てぃーぱーてぃー
森の中を歩いていると、突然景色が開けて、ふわりと甘い香りが鼻をついた。
巨大な長机の上で、紅茶を垂れ流すポットとそれを受け止めて飲み干すカップがくるくると踊っている。
「ん?机がある…?」
「……お茶会?」
しいなに言われて俺はこれが帽子屋と三月ウサギのお茶会だと気がついた。
机の奥に見えていた家屋から、大小二つの影が姿を現した。
「あれ?あれあれッ!見て見なよ帽子屋っ!人がいるよっもしかして僕の目おかしいのかなっ?」
「安心したまぁえよ。うさぎさん。吾輩にも見えているよぉう。まあ、久しぶりの来客に舞い上がってしまう気持ちはわかるがぁねえ」
うわあ、なんか、すごい…濃い
二つの影は大きなシルクハットを被った白銀色の髪の女性と真っ白なうさぎだった。
「ねぇねぇねぇ!君たちは人間!?それともお茶っ葉かな!?そんなことはどっちでもいいよね!さあさあ座ってよ!楽しいティーパーティーがもう終わるんだっ!!」
「……終わるの?」
「人間かお茶っ葉かの二択ってなんだよ」
三月うさぎと思わしきうさぎに椅子に座らされて、目の前にコップに入ったお茶が用意された…ただし、ひっくり返った状態で
「なんでひっくり返ってんだよ!?」
しいなの服にかからないように、抱き抱えて飛び退くときゃっきゃと笑ったうさぎが目の前に現れる…
「どうして席を立つのっ?お茶が好きじゃないのかな!そっか!それじゃあもう一回お茶を淹れてあげるね!ほら!座って!座って!」
先ほどの椅子からは、すでにお茶が消滅して座れる状態に戻っていた。
「いやはや、すまないねぇえ。うさぎさんも久々の来客が嬉しくて仕方がないのだぁよ。今度はきちんとお茶を入れるから楽しんでくれたまぁえよ」
「そうだよっ!楽しまないと!つまんないのも楽しいんだね!お砂糖はいるかい!?僕も欲しいかもっ!」
「何を言っているんだぁねうさぎさん、君はいつもお砂糖は入れないだろぉう?」
「ほんとだ!僕はお砂糖がいらないよっ!あははっ!面白いこと言うねお客人っ!」
「………ん?……え?」
普通にお茶が出してくれたのは良かったのだが、その後の会話が濃すぎてついていけない。
特に三月ウサギが言ってることの意味がわからなさすぎて、しいなが硬直してるし。
しいなと違ってもはや理解を諦めた俺は、お茶を啜った。
「あ、うまい」
「わかるかぁねお客人?いい味だろう?吾輩はもうこの茶葉以外飲めないのだぁよ」
「美味しいよねっ!このお茶っ葉!いっつの残しちゃうっ!」
「……あ、ほんとに美味しい」
お茶を飲んだしいなが目を見開く
「そうだお客人、何か気になることがあるのだろぉう?吾輩でよろしければなんでも答えさせてもらうよぉう?」
「なんでそう思ったんですか?」
「このお茶会はそう言うものだからねぇえ…何かを求めている人しか辿り着けないものなのだよ。あと、吾輩に敬語なんていらんよ。実は一言交わせば友人を信条にしているからねぇ」
「わかった、ありがとう」
この世界で、何かを欲する人がいるのか?まあ、いるからこういうのがあるんだろうけど。
いや、いないから久々の客人なのか…?
「それじゃあ、この世界から出る方法とかは、わかるのか?」
「ほうほうほうっ!面白いことを聞くじゃあないかぁね?」
「わからないなら、いいんだけど。お茶もうまかったし」
「いやいやっ!帽子屋に知らないことなんて知らないんだからっ!僕は何にも知らないんだけどねっ!帽子屋もそうだよっ!」
ダメ元だったのだが、帽子屋が想像以上に食いついてきた。
あと、三月ウサギがいらない情報を突っ込んでくるなよ……帽子屋はなんでも知ってるのか何にも知らないのかどっちなんだろうか?
「うぅむ、そうだねぇえ…ちょっと吾輩の書庫を確認してもいいかぁな?3日ほどもらいたいのだけれどねぇえ」
「全然問題ない…というか、わざわざそこまでしてもらうと悪いんだけど」
「いやいや、吾輩がやりたくてやってることだからねぇえ。気にしないでくれたまぁえ」
ありがたいが…流石に悪い気がする。料理とかで何か手伝いができることを探そう。
「吾輩を待つ間はそこの家で過ごしてくれたまえよ。君たちの安全は吾輩が保証するからねぇえ」
そう言って、帽子屋は家に帰っていった。
俺たちはそれを見送ってから、彼女が指した方向を見る。
というか…あれ?来たときにこんなところに家ってあったっけ?
てか、俺たちそこから来なかったっけ?
「なあ、しいな。こんな家元々あったっけ?」
「……え?なかった気がする」
「やっぱりなかったよな?」
急に出てきたのか…これ…?
「とりあえず入るか」
「……そうだね。」
家に入ると、中にはベッドなどの最低限の生活用品が用意されていた。
「あっ!お客人っ!ご飯はみんなで食べるから出てきてねっ!!一人で食べるんだよ!わかった!?」
外から三月ウサギが言うのが聞こえたので、特に家の中でやることもなかった俺は外に出た。
しいなは疲れたから寝るらしい。
「あれっどうしたの?お客人、何か足りないものでもあったのかな?」
「いや、やることもないからな。お前と話でもしようかと思って」
「えぇッ!?本当に!?ここにくる人は僕のことを面倒くさいって言うんだよ!?お客人は僕と話してくれるんだ!?」
「まあ、他にやることもないしな」
興奮した様子の三月ウサギに大きな机のお誕生日席に座らされる
「本当はそこは僕の席なんだけどねッ!お友達のお客人には特別に座らせてあげるよッ!!」
「ありがとう…というか、俺まだ名乗ってもないな」
「あれっ?本当だねっ!僕お客人の名前知らないかもッ!」
「俺は、エルス・レルクレムだ。よろしく」
「そうなんだねエルスっ!僕は三月ウサギだよっ、僕名前を名乗ったのって初めてかもッ!」
すごく嬉しそうな三月ウサギがお茶をいれて、俺の前におく。
今回はひっくり返さなかった。これは、なんか理由があるのだろうか?
「あっ!今回はこぼれなかったねっ!エルス受け取るの上達したねっ!」
「えっ、これがひっくり返るのって俺のスキルが足りないからだったの!?」
その後、支離滅裂な三月ウサギの話を聞いていると帽子屋が自宅から出てきて、長机に皿を並べ始めた。
「…いつの間に料理したんだ?」
「ついさっきだぁよ。元々、準備はしてあったからねぇ」
仕込みとかは終わっていたのか……俺の出る幕はなかったか…
食卓に豪勢な料理が並んで、それを見た三月うさぎが目を輝かせる。
「わあ!今日は豪華だねっ!どうしたのさっ!」
「新たな友人が増えたからねぇえ。今日は特別さ」
未だ眠っていたしいなを起こして、席に座らせると帽子屋がカップを持ち上げた。
軽く髪をかき上げた彼女は、微笑んでから言った。
「新たな出会いに、乾杯」
「「乾杯」」 「わーーーいッ!」
おい、合わせろよ…三月ウサギ…
質素な味付けだが、ものすごく美味しかった。
確かに満足感があるのにうますぎていくらでも食べられそうだと言うと帽子屋が「ありがとう」とはにかんだ。
帽子屋が料理をできたことにも驚きだったが帽子屋の不意に見せたその笑顔に俺は一瞬言葉を失った。
それくらいに笑った彼女は儚げで全てを吸い込んでしまいそうな魅力があった。
「…………」
「な、なんだよ?」
つい見惚れてしまった俺をしいなが、じっと見つめてくるから理由を問うと「惚れた?」などと聞いてきた。
否定したのに乗っかってくる帽子屋と、関係のないことを喋り続ける三月ウサギのおかげでその日の夕食はとても楽しいものになった。
「エルスくん、3日目は朝食の後家からでないでくれたまえよ」
「え?あぁ、わかった」
3日後に何かあるのだろうか?
うーん、あっ…魔物的なものが出るとか?
訳のわからない世界だし、人を食う何かがいても不思議じゃ無いしな…
その後、眠たげなしいなを連れて、借り物の家に戻った。
いつの間にか用意されていたベッドにしいなを寝かせてから、俺ももう一つのベッドに入った。
横になると異常にふかふかで、完璧に体にフィットした。
疲れを訴える体に従って、目を閉じるとゴソゴソと言う音がしてからしいなが布団に潜り込んできた。
「どうした?」
「……寒いかと思って」
「そうか、ありがと」
少しだけ、震えているしいなを抱きしめて、胸元で聞こえた泣き声は聞かなかったことにした。
次の日の朝食の後、食卓には家で調べ物の続きをすると帰っていった帽子屋を除く三人が座っていた。
「今日はねッ!みんなでゲームをしたいんだっ!」
「お、いいな。何をするんだ?」
「これは、とっておきの秘密ゲームなんだよっ!」
自信満々に言う三月うさぎに、俺の期待値は鰻登りだった。
「ジャン!今日はこれで遊ぶよっ!」
満を持して取り出されたそれは、4柄13組と2枚のジョーカーで構成された54枚のカードの束だった。
「トランプじゃねぇかっ!?」
「おぉ!エルスよく知ってるね!」
「……私も知ってる」
そういったしいなは三月ウサギに褒められてどやっとしている。
お前はそれでいいのか…?
「で、トランプで何をするんだ?」
「えっとねっ!えっとねっ!ポーカーでもいいんだけど、三人じゃできないしっ!大富豪をやるよっ!!」
「大富豪も三人でできなくないか…?」
「確かにっ!」
結局種目はババ抜きに決まり、ババを引くたびに「わぁ!」とか「うぅっ!」とか声を出す三月ウサギが最下位に君臨し続けた
「おや?トランプかい?」
「あぁ、三月ウサギがあまりに弱くて戦慄していたところだ」
「がーんッ!エルスっ!ひどいよっ!?」
そろそろ終わりにしようかという頃に、伸びをしながら出てきた帽子屋が食いついてきたことでトランプは続行された。
「ババ抜きはうさぎさんが弱すぎるから、大富豪にしようか」
帽子屋を含めて始まった大富豪は、穏やかに進んでいたのだが……
「なんだ8切りって!?知らんルール出してくるなよっ!?」
「む?エルスくんのところではローカルルールは無しだったのかな?」
「大富豪にローカルルールがあることを今初めて知ったわ」
「一度やるとやめれなくなるよ」という帽子屋の口車に乗せられて、大富豪を行い
ーー現在
見事にローカルルールに侵食されていた
ローカルルールありの方が楽しいわ…このゲーム
ちなみに、大富豪の結果はというと……
意味がわからないくらい強かった帽子屋が大富豪になり続け、意外と弱かったしいなと三月ウサギがずっと大貧民を争っていて、俺は永遠に平民だった
翌日の昼、帽子屋の家に招待された。
「よくきてくれたね。エルスくん、しいな嬢」
「お邪魔しまーす」
「……おじゃまじょ」
どれみかな…?
しいなのよくわからないボケは無視して帽子屋の家に入ると、中には大量の帽子が飾られていた。
ジャスミンの香りを漂わせる空間に並べられた帽子は、尋常ではないその数が見るものを圧倒していた
「どうかね?吾輩のコレクションたちは?」
「壮観だな」
「……いっぱい」
巨大な、木製のクリスマスツリーのようなものの枝には様々な帽子が飾られておりそれに施された、金銀の装飾が光を反射してイルミネーションのように輝いていた。
帽子ツリーのそばにあるハシゴを登った帽子屋は、2つの帽子を手に持って戻ってきた。
片方は、鍔が異常に大きいハリウッド女優とかが被ってそうな女優帽で、もう一つは、某ポッターくんが在籍していた魔法学校の組み分け帽子のようなとんがり帽子だ。
とんがり帽子を俺に、そうでない方をしいなに被せて、首を傾げた帽子屋は俺たちの頭から帽子をとって戻って行った。
「うーん、似合うと思ったのだがね…見てみるとそうでもなかった」
「え、俺あれがに会いそうな顔してるの…?」
「……私は、あれを被ってもいい」
戻ってきた帽子屋は、ベルトのついた半球を2つ持っていてそれを俺としいなの頭の大きさに合わせた。
「すまないが、吾輩はやることができてしまったのでね、二人は三月ウサギの相手をしてやってくれたまえ」
「わかった」
「……りょ」
その日、夕食まで帽子屋は出て来なかった。
そして、その日の夕食はそれまでより異常に豪華だった。
ドアをくぐる前、帽子屋が顔を寄せてくる
「吾輩に、未練を創らせないでくれたまえよ」
部屋と同じ、甘いジャスミンの香りを漂わせてそう囁いた帽子屋は、意味を問う間も無く離れていってしまった。
翌朝、ご飯を食べた俺は帽子屋と三月ウサギに家に押し込まれていた。
「エルスくん、初日にも言ったが、今日は外に出ないでくれたまえよ。それと、もし吾輩が死んだら、吾輩の部屋の一番上のタンスを開けてくれたまえ。」
「僕は家とかないけどっ忘れちゃダメだよっ」
「何言ってるんだ?そんな、死ぬわけでもあるまいし……」
朝食を食べ終わると、無理やり俺たちが生活している家に押し込まれた。
「そうだ、小さなお嬢さんは命に変えてでも守りたまえよ?大切な存在というのは、失って初めて気づくものだからねぇえ」
「そうかもっ!失って気づくものも、失っても気づかないものもあるよねっ!あははっエルスったら何言ってるのさっ!」
「何も言ってないわ。てか、なんのつもりだ?演技でもないからそういう冗談はやめろよ。」
「冗談ではないさぁあ。それと、目を使うのはやめておきたまぁえ。この世界ではあまり頼りになるものじゃないからねぇえ」
「忘れちゃったの!?帽子屋はなんでも知ってるんだよっ!先のこともねっ!」
「それじゃあっ、本当にお前らが死ぬみたいなっ」
ドアの中に、俺を閉じ込めて、なぜか開かなくなった扉の先から声が聞こえてくる。
「本当は隠しておこうかとも思ったがねぇえ」
「心配させるのはよくないからねッ!」
「何言ってるんだよッ!あけろッ!お前らが死ぬなら俺も戦うに決まってるだろッ!?おいッ!聞いてんのかっ!帽子屋ッ!三月ウサギッ!!」
「ここで、君が死んだら誰がしいな嬢を守るのかね?吾輩は、無為に友人を死なせるくらいなら自ら死地に赴くのが信条でね」
「お前の信条は挨拶をしたら友人だろうがッ…!まさか昨日のもッ…開けろッ!どう考えても、お前らより俺の方が強いだろうがッ!お前らの死地も俺とっちゃそうじゃねぇかもしれねぇだろ!さっさと開けろよっ!だせッ!おいっ!出せよ!!」
「大丈夫だよっ!なぁにすぐに追いつくさっ!あははっ」
「それは、置いてく側のセリフじゃねえだろうがッ……」
扉の先から聞こえていた声が聞こえてこなくなり、静寂が支配した玄関に俺が扉を叩く音だけが反響していた
家の中の窓も、裏口も全てが開かなくなっていて俺たちが外に出る術は全て封じられていた。
居間にある箪笥の中には、2人分の食事が用意されていたが少しも味を感じられなかった。
味がしないまま食べ切るのが勿体無く感じて、その半分近くを皿に残した。
イメージで作り出したタッパーに残った食事を詰め込んだ。
その後、壁を叩いたり、床を剥がそうとしたりしても、家には傷一つつかず、俺たちが外に出ることは叶わなかった。
結局、俺たちが外に出られた頃には夜が明けていた。
そして、外に出た俺と椎名が見たのは、首を失った帽子屋の体と皮を剥ぎ取られて絶命する三月ウサギの姿だった。
えっと、皆様、突然死んでごめんなさい。本当にすみません。色々あって投稿するの忘れて2ヶ月くらい放置してました。
まじでごめんなさい。これから投稿再開するのでもし、ご一緒いただける方がいればぜひ読んでいってください。
では、2日後に会いましょう!
それでは!さよーならー!!
コメント・評価ぜひおねがいします!!
作者のモチベーションがアップします!
更新頻度は上がりませんが作品のクオリティーがあがりますよ……!!
あ、コメント評価できない方ももちろん大好きですよ。
作者はアクセス解析みながらにやにやするタイプなので。




