51. たのしい文化祭<二日目>(2)
「先輩たちのクラスもすごいじゃないですか。50票くらい?入ってって。大健闘ですね!」
りんは、頓狂な口ぶりでそう言う。
コイツ。
自分のクラスが圧勝していることを知った上で、わざと戯けてやがる。
ナメられたものだ。
「まこ先輩。はじめまして♪1年5組、出席番号5番の五日市りんっていいます。先輩の白雪姫、ほんっとうに感動しました!歌も上手いし、細やかな仕草とかもキレイで…惚れちゃいそうでした♡」
相変わらず、貼り付けたような微笑を浮かべたまま、亜久さんの演技を絶賛するりん。
何処となくその物言いには、棘があるように感じられる。
きっと本音ではないからだ。
でも、亜久さんは。
りんの見え透いたおべっかを意に介する様子はなく。
むしろ、りんに褒められたことを喜んでいるようだった。
亜久さんは無垢な笑顔で応えた。
「ありがとう。五日市さんにそう言ってもらえるなんて嬉しい!だって私、五日市さんのお芝居観て泣いちゃったもん」
「え、泣い…!?」
嘘つけ。
りんはそう言いたげな表情を示しているが、嘘ではない。
亜久さんは本当に、1年5組の『白雪姫』をみて涙ぐんでいた。
亜久さんは、りんが勝手に思い込んでいるような、腹黒い人じゃないんだ。
確かに少しズレているところはあるけど、感受性が豊かで素直な人。
決して打算で物を言うようなことはしない。
だが、りんは怪訝な面持ちのまま、冷ややかに告げる。
「お互い今日の舞台も精一杯やりましょう。まあ、結果はもう出ているかもしれませんけど」
ふふふ。
口角を上げ、りんは邪悪な嘲笑を浮かべる。
僕は、その挑発的な態度に。
心底怒りを覚えて、気がつくと思わず声を張り上げていた──
「いい加減にしろよ…。結果なんて、最後まで分からないじゃないか!確かにお前のクラスの舞台は良かったし、実際多くの人に評価されてる。けどさ、だからって僕らを馬鹿にするのはやめろよ。亜久さんを妬んでるからってさ、そうやってマウント取って。恥ずかしくないのかよ」
「はぁ?負け惜しみですかぁ?実際、私たちぃ。圧倒的な大差で票を集めてるんですよ。先輩たちにぃ、もう勝ち目なんか無いですってぇ〜!!」
急に堰を切ったように、下劣な高笑いを上げるりん。
その豹変っぷりに、亜久さんは。
目を瞬かせ、驚きと戸惑いの色を露わにしている。
けれど、これこそが五日市りんの本性だ。
人より上位に立ち、高みから見下し侮蔑し、優越感に浸ることで幸せを感じる。
自尊心の塊のような、哀れな少女。
「51対…ひゃく・じゅう・ご・票♡どうです?お二人のクラスに勝ち目はありそうですか??」
「…くっ」
「フフフ…アハハハッ!まさに、ぐうの音も出ないって感じですね!そんなわけなので、最優秀賞は私たちのクラスが頂きます☆」
唇を噛み締める僕と、静かに俯く亜久さんを前に、これでもかと勝ち誇るりん。
しかし、そこへ。
コツコツと。
ハイヒールを鳴らしながら、一人の女性が現れた。
途端。辺りに漂うのは、甘い大人の色香。
「百々瀬くぅん、いいことを言うわねぇ。"結果なんて、最後まで分からないじゃないか"って。まさに、ザァッツラァイトよぉ」
突然のPTA会長登場に、僕もりんも、娘の亜久さんでさえも驚くばかりだったが。
ののはさんが発した次なる言葉によって、場の空気は一変した。
揺るぎなく淀みない眼差しで、りんの姿を捉えたののはさんは、
「五日市さん。貴方にお話があって来たのぉ。鑑賞チィケェッツの不正配布について」
冷たく、静かにそう告げた──。
(つづく)




