6. 亜久さんのいぬ
「Mako, what’s your hobby?(まこ、あなたの趣味はなにかしら?)」
英語の授業中。
アメリカ出身のネイティブの先生が、なにやら亜久さんに質問を振った。
大の英語嫌いの僕からすればもはや拷問だが。
しかし、亜久さんは。
「I love playing with my dog at the park.(公園で犬と遊ぶのが大好きです)When I throw the ball, he happily picks it up in his mouth and brings it back to me.(いつも私が投げるボールを、彼は嬉しそうに咥えて戻ってきます)」
「That sounds fun!(それは素敵ね!)He must be a happy boy.(きっと彼は幸せ者よ)」
「Thank you. (ありがとうございます)I hope we can go to the park again soon.(また近々、公園に行けたらいいなぁと思います)」
…さっぱり分からなかった。
亜久さんの発音があまりに流暢すぎるのだ。もはやハリウッド女優レベル。
実は、帰国子女なのだろうか。
すると、ここで。
亜久さんの話を満足げに聞いていたネイティブの先生が、チラリとこちらに視線を向けてきた。
まったく嫌な予感がする。英会話なんて勘弁してほしいのに。
どうか、あてられませんように──
「Mr. Momose. How about you?(百々瀬くん、あなたはどう?)」
途端に、僕の頭は真っ白になった。
どうやって答えればいいんだ?
なにか使えそうなフレーズはないか…なにか…なにかないか…
…!
いよいよ追い詰められた僕は。
パッと頭に浮かんだ、あの大統領の名言を咄嗟に口にした。
「い、Yes We Can!」
「Oh…really…(まあ…そうなの…)」
どうしてか、先生の表情が徐々に曇っていく──。
この時の自分の答えがトンデモない誤解を招いたと知ったのは、ずいぶん後になってからのことだった。
亜久さん、そしてネイティブの先生。ごめんなさい。
…ワン。
※英語のレヴェルが著しく低いのは作者の力不足です。お許しを。