8. 黒板消しあそび
すべての授業が終わったあと、つまり放課後。
今日の日直である僕と亜久さんは、黒板を掃除しているところだった。
「よし、もう黒板はいいんじゃないかな。あとは黒板消しを綺麗にして終わり」
「うん。これ凄い真っ白になってるもんね」
チョークの粉で汚れきった黒板消しを見て、亜久さんは小さく笑った。
「そういえばさ、学園モノの漫画とかでさ。黒板消しをドアに挟んで落とす、みたいなイタズラってよくあるよね」
こうやって。
僕は手にしていた黒板消しを、教室の入り口のドアに挟んでみせた。
僕の冗談に、亜久さんは面白がりつつも、
「やめなよ、百々瀬くん。先生が来ちゃったら大変だよ」
と軽く咎めた。
そうやって暫く黒板消しでワイワイやっていた僕らだったが。
ふと、亜久さんが何かを思い出したように口を開いた。
「あ、日直日誌!先生のところへ持ってかないと」
教卓の上に広げられた日誌を閉じ、亜久さんはそれを両手で抱えた。
「じゃあ私、ちょっと職員室行ってくるね」
「お願いしていいの?ありがとう」
僕の言葉に微笑を返し、教室を出ていこうとする亜久さん。
…待って、さっき挟んだ黒板消し──!
ポスッ。
意外と地味な音を立てて、黒板消しが亜久さんの頭上に落下。
ただちに真っ白な煙が辺りを覆った。
「亜久さん…!大丈夫!?」
けほっけほっ!
亜久さんは大きくむせこんでいる。
「ごめん、亜久さん」
「大丈夫、気にしないで…へーきだから…」
本当にごめん、亜久さん。
でも、まさかこんな形で引っ掛かる人がいるとは……思わなんだ。