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7. 悪魔のさそい
ああ、眠い。本当に眠い。
僕は数学の授業中、何度もあくびを噛み殺していた。
「なんだか眠そうだね、百々瀬くん」
隣に座る亜久さんが、声を顰めて話しかけてくる。
だが、僕は彼女の声もまともに届かないくらいに、うつらうつら。
まさに寝落ち寸前だった。
「疲れてるときは無理しなくていいんだよ。ゆっくり休んで、百々瀬くん」
亜久さんの甘い囁き。
その玲瓏な声が、僕の中の眠気をさらに増大させてゆく。
まるで子守唄のように心地よい。
「連立方程式?素因数分解?そんなもの、社会に出ても役に立たないんだから」
どうしたっていうんだ、亜久さん。
今日の君はずいぶん自堕落なことを言うじゃないか。
「さあ、百々瀬くん。ゆっくりお休み…」
ああ。
それじゃ、僕は眠るよ。
ああ…。
夢の中でも亜久さんに会えたらいいな──
「先生、だめです。百々瀬くん、全然起きません」
僕の知らない、どこか遠くの世界で。
眠っている僕の体を揺すりながら、亜久さんが困り果てている。
その様子を見て、呆れ果ててる先生やクラスの皆んなも。
でも、いいんだ。
だって、亜久さんが僕に”お休み”って言ったんだから。
Zzz…。