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ミメーシス・エイドロン-α-  作者: 名無し
3章

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46/53

義務

「久しぶりだね、お兄ちゃん」

「あぁ、そうだな。で、なんでいるんだ?」

「…うーん、お兄ちゃんに会いたかったってだけじゃダメなの?」


リリィは唇に指を当て、意味があるのかないのかわからない動きを始めた。

腰をクネクネとさせながら、ベッドの上でのたうち回っている。聖水をかけられた悪魔付きのようだ。

もし、これに意味がないならやめてほしいし、意味があるならなおさらやめてほしい。

こいつが理由もなくこんなことをする妹ではない。何も考えずにその可愛らしさのに魅了されてしまえば、とても現代とは思えないような理不尽な契約を結ばされることになる。


そう、妹が媚びる。

それはすなわち、兄に何かをさせたいという意思表示なのだ。

唐揚げとにんじんを交換させようとしてきたり、俺の色違いの伝説のペケモンを一番道路のキャタピラーと交換しようとしてきたり…言い出せばキリがないが、俺がこれの被害にあった回数は両手の指を何往復しても足りないはずだ。

ただ、二百回に一回程ただ甘えたいだけの場合もあるが……統計学的に無視していい誤差、気にする価値もないようなものだ。



「で、なんのつもりだ?」

「もぉノリが悪いなぁ…最愛の妹がお兄ちゃんに会いにきたのにさ〜?」


ベッドからぴょんと飛び降りたリリィが、無駄に一回転してからウィンクをする。あざとい…こいつ…あざとい…

くそう…ちゃんと可愛いのムカつくなぁ。

うちの妹かわいすぐるってツイッテーに投稿してやろうか…?


「まあいいや…お兄ちゃんってさ、今夏休みだから暇だよね?」

「まあ、暇だけど」

「じゃあ、一緒に買い物行こうよ。私、海行きたいんだぁ」

「別にいいけど…明日でいいか?流石に今日は寝たいんだが」

「わかってるよ〜」


そう言って先ほど飛び降りたベッドに再び寝転がるリリィ…

いや、わかってるならさっさと帰ってくれないかな?


「あ、私今日はここ泊まるから。安心して!ちゃんと学園にも許可とってあるよ」

「いや、にもって、俺まだ許可出してないんだけど?」

「え?出すでしょ?」


続けて、こんな時間に可愛い妹を外に放り出すつもりなの?と聞かれては追い出すわけにもいかない…どうしてこんなに狡賢くなってしまったのか…

でも流石に、この年にもなって同じベッドで眠るのはやはり気恥ずかしい。さっさと追い出すことにしよう。


「じゃあ、空き部屋掃除してやるからそっちに……」

「え?」

「え?」


きょとんとした表情で、俺を見つめるリリィ。ちらりと鏡を見ると、俺も全く同じ表情をしていた。

良くも悪くも、兄妹である。

ただ、リリィの表情はあどけない可愛さを孕んでいる反面、俺の方は全く可愛くない。

なんなのだろうか、この差は…兄妹なのに…


「一緒に寝ればいいじゃん」

「いや、この歳にもなって一緒に寝るのはないだろ」

「私は別にいいよ?お兄ちゃんは妹のことをそういう目で見ちゃうんだ?」


いや、見ないが。俺は絶対に見ないが。見なかったとしても、14歳ってそういうのに一番敏感な時期だろう?

絶対将来黒歴史になるからやめておくべきだと思うんだ、俺は

だからさ?そのうざい流し目をやめろ?私の魅力にクラクラきちゃうでしょ?じゃねぇんだ


「はあ…じゃあ俺が空き部屋で寝るから。おやすーーんぐあっ!?」

「だめだよ!!」

「ちょ、ね、背骨…背骨が…え?何?…俺、死ぬ?」


背中にリリィが飛びついてきて、俺の背骨が破壊される。

あぁ、久しく忘れていたこの感覚…これは、なんという感覚だったか…

そう、この感情は確か…理不尽への怒りだ。


「なあ、リリィ?久々に兄の背中を破壊した気分はどうだ?」

「とっても爽快な気分っ!!」

「よし、帰れ。もうすぐ21時をすぎるとか関係ねぇ、放り出してやる。ちゃんと家まで送ってやるから安心しろよ」

「や、優しい……ってダメだよ!今日は私ここに泊まるんだから!!」


声がでけぇ…声量を武器にでもしてるのだろうか。

だとしたら、声優とか向いているのではないだろうか?

いや、だめか。この声量をマイクに吹き込んだらテレビが鼓膜破壊装置に早変わりしてしまう。


「ていうか、なんで泊まるんだよ?別に明日ショッピングモールかどっかで集合すればいいだろ」

「それだとお兄ちゃんと一緒にお出かけできる時間が減るじゃん!!」


な、なん、だと!?り、リリィがなんかいじらしいことを言ってる!?

お前は二次元の萌妹みたいなことをするやつじゃないだろう!?

…ど、どこでこんなの覚えてきたんだ、こいつ?不覚にもキュンときてしまったじゃないか


「それに、寮に行ってからお兄ちゃん全然帰ってきてくれないし…」


泣きそうな顔で見上げてくるリリィ。

お、お前そんなに俺のこと好きだったんか…?

『妹を放置したらなんか可愛くなった件』書籍化すればきっと売上2000万部いけるな。余裕である。

妹に寂しい思いをさせていたことを知って、申し訳ない気持ちでいっぱいの俺は流石に折れるしかなかった。


「はあ、仕方ないな…今日だけだぞ」


背中にしがみついたリリィを抱き上げて、ベッドに下ろした後、俺もその横で横になる。

すると、リリィがグッと抱きついて胸に顔を埋めてくる。


「いいの?」

「あぁ、妹の頼みを聞くのは兄の義務だからな」

「…じゃあ、明日はいっぱい無茶振りしちゃおーっと」


俺の胸に、ぐりぐりと顔を押し付けながら震えた声でリリィがいう。

これは…俺が思ってる以上に寂しい思いをさせていたのかもしれない…


「ああ、いくらでもしたらいい。妹は兄に遠慮しないのが義務だ」

「じゃあ、学校始まっても押しかけるよ?」

「流石にそれは互いに困るだろ?」

「でもお兄ちゃんは帰ってきてくれないし…私だって寂しいもん」

「これからはちゃんと帰るようにするよ」


そういって、リリィの頭を撫でてやるとスースーと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。

なんだか、リリィがここまで寂しがるのは意外だったが、よく考えたら14歳としては年相応の反応なんだな。普段のリリィが少しおかしいだけで。いや、普段のリリィはだいぶおかしいが、今重要なのはそこじゃない。


「えへへ…好きだよぉ、お兄ちゃん」


ね、寝言か?

参ったな…うちの妹が本当に可愛い…

うん、これからは、時間があるときに家にも顔を出すようにしよう。

胸元に押し付けられた小さな頭を撫でてから、俺もすぐに眠りについた。

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