこちらを一瞥もせずに歩き始める。
「ねぇ、なんで殴ったの?無視しないで?ねぇ」
「ついてくるです(脅迫)」
笑顔のめるが、黄金の左手を温め始めたので黙ってついていく。
「それにしても、エルスくんは毎日才能で事故を起こさないと気が済まないですか?」
「いやいやいや!今回のはともかく昨日と一昨日は事故ってない!……多分(不安)」
「机破壊、妹襲撃(断言)」
「ごめんなさい(敗北宣言)」
3秒で論破された俺はトボトボとめるの後をついていき、数分でメチャクチャでかい体育館に到着する。
万が一がないように、端から端まで5km近くあるらしいこの体育館に入る。
中を移動するようの電動キックボードに乗った俺は風になって、止まり方が分からず壁に激突した。
冷静になった俺は人のいない体育館の中央で、『大人のための絵本』を発動し、同時に『うろんな客』と『不幸な子供』が発動される。
俺の影が風船を持った少女の形に変形して、召喚されたうろんな客がいつの間にか横倒しになっていたキックボードを踏みつけて破壊する。飛び散った破片は俺の眼前を掠めながら飛び散って、全て地面に突き刺さる。
うろんな客にあまり動かないよう厳命するとキックボードのエンジンだった部分が不穏な音を立てて震え出した。
嫌な予感がした俺とうろんな客は顔を見合わせてから、勢いよく飛び退いて離れようとするーーが、何かに引っかかってつんのめった俺は震えるエンジンを目と鼻の先に捉える。
爆風を顔面で受け止めながら、咄嗟に俺の襟を引っ張って窮地を救ってくれたうろんな客に感謝する。
ビリビリになった裾の片割れは、いつの間にかキックボードで地面に縫い付けられており、俺への殺意が透けて見えていた。
ヤッベェ、危うく死ぬところだったぜ…さっさと解呪してこのだだっ広い体育館でうろんな客と鬼ごっこして遊ぼう(願望)
あたりに何もなくなり、不幸の原因が一つもなくなる。
すると、できることがなくなって消費が供給に追いついかなくなったのかどんよりとした空気が濃くなっていく。
何が起こるのか警戒していると、少女を形どった俺の影が立ち上がった。
立ち上がった影が持っている風船を振ると、本来大した質量を持たないはずのそれはブォンと音を鳴らして目の前を通り過ぎる。
「おいおいおい!聞いてねぇぞ!影が襲ってくるなんてよぉ!」
飛び退いて、ニヤニヤと笑いながら俺はいった。
いつの間にか少女の死角に潜り込んでいたうろんな客が長い足を振って影をを蹴り飛ばーーせない。影は、風船を叩きつけて作った地面の窪みに足を引っ掛けて踏ん張っている。
俺が戦えないことを知っているうろんな客は、俺に影を近づけないようにしながら少女をいなしていく。
同じ才能から生まれたもの同士、実力は拮抗しているのか一進一退の攻防が続く。
うろんな客も影も、殴り合ってボロボロなのか時折、体がぐにゃぐにゃと歪んでいる。
突然、影が転けて、地面にうずくまったそれを、うろんな客が蹴り飛ばす。
吹き飛んだ影が地面を転がると、同様に地面を擦李つけられた影の風船がキックボードの破片に引っかかってばんっと弾ける。
……あ、結構普通に割れるんだ。
そんなことを思っていると、影が起き上がって浮力を失った紐に不思議そうに首を傾げる。紐をたぐって先に風船がついていないことを確認した影は肩を揺らして紐を見つめていた。
俺たちが近づいても反応がなくなり耳を澄ませると、影からグスグスと鼻を啜るような音が聞こえてくる。
「え、泣いちゃった!?」
うろんな客と目を見合わせてからしゃがみ込んでしまった少女の影に近づくが、こちらを一瞥もしないで泣き続けている。
うろんな客はオロオロしており役に立ちそうもない。いや、俺も泣いてる少女に攻撃したりはしないよ。
いくら近づいても攻撃してくる様子がないので、そばでしゃがんで尋ねる。
「風船が欲しくて泣いてるのか?それとも、あっちのお姉さんに蹴られて泣いてるのか?」
ギョッと目を向いたうろんな客がこちらを見てくる。そんな顔すんなよ、ウィットに富んだジョークじゃねぇか……ちょっと待って、ぐーはだめ。お前のぐーは洒落にならないから……アッ(絶命)
危ない、三途の川を50m自由型で渡りきって帰ってきてしまった…死んだおばあちゃんがお菓子とお茶を片手にこっちにおいでって言ってた……
「おばあちゃんが俺を殺そうとしている!?」
声に反応したのかこちらを向いている少女は、大声を出した俺に驚いたのか肩を振るわせる。
しかし、視線(というか顔全体)は何かを探すようにゆらゆらと揺れており、少し待ってみてもまっすぐに俺を捕えない。
「風船が欲しいのか?そうなら首を縦に、違うなら首を横に振ってくれ。もし、恋愛相談に乗って欲しいなら残念だが俺の手には負えないので110番のダイヤルにかけ直してくれるとありがたい。」
今度はこちらから目を合わせて問いかけると、今度こそはっきりとこちらを捕えた少女は、ゆっくりと首肯した。
おそらく、目がよく見えていないのだろう。
原作の『不幸な子供』で最後まで救われなかった少女は、ほとんど視力を失ったせいで父の車に轢かれて父の手の中で命を落とす。
あの物語の通りだとしたら、おそらく俺の気が狂ったら逃げ出すんだろうな……いや突然、俺の気が狂う場面ってなんだ!?書店で『ドグラ・マグラ』を立ち読みするとかか?
少女の腋の下に手を入れて立ち上がらせてから、風船を買いに行くために体育館の出口を目指す。
「あ、そうだ。周りに与える不幸って抑制できるのか?できるなら、できるだけ不幸が広がらないようにして欲しいんだけど」
できるだけ笑顔を心がけていうと、少女は控えめに頷いてから俺の服の袖をそっと掴んだ。
……かわいいな。持ち帰りで
歩き出した俺の後ろをちょこちょことついてきた少女は、真っ直ぐキックボードの破片に向けて素足を下す。
慌てて止めると、足を引っ込める。
ーー嫌な予感がして、その予感の原因を突き止めようと視線を向けた俺は、勢いよく二度見した。
そこには、綺麗に直立して先を尖らせた破片が突き刺さっている。よく見ると、少女の踏み出せる先につくづく破片が突き刺さっているのが確認できた……嘘だろ!?破片で包囲網が敷かれてやがる…!
何、前世でキックボードの親でも殺したの?ってくらい狙い撃ちにされてる…だって、俺とうろんな客の前には一本も刺さってないし…
嫌がる少女を無理やり抱き上げて(酷く犯罪臭がするが双方のかけらも邪心を伴わないので許して欲しい)破片地獄から救出する。
安心した俺は、さっさとこの危険地帯から抜け出そうと走って出口を目指す。影で作られた少女の体は重さがなく、いつの間にか消えてしまいそうな儚さを醸し出していた。
外に出ると、真っ白な太陽の光が目を焼いて……少女が消滅しかけていた。
え!?消えてしまいそうとは言ったけど!ほんとにイレイザーするのは望んでないよっ!
「消えるな!生き残れ其方は美しい!うろんな客!うろんな客!影!日影になってやって!」
急いで頬を手で押さえている少女を体育館の中の陰に避難させた。
美しいって言われてちょっと照れてるんじゃねぇよ……
影の中なら存在できることを確認した俺は近くの雑貨屋でちょっとおしゃれな日傘(3500円)を購入して少女に持たせる。
開いていないそれを不思議そうに眺めている少女からそれを借り受けて、パッと開いてもう一度持たせる。
受け取った日傘をクルクルと回して、外に出てから太陽にかざした少女は片足をあげてくるりと回ってこちらを向いて……日傘の影から外に出た右足が消滅しかける
「おぉい!!足をしまえ!消えるぞ!?」
言われた通りに足を影の中に戻して、少女は体育館の中に戻ってくる。消えかけることすら楽しんでいるような少女の頭を撫でてやる。
すると、ぐいっと腕を引かれた。そちらを向くとうろんな客が両手をお椀のようにしてこちらに向けている。
「何もないぞ…?」
「……」
「お前には必要ないだろ…?高いんだぞ…?」
「……(殴打)」
「待って!お前の拳は本当に殺傷能力があるんだって!?あと初めてのセリフがそれでいいのか!?本当に!」
「……(乱打)」
「わかった!買ってくる!買ってくるから待ってろ!」
ブンブンと腕を振り回して攻撃するうろんな客に脅迫された俺は雑貨屋で柄違いの日傘(3500円)を買ってきて手渡す。
受け取ったうろんな客は、手に入れたそれをブンブンと振り回す。
「おい!振り回すな!危ねぇだろうが!!」
俺が怒鳴るが、うろんな客は手を止めない…傘を嬉しそうに見つめる少女はこの惨状に気が付いてすらいないようだ…
俺の頭上を傘が頭上を掠めて、ぶちっと音がして髪の毛がちぎれる。
「……(怒気)」
静かにブチギレた俺は、コンビニでビニール傘(300円)を購入し暴虐の限りを尽くす日傘に叩きつける。
発生した凄まじい衝撃に俺は吹き飛ばされて不可に耐えきれなかった両者の得物がへしおれる。
しばし呆然としたうろんな客が、真っ二つになって地面に散らばった傘のかけらを集めて直そうとする。その姿はあまりにも哀愁が漂っており、もし映画化されればアメリカが国民の涙で海に沈むだろう。
しょんぼりと、肩を落としてこちらを見つめてくるうろんな客に同じ柄の日傘(3500円)を買ってきて渡してやる。財布が…軽いよ…
嬉しそうに俺に抱きついて傘を受け取って、しばし眺めてから俺に差し出してくる。どうやら開き方が分からなかったらしい。
じっと見つめてくるうろんな客に、仏の生まれ変わりとまで言われた心の広い俺は先ほどの蛮行を水に流して開き方を教えてやる。
クルクルと傘を回してから、一度傘を閉じた彼女は少女に開き方を教えている。
少女はパチパチと控えめに手を叩きながら嬉しそうに開き方を教わっている。
ただ、俺は知っている。さっき俺がうろんな客に教えているのをみていた彼女が、実はもう自在に開いたり閉じたりできることを……
うろんな客だけ接待されていることに気がついていない状況ににが笑いしながら、楽しそうな二人に声をかける。
「これならお前も、外を歩けるな。今度こそ、風船買いに行くぞ。」
一瞬、少女は不思議そうに首を傾げてーー合点がいったように手を叩く。
その後少女は、日傘を差し出して嬉しそうにブンブンと振ってから、頭を振って風船はいらないと主張してくる。
ええこや……………(感動)
いらないとは主張しつつも、少女は風船がついていない紐の先に少し寂しそうだった。遠慮して動かない少女を無理やり抱き抱えて(酷く犯罪臭がーー以下略)、体育館から脱出する
ーーガコンと頭上で音が響いて、大きめのネジが目の前に落ちてくる。
「……おいおい、まさかな?」
視線を上に向けると……勢いよく木製の柱が落下していた。
「やっぱり!!!!さっき枝だけ殺傷力がなかったからって、こんなリベンジは求めてなかったんだけどなああああああああああああああああああ!?」
うろんな客に抱えられて、外へ放り出された途端、柱を失った体育館の入り口が物理的に封鎖される。体育館自体はまた別の骨組みでできていたらしく、崩壊したのは入り口だけのようなのは、幸運なのか不幸なのか……
「危ねぇ…せっかく5話まで続いたのに不慮の事故で連載終了するところだったぜ……ってぇ!?また消えかけてる!!」
俺と一緒にうろんな客に投げ出されて、少女が日傘を守るように抱き抱えて再び消滅しかけている。
「日傘を使えよ!?死ぬぞ!?」
少女から日傘をひったくって、開いて少女にかざす…半透明になっていた肌が色を取り戻して、なんとか少女が立ちあがれるところまで持ち直した。
いや、この子、本当にすぐ死にかけるな!?油断も隙もねぇんだけど!?
絶対に外で目を離さないようにしようと、俺は心に誓った。
「ま、まぁ、みんな無事だったし、風船買いに行くか」
「あれ、エルスくん、もう終わったですか?」
うろんな客がビビりまくるから、外で待っていてもらっためると合流して事情を話す。
「事情はわかったですけど…エルスくんの才能は、なんか、面白いですね。いつか『ラプラスの悪魔』も擬人化するんじゃないですか?」
「流石にしねぇだろ……というか、半笑いでいうな。馬鹿にしてんだろ」
「し、してないくないですよ(笑)?」
「してんのかよ!?」
せめて否定しろよ…半笑いで肯定してんじゃねぇぞ…
あれ、風船ってどこで売ってるんだ…?
めるとか風船がよく似合うお年頃だし、知ってるかな?
「なぁ、める、風船ってどこに売ってるんだ?」
「それは子供扱いですね?極刑か、死刑かどっちか選ばせてあげるです」
「それって、どっちも死んでませんか?(震え声)」
「端的に言えば、、、死ねってことですね(素直)」
「許してください(贖罪)」
ひどいよぉ……めるがいじめるよぅ……
しくしくと鳴き真似をしていると、俺に抱きかかえられた少女の影が両手を広げて庇ってくれる。
ええこや……………(感激)
日傘をクルクルして遊んでるそこのうろんな客は同じ才能から生まれたものとして見習ってほしい。
「抱き抱えられたって、なんかえっちですね」
「…?」
めるのつぶやきを聞いた少女が首を傾げてこっちをみてくる。純粋な瞳が疑問を呈してきて、俺の邪まな心が浄化されていく……
仏の心を手に入れた俺は、拾ったどんぐりを俺のポケットに3回入れやがったうろんな客を追いかけ回した。
30分ほど歩いて、近くの玩具屋さんに行ってみると、ちゃんと風船が売っていた。
空気を入れて膨らませて渡してやると紐に結んだ風船が重力に従って落下し、鋭い石が突き刺さって弾ける。
俺は、おもちゃ屋のくじでもらったスカウターでめるをのぞいてみる。
そこには、その人の不幸力が表示されていた。
「不幸力たったの5か……ゴミめ」
「なに言ってるんです?全身をすり身にして夕食のユッケに混ぜますよ?」
「え…今日の夕食ユッケなの?」
「ですです…さっき暇だったのでみてみたらそうだったです」
「しょうもないことに才能使ってるんじゃねぇよ」
「別にいいじゃないですか…めるの自由ですよ。それは」
「そっか、ごめん……」
「それより、それなんなんですか?貸してください」
俺からひったくっためるがスカウターで少女を覗いて、ひっくり返った。
「か、勝てないです…あんなの…やばすぎるです…」
「え、どうした…って不幸力53万!?桁がおかしいだろ!?」
愕然とした俺たちは、3つめの風船の残骸を見つめる少女に慄く…だって、この風船、全部違う理由で割れてるんだぜ?あ、四つ目を膨らませた……
どこからともなく飛んできたみかんの皮がぺたりと張り付いて、風船が割れる。
そして、顔にゴム片をひっつけて少女は風船を膨らませることを諦めてしまった。
「ちょ、え、エルスくん!みてられないです…!なんとかしてあげてです!」
「応!」
「ちょっとそれはうるさいです…」
「ごめん…」
しょんぼりしている少女に、風船を膨らませてやろうとして気づく。
この風船、ヘリウム入れてないんだからそりゃ浮かねぇわ。
なぜかそんな常識的なことに気が付いていなかった俺は、急いでヘリウムガスを買ってきて風船に入れてやった。
少女に渡すと意味のわからない、不可思議な超常現象でまた風船が割れそうだったので影の紐に結びつけてやる。
少女は、浮かんでいく風船を心配そうにみつめる。
ふわふわと、高度をあげるそれは、日傘の骨にに引っかかって割れーーない。
ちゃんと空気を保った風船は、一定の高度を保ったままゆらゆらと揺れる。それをじっと見つめる少女は、とても嬉しそうだった。
Wordからペーストすると改行が全部消滅するのとてもだるい。




